【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ   作:流石ユユシタ

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第54話 運命の邂逅

 美術館が、変わり続けていた。

 

 朝霧宵花が隠形を維持したまま廊下を歩いていると、気づけば空間の縮尺が変わっていた。

 

 さっきまで普通の廊下だったはずの場所が、今は大聖堂ほどの高さを持つ巨大な通路になっている。天井は消え、見上げれば、ただ暗闇が広がっているだけ。壁は遠くなり、足音が広い空間に吸い込まれていく。

 

 

 

(美術館が変容している……これは、結界の精度の高まりの可能性もあるかな。怪異の力が増している……? それなら出口がさらに遠くなったかもしれない……っ)

 

 

 もう、美術館ではない。何か別のものが、美術館という形を借りているだけだった。

 

 宵花は足を止め、霊力の流れを読んだ。結界は複数存在している。だからこそ、それらが絡み合う場所から出るにはそれ相応の手間がかかることになる。

 

 

 

 

(ここには複数の怪異の気配、そして、それらが結界を発動させてる。だから、一つの結界を解いたり、抜いたりしても別の結界があって外には出れない……)

 

 

 

 

(なんで、急に怪異がこんなに……それにこの美術館でこんな事態が?)

 

 

 

(……いや、まずは脱出のことだけを考えないと。外が大分遠いなら、霊力も温存したい。一度、隠形を解いておいて)

 

 

 

 

 隠形の術。これは怪異からも身を隠すことが可能な陰陽術。一見、便利な術であるが、使い続けるごとに霊力を消費してしまう。

 

 

 だからこそ、彼女は術を解いた。

 

 

 

 しかし、その瞬間……廊下の先から、【子供】の声が聞こえる。

 

 

(術解いて、すぐ気づかれた。普通、もうちょっと気づかれないんだけど……また術を使うしかない。でも霊力も消費し過ぎれば……)

 

 

 高く、澄んでいて、しかし何かが根本的にずれている。人間の子供が出す声と同じなのに、聞いた瞬間に背筋が粟立つ。

 

 

 

「ねぇねぇ、ツカマエテ」

 

 

 

 声の方を見ると、そこに立っていた。口が裂けた子供が。

 

 

 

 

 子供は両手に大きな鍵を抱えていた。金属の光沢が、暗い廊下に浮かんでいる。

 

 

 

 

 

「ツカマエテ。ツカマエタラ、ダシテアゲル」

 

 

 

 

 笑い声が廊下に響いた。子供が鬼ごっこを誘うような、無邪気な声。しかしその口が耳まで裂けており、前髪の奥に目が見えない。

 

 

 

(これは、怪異……鍵守(かぎもり)って名前だったかな。相手を結界に閉じ込めて、自分を捕まえさせようとする怪異。でも、人間は決して捕まえられないから、永遠に箱の中で追いかけっこをさせる)

 

 

(骨になるまで)

 

 

 

(相手から鍵を取るか、封印をするか、どちらかをすれば出れるけど。鍵を取るのは絶対に不可能。相手は怪異、人間よりも格が上)

 

 

 

 

 

──宵花は、全ての意識を目の前の怪異に捧げる。

 

 

 

 逃げるか。

 捕縛して鍵だけ奪うか。

 一度、隠形で隠れるか。

 それともまだ選択の余地を考えるか。

 

 

 

 

 

 しかし、次の瞬間、子供の姿が消えた。ぽっかりと、空間から切り取られたように。

 

 

 

 

 

(鍵守はあちらから、攻撃をしてくることはない。相手を生かさず殺さず、だから、下手に刺激しない方がいいかな。でも、こちらがあまりに鍵を探さないと、面白く無くなって殺される)

 

 

 

(鍵にたどり着き、取ろうとしたら、その際に殺される)

 

 

 

(鍵を探してるふりをして、別の出口を探す。でも、鍵守の結界に別の出口があるとかは聞いたことがない。なら、封印しかないかな)

