【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ   作:流石ユユシタ

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幕章4 配信者スザク

──志麻はVチューバーとして活動をしている。

 

 

 

 昨夜も配信活動をし、一夜明けた。そんな志麻のスマホには通知が溢れていた。

 

 

 

「やっぱ、スザクさん、すごいなぁー」

 

 

 

 昨日行った配信内容は、スザクの占いである。以前、スザクが出演し占いにて視聴者の悩みに答えたりしたことがあるが、それと同じような内容である。

 

 

 これが今では大人気企画となり、配信のたびにトレンドになるのだ。

 

 

 朝になっても話題の熱が冷めることはない。すでに切り抜き動画がいくつも作られており、中でもスザクが視聴者の職業を当て、未来を予測する場面が繰り返し再生されている。

 

 志麻は布団の中でスマホをいじりながら、コメントを眺めていた。

 

 

 

『信じたくないけど信じるしかない』

『流石にやらせでしょ』

『あの占い師、ガチもんだろ』

『シマちゃんのコラボ最高だった。また来て欲しいわ』

『スザクまたきてほしい』

『あれ嘘じゃね? やらせ確定』

 

 

 

 否定も肯定も、両方ともに熱が大きい。実際スザクは本当に、御技と言われる超能力を使ってはいるが、それを信じない視聴者も多い。

 

 だが、それでも話題は大きくなり続けている。嘘であると思う人間の声さえも、話題の拡声器になってるのだ。それを見た志麻は一人で呟いた。

 

 

「いや、ぱねぇー。視聴回数もスザクさんの時だけ、すごいし」

 

 

 

 ──その日の昼過ぎ、マネージャーから連絡が入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……それ、本当ですか……?」

 

 

 

 

 

◾️◾️

 

 

 

 篝火家のリビング。

 

 志麻はソファに腰を下ろし、スマホを持ったまま正面に座るスザクを見た。スザクはゲーム機を適当にいじって遊んでいる。

 

 

 

「えっとですねぇ……スザクさん。マネージャーさんから話がありまして」

「何? また、占いやってとか言う話? もう何回目よ」

「えと、その、ちょっと違って……その、スザクさんに、わたしの事務所からVチューバーとして、デビューしてほしいとのことで」

 

 

 

 スザクはゲーム機から少しだけ彼女の方に顔を向ける。その後、少し間を置いた。

 

 

 

 

「……嫌よ」

「ですよねぇ。ただ、マネージャーはかなりスザクさんを推してまして」

「……偶に配信出てあげるとかじゃダメなのかしら」

「いや、もうスザクさんはゲストとして留めるのは勿体無いそうです。ほら、これを見てください」

「……ふむ」

 

 

 

 志麻はスマホの画面を見せた。昨夜の配信のコメント欄の画像だ。信者になりますとか、スザク様とか、そういったコメントがひたすら並んでいる。

 

 

 

「これだけの人が、スザクさんに注目してますぅ。これって、スザクさんにもメリットあると思うんです!」

「……まぁ、人気は信仰みたいなもんだからね。それで霊力が増えたのはワタシも感じてるわ」

「だったら、もっとやったらもっと増えるんじゃないですかぁ!」

 

 

 

 特に反論がないのか、スザクは返事をしなかった。そして、畳み掛けるように志麻は続ける。

 

 

 

「わたし、一緒にスザクさんとVチューバーとして頑張りたいですぅ!」

「……Vチューバーね」

「スザクさんが一緒に出てくれると、配信が楽しくなるんですよぉ。視聴者さんも喜んでくれるし、わたしも嬉しいし」

 

 

 

 スザクは腕を組み、天井を見上げた。少しだけ、考えるそぶりをする。今彼女の頭の中には、詩との約束が思い出された。

 

 

(黎明だけに頼らないね……。今現状、あいつの次に強いのはワタシだし。強くなるのに手段は選ばない方がいいのかしらね)

 

 

「確かに、信仰は力になる。それは実感した。ただ、Vチューバーとかいう存在があんまり知らないんだけど」

「えと、バーチャル、つまり架空の画像を自分に貼り付けて配信をするイメージですぅ」

「……今の姿も架空みたいなもんだけど。さらに別の姿を貼り付けて話す感じね。まぁ、やってあげるわ」

 

 

 

 ため息混じりであったが、スザクは志麻の頼みを承諾した。そして、再びゲームを開始する。

 

 

 

 

