【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ   作:流石ユユシタ

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2章 安倍家遭遇編
小話 志麻


 黒魔導士シマ――そう呼ばれる人気配信者がいる。

 

 厨二世界観を徹底し、魔導士として生きる姿勢を崩さず、普段からファンを「魔導書」と呼ぶ独自のスタイルで人気を獲得したVTuberだ。

 

 黒い制服、肩までのふわりとした黒髪、表情は柔らかいのに言葉遣いは高圧的で気高い。

 

 名言ショート動画なども作られ、オリジナル曲などもある。

 

 デビューわずか二年で登録者20万人。

 

 DDMプロダクションの看板ともいえる存在。

 

 そのシマが――数日間SNSの更新もなく、音沙汰が途絶えていた。ファンの間では「体調不良説」「燃え尽き説」「引退説」などが広がり、ネットはざわついていた。

 

 そしてついに、待ち望まれた復帰配信の日が訪れた。配信画面が暗闇を映し出し、かすかなBGMが鳴り始める。

 

 黒い魔導書の紋章が浮かび上がり、静寂の中で光が一点だけ灯った。

 

 玉座の中央に少女――黒魔導士シマが座っていた。

 

 数秒の沈黙。

 

 それは演出であると同時に、彼女の準備を整える時間でもあった。

 

 

 

「みんな待っていてくれているなぁ」

 

 

 

 怪異──山神に囚われていたとはいえ。数日間、一切の連絡をしていなかった。配信の予定も無断で全てをキャンセルしていた状態である。

 

 彼女はファンに心配や不安、さまざまなマイナスな感情を抱かせているのは容易に想像ができていた。

 

 

 

「ちゃんと、無断配信中止した件は謝らないとねぇ」

 

 

 

 

 志乃の姉である篝火志麻(かがりびしま)はVチューバーとして活動をしている。

 

 始まりは志乃の呪いを解くための道具を買うためだった。怪異に脅かされる生活の中、どうにか出来ないかと志麻は独自で色々と買い漁ることが多かった。

 

 

 しかし、それらの道具はすごく高価で学生が手にできるものではない。そこで、彼女は何か大きなことができないかと考えていた。

 

 

 そんな時、Vチューバーのオーディションがありそれを受けることに。そして、とんとん拍子で話は進み、彼女は今人気配信者になるまでに至ったのだ。

 

 毎日のように彼女は部屋で配信を行なっていた。

 

 

──因みにだが、彼女の妹である志乃は志麻がVチューバーとして活動をしていたことを知らない。

 

 普通であれば、同じ家に住んでいる姉が配信活動をしていれば、その声などを聞いて、気づきそうなもの。

 

 しかし、志乃は気づいていないのだ。同じ家に住んでは居るが、志乃はいつも部屋に引きこもり、イヤホンなどをつけて自らの世界に没頭をしている。

 

 

 だから、志乃は知らない。

 

 

 そして、志麻もわざわざ伝えたりはしていなかった。引きこもりをしている妹に自分が活動をして、人気配信者になっていると話すのも気が引けたというのが理由である。

 

 

 志麻は妹である、志乃のことをずっと考えている。

 

 

 だから、自分が人気配信者だからといって幸せではなかった。大事な妹である志乃は引きこもりのままで、怪異に怯える毎日であったからだ。

 

 

 そこで、このままでは行けないと思った彼女は山神の伝説を友達に聞き、山へと向かった。

 

 しかし、そこに彼女は望むものがなかった。

 

 

 そして、今のように配信を無断でキャンセルしたような状態になってしまう。 

 視聴者、マネージャー、同期、彼女は関わる全ての人に申し訳ないと考えている。

 

 だから、この配信で謝罪をし、挽回をしなくてはいけないと思っていた。

 

 

 

──そして、彼女は配信を開始する。

 

 

 

 

 

「……この静寂、懐かしいな。我の魔導書たちよ。よくぞ戻ってきた」

爆発するようにコメントが流れる。

【うおおおおおおおおお】

【帰ってきた!】

【シマ様生きてた!!】

【泣いてる】

【久しぶりすぎて震えてる】

【通知きて飛んできた】

 

 

 

 普段のゆるふわな雰囲気を打って変わり、厨二チックでダークな感じの話し方。普段とイメージが違いすぎて、何も知らない志乃が配信を見たとしても、気づかないかもしれないほどである。

 

 こういう話し方は最初は恥ずかしかったが、すでに彼女は慣れている。配信が始まると、そのままの雰囲気で進めず、一度かしこまったような言葉遣いに切り替えた。

 