 

 

 

 絶望的な状況、暗黒の世界。しかし、彼女は冷静だった。彼女と同じ、朝霧家、その宗家である成人男性も取り乱していた。

 

 

 にも関わらず、宵花は至極落ち着いている。淡々と考えながら、ゆっくりと前を向く。

 

 

 

 そして、再び歩き始めた。

 

 

 

 

(あちらから、襲ってこないなら隠形も使わなくていい。鍵を探してるふりをしながら、怪異を封印する準備をするしかない。それしか、出る方法がない)

 

 

 

 

 広くなった空間には、展示品の残骸が散乱していた。割れた壺。倒れた展示台。そして、人形の石像がいくつも並んでいる。その全てが、この美術館に入って怪異に触れた人間だ。

 

 

 

(……この石像は観客の一部? 助けられなくて、ごめんなさい)

 

 

 

 

 

──その時、彼女の頭に鋭い痛みが湧いた。

 

 

 

「あ、頭がッ……」

 

 

 その瞬間、彼女の脳内に溢れ出す膨大な情報。暗闇の中で誰かが、話しているような声がずっと鳴っている。

 

 

 

──石像にされた、助けて、貴方しかいない。お助けください。お助けください。また、村人が、ワタシの娘が、また、また、また、死にました。

 

 

 

──◾️明様、お助けください。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……また、これか」

 

 

 

 

 

 痛みが止まり、宵花はようやく前を向いた。そのまま、何かの衝動に駆られるように前を向いて歩き出す。

 

 

 

 

 

「……他の観客を助けて、さっきの四人も探さないと」

 

 

 

 

 

 

 暗闇の中をたった一人で歩き続ける宵花。しかし、そこで、彼女は何かを捉えた。

 

 

 

 

「霊力……これは、人間?」

 

 

 彼女の元に複数の霊力が近づいてきている。それが人間の霊力だと、すぐに分かった。

 

 陰陽師の増援か、あるいは迷う観客か。

 

 

 どちらにしても接触をしなくてはと思っていたが……宵花は足を止める。近づいてくる霊力の中に、一つだけ、異質なものがあったからだ。

 

 

 

 

(三人が新たに結界内に入ってる。人間だと思う、でも、その中の一人……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

(霊力は低め、だけど。違和感しかない、短い生涯の勘になるけど。絶対におかしい。海の水を無理やり、瓶に収めるかのようなチグハグな感じ)

 

 

(……これ、本当に人間? どうしても違和感が拭えない。これはまだ、隠形を解かない方がいいかもしれない)

 

 

 

 

 

 

──遠くで、彼女は結界に入ってきた新たな気配を感知した。

 

 

 

 

 そして、その存在をひどく警戒する。三人の中の一人は、一見普通の霊力であったが、彼女は凄まじい違和感を感じたから。

 

 

 

 

◾️◾️

 

 

 

 一方、東京美術館に入り込んだのは三人。

 

 

 一人は白銀の長髪。赤と白の和服。腰に刀を帯びた少年。朝霧黎明。

 

 もう一人は、黒髪でぼさぼさの長髪の男。九条透。

 

 最後の一人は白い髪に黄色の瞳の少女。白守祈。

 

 

「……外装より、全然大きい」

 

 

 祈が呟いた。美術館の外観と、中の広さ、明らかにチグハグだったからだ。これには驚かざるを得ない。

 

 

「結界だろうな」

 

 

 透が低く答えた。すぐさま彼は感覚でここが結界であると気付いたようだった。辺りを見渡し、ここが普通の場所ではないと気づく。

 

 

(……普通の結界じゃないな。並の陰陽師なら、絶対に生き残れない。祈もびびってるようだし。この異質な感覚は精神に来るだろうな)

 

 

 

「黎明。どうだこの場所は?」

「うん、MPを色々な方向から感じる。モンスターの種類も沢山いるね。面白い場所だ」

 

