【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ   作:流石ユユシタ

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第56話 阿修羅VS冒険者達

 六本の腕が、一斉に動き出す。

 

 刀を持った三本の腕が、蓮に向かって振り下ろされる。振り下ろされる一振り一振りが相手の命を簡単に奪えるほどの速度を持っていた。

 

 

 常人であれば目視も叶わぬ攻撃、しかし、それぞれの刀が重なるところに丁度彼も刀を合わせる。

 

 

「っ!」

 

 

 しかし、刀三本、三振り分の重い衝撃が蓮の全身を襲う。単純計算で腕三本分の威力は彼の体を軽く、地面に沈める。

 

 

 すぐさま霊力で体を強化し、力で押し返し距離を取る蓮。単純な身体機能はどう考えても相手の方が優勢であった。

 

 

 

 

「重い……! 身体能力はあっちが上か」

 

 

 

 

 蓮はすぐさま霊力にて、体をさらに強化する。純粋な身体では劣っている。

 

 

 それは紛れもない事実。

 

 

 だが、それがどうした? と言わんばかりに蓮は体を霊力で底上げする。

 

 

 

 

「腕六本、力と速度もそっちが上。単純な勝負ならそっちが上だなぁ。だが、これはスポーツじゃねぇ。戦闘だからな」

 

 

 

 

 足りない部分は無理矢理にでも補い、勝つ。蓮の高まった霊力に対し、観音の化け物は僅かに警戒心を高める。動きがかすかに硬くなり、一歩後ずさる。

 

 

 そして、それを見ていた紅は残りの二人を背中で庇いながら、指示を出す。

 

 

「……志麻さん、術の準備を。瞳月さんは何か気づいたことがあれば教えて」

「分かった、準備するねー」

「あーしも、もうちょっとよく見てみる」

 

 

 

 紅は警戒を今まで以上に引き上げる。目の前の存在は、怪異ではない。別の【何か】。霊力が異質、気配も怪異とは言えないが邪悪な感覚がある。

 

 

 全くもって、未知との遭遇だ。

 

 

 

「蓮、これ、一旦引いた方がいいかしら」

「……いや、それは陰陽師の思考だ。オレは冒険者。冒険をするぜ」

「……そう言うとは思ったわ」

「あぁ、経験値に変える。黎明に比べたら、こんなの雑魚だ」

 

 

 そう語る蓮について、紅はため息を吐きながらも意見を尊重した。しかし、心配が拭えたわけではない。

 

 

 

 

(黎明くんとは蓮は違う。黎明くんは筋金入りの狂人。蓮は狂人と思っている、狂人の真似をしてるって感じの部分がある。だから、心配が消えるってことはないのよね)

 

 

(まぁ、相手の気配は異質だけど。確かに普段から、格上にボコボコにされてるし。死ぬと言うことはないかな)

 

 

 

 普段から、蓮と紅は黎明と最も多く修行をしていると言っても過言ではない。

 

 

 なぜなら、詩は他のことで忙しく、スザクはVチューバーとかも始め、志乃は学校に通いつつ家事などもしている。

 

 

 志麻はVチューバーをしており、九条透はおじさんなので体力的に修行量が少ない、九条瞳月と白守祈も学校などが忙しくなる。

 

 

 その中で、双子は学校は通わず、任務もあって外にいることもあるが、それ以外は全て修行に費やしている。

 

 なんなら、任務中も修行をしながらこなしていることも多い。

 

 

 安倍家の末裔、年齢も若く体力的にも余裕があり、向上心もあり、時間もそれなりにある。

 

 

 だからこそ、安倍蓮と安倍紅は大きく成長をしていた。

 

 

 

 

 

山彦と魔法融合(デュアル・エボリーション)

 

 

 

 

 蓮は再び、剣に風を纏わせる。さらに炎を重ねがけして、術の威力を高めていく。

 

 

 風で炎を大きくするイメージだろうか。炎の竜巻が刀身に宿る。荒れ狂う炎が脅威的な殺傷力となり顕現した。

 

 

 

龍殺しの炎剣(ドラゴン・キラー)。これはドラゴンに対して特攻の剣だ」

「蓮、そんなのいつの間に。でも、相手はドラゴンじゃないみたいだけど」

「ドラゴンに特攻とは言ったが、ドラゴン以外に使っても問題はねぇ」

 

 

 

 

──蓮の剣、それが異様に変化したことに観音の化け物も気づく。

 

 

 槍を持った三本の腕が、蓮に向かって突き出される。一秒にも満たない瞬間に、同時三連撃。

 

 しかし、それは全て蓮の一振りで壊す。

 

 

 

 ガラスが砕けるように、観音が持っていた槍が叩き割られる。それだけではない、剣からの竜巻、その風圧が観音を蓮の元に引き寄せていく。

 

 

 

「ナンダ」

「ツルギツヨイ」

「アベコロス」

 

 

 

 それぞれ三つの頭が言葉を発する。そして、全ての頭が蓮の方向を向き、更なる攻撃を仕掛ける。

 

 

