【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ   作:流石ユユシタ

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第24話 あの時の裏で

 黎明が扉を開けると、男女の二人組が廃村の奥に座っていた。

 

 

 薄暗い室内。畳は湿気を吸い、柱は黒ずんでいる。家そのものが、長い年月の沈黙を噛みしめているみたいだった。

 

 その中央で、白い狩衣の若い男女が息を殺していた。まるで何かから隠れるように。

 

 灯りはないが、黎明にはその二人の姿がはっきりと認識できた。

 

 

 

 

 

 

「あれ、人間か」

「……っ! に、人間!?」

「っ、な、なんだ、怪異じゃない、のか……」

 

 

 

 

 黎明はその二人が人間であるとすぐに分かった。この二人は、怪異などではなく、ただの人間であると。

 

 ただの人間かぁ、と少し残念な顔になっていたがそれに誰も気づかなかった。

 

 そこにいる二人組、安倍蓮(あべれん)安倍紅(あべべに)と呼ばれている黎明より一つ年上の少年少女だ。

 

 彼らは陰陽師の世界では名家と言われる、安倍家に属している存在であった。

 

 

 

 双子であるが、安倍蓮(あべれん)は弟、安倍紅(あべべに)は姉である。その二人は怪異に襲われ、命からがらこの場所まで逃げてきており、黎明が扉を開けたことで恐怖を覚えた。

 

 

 怪異が自分たちを追ってきたのだと思ったからだ。しかし、実際には和服姿で刀を持っている青年が一人だけだった。

 

 

 

 

「な、なんだ、怪異じゃねぇのか、よかった……」

「そうね……」

 

 

 

 一気に気が抜けた表情になる二人だった。額には汗が滲んでおり、未だ落ち着かないのか、呼吸が乱れている。

 

 

「お前、さっさと中に入れ」

「あ、そうだね。お邪魔しまーす」

 

 

 安倍蓮(あべれん)に言われ、黎明は家の中へと足を踏み入れた。埃臭いなと黎明は思いながらも、彼はあることに気づいた。

 

 

 

 

(ん? あそこにある壺、何かMPを感じる。それと、そこにある樽にも)

 

 

 

 家の一角に置いてある、壺と樽に黎明は注目していた。そこに微細ながらも霊力を感じていたのだ。

 

 

 

 

(アイテムとか、入ってるのかな……?)

 

 

 

 黎明の意識は二人よりも、そっちの方に向いていた。一方で安倍家二人はその霊力に気づいておらず、廃村の異様さに呑まれていた。

 

 未だに呼吸が乱れており、体も震えている。

 

 

 

「はぁ、はぁ……あの怪異(かいい)はヤバい。なんだ、あの禍々しさは、聞いてねぇ……」

「……蓮、アタシもあんな霊格の怪異がこんなにもいることに驚いてるわ。これは人間の手に余る、まずはこの【廃村】から抜け出しましょう。そういえば貴方も大丈夫?」

「あ、うん。俺は大丈夫。ここら辺モンスター多いよな」

 

 

 

 黎明は適当な返事をしながらも、部屋の壺が気になっていた。ジリジリと壺の方に向かっていく。その顔はワクワクという感情に溢れている。

 

 

(アイテムかな……それともアイテムに見せかけたモンスターかな?)

 

 

 

「とにかく、オレたちは逃げるしかねぇ。そして、この廃村からの脱出だ。姉ちゃん、出口はわかるか?」

「……ごめん。逃げてる時に、方向が分からなくなっちゃって。それにここ、独特の霊力が蔓延してるから普通に脱出とかも出来ないかもしれない」

「結界とかがあるのか……」

「うん、正しいプロセスを踏んだり、結界の起点を破壊とかしないと難しいわ」

「厄介なのはあの怪異の集団だ。あれほどの霊格があんな量いるとなると祓うのは不可能だ。物音を立てずに逃げるだけ」

「そうね、逃げるだけ」

 

 

 

 二人は先ほど相対した怪異について考えていた。自身たちが会ったのは僅か一体、しかし、別の方角からの咆哮。

 

 

 それにより、複数体いることを推測していた。また、この廃村に入るまでに、四体ほど同じような怪異を目撃している。

 

 

 だからこそ、かなりの数であると推測して動くのが適切であると考えていた。

 

 

──がしゃん!!!!