 

 黎明はきょろきょろと周囲を見渡していた。新しいダンジョンを探索する冒険者のように、その目が輝いている。

 

 

 祈はそんな黎明を見て、ジト目を向ける。

 

 

「楽しそうだな、お前は」

「楽しいよ。新しいモンスターがいそうだし。祈はビビってるの?」

「いや、ビビってないけどな」

「足震えてない?」

「ボクもわくわくして足が笑ってる」

「ほーう。それはそれは」

 

 

 祈はそう言い訳をするが、間違いなくビビっていた。

 

 

(……ボクもいつまでも弱いままでいられないから虚勢を張っているが。こいつは相変わらず飄々としてる。はぁ、ボクも見習うべきか? いやでも、どう見習うんだ?)

 

 

 

 島でも感じていた。黎明は恐怖の感覚が、根本的に人間と違う。それが羨ましいとは思わないが、確かに頼もしかった。

 

 

 そして、三人が館内を進んでいた、その時だった。

 

 

「ツカマエテ。ツカマエタラ、ダシテアゲル」

 

 

 子供の声が、暗闇から降ってきた。

 

 

 三人の視線が一点に集まる。天井のない空間の中程に、怪異、鍵守が立っていた。両手に大きな鍵を抱え、口だけが笑っている。

 

 

「ツカマエテ」

 

 

 笑い声。それだけ言って、鍵守の姿が消えた。しばらく沈黙が落ちた。

 

 

 

「……あれは鍵守だ。あの鍵を手に入れないとここからは出れない。もしくはあの怪異を倒すかだ」

「へー、モンスターなんだ。鍵守って名前はちょっとなぁ。もっとカタカナな名前にしたいね」

「まぁ、名前はそこまで重要ではないから。勝手に考えてもいいぞ」

「トリックキーパーとかで」

 

 

 透はなんじゃそれ、と思ったが黎明が言うならその通りにしようと考えを決める。

 

 

「よし、ならトリックキーパーを追いかけるか」

「そうだね。ただ、あのモンスター、瞬間移動みたいなことしてた。いきなり現れて、そのまま消えてたからね。このダンジョン内は自由に行き来が出るとかそういう魔法とか特技があるのかも」

「それなら、捕まえるのは難しいか。他の手を考えるか」

「いや、難しいならそっちの方がいいよ。それに、鍵を持つモンスターを追い詰めて出る方が、ダンジョンのギミックっぽくて好きだな」

「よし、分かった」

 

 

 

 

 

 透も祈も、黎明が何を言ってるのかちょっと謎な部分があった。しかし、黎明が言うならそういうことにしようと納得する。

 

 

 

(ふむ、とりあえずここのダンジョンにはあのモンスターしか、居なそうかな。ただ、ダンジョンが何層にもなってる感じがこの美術館はするね。ワクワクするなー)

 

 

 

 黎明は鍵守が消えた場所を見ていた。楽しそうな顔は変わらない。

 

 

 

 そして、彼らは黎明を先頭に一列なって移動をした。なぜ一列なのかは、黎明がその方がRPGっぽいからいいと思ったからである。

 

 

 

 ひたすらに彼らは暗黒の美術館を歩き続ける。すると、人形の石像が彼らの目に飛び込んできた。

 

 

 

「な、なに、これ……」

 

 

 

 祈はその不気味さに、思わず黎明の服の裾を掴んでしまう。しかし、九条透と黎明は特に驚愕の顔をしていない。

 

 

 

「人間、もう死んでるな」

「返事がない。ただの石像のようだ」

「そりゃそうだろ」

浄化の火(ミラクル・フレア)

 

 

 

 

 黎明は石像達に炎を被せる。すると、石像から放たれていた禍々しい空気が霧散した。

 

 

 

