【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ   作:流石ユユシタ

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第22話 コンビニ

 志乃とスザク、二人と詩が会話をした数日後。影森町の空は、夏特有の重たい雲に覆われていた。

 

 黎明は詩の車へ乗り込む。

 

「ふむ、やっぱり詩の車はかっこいいね。ただ、馬車とかだともっと雰囲気出るんだけど」

「馬車なんて持っているわけがないだろ」

「だよねー」

 

 

 詩はエンジンをかけ、ゆっくりと車を発進させた。田畑を抜け、北上山地へ続く国道へと入っていく。

 

 

「廃村、清泪村(せいるいむら)だっけ? そこはどこにあるの?」

「岩手県北上山地を越えた先だな」

「おー、どこかイマイチ分からないなー」

「まぁ、私が連れていくから安心しろ。そう言えば志乃も来たがっていたが、熱が出て来れないみたいだ。不思議なことに志麻もスザクも熱が出たようだな」

「あ、そうだったんだ。あれだね、MPの循環が上手くいかないと体が不調になる時あるから。志乃、志麻もスザクも大量に経験値がこの間入ったから、レベルアップしすぎてMPが増えて、不調になったのか。まぁ、数日寝てればなんとかなるとは思うけど」

 

 

 黎明は窓の外を見ながら言った。心配はしている。しかし、彼は前を見る男だ。経験値が自分を待っていると、気持ちを切り替える。

 

 

 

 

清泪村(せいるいむら)……どんなところなの?」

「……村と言われるくらいだからな。人口はかなり少ない。過疎化していて、消える寸前くらいと言われていたらしい」

「そうなんだ」

「人口流出とかも多かったそうだからな。ただ、そこから村を復興したいと考えた村民が観光名所として売り出すことを思いついたようだ」

 

 

 

 清泪村(せいるいむら)は四十年ほど前から、人口流出などが始まった。それにより、村民が消えて、村を維持するのが難しくなった。

 

 このままならば村は消えてしまう。そう思った村民が村おこしとして、綺麗な水を売り出す方法を思いついたようだった。

 

 

「だから、約二十年前ほどくらいまでは観光地だった。名水百選と言われる、途轍もなく美味しい水の一つにも選ばれたことがあるくらいにな」

「名水百選、そんなのあるんだ。美味しいのかな?」

「相当に美味かったらしいな。一時期テレビで有名なほどだったらしい。私は詳しくは知らんがな」

 

 

 

 詩はハンドルを握りながら、淡々と語り始めた。

 

 

「だが、観光名所として盛り上がる一方で黒い噂があった。観光客が行方不明になるとな」

「それが本当なら悪い村だね」

「あぁ、無論証拠はなかったがそれが大きな騒ぎとなり、観光地としても誰も来なくなった。そして、そのまま村は約十年前に消えたそうだ」

 

 

 

 アクセルを踏み込み、先へ先へと二人を乗せた車は進んでいく。

 

 

 

「十年前を境に村は完全に封鎖された。それ以降、住んでいる人間はいない。つまり――」

 

 

 詩は隣に座る黎明を見る。

 

 

「清泪村は、もう廃村と言うわけだ。しかし、何故か分からんがこのタイミングで異常なMPなどが観測された。それと、これはネットでの噂だが、最近になって、村に向かうという人間が増え始めている」

「ほほう? 色々な事態になってるわけね。これはモンスターの気配がするね」

「……あぁ、間違いなくモンスターが絡んでいるだろうな」

「楽しみだー」

 

 

 

  黎明はワクワクしたような表情をするが、詩はそんな黎明を羨ましげに眺めていた。

 

 

 

「楽しみか……そう言えるのは流石だ」

「そう?」

「……お前は本当にすごい、それを最近、心底思う」

 

 

 詩は黎明を心の底から信用と信頼をしていた。その強さを得るまでどれほどの苦労があったのか。

 

 彼女には想像ができない。

 

 

 しかし、彼女はお風呂に一緒に入った彼の体にある傷跡を覚えている。黎明が必死に努力をした末に力を手に入れたのだと、彼女は理解をしている。

 

 

 

 それは、彼女からしたら本当に眩しかった。

 

 

 

 

「……少しコンビニでも寄るか。お昼でも買っておけ。これから廃村に行ったら戦闘になるかもだしな」

 

 

 

 

 彼女は近くのコンビニに立ち寄り、車を駐車した。黎明はコンビニの中に入るが、彼女は外に出たままでタバコを吸い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「やはり、黎明はすごいな……。私とは比べものにはならん」

 

 

 

 

 彼女は心の中でこれから向かう場所への恐怖を抱えていた。しかし、黎明は恐怖など微塵も感じていなかった。寧ろ楽しみと思っていたのだ。

 

 

 

 

「ふはは……私よりも五つも年下の男を死地に出そうとしているのに。連れていくだけの私が震えているとはな。情けなすぎて笑い話にもならん」

 