 

 

え?

 

 

 

 時が止まったような感覚があった。なぜなら、黎明が壺を投げていたからだ。家の中に大きな瓶が割れた音が響き渡る。

 

 一瞬で、部屋の空気が変わった。

 

 

(やっぱ、モンスターがいたな。まぁ、手刀一発でやれてしまうくらいの雑魚モンスターだけど。外の方が経験値が詰まってるんだな)

 

 

 

 壺の中には【音無鼠(おとなしねずみ)】と言われる怪異が潜んでいた。音もなく、気配も辿りにくい怪異。

 

 鼠の姿であり、大きさも小さい。しかし、人間を食べる時だけは、大きくなって丸飲みをする。その後は、再び壺の中に入るのだ。

 

 

 もし、黎明がこの場にいなければ僅か数刻後、二人は食われていただろう。

 

 

 

 だが、黎明はツボを割った瞬間に神速の手刀にて、怪異音無鼠(おとなしねずみ)を絶命させている。

 

 しかしこの時、コンマ一秒ほどの時間しか経過していない。

 

 この尋常ならざる神業である恐ろしく速い手刀、それを双子は当然の如く見逃していた。

 

 

 だから、黎明が倒したことを認識できていない。それ故に、ただ黎明がツボを割った狂人に二人は見えており、責め立てる視線を向けてしまう。

 

 二人は本来ならば感謝をする場面でもあるにも関わらずだ。

 

 これだけではなく、呪喰(じゅく)に殺されかけた二人を救ったのも黎明である。他の呪喰(じゅく)を黎明が殺しかけ、その呪喰(じゅく)がこっちへ来いと呼び声を出した。

 

 そうすることで、二人から興味をなくした呪喰(じゅく)は黎明の元に向かい、助かっている。

 

 

 しかし、それを二人は分かるはずもない。安倍家と言われる日本最高と呼ばれていた一族であったとしても。

 

 

 

──この世界は怪異を人間は倒せないからだ。

 

 

 その常識が、自分たちが目の前の少年に救われている、という考えに一切至らせなかったのだ。

 

 

 ──そして、二人には黎明が手刀を使っているのは見えていない。

 

 

 だから、ただの奇行に見えていた。実際奇行でもあるが。

 

 

 

(あんまり経験値がないのは残念だけど、やっぱり壺とかを割ったりするの面白いなぁ。中に何があるのかワクワクするし。でも、今まではしたことなかったんだよねぇ。山だとじーちゃんの家の私物だからできないし)

 

 

(影森町には壺とか置いてないし、志乃の家には色々あったけど、人の家を勝手に漁ったりするのはダメって詩が言ってたし)

 

 

(でも、ここは誰も住んでないから、好きにしていいって詩は言ってた。おー、この探索具合は楽しいなぁー)

 

 

 

 

 内心で色々と考えながら、黎明は次に樽の方に意識を向けた。しかし、そこに向かう前に安倍蓮が目の前に立つ。焦りと怒りを滲ませたような表情を黎明に向けた。

 

 

 

 

「なに、してるんだ? お前、なんで壺を割った?」

「……いや、中にあるのを確かめないと」

「……割らずに調べればいいだろ」

「……?」

 

 

 

(壺って探索する時は割るもんでは……? あれ? それともここってこの人の家なのかな? いや、そんな感じもないけど)

 

 

「なんでお前が疑問の顔してるんだ?! 今ので怪異が寄ってきたらどうするんだ!! 馬鹿かお前!」

「……?」

「だから、なんでお前が疑問の顔してるんだ!!」

「ま、まぁ、彼も悪意があったわけではないようだし、それにほら怪異も気づかなかったようだし。こんな状況じゃ、錯乱しちゃったのかもしれないわ」

「……っち、姉ちゃんに感謝しろよ。そうじゃなきゃ今頃死んでるぞお前」

「おーわかった」

 