「それは?」

「じーちゃんが言ってた。悔いがありそうな屍には、炎で元気にしてやれってさ」

「……魂の解放か、そんな発想は今までなかった。死んだら終わりと思ってたからな」

「意外と死んでも先があるかもね。別の世界では元気に、生きれるのかも」

「……今度、オレの妻の墓にも炎を頼みたい。いいか?」

「別にいいよー。おじさんって愛妻家なんだね」

「当然だろ、天才なんだから」

「天才だと愛妻家になるんだ、知らなかった」

 

 

 

 

 九条透は、黎明の炎を見て、それを自らの妻にも向けてあげたいと思った。死んでしまった妻であったが、ろくな追悼を出来ていない。

 

 だから、本当の意味で成仏をして欲しいと思った。

 

 

 そして、その炎を見ていた祈も自身の親にあの炎を向けたいと考えて、黎明に頼むことを決める。

 

 

 

「あの、ボクの両親の墓も来てくれないか。さっきの石像、なんか嫌な感じが消えた。もし、あれが人間で死んでて、その後悔がさっきので消えた気がした。だから、頼む」

「いいよー、二人とも仲間の頼みだしね」

 

 

 

 黎明は歩きながら、二人の頼みを承諾する、そのとき。

 黎明がふと、足を止めた。

 

 

 

 進む方向とは別の場所に視線を向ける。廊下の影が深い一角。石像が並んだその奥。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◾️◾️

 

 

 

 

 

 

 

──確実に目があった。

 

 

 

 

 偶然ではなく、確実に。その黒い瞳が石像の奥に居た、朝霧宵花と交差した。

 

 

 

 

 

「──っっっっっッ!!!!!!?????」

 

 

 

 ──彼女の全身から、汗が吹き出る。

 

 朝霧宵花、彼女が唯一絶対としていた事。それは隠形の技術、人間でも、怪異であったとしても、気づくことがない。

 

 

 隠れる技術だけは、誰も追随を許すことはない。そう、思っていた。だからこそ、心のどこかに冷静な部分が常に残っていた。

 

 

 

 しかし、見られている。白銀の髪を持つ少年、全く欺かれることはない。

 

 

 

 

 

「へぇ、()()()()。MPの隠し方と気配の断ち方が」

 

 

 

 

 

 

 そして、黎明は思わず、賞賛をしてしまった。目を丸くし、ジッとその方向を見つめている。

 

 

 

「どうした?」

「人間がいた」

 

 

 透は黎明がいる方向を見るが、違和感を見つけることはできなかった。ただ、石像が置いてあるだけに見える。

 

 

 

「オレには何も感じないが」

「いる。そこに」

「そうか、黎明が言うならそうなんだろう。誰だ、出てこい」

 

 

 透は黎明がいるなら、誰かいるのだろうと結論づけた。そして、相手に出てくるように促す。

 

 しかし、誰かが出てくることはなかった。

 

 

 

 

「出てきてよ」

 

 

 

 もう一度、今度は黎明が声をかけた。普通の声で。怖がるでも警戒するでもなく。その言葉に宵花の心臓が、跳ねた。

 

 

 

 完全に気づかれている。そして、あの少年には偽りも欺きも全てが通用しない。

 

 

 

 

(隠形を完全に維持してたし、気配を悟らせるようなミスもしてない。呼吸だって、止めていたのに……っ。なんで、分かるんだよッ)

 

 

 

 

 ここに来るまで、一度も見つかったことはなかった。人生で一度たりとも悟られたこともなかった。

 

 怪異にも。朝霧の宗家にも。他の陰陽師にも。動物にすら気づかれたことがなかった。

 

 

 なのに。ただの少年に、あっさりと見つかった。

 

 

 

 

(何者……)

 

 

 

 

 諦めた宵花は、ゆっくりと隠形を解いた。そして、石像の影から、一歩踏み出す。三人の視線が集まった。

 

 

 

 

「いた。マジかよ。霊眼もすり抜ける隠形が出来るのか……」

「……貴方……なんで、どうして、分かったの」

「うーん、まぁ、勘かな」

 

 

 

 

 軽い回答であったが、宵花からすれば信じられないと驚愕するしかない。自らの絶対の手札は、勘によって破られたのだから。

 

 

 

(どんな、勘をしてるの?)