 

「さて、最初に謝罪をさせていただきます。勝手に配信を無断で休み、いろんな方にご心配と迷惑をかけたこと、大変申し訳ありませんでした」

【元気そうでよかった】

【マジで心配してたんだぞ】

【引退したら泣くからな】

【帰ってきてくれてありがとう】

 

 

 

 謝罪に対して、視聴者は優しかった。周りに恵まれているなと思いながら、彼女は普段の黒魔道士としての話し方に戻した。

 

 

「うむ、ずっと堅苦しいままでは(われ)も話しにくいのでな。ここからはいつものように進めさせてもらおう」

【久しぶりなので、いつものセリフお願いします】

【あれ聞きたいです】

「ふっ、仕方あるまい。()()()()()()()()()()()!!」

 

 

 

 彼女はそのセリフを言うと、コメント欄はさらに熱くなる。これは彼女がよく配信で使う決め台詞の一つであるのだ。

 

 どっかで聞いたことあるようなセリフだが、それについて疑問を抱く視聴者は誰もいなかった。

 

 彼女の厨二的な言動は評価されている、無論彼女の声の可愛さとかがあってこそだが。

 

 

 

 

「よし、今日は久しぶりのゲーム実況。ヒーロークエストをやろうと思う、これはあれだな。RPGだ。魔法とか、モンスター、勇者とか魔王とかが出てくるやつだ。まぁ、我は黒魔導士だから、魔法は得意分野だ」

【RPGかぁ。ヒーロークエストって結構昔のゲームだね】

【あれ、珍しいねー。いつもオンライン対戦ができるゲームばっかりやってる印象】

【ファンタジーRPGってシマ様はやらない印象】

「ふむ、確かに我はあまりファンタジーはやらん。我自身が魔法を使えるから新鮮味がないからであるが……であるが……最近、勇者に会ってな。少々興味が湧いたのだ」

【勇者!? どういうこと!?】

【勇者って、居るんだ】

【へぇ】

【流石に冗談だろ】

 

 

 

 

 いや、嘘でも冗談でもなかった。篝火志麻(かがりびしま)は黎明に出会っていたからだ。

 

 

 彼女は単純に、黎明が自分の職業は勇者である。と言う言葉を覚えていたのだ。

 

 

 そして、なんだか、RPGみたいなことを黎明は言っているなと考えていた。だから、RPGに興味を持ち、詳しく知りたいと感じる。それなら、ゲームをやってみるのがいいか!

 

 と思い至ったのである。

 

 

 

 

「では、始めよう。今宵も楽しんでいくがよい」

 

 

 

 

 

 

──そう言って、彼女は配信を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

◾️

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──あの日、篝火志麻(かがりびしま)は救われた。

 

 

 

 夕方のキッチンには、包丁の音が心地よく響いていた。

 

 二人並んで、他愛もない会話をしながら料理をしていた。最近はスザクや黎明と接する時間も多かった。

 

 だが、今は志乃と志麻、二人だけの時間だ。

 

 炒め物の香り、まな板に立つ水音、コンロの火の音。その音が二人には心地よかった。

 

 

「今日は学校、どうだったのぉ?」

「と、友達、みたいな人ができたんだ」

「ええ! 良かったねぇ、お祝いしなきゃねぇ」

 

 

 山神討伐以降、志乃は少しずつ外の世界と向き合えるようになっていた。学校にも行き、恐怖と戦い、そして、打ち勝つまでに成長をしていた。

 

 

 

 

「志乃、玉ねぎ薄切りできるぅ?」

「うん。え、えと、でも、お姉ちゃんよりは上手くないかも」

「いやいや、じょうず、じょうず。料理経験値あがってきてるねぇ」

「経験値って、黎明さんみたいなこと言うね」

 

 志麻はいつもの柔らかい笑顔だった。志乃は眉尻を下げながらも嬉しそうに手を動かす。

 

 しばらく沈黙が続いた後――志麻の指が少し止まる。

 

 

「ねぇ、志乃」

「は、はい?」

「黎明さんのこと、どう思う?」

 

 

 不意の質問。どう思っているのか。そう聞かれた時に、志乃は上手く言葉が出てこなかった。

 

 

 彼女の中で黎明はそう簡単に言い表せるような人間ではないからだ。

 

「すごい人かな。霊力とか、戦闘技術、度胸、精神とか、全部別次元の人っていうか」

「あぁ、そういうのじゃなくてさぁ。そのぉ、異性としてさ」

「え、えぇ、男の人としてとか、あんまり考えたことないかな……」

 