 

 

 

 

 タバコを吸いながら、ずっと曇りの空を眺め続ける。彼女は自身の弱さと、情けなさを強く感じていた。

 

 

 

「……落ち込んでいる暇もないか。送迎もろくに出来ない大人と思われるわけにもいかんしな」

「詩ー、お昼買っていい?」

「あぁ」

 

 

 

 

 

──黎明は大量にお昼を買った。おにぎり十個、パンも十個、惣菜も数個であった。

 

 

 

「かなり買ったな。玄蔵さんから、かなり食べるとは聞いていたが」

「まぁね」

 

 

 

 黎明はそう言って車の中で、おにぎりなどを食べ始める。もぐもぐ、と軽快にどんどんと口へと運ぶ。

 

 

 コンビニ駐車場で彼女もおにぎりを少しだけ食べながら、黎明を眺め続ける。

 

 

 

「本当によく食べるな」

「うん、これから経験値稼がないといけないし。今のうちに栄養摂っておかないとさ」

 

 

 

 

 黎明は食べ過ぎではないかと思われるくらいに、ずっとご飯を食べ進める。詩も流石に大丈夫か? と思ったが

 

 

 

 

──黎明は、急に助手席の扉を開けて食べていたご飯を全て吐いてしまった。

 

 

 

 

 べちゃと水々しい嫌な音が聞こえた。黎明は申し訳ないという表情で詩を見つめる。

 

 

 

「ごめん、悪い癖が出ちゃった」

「……あ、あぁ」

「折角買ってくれたのに。それと車も外装が汚れちゃったかも」

「いや、洗えば問題ないが……大丈夫か?」

「俺は大丈夫」

 

 

 

 詩は黎明が嘔吐をしてしまったことは、何とも思ってないが【悪い癖】と言ったことが少しだけ引っかかった。

 

 

 

 

「黎明、お前はご飯を食べ過ぎることがあると玄蔵さんも言ってたな」

「あー、うん。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……」

 

 

 

 

 

──その時、詩は頭の中であることが繋がった気がした。

 

 

 

 彼女は黎明の過去を聞いている。彼が転生をしており、生前どのような家庭環境に居たかも知っているのだ。

 

 

 

 その前世の話の中に、黎明は両親に過剰に食事を制限されており、食事にも消毒スプレーをされていたことがあったのを思い出した。

 

 

 彼の前の親は、宗教にハマっており、宗教の教えにより食事制限、日本のご飯は毒が入っているため消毒スプレーをかけるという暴挙をおこなっていたのだ。

 

 

 

 だからこそ、黎明は体が栄養が足りていなく細かったらしい。

 

 

 そして、その経験からなのか、黎明は食べれる時に食べておく癖が出来てしまっていた。

 

 

 

 

「ちょっと、うがいしてくるー」

「ちょっとこっちに来い」

「え?」

「いいから」

 

 

 

 そう言って、詩は黎明を抱き寄せた。

 

 

 

「殴られるかと思ったら、胸が……」

「誰が殴るか」

 

 

 

 黎明は詩の胸元に抱き寄せられてしばらくそのままだった。

 

 

 

 

 

(なぜ、私はこんなことを……)

 

 

 

 

(同情……ではない。単純に寂しそうに見えたのかもな)

 

 

 

 

(私も一人で寂しいだけか……もう、家族も居ない)

 

 

 

(黎明は完全無欠じゃない。私と同じだ。だから、いつでも抱きしめてあげたいと思うのかもな)

 

 

 

 暫く彼女は黎明を抱きしめた。ふと、黎明は体を離して目をパチパチと閉じたり開いたりした。

 

 

「おー、なんか心が軽くなった気がする。魔法でも使われたような……詩も結構やるじゃん。まぁ、MP操作とかはまだまだだけど」

「……ふっ、私も結構やるだろ?」

「うん、そうだねー」

「また、気が向いたらハグしてやらんでもない」

 

 

 

 強気な言動だが、詩は昨日もハグをしてる寂しがり屋であった。黎明は詩が孤独だと何となくわかっていたので、抱き返してあげるくらいでもある。

 

 

 二人は不思議な関係になっていた。しかし、それは互いに悪くないとすら思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 コンビニを出発し、車は山奥へと進み、だんだんとアスファルトが砕け、舗装も曖昧になっていく。

 

 

 やがて前方に、赤く錆びたバリケードが見えた。

 

 

 

【立入禁止 危険区域】

 

 

 詩は車を停めた。

 

 

「ここから先は車で入れない。歩きだ」

「なるほどー」

 

 

 黎明がドアを開けようとすると、詩が呼び止める。

 

 

「詩はここで待ってた方がいいよー。体震えてるし」

「あぁ、いや、私は」

「いや、無理しない方がいいと思うけどね。ちょっとMPの感じが強くなってきたし、詩は待ってなよー」

「そうだな、これ以上無駄に気を遣わせるわけにもいかんか……足手纏いだしな」

 