「あ、希望のアバターの姿とかありますか? 巨乳とか」

「いや、別に。てか巨乳をなんで勧めるのよ」

「あ、えと、スザクさん小さいから、大きいのに憧れとかあるのかなってぇ」

「これはそもそも仮の姿だから、大きくしようと思えば出来るけど。だから、なんでもいいわ」

「あー、それなら今の可愛い姿と似たような感じにするように頼んでおきますねぇ」

「任せるわ」

 

 

 

──それから、二週間後。スザクはVチューバーとしてデビューする。

 

 

 

 

 

◾️◾️

 

 

 占い師として、話題だった謎の女性【スザク】。

 

 

 DDMプロダクションから、Vチューバーとしてデビュー。

 

 

 ──これはすぐさま、ネットで話題となった。

 

 

 

 既に彼女の名前はネットでは知られており、配信に出るだけで話題だった。それがVチューバーとしてデビューするとなれば話題が大きくなるのは当然だ。

 

 デビュー配信は志麻のチャンネルとの同時配信という形を取った。

 

 

 

 

 そして、同時配信が開始される。

 

 

 

 

「どうも、占い師で炎魔導士のスザクでーす、よろしくー」

『きたああああ』

『シマちゃんのとこの占い師だ』

『声やっぱいい』

『スザク待ってた』

 

 

 

──配信は、気だるく適当なスザクの一声で始まった。

 

 

 しかし、視聴者のコメントは彼女の温度感とは裏腹に、熱にあふれていた。

 

 

 それに人数も多い。既に志麻の配信でのコラボを知っているリスナーが、告知を見てすぐに駆けつけているのだ。

 

 

 

 そして、配信が本格的に始まると、スザクはいつものように視聴者の占いを始めた。

 

 

 

「ククク、我もいるぞ。黒魔道士のシマである。今宵からデビューをする我の半身、炎魔導士のスザクと配信をしていくぞ」

「はーい、炎魔導士として配信してくわねー」

「ふふ、我が半身は恥ずかしがり屋なのでな、このテンションで行かせてもらう!」

 

 

 

──軽いテンションであるが、スザクの初配信が始まった。

 

 

 

 

『そういえば、スザクさんの言った通り、転職したらストレスフリーになりました』

『ワタシも恋人とうまく行きました!』

『家族との関係修復ができました!!! ありがとうございます!!』

『マジで精度凄すぎるだろ。インチキじゃなさそう』

『ぱねぇ』

 

 

 

 

 

 開始早々、彼女が今まで占ってきた視聴者がお礼のコメントを投稿する。それをみて、スザクはふんと、軽く鼻を鳴らし、次なる迷える羊を探す。

 

 

 

 

 

 

「それで。今日、占って欲しい人はいるかしら」

 

 

 

 

 

──彼女がそう言うと、次々と彼女を求めてコメントが流れる。その中から、気になったのを彼女は目に留め、そのコメント主に対して質問をする。

 

 

 

 

「生年月日、それと悩みを言って」

 

 

 

 生年月日を受け取り、数秒考え、当て始める。

 

 

 

 仕事の悩み、恋愛の悩み、健康の問題。次々と言い当て、アドバイスを添える。その精度は変わらず、コメント欄はその都度荒れるような勢いで反応した。

 

 

『相変わらず精度がすげぇな』

『お前、陰陽師か?』

『絶対にやらせで草』

『すごいな。これ、本物じゃん』

『すげぇー!!!!』

『炎魔導士ね、黒魔導士のシマの半身設定なんだ、面白いね』

 

 

 

 配信が一時間を過ぎた頃、一つのコメントが流れてきた。

 

 

 

 

『そういえば、前にスザクさんに占ってもらった者です』

 

 

 ふと、コメント欄に流れた一文。それを見たスザクが、気怠そうに視線を向けた。

 

 

「……誰よ」

『夜空の星です。保険営業の』

「あー、いたわね」

 

 

 名前と職業を聞いた瞬間、スザクは思い出したように呟いた。

 

 

『はい! あの時、転職するなって言われたじゃないですか。正直、上司とも合わなくて辞める寸前だったんですけど。来月に良縁があるって言葉を信じて踏みとどまったんです。そしたら、今月、人生で一番大きい契約取れました。しかも部長にめちゃくちゃ評価されて、部署異動の話まで出てます。本当にありがとうございました!』

 

 

 赤いスーパーチャットが流れる。コメント欄が一気に動いた。

 

 

 

 

『え、すご』

『ガチで人生変わってるじゃん』

『いやでも偶然では?』

『営業の大型契約は普通にデカいぞ』

『すげぇ……』

 

 

 

 しかし、コメントの熱気と裏腹にスザクは特に興味もなさそうだった。

 

 

 