 

 

 

──志乃は嘘をついた。

 

 

 

 昨日の夜、志乃は黎明と共に夜に廃病院に出かけた。その時に、彼と手を繋いで、異性として少しだけ意識をした。

 

 

 しかし、それを彼女はあえて秘密にした。どうして、秘密にしたのか、本人も理由はよくわかっていない、無意識の行動でもあった。

 

 

 

 

「わたしさぁ、ちょっと気になってるんだよねぇ」

 

 

 

 

 志麻は冗談めかして言うが、表情は少しだけ堅かった。そんな志麻は手を止め、ゆっくりと声のトーンを落とす。

 

 

 

「あ、そ、そうなんだ」

「……わたしね。助けられた時の感覚、まだ忘れられないんだぁ」

 

 

 フライパンに油が弾ける音が響く。志乃が無意識に手を止めてしまう。

 

 

「真っ暗で、全部苦しい場所で……何も考える余裕なんてなかったのに。黎明さんが来た時だけ、あの場所の全部が一瞬で壊れて……光みたいだったぁ」

 

 

 言いながら、志麻は照れくさそうにも、苦しそうにも笑った。

 

 

 

「……わたし、あの時から、なんだかずっと変なんだ。黎明さんが居ると胸が苦しい、息しづらくなって……頭がぼーっとして……もしかしたらこれって――」

 

 

 

 そこまで言って、志麻は一度口を閉じた。志乃が、息を飲む。

 

 

 

「お、お姉ちゃん……その……」

「好きになっちゃったのかなぁ?」

 

 

 

 あまりにもはっきり言うので、志乃は真っ赤になってしまう。

 

 

「え、ええぇ!?」

「わたし、こういう分かりやすい構図というか、命を救われて惚れたというかぁ。憧れではあったんだよねぇ。ほら、お姫様とか、守ってくれる王子様とかいるしさぁ」

「黎明さんって、王子っていうより、勇者って感じじゃ」

「それなら、それで、いいかなぁ。勇者も魔王とかからお姫様救うイメージだし」

「あ、そ、そう。でも、黎明さんって恋愛とかする感じじゃなさそうっていうか。ずっと修行してたいって感じの人じゃ……」

 

 

 志麻は小さく笑う。確かにと彼女は納得した。黎明は独特な感性や、変わった言動が多い。

 

 

 恋愛を求めているような人間ではない。

 

 

 

 

 

「でもさ、急に気が変わることあるかもしれないよぉ」

「……うん、そうかもしれないね」

「でもぉ、黎明さんって、詩さんと一緒に居るよね? あの二人って、そういう関係なのかなぁ?」

「え、えっと」

 

 

 

 志乃は昨日黎明に、詩とはよく手を繋いだり、一緒に寝ているなどを聞かされていた。

 

 

(一緒に寝たり、手を繋いだり、してるって言ってたような。恋人なのかな? でも、そういう感じにも見えないし)

 

 

 

「多分、違うと思う」

「そっかぁ、ならいいんだけどさぁ」

「お姉ちゃん、可愛いし、モテるって聞くし。黎明さんともそのうちあっさり付き合えるんじゃないかな」

「わたし、あんまりモテないよぉ。顔は可愛いって言われるけど」

「それって、モテてるんじゃ」

 

 

 

 自身の姉は控えめに見ても可愛いと志乃は思っている。見た目は黒い綺麗な髪の毛、それをふわふわなボブのような形にしている。

 

 肩ほどまで伸びている髪はツヤもあり、誰もが羨むほどだ。そして、体つきもどこか色気がある。

 

 胸元が普通の服を着てもかなり強調され、妹である志乃は自分はこんなに大きくなるのか疑問に思うほどだ。志麻はFカップと言っているが、絶対にもっとあるだろと、志乃は嘘を見抜いていた。

 

 

 よく肩がこるとか言っているのも見ており、自分は全然肩がこらない。志乃は謎の焦燥にかられることもあったとか。

 

 

 しかし、色々な感情も渦巻く中で、志乃は単純に自身の姉は可愛いと、美しいと思っていた。

 

 

 

──そんな姉が異性に虜になりそうになっている。

 

 

 そんな光景は彼女にとっては、驚愕以外のなにものでもない。そして、その瞬間に志乃は黎明が言っていたことを思い出した。

 

 

 

『昔、【三浦美乃(みうらみの)】と呼ばれる子と旅をしてたんだ』

 

 

 

(そう言えば、黎明さんが言ってた三浦美乃(みうらみの)さんって誰なんだろう? かなり親密な感じがしたけど)