 

 

 

 

 恐れるような視線を向ける宵花。しかし、黎明達が害のある人間ではないと気づく。少なくともすぐに殺してくるような輩ではないと分かり、彼女も少し安堵した。

 

 

 

 

「あ、自己紹介ね。俺は東雲黎明(しののめれいめい)、こっちのおじさんは九条透、この人は白守祈。二人とも何か一言、言って」

「おじさんじゃねぇ、天才だ」

「どうも、特技は走ること」

 

 

 淡白な挨拶の二人。

 

 

 

(……変わってる人たち)

 

 

 

 宵花はシンプルにそんな感想を抱いた。そして、今度は宵花が自分のことを話す。

 

 

「朝霧宵花。よろしく、お願いします」

「……朝霧ね。うんよろしくー」

 

 

 

 朝霧家。黎明はその名前に少しだけ反応する。なぜなら、自分も自分の祖父と祖母も朝霧家だからだ。

 

 

 しかし、それについて秘密にすると詩と話しているため何も言わない。何より、事前に東京の美術館に陰陽師が二人が派遣されていると聞いていた。そして、誰が入っていたのかも知っている。

 

 

 だから、名前に大きな反応はしないのだ。

 

 

 

「それじゃ、ここからはオレが話す。朝霧宵花さん、話を聞かせてくれ」

「はい」

 

 

 透が状況の整理を引き受け、宵花も自分についてを話した。派遣されてきた経緯。そして、派遣されてきた陰陽師と三人の高校生を保護しようとする。しかし、四人と逸れてしまったことを語った。

 

 

 

「……すいません。状況が進展せず」

「まぁ、この惨状を良くできる陰陽師なんていねぇだろ。まぁ、天才のオレは別だが」

 

 

 透は宵花の顔を見た。不思議と彼女の顔には疲弊の色が浮かんではいなかった。顔色は悪いが、まだ余裕が見える。

 

 

(随分と、慣れてる感じだな。話を聞く感じ、大分幼いはずなんだが)

 

 

 

 

──四人は一度、この結界の起点でもある大きな扉を見に行くことになる。

 

 

 

 

「鍵守の結界を解くには鍵が必要。しかし、瞬間移動を持つあれを捕まえるのは難しい。捕縛術で縛る方法もあるが、一瞬でも動きを止めないといけない」

「そうですね。ワタシが囮になりながら、捕縛術をかけて……その間に鍵を」

「トリックキーパーを捕まえて、鍵を奪取する方が面白いよー」

「え?」

 

 

 透と宵花の間に、黎明がたまに入り込む。しかし、黎明が入り込むと、一般的な陰陽師の宵花は混乱してしまうため、祈が黎明の手を引いた。

 

 

 

「ややこしいから、ボクと話して待ってろ」

「えー、まぁいいけど」

 

 

 

 

 なぜか、祈は手を繋ぎっぱなしだが、それについては誰も突っ込まなかった。

 

 

 

「なんか祈、手汗すごいね。やっぱビビってる?」

「ビビってないけどな」

「あ、そう」

 

 

 

 そして、四人となった面々は進み続ける。すると大きな扉の前に四人は到着した。扉の真ん中には大きな施錠がされており、祈は触れたがびくりともしない。

 

 

 

「これ、固い。全然動かない」

「それは、鍵守の鍵がないと開けられないので、無駄です」

 

 

 

 宵花がそう言った。それを聞いていた黎明は何となく、手をかけてみた。

 

 

 

「ふーん。これ、やっぱり開かないのか」

 

 