「ふーん。良かったじゃない」

『反応うっす』

『もっと褒めてやれよw』

『人生救ってるレベルなのに』

 

 

 だがスザクは、面倒臭そうに頬杖をつく。

 

 

 

「別に、ワタシは見えたこと言っただけだし。それでうまく行ったのなら、よかったわね」

 

 

 その言い方が、逆にリアルだった。媚びもない。恩着せがましさもない。ただ、事実を口にしているだけの声音。

 

 

 だからこそ、逆にコメント欄がざわつく。

 

 

 

 

『いや、逆に本物感ある』

『こういうの演技っぽくないんだよな』

『なんなんだこの人……』

 

 

 

 

 

 そして、次のコメントが流れた。

 

 

 

 

『ついでに、私もお礼を言いたいです! 語彙力ないタニシです』

「あー、奥さんに隠し事してた人ね」

『はい……あのあと、全部話しました。めちゃくちゃ怒られました。離婚も覚悟しました。でも、ちゃんと話してくれてありがとうって言われて。今、関係修復できてます。最近、一緒にご飯食べられるようになりました。本当にありがとうございました』

 

 

 

 感動的な話。そして、それを正直に偽りなく話したリスナーに対し、コメント欄がさらに湧いた。

 

 

 

『うわぁ……』

『それは泣く』

『良かったな……』

『普通にいい話で草』

『なんかリアルすぎる』

 

 

 

 

 しかし、スザクはやはり反応が薄い。

 

 

 

 

「そう。良かったわね」

『薄っ!?』

『感動返せw』

『でもこういう反応なんだよなこの人』

 

 

 

 スザクは淡々と続けた。

 

 

 

「いやまぁ、あんま人間の(つがい)事情にそこまで興味ないのよね。占ってと言われたから占いはしたけど」

『冷たい笑』

『感覚バグってるw』

『人間の番事情って、誰視点だよ笑』

『なんか神様みたいで笑える』

 

 

 

 さらにコメントが流れる。

 

 

 

『はいはい! この流れで私もお礼を!!! 給料日前の震える財布です』

「あー、肝臓終わってた人間ね」

『本当に病院行ったんです。そしたら肝機能の数値かなり悪かったです。先生にも、このままだと危なかったって言われました。酒も控え始めました。スザクさんのおかげで助かりました』

 

 

 その瞬間。コメント欄の空気が、ほんの少し変わる。

 

 

 

『え……』

『怖』

『ガチじゃん』

『いやこれ普通に命救ってね?』

『笑えなくなってきた』

 

 

 

 先ほどまでの軽い空気とは違う。本当に人生が変わっている。しかも、複数人。以前、占いをお願いしている人間達が続々とお礼をしてきているのだ。

 

 しかも、確実に当たっていると言う偉業。それが視聴者達にも伝わり始めていた。だが、スザクだけは変わらない。

 

 

 

 

「ふーん。まぁ、お大事に」

『それだけ!?』

『もっとあるだろw』

『温度差で風邪引くw』

 

 

 スザクは心底どうでもよさそうだった。

 

 まるで、人間が助かることも死ぬことも、長い時を生きた彼女にとっては日常の一部に過ぎないように。

 

 

 

『モロボシショウです』

「……あー、メール放置してた人間」

『はい。あのあと即確認したんですよ。そしたら本当に大事な取引先から催促きてました。しかも、あと数時間遅れてたら契約打ち切りだったらしいです。上司にめちゃくちゃ感謝されました。マジで人生終わるところでした。ありがとうございます』

 

 

 

 コメント欄が爆発する。

 

 

 

『怖ぇぇぇぇ、これは別の意味で怖い!!』

『いや社会人なら分かる、これマジで終わるやつ』

『笑えねぇ』

『なんでそこまで分かるんだよ』

『流石に精度おかしいだろ』

 

 

 

 

 次々と流れるコメント。しかし、スザクは欠伸をしながら呟いた。

 

 

 

「まぁ、もうちょっと気を張って行きなさい」

『辛辣で草』

『でも助けてるんだよな』

『なんなんだこの炎魔導士……』

 

 

 

 そして。次のコメントが流れた。

 

 

 

 

『月光です』

「あー、告白できない人間ね」

『大学生の女です!! あと!! 告白、成功しました!!』

 

 

 

 

 一瞬、コメント欄が静まり返った。次の瞬間。やはり色恋! 色恋にみんな興味があるのだ。

 

 

 

 

『うおおおおおお!!』

『やったじゃん!!』

『青春すぎるwww』

『おめでとう!!』

『すげぇぇぇ!!』

 

 

 