 

 

(懐かしむような、すごく優しそうな顔をしてた……私のことを話したりしてる時もあんな表情じゃなかった……)

 

 

(……なんで、心がざわつくんだろう。知らない人が黎明さんと仲良くしてて、お姉ちゃんの恋がうまくいかない可能性があるからかな)

 

 

 

 色々と考えたが、志乃は納得のいく考えがなかった。しかし、三浦美乃(みうらみの)についても彼女は話すことはなかった。

 

 

 

 

「実はRPGも始めたんだよねぇ。今まではあんまり興味なかったんだけど」

「あ、そうなんだ。黎明さん。モンスターとか魔法とか言ってるし……」

「うん、ちょっと知ってみたいなぁって。結構面白いよぉ。ウケもいいし」

「……ウケが良い? だ、誰に?」

「あー、志乃には言ってなかったけどVチューバーしてたんだぁ」

「え!? そ、そうなの!?」

「うん。お父さんには言っててさ。ふふ、お父さんが一番最初にチャンネル登録してくれたんだぁ」

 

 

 

 志麻は自らの父のことを嬉しそうに語った。彼女はすでに父が亡くなったことは知っている。

 

 

 それを知った時、彼女は勿論泣いたが、それでも志乃と同じように前を向くことを選んだ。父親への感謝を忘れないように、毎日遺影に手を合わせている。

 

 

 

 

「お父さんも応援してくれてたからさぁ。配信活動も続けて行くつもりなんだぁ」

「え、えぇ、言ってくれれば私も応援したのに……やっぱりお姉ちゃんはすごいね」

「うん、ありがとぉ」

 

 

 

 

 志乃はまさか姉が配信をしていたとは、夢にも思わなかっただろう。

 

 

 志乃はいつも部屋に引きこもり、イヤホンをつけてずっと自分の世界にいる。なので、全然知っていなかった。

 

 

(ず、ずっと、イヤホンとかで音楽聴いて一人で過ごしてたから。お姉ちゃんがそんなすごいことしてたの知らなかった……)

 

 

 志乃がずっと行っていた、一人で部屋に引きこもり、イヤホンをつけて寝る。

 

 これは、彼女が辛い現実を忘れるための自己防衛でもあったが、同時にもう一つ大きな効果があった。

 

 無意識ではあるが、霊力が外ではなく、内に向くのだ。外の世界ではなく、自らの世界に没頭する。

 

 これにより、志乃は怪異から一時的に完全に気配を悟られない。

 

 

 自らの世界に没頭する、これにより恐怖も忘れることができる。

 

 

 これは、黎明の強さにも通じるものでもある。

 

 

 

 要するに志乃は気づけなかった環境。しかし、逆に志麻は教えようと思えば、教えられた状態でもあった。

 

 

 だが、言わなかった。

 

 志麻が妹である志乃に言わなかった理由。その理由はさまざま。

 

 先ほども書いた、引きこもりの妹にわざわざ自分が人気配信者であるというのは気が引けたというのが一つ。

 

 他にはお金を稼ぎ、それで志乃の呪いを解くための道具を買っていたと知られないためだ。

 

 

 志乃は志麻が自分のために高額のお金をかけて居たと知れば、申し訳ないと感じただろう。

 

 それを志麻は容易に予想ができた。引きこもりで怪異の怪奇現象で、家族に迷惑をかけていると思っている彼女にさらに自責の念を強めることはあってはならないと考えていた。

 

 

 しかし、それらの問題は黎明が全部壊したので、もう話しても良いと彼女は思ったわけだ。

 

 

 因みにだが、現段階で志麻に貯金は一円もない。全てを志乃のために使っていたからである。だから、人気配信者であるが全然裕福ではなく、もやし炒めをよく食べている。

 

 そして、なるべく志乃には美味しいのを食べて欲しいと思ってお菓子などを買って部屋まで持って行く良い姉なのである。

 

 同級生から栄養を心配されていたが、胸が大きいので全然心配ないと思われたりするのはまた別の話。

 

 

 

 

「RPG、私もやってみようかな」

「結構面白いよぉ」

「うん、やり方わからないから、黎明さんに聞いてみようかな」

「わたしが教えてあげるよぉ。あ、なんか、話が逸れてる気がする。恋愛の話だったよねぇ」

「あ、うん。私じゃ力にはなれないかも……スザクさんって、長生きしてるし、知ってるかも?」

 

 

 台所で二人で料理をしながら、志乃がスザクに聞いてはどうかと提案をする。確かにそれは名案だと志麻は手を叩いた。

 