 ──化け物の三つの口が、同時に言霊を紡いだ。

 

 

「──火神の名において、灼熱を。我が信仰を捧げん。火炎(かえん)

「──万物を凍てつかせる氷の理よ、我が信仰に応えよ。氷結(ひょうけつ)

「──暗雲より飛来する軌跡。雷鳴を呼ぶ祈りをここに。雷撃(らいげき)

 

 

 

 それぞれ三つの頭が同時に言霊を発し始める。しかも、全てが違う術の言霊だ。

 

 

「嘘、陰陽術……っ。それも違う術を同時に三つも併用するなんて」

「オレでも二つまでなのに、同時に三つだと。ふざけんな」

 

 

 

 

 蓮は剣を振り回し、放射される三つの術を切り裂いていく。その姿を見て紅は本当に強くなったと感じる。

 

 

 

(蓮、本当に強くなった。霊力の総量も以前とは比べ物にならない。目の前にいる未知の相手、それが小さくなるほどに)

 

 

(確かに相手は術三つを同時使用してる。蓮でも二つの術までしか使用できない。そこに関してはあちらにアドバンテージがある)

 

 

(でも、単純に蓮の方が術が強力。一つ一つの術の精度、威力、全てにおいて勝っている。だからこそ、相手の術を簡単に切り裂ける)

 

 

(蓮の方がワタシよりも強いのは……やはり、没頭をしているからかしら。蓮は完全に陰陽師という器を捨てて、冒険者という器を自分に落とし込んでいるからこそ、強くなれた)

 

 

(でも、ワタシは心のどこかに陰陽師としての自分がいる。だから、どこか振り切れない。どこか中途半端だから、蓮には及ばない)

 

 

 

 

 再び、三つの術が同時に発動した。炎、氷、雷。それらが、蓮に向かって襲いかかる。だが、蓮はそれをモノともしない。

 

 

 

「遅いぜ」

 

 

 蓮の刀が、一閃した。炎の竜巻が観音の術を飲み込んでいく。炎が炎を喰らい、氷を溶かし、雷を切り裂いた。

 

 そして、蓮はそのまま観音に向かって突進する。走る最中、次々とマシンガンのように発射される術も全て彼は切り伏せた。

 

 

 身体能力、動体視力、少しでもずれれば直撃は免れない。だが、彼はその寸分のミスも許されない極限を余裕で超えていく。

 

 

「そろそろ、経験値にさせてもらうぜ」

 

 

 蓮の刀が、観音の胴体へと当てられる。炎の竜巻に相手の腹が巻き込まれていき、そのまま体が全て消えていく。

 

 

 

 

 ──どこか、血肉が焦げるような匂いがあたりに漂い始めた。

 

 

 ズバァン! 轟音が響き渡る。少し涼しかった館内がまるで急にサウナになったかのような高温に変わった。

 

 

 

「わお、すごいー。わたしの出番なかったねぇ」

「あーしも出番なしだわ……流石安倍家。パパが言ってただけはある」

 

 

 蓮の強さに少し放心状態の二人。彼女達の目線の先……そこにはもう観音の体は何も残っておらず。

 

 床に、霊具の破片だけが残っていた。

 

 

 

 

 

「……これは」

 

 

 

 

 蓮は、それを目線で捉えた。そして、微かに自身の腕の感触を確かめるそぶりをした。

 

 そのまま刀を振り、炎を払う。

 

「蓮、大丈夫?」

「ああ。問題ない……姉ちゃん」

「どうしたの……?」

 

 

 

──蓮は志麻と瞳月の方を向き、その先の言葉を喉に押し込んだ。

 

 

 

「すごーい、あんな炎。わたしには出せないよぉ」

「すっごいじゃん、蓮くん!」

「……まぁ、これくらいはな。黎明に比べたら大したことない」

 

 

 志麻と瞳月の感嘆の言葉。それに対して蓮は軽く流して、再び歩き出す。淡々と歩く蓮の姿。いつもと変わらぬように見えるが、紅はいつもと違うと気づいて彼の元にすぐさま早足で駆け寄った。

 

 

 

「ねぇ、蓮? さっき何を?」

「……ここじゃ言いにくい。もうちょっとタイミングを選びたい」

「そう……?」

「あぁ、このさっきのモンスター……いや、今はモンスターと呼ぶが、あれの別個体がいてもおかしくないしな」

 

 

 

 その予見は的中する。

 

 

 

 廊下の奥から、新たな気配が近づいてきた。同じ、歪な気配。もう一体の観音が現れた。先ほどと同じ、三つの頭と六本の腕を持つ化け物。だが、その阿修羅の三つの顔が違うことに、蓮だけは気づいた。

 

 

 

「……オレがやる、全員手を出すな」

「え、でも」

「もう慣れた。あれは全部、オレが経験値にする」

 

 

 

 蓮の瞳に、確かな自信が宿っていた。そのまま蓮は走り出し、剣に再び炎の竜巻を纏わせる。それに合わせ観音が、六本の腕で蓮を襲う。

 

 

 

「遅い……」

 