 空気が、一気に明るくなる。

 

 

 

『付き合えました! 本当に背中押してくれてありがとうございます!! あの日、勇気出してよかったです!!』

 

 

 

 

 喜びに満ちたコメント。まるで配信全体が祝福ムードに包まれていた。その中心にいるスザクは――やはり変わらない。

 

 

 

 

「そう。良かったじゃない」

『また薄いwww』

『もっと喜んでやれよw』

『でも逆に好き』

『この人、本当に感情の起伏ないな』

 

 

 スザクは流れるコメントを見ながら、ふぅ、と小さく息を吐く。

 

 

「さっきも言ったけど、人間の番事情に興味ないのよね。いくらでもいるじゃない、見飽きてると言うか」

『番事情!?』

『もうちょっと別の言い方あるだろ笑』

 

 

 

 

 そして、また別のお礼のコメントが彼女の元にやってくる。

 

 

 

 

『そういえば、俺もスザクさんに言われたこと報告したい』

「……あー、なんか見覚えあるわね。アンタ、会社辞めたいって言ってた人?」

『そうです、前回相談した、【終わってる社畜】です』

 

 

 

 

 彼もまた、スザクに相談のコメントした視聴者である。

 

 

 

『スザクさんに言われた通り、会社に向かう時間を少し変えました。そしたら、いつも待ってる停留所の近くに、ビルの看板が落ちてきてました』

「ふーん」

『普段通りなら、自分はそこにいました。本当にありがとうございました』

 

 

 

 彼がそうコメントをした瞬間、周りの視聴者からの反応も大きくなる。

 

 

 

『え? まじ?』

『だとしたら怖すぎ』

『あ、でも看板が落ちる事件あったな』

 

 

 

 

 死を回避させる、そんな現象を彼女は起こしてしまった。そんな事実に流石の視聴者も混乱する。これは占いのレベルを超えていると、思っている者も多いようだった。

 

 

 

『半信半疑だったんですけど、怖かったから従ったんですよ。そしたら、自分がいつも待ってる停留所の近くにあるビルの看板が落下してました。しかも、自分が普段いる時間の十分前に、ニュースにもなってました。もし普段通り行ってたら、多分自分いた位置に落ちてました。スザクさん、本当にありがとうございました』

 

 

 

 

 何度も連投をされる。しかもそれら全てが赤いスーパーチャット、多額の金額で彼女へお礼をする視聴者。あまりに異質なコメントだった。

 

 

 

 しかし、

 

 

 

 

「あー、アレね。助かったなら良かったんじゃない?」

 

 

 

 

 

 スザクは割と塩対応だった。別に回避してもしなくてもどっちでも良さげ。まぁ、回避したならよかったじゃない? とでも言わんばかりだ。

 

 

 

『反応薄い笑』

『大事だろ』

『流石にやらせ確定』

『いやでも、当たってる報告多いしな』

『ネットオリパの当選報告と一緒で当てにならん』

 

 

 

 

 色々なコメントが流れるが、どちらにしてもスザクは興味がないと言った表情だった。

 

 

 

 

 そして、再び別のコメントが流れる。しかし、それは占いの相談などではなかった。

 

 

 

 

『Vチューバーの【天羽ルナ】がスザクのこと言及してたよ』

『すえー、登録者150万人越えの人じゃん』

『流石は炎魔導士様』

「……いや誰よ。ワタシ詳しくないから、知らないんだけど」

「あ、いや、炎魔導士よ。超有名の配信者だな」

 

 

 

 ──スザクは配信業界に詳しくないので、偶に墓穴を掘ったりする。しかも、特に興味ないので、塩対応に近い形になる。

 

 

 

 なので、志麻がフォローをしつつ配信が進む。

 

 

 

 ──その後すぐ、視聴者数が跳ね上がった。

 

 

 

「ん? 急に同接が増えたわね」

 

 

 別の大きなチャンネルを持つ配信者が、自分の配信中にスザクの話題を出したらしい。本物の占い師がVチューバーになったと、驚きを持って紹介したのだ。

 

 

 

 その流入が一気に来た。

 

 

 

 視聴者数がみるみる増えていく。コメント欄の流れが速くなる。登録者数の通知が止まらない。志麻はそれを横で眺めながら、笑っていた。

 

 

 

「ふっ、さすがはスザク。どうやら、他の実況者がこの配信に反応をして、それにより流入が大きいらしい」

「ふーん。そう」

 

 

 

 

 

 スザクはふと、身の変化を感じる。彼女の体から、火の粉のようなのが溢れ出しているからだ。

 

 

 

 