 

 

「あ、そうだねぇ。それはいい。スザクさんって……神社だっけ?」

「え、あ、いや、リビングに居ると思うけど。最近、居座ってくれてるんだ」

「ふーん。聞いてみよぉ」

 

 

 

 志麻はそう言って、台所から一度離れた。志乃は自分は離れるわけにはいかないので、料理を続ける。

 

 

 志乃は一人だけになり、自分の胸を押さえた。

 

 

「……どうしちゃったんだろう。変な感じがする。お姉ちゃんを応援しないといけないのに」

 

 

 

 

 

 

 

 

◾️

 

 

 

 一方で志麻はリビングでソファに座り、テレビを眺めているスザクの元へ。

 

 

 

「スザクさん、あのぉ」

「なに?」

「恋愛とかってしたことありますかぁ?」

「ないわね」

「スザクさんって神様なんですよねぇ? 縁結びの神様とかお知り合いとかって」

「いないわね」

「え、えっとぉ」

「しらないわね」

「な、なにも言ってないんですけどぉ」

 

 

 

 

 スザクは興味なし、話しかけるなと言った表情でずっとテレビを眺めている。テレビでは妖怪と友達になる少年のアニメが放映していた。

 

 

 スザクは今までテレビなどを見た経験がない。なんとなくで人の営みを見つめる中で、横目で見た程度だ。

 

 だからこそ、ちゃんと見たことがないのである。そんな彼女は初めて、興味を持ったのがアニメだった。

 

 

 

 

「今、アニメ見てるんだけど」

「あ、その、恋愛相談とか乗ってくれませんかぁ?」

「神に対して簡単に協力を仰ぐ姉妹ね。何かないのかしら? 貢ぎとか」

「……あ、冷凍食品の唐揚げとか、フライドチキンとか、ありますけど」

「愚かね。火の鳥様と言われたワタシに鶏肉料理ってどうなの? もうちょっとないの?」

「……あ、えと、スザクさんって何が好きなんですか?」

「りんごよ」

「あ、剥いてきます」

「皮剥いて、うさぎさんみたいにしなさい」

「あ、はい」

 

 

 

 

 

 

──志麻はりんごの皮を剥いて、スザクに差し出した。

 

 

 

「あら、上手なうさぎさんね」

「旬ではないですけどぉ、美味しいと思います」

「ふむ、貢ぎとしては上々ね。まぁ、仕方ないわね。この神であるワタシが力を貸してあげましょう。大抵のことはなんとかなるわよ」

「スザクさんって、神様なんですよね?」

「一応ね。ただ、霊格的に神格ほどの力があるかと聞かれるとそんなことはないけど。まぁ、それでも神であることには変わりないから、願いを叶えてあげるわ」

「嬉しいですけど。そこまで協力的なのはどうしてですかぁ? そんなに、りんご嬉しかったんですかぁ?」

 

 

 

 りんごをむしゃむしゃと、美味しそうに食べるスザク。満足したような表情で、志麻の方を向いた。

 

 

 

「まぁ、機嫌良い時もあるわよ」

「あ、え、えと」

「さっさと言いなさい。ワタシも気が長い方じゃないから。ほら、ワタシが協力をするなんて滅多にないのよ。神であるワタシが大抵のことはなんでもしてあげられるんだから」

「あ、そのぉ、黎明さんなんですけど」

「それはワタシの力を超えてるから無理ね。諦めなさい」

 

 

 

 

 

 そう言って、スザクはソファに再び横になり、アニメを見ることを再開し始めた。

 

 

 

「あ、りんご、おかわりね」

「……あ、はい。神様って、こんな感じなんですねぇ」

 

 

 

 

 (お願いを聞くといって、貢物を要求して、なのに力こえてるとわかると秒で却下して、なのに堂々とおかわりを要求してるぅ。こ、この神様……!)

 

 その一種暴虐な態度に、志麻は色々と言いたいことはあったが、命を救ってもらった立場でもあるし、りんごのおかわりを持っていくことにした。

 

 会社所属の人気Vtuverでもある彼女は、大人な態度も取れるのである。

 

 神ってこうなんだなあ……と、自分をさらった神の暴虐さにも、一種納得しながら、りんごを切って持ち運ぶのだった。

 

 

 

「まぁ、恋愛は自分でやらないとねぇ。自分で勝ち取ってこそ、価値がある気がするしさぁ」

 

 

 

 

 

──篝火志麻(かがりびしま)の恋愛苦難はここから、始まる。

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