 

 どうやら話もひと段落ついたようだしと、黎明は考えながら今度は樽を破壊した。

 

 

 黎明は次に樽の中に入っていた、【音無鼠(おとなしねずみ)】を絶命させた。

 

 しかし、その攻撃を知覚できる存在はここにはいない。

 

 

 なぜなら、二度目の恐ろしいほどの速い手刀。双子は案の定、見逃していた。

 

 そして、二度目の疑惑の目線を向ける。

 

 

「……おい、お前マジで何してる?」

「中のを確かめないと」

「割らずに確かめればいいだろ!!」

「……??」

 

 

 黎明は『え? また?』という表情を浮かべ、安倍蓮は慌てた。ただ、彼らの会話の次の瞬間。

 

 

 黎明が出した音をたどり……(いな)、安倍家の双子が発してしまった霊力の残穢を辿り……

 

 

 呪喰(じゅく)が現れる。

 

 

──民家の扉がギリギリとゆっくり開閉した。

 

 

 ──現れたのは両目と口がくり抜かれたように真っ黒な化け物。

 

 

 髪の毛があり、鼻もある。人のシルエットをしているのに、間違いなく異形だと分かる雰囲気。

 

 

 

そして、目が真っ黒な穴であるが、視線は彼らを見据えている。

 

それをうけてーー

 

 

ーー安倍家の二人は、固まった。この瞬間、死を覚悟した。

 

 

ーー黎明は、刀を抜いていた。この瞬間、歓喜に震えた。

 

 

 

 

「お、モンスターだな。でも、一体だけか。経験値が詰まってると良いんだけど」

 

 

 

一見、自殺志願者にも見える行動である。

 

 それが黎明でなければだが。

 

 しかし彼は、怪異も含めたうえで、この世界の頂に立てうる存在である。

 

 そんな彼が、裂帛の気合とともに、攻撃を打ち放った。

 

 

 

 

「せいッ!」

 

 

 

 掛け声とともに、少年の刀が煌めいたかと思うと、異形の顔面に突き刺さり。

そのまま刀は異形の体を縦断し……

 

 

    異形を、縦に真っ二つに切り裂いていた。

 

 

 ずるり、と音をたてたのち、斬られた事を思い出すように倒れていく怪異。 

 

 

 あまりにもあっさりと片付けた所業を見て、双子は顎が外れんばかりに驚いていた。

 

  

 

 

「お、元気だね。これも良い経験値になりそう」

 

 

──経験値?

 

 

 

 

 聞き慣れない単語に、疑問を浮かべる二人。しかし、そんなの気にせず、少年は攻撃を続けていた。

 

 ぐしゃぐしゃがちゃがちゃ、何度も何度も、まるで刀で敵を汚く咀嚼するように、それを異形の至る所に刺し、斬り、回し、潰し続ける。

 

 

 無茶苦茶な攻撃。これではどっちが怪異かわからないような攻撃だ。

 

 

 しかし、着実に異形の存在に致命打を与え、体を崩壊させていく。

 

 そして、黎明は怪異を打破する。それを見て、夢か現実か判別がつかない気になってしまっている二人は呆けたようにつぶやいた。

 

 

 

 

「た……倒した?いや、祓った?嘘?一体、そんな、今何を……???」

「マジかよ……あれ祓える奴が現代に居るのかよ。どう考えてもあのレベルは【封印対象】だろ……」

 

 

 

 安倍蓮は驚愕していた。この霊格に対抗できる存在が現代にいたのかという事実に。

 

 安倍紅は恐怖を持った。こんな力を持つ、人間がいるのか? これは人の姿をした怪異なのではないか?

 

 

 それら全て疑問や悩みは黎明からすると、関係がない。彼は彼の世界で生きており、それゆえに最強だからだ。

 

 

「あ、経験値が入ってる気がする。やっぱり、RPGゲームみたいな世界なんだな」

 

 

 

 

──彼は、いずれ伝説と化す。その伝説にこれから、双子は巻き込まれていくことになる。

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