(認知増大による、霊力の増大。なるほどね。こんなことも出来るのかしら)

 

 

 

 そう考えていた矢先、大きな地震が起こる。大地がぐらぐらと揺れて視点が定まらないほどに大きい。

 

 

 

 

「地震ね」

『最近多い、特に東北』

『全国的に地震はあるらしい。なんか不吉な感じがするよね』

『ちょっと怖いよね。スザク様、これって何かの前触れかな?』

「……いや、今回の場合はワタシの知り合いね」

 

 

 

 恐らくだが、黎明の修行の余波であるとスザクは悟る。少し引き攣った顔をしながらも、配信を続ける。

 

 

 

「気にしないで大丈夫よ」

『スザク様の知り合い!?』

『地震起こす知り合いとか怖すぎだろ笑』

『流石に盛ってる』

「まぁ、知り合いにはほどほどにするように言っておくから。さて、今日はこの辺で終わらせようかしらね」

 

 

 

 

 そう言ってスザクは配信を切り上げた。スザクが残した言葉に視聴者は困惑をしながら、それが解決することはなかった。

 

 

 ──二時間の配信が終わった頃、登録者数は八万を超えていた。

 

 

 

 そして、配信が終わった後、志麻はパソコンの前で伸びをする。

 

 

 

 

「スザクさん、すごかったですねぇ。登録者八万ってデビュー初日でありえないですよぉ」

「……そう」

「本当にすごいですよ。わたしはデビューから二年かけて二十万なのに、スザクさんは初日で八万ですよぉ」

 

 

 志麻はそう言ってから、少しだけ笑顔が薄くなった。

 

 志麻は二年で二十万登録者。これも凄まじいが、スザクの場合はデビュー初日で八万。計算は単純だ。

 

 このペースが続けば、スザクは自分を余裕で越えるかもしれない。

 

 

 

(あれ、わたし、ちょっとだけ悔しい)

 

(いや、違う違う。スザクさんが伸びてくれた方が、二人でもっと盛り上がれるし、スザクさんも信仰が増えて長生きするしぃ。これでいいんだぁ)

 

 

 

 志麻は自分の気持ちを整理して、またにこにこと笑った。

 

 

 

「よし。もっと一緒に頑張りましょうねぇ、スザクさん」

「……そうね」

 

 

 

 

 

 

 ──その夜、スザクは一人で神社の境内に立っていた。月が出ている。木々が静かに揺れている。参道の石畳が、月光に照らされていた。

 

 

 

 スザクは自分の手のひらを見つめた。

 

 

 霊力が増えていた。今までない異常なペースで。これが数万単位で信仰が増える感覚なのだろうかと彼女は、手を握る。

 

 

 一日で、これだけ増えるのは異例だった。そもそも信仰とは積み重ねで、少しずつ増えるもの。

 

 だから、一度の配信でこれほどの変化が出ることにスザクも驚きを隠せない。

 

 

 

 

「……安倍晴明もワタシを作るのに、結構時間かけて信仰を生み出したんだけどね。現代はすごいのね」

 

 

 

 

 現代の信仰は、形が違う。神社に手を合わせる人間は減った。祭りも、儀式も、薄れた。しかし代わりに、画面の向こうで数万人が一人の存在を見ている。

 

 

 配信、推し、言い方が違うが……それもまた、信仰だった。

 

 

 

「ふーん、これ悪用されたら一発でアウト案件な気がするけど。現代日本もギリギリなのね」

 

 

 スザクは目を細めた。自分が今日一日で増やした霊力の量は、確かに大きい。しかし、黎明の霊力の総量に比べると、まだ遠く及ばない。その事実に彼女はため息を吐いた。

 

 

「これだけ、増やしたのにあいつに勝てそうな感じすらしないんだから、どんだけなのよ」

 

 

 次元が違う。

 

 

 増えた霊力でより鮮明に黎明の存在を感知できるようになったからこそ、その差が余計にはっきりと分かった。霊力の密度、精度、総量。どれをとっても、自分とは比べ物にならない。

 

 

(あれが人間……ね)

 

 

 スザクは一度だけ、頭を振った。化け物だ、とは思っていた。最初から思っていた。しかし、今日の霊力増加を経て、改めて実感した。どれだけ自分が増えても、あの存在には届かない。

 

 

 

 

「まぁ、悪用されてもあれがいるなら、問題はなさそうな気がするけどね。それとこの増えた霊力をどう扱うか、また修行をしなきゃだめね」

 

 

 

 

 スザクは独り言をし、志麻の家に戻る。明日からまた修行をしなければならない、そんなことを考えながら。

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