 

 足手まといになる、そう彼女は感じた。言葉は冷静であった、だが手は少し震えている。それは恐怖もあるが、不甲斐なさからの怒りでもあった。

 

 

 

「いや、一緒にいると経験値分配されるから」

「え?」

「志乃と一緒に居て気付いた。やっぱり近くに人間がいると同じパーティーってことになるのか、経験値が勝手に分配されてるんだよね。それとフレアボムで遠距離で怪異を倒した時も経験値の入りが悪かったし」

「あぁ、影森町で初めて一緒に夜回った時か」

「そうそう。経験値効率良くしたいし。だから、ソロで行ってくるよ」

「……そうか」

「それと、ここ来るまでに気付いたけど。ここ俺達以外にもかなりの人間が来てる。そして、これからも来そうな気がするから。詩にはここから先に、立ち入れないようにして欲しい」

 

 

 

 それを聞いて、詩は目を見開いた。確かに最近この村に訪れようとする人が多くなっているのは彼女も聞いていた。

 

 急にこの村に行きたくなった、都市伝説を調査したいなど。理由は様々だが、この村に人が集中しやすい状況になっているようなのだ。

 

 

 

「……ここに来るまでに人と会ったか? 一本道だったと思ったが」

「いや、誰とも会ってないよ。ただ、ほら、昨日は雨だからなのか、足跡が多いでしょ。結構人が来てる感じする。それと、もうちょっと先に、見えづらいけど車も停めてあるしね」

 

 

 そう言って、黎明は地面を指をさした。すると、確かに足跡が複数あった。

 

 

 

 そして、かなり奥まった場所……木々に隠れるように、他にも車が置いてあるのが見えた。

 

 

 

 

「それと、来る途中に気付いたけどここって人気な場所なのかな? 動物、鹿とか熊とか、狸とか、全部こっちの方角に来てたね」

「……気づかなかった」

「いや、遠くだったし、運転中だしね。それとここに来るまでに寄った時に、コンビニの中で、ここに来るとか言ってた人がちらほら居たんだ。だから、足止めよろしく」

 

 

 

 

 詩は黎明が持つ異様な鋭さを感じる。霊力や戦闘力だけではない、直感や、観察力も大したものだと、思わざるを得なかった。

 

 

(この付近から感じる霊力で、私も思わず視野が狭くなっていた。足跡も気付くのが遅れたくらいだ)

 

 

(だが、黎明は当然のように悟っていたか)

 

 

 

 改めて戦慄をする詩。黎明はそんな彼女に、持ってきていた刀を一本差し出した。

 

 

 

「はい、これじーちゃんから貰った刀。その予備ね」

「……なぜこれを?」

「いや、詩が心配だし。まぁ、ここなら大丈夫とは思うけどさ。それと最近、装備を自分で作ったりしてるんだよね」

「……確かにMPが込められてるな」

 

 

 

 

 彼女は渡された刀から、強い霊力が溢れているのを感じた。しかし、不思議なのは持つまでは霊力を感じなかった点だ。握って初めて、その霊力を彼女はとらえた。

 

 

 

 

「それ、刀身に炎の魔法をずっとつけてるんだよね。炎の斬撃とかも飛ばせるし、護身用に持っておいてよ」

「……こんな貴重なのを待っているだけの私に持たせていいのか?」

「うん、詩は大事な人だしね」

「……あ、えと、そ、そうだな、この間も言われたが、だ、大事な人なんだよな、私はお前にとって……」

 

 

 

 いや、年下に対して照れたような言動をしているんだ? 私は? と詩は思ってすぐに目つきを釣り上げる。

 

 

 一瞬だが、乙女漫画のヒロインのように照れた顔になったが、黎明はMPの変化には鋭いが、そういうのはそんなに興味がなかった。

 

 

 

「そうそう。それに、俺はそんなの使わなくても強いからね」

 

 

 

 

──そう言って、微かに黎明は自らの霊力を解放した。

 

 

 

 立ち上るまでの速さ、その霊力の量と出力に詩の顔に、冷や汗が湧いた。一緒にいるにもかかわらず、未だ底が見えない。

 

 

 

「相変わらず、凄まじいな……分かった。ここで待つ。だが、気をつけろ。ここは……あらゆる常識が通じない場所だ」

「おー、ダンジョンみたいでワクワクするね」

「余裕だな」

 

 

 

 

 山の風が、彼の白銀の髪を揺らした。前方には、朽ち果てた木造の鳥居。その奥に続く、異様な静寂の道。

 

 

 

 ここから先――清泪村。

 

 

 

「じゃ、行ってくるねー」

「あぁ」

 

 

 

 

 黎明は手を軽く振り、村の闇へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 ──死んだ村が、彼を待ち構えている。しかし、そこで彼は新たな出会いをすることになる。

 

 

 

 安倍晴明。その子孫と言われる双子との出会いまで、あと少しだった。

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