 

 蓮の刀が、観音の腕を切り落とした。一本、二本、三本。阿修羅の腕が、次々と宙を舞う。

 

 

 

「アアアッ!」

「ドウシテ」

「イタイイタイ」

 

 

 

 観音が叫んだ。その声に蓮は少しだけ顔を顰めたが、すぐさま切り替えるように目つきを釣り上げる。

 

 

 

「さっさと、倒してあげないとな」

 

 

 

 

 蓮の刀……炎の竜巻がさらに燃え上がる。彼の感情と呼応しているように。そして、蓮の刀が、阿修羅の胴体を切り裂いた。阿修羅の体が、爆発するように砕け散った。

 

 そのまま、蓮の炎によって全てが焼かれていく。その焼かれていく光景を、まるで火葬をするかのような目線を向ける蓮。そこで、流石に紅が彼に待ったをかける。

 

 

 

「蓮、どうしたの? 顔が強張ってるけど」

「今は……」

「言って。家族でしょ」

 

 

 

 

 家族。その言葉に、蓮は少なからず反応をした。そのまま、ゆっくりと後衛の二人には聞こえない声で姉へと話す。

 

 

 自身が知った真実を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきの観音は……人間だ」

「え……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 何を言っているのか、分からない。そこから先の言葉を彼女は紡ぐことができなかった。

 

 

 

 

「モンスターなら、倒した際に灰みたいになって消えるはずだ。だが、あれはオレの炎で焼かれ続けた」

「でも、気配は怪異というか」

「あぁ、だから、最初は気づかなかった。どっか異質な怪異かと思ったが違う。確かに怪異の気配があったのは事実。でも、あれは人間だった」

 

 

 

 

 

 倒した彼だからこそ気づいた事実。殺人という重すぎる事実が蓮の心を微かに沈めた。

 

 

 

 

 

「でも、人間の形じゃ……」

「ねぇな。だけど、さっきの観音、二体目の顔。前に陰陽庁で見たことがある。多分だけど、誰かが陰陽師を使って作ったんだろうな」

「……っ。陰陽師を使って、さっきの化け物を作った?」

「思えば、あれは陰陽師みたいな戦い方だろ。狩衣を着てた、両手にあったのは全部霊具だ。術は言霊を使って発動。全部、やってることは陰陽師に近い」

 

 

 

 

 

 それは確かにそうだ。そんな感想を彼女は抱く。そもそも怪異であれば言霊などを使わずに、術に近しい御技を発動する。

 

 

 だが、あの観音はわざわざ言霊を使用し、術を再現していた。

 

 

 

「でも、誰が、そんなことを……」

「大体察しはつくだろ。二体の阿修羅だけでかなりの霊具だ。合計金額は二千万はいくだろ。そんなのポンと出せるのは限られてくる」

「……土御門家」

「かもな、絶対とは言い切れないが。その可能性は高そうだ。だが、土御門だけってのはちょっと違う気がする。今や天下の土御門でも、あれを作るのは簡単じゃないはず。と言うか当主は保守派、ああ言うのをやる奴じゃない」

「……となると、土御門の誰かが裏で勝手にやって、それに協力する人達がいるってこと?」

「あぁ、さらにあれを作るのにかなりの研究費だってかけてるだろうさ。オレは倒せるが、陰陽師じゃ絶対倒せない代物。そんなのぽんぽん出せるはずがない、出せるんだったら、封印とかしか手段がないとかなってない」

 

 

 

 蓮はある程度、相手が誰なのか見当がついていた。

 

・大量の霊具を保有。

・作成にかかる莫大な資金。

 

 これだけである程度は絞り込める。確実に土御門は絡んでいるであろうと、予測する。

 

 

「土御門、下っぱじゃ作れない。となるとある程度、上の人間。それと別の誰かが組んでた。そして、それを最近、名を挙げてきた安倍家の生き残り排除のために運用した。これで筋は通るだろ」

「……確かにね。ねぇ、考えたくないけど……土御門と組んでるのは、陰陽庁って可能性はない?」

「あり得るな。国なら研究資金は多く出せるし、色んな人材も集められる。まぁ、確証はないが。ここまでの作ったんだ、組織的なのは感じる」

「……ワタシ達が派遣された場所を知ってるのは陰陽庁だし。そこに阿修羅を投入して、排除しようと土御門と陰陽庁が組んだ……」

「かもな。ただまぁ、土御門と陰陽庁長官は繋がってるとかも聞いたことあるしな」

 

 

 

 

 そこまで話して、二人はそれを終える。一応、後衛の二人にも伝えようとは思ったが、今言うと動揺してしまうため、後にすることにした。

 

 

 

 

「まぁ、先ずはここのモンスターを排除して、経験値を得る。話はその後だ」

「そうね」

 

 

 

 

──こうして、四人は埼玉の美術館、そこに潜む全ての怪異を討伐し、美術館を後にした。一つ、幸運とも言えるのがさらに観客の大多数が生存していたことだった。

 

 しかし、謎は多く残った。

 

 

 

 

 

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