 そう言いながら軽く押した。すると扉が動く。ぎぎぎぎ、と重い音が鳴り、少しだけ、扉が開いた。

 

 

「あ、開くじゃん」

「……いや、開くのかよ。まぁ、天才のオレも出来たがな」

「え、な、なんで? なんで開くの……?」

 

 

 

 透が呆れたような声をあげつつ張り合い、宵花は意味がわからないと困惑した様子。宵花は一般的な陰陽師の感覚を持っており、だからこそ、常識から外れた事象に耐性がない。

 

 

 

「黎明ならこんな扉くらい、開けても普通か」

 

 

 一方で祈は、黎明が大きい固い扉を開けたくらいの認識なので、まぁ、黎明ならこれくらいはという顔をしてた。

 

 

 

──黎明が押すほどに扉が開いていく。

 

 

──だがしかし!!! 扉を開けるのを途中で止める!!!

 

 

 

 

「やっぱ鍵のモンスターを倒して、鍵を手に入れてから出た方がRPGっぽいな。その方が正規ルートっぽいし」

 

 

 

 

 黎明は手を離した。扉がゆっくりと閉まっていく。すると宵花は思わず、突っ込んでしまった。

 

 

 

「……あの」

「うん?」

「扉を壊せるなら、鍵の怪異を捕まえる必要はないのではないですか?」

「そうかもしれないけど、鍵を持ってるモンスターがいるなら、それを倒した方が面白くない?」

「面白いかどうかで決める話では……」

「まぁ、でも、楽しそうな方がいいじゃん? そもそもあれ倒した方が経験値もらえるしさ」

 

 

 

 

 黎明はあっさりと言った。宵花はどう返せばいいか分からず、黙った。九条透が小さく笑っていた。

 

 

 

「ふっ、敢えて試練に挑む、か。黎明にはこう言う部分がある。急がば回れ、そんな言葉があるようにただ進むだけではなく、一見無駄と見えても確かな意味がある。こいつはそんなやつだ」

「……あ、そ、そうですか」

「そうだろ、黎明?」

「あ、うん、そうそう」

「ほら、そうだろ」

「……大分、話半分で返事してた気がしますけども」

 

 

 

 宵花は、この三人のノリに付き合えるような感覚ではなかった。ここは怪異の巣とも言える場所、こんな談笑をすれば命取りになることを知っているから。

 

 

 そして、そんなタイミングで再び怪異の気配が現れる。

 

 

 

「ネェ? カギ、アルヨ」

 

 

 鍵守が空間の上方に現れていた。両手に鍵を抱えたまま、口だけが笑っている。

 

 

「ココカラデレナインダヨ、カギナイト、ハヤクハヤク」

 

 

 

 笑い声が再びこだました。また消えようとする。そして、鍵守の空間が揺れた。

 

 

 

 

 ──そのまま鍵守は瞬間移動をし、姿を消した。

 

 

 

 

 

◾️◾️

 

 

 ──鍵守の視点

 

 

 

 

 かつて、安倍晴明に封印をされた。しかし、その封印は時間経過で解け始め、美術館でついに開放される。

 

 

 再び、自由になった鍵守は人間を弄ぶことを選ぶ。

 

 

 結界に閉じ込め、ひたすらに鍵を恐怖の中で探させる。その時の恐怖を霊力にし、永遠に霊力を吸収する。

 

 

 そして──自分にたどり着いた時に、喰らう、それがこの怪異の至高の瞬間。

 

 

 

 

 

「ヒヒヒヒヒ、カギヲテニイレナイト、ココカラハダサナイ、カギガアッテモデレナイ、ヒヒヒヒ」

「……」

 

 

 

 

 瞬間移動をし、人間の石像が並ぶ場所の奥に。

 

 

 そこに立とうとして——

 

 

 真後ろに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白銀の髪が、真後ろに立っている。そして、今鍵に手を伸ばしていた。




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