【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ   作:流石ユユシタ

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第57話 千葉組

 千葉の美術館。

 

 スザク、篝火志乃、白妙詩の三人は、美術館の扉をくぐった。中は重く、どす黒い気配が充満している。まるで、水の中を歩いているような息苦しさがあった。

 

 

 そして、エントランスを抜けた瞬間、空気がさらに重くなった。

 

 

 

 

「……あら、人間の観客は見つからないけど。怪異はたんまりなのね」

 

 

 スザクが、冷たく呟いた。その表情は、いつもの無表情で、不気味な気配の中を淡々と歩いていく。しかし、詩は彼女と違い、顔を顰めている。

 

 

「大分、邪悪な気配が充満しているな。観客は生きてるといいが……」

「そうね。まぁ、全員生きてるのはありえないだろうけど」

 

 

 やはり死者はすでに出てしまっているか……そんな希望がない状況ではあるが詩は気を引き締めて刀を抜いた。

 

 

 その刀身には、既に炎が纏わりついている。それは黎明から渡された、特別な刀だった。

 

 

「それ、よく使ってるけど。あんま頼ってるとアンタ自身の力が上がらないわよ」

「……あぁ、分かってる」

「ふーん。まぁ、お守り程度にしておきなさい」

 

 

 

 

 ──詩の炎が暗闇を明るく照らす。頼り続けるのはいけないとは分かっているが、詩はその炎を常に置いておきたいのだ。

 

 

「うわぁ、黎明さんの炎、やっぱり明るくて暖かいですね。ただ、こんな暗い中で明るいの出してたら、怪異が寄ってくるんじゃ……?」

「いや、志乃……アンタが怪異が寄ってくる体質なんだから意味ないでしょ」

「え、あ。そ。そうですね」

 

 

 志乃は思い出したかのような顔をして、ハッとする。以前までならコンプレックスであった体質であったが、今ではド忘れするくらいになっているのは黎明との関わりが原因である。

 

 

 生まれた時から、志乃には、怪異が寄ってくる体質があった。霊力の波長が怪異を寄せるのか、怪異が好む霊力なのか。真相は分からない。

 

 とにかく、志乃がいると怪異が集まってくる。それは、志乃にとって呪いのようなものだった。

 

 

 

 

 ──わたしがいるから、みんなに迷惑をかける

 

 

 

 

 

 以前までは志乃は心の中でそう思った。だが、最近は大分意見が変わっている。なぜなら、黎明がモンスターが寄ってくるので素晴らしい特徴であると思っていたのだ。

 

 

 

 

「アンタの怪異が寄ってくる体質。やっぱり大したもんね」

「え、そ、そうですか? へ、へへ」

「えぇ、本当に霊力が独特なのね、それとも体臭とか?」

「え、臭いですか」

「うーん、石鹸の匂いしかしないわね」

 

 

 

 そんな会話をしつつ、スザクは思い出したかのように詩の刀を見た。そして、何かに気づいたように口を開ける。

 

 

 

 

「それにしても、なんかRPGのたいまつみたいね。その刀。刀のたいまつってオシャレに見えるから、今度ワタシも貰おうかしら」

「それなら、わ、私も黎明さんに貰いたいです! す、スザクさんもRPGって、黎明さんみたいなこと言いますね!」

「まぁ、RPG最近ハマってるしね。あれって奥深いわよね。でも、シンプルでストーリーは分かりやすいし。アンタも黎明が好きならやればいいのに。話のタネができるわ」

「え、あ、えと、でも、私みたいな陰キャに好かれても迷惑かなって」

「あ、そう、それならそうしておきなさい」

「あ、あの、もうちょっと背中押したりとか。縁結びとか神様なら……」

「いや、めんど」

 

 

 

 

 スザクは思っていたよりも適当だった。興味がなくなると、志乃から視線を外して前を向く。それを見た志乃は、ちょっとセンチになった。しかし、スザクは少しだけ励ますような声音を出す。

 

 

 

「まぁ、アンタはアンタにしか体質があるじゃない。くちぶえみたいに、怪異が寄ってくる体質が、あれは黎明は大好きじゃない」

「あぁ、そ、そうですよね。確かに」

「そうそう、本当に大した体質よ。だって、アンタに行列できてるもの」

「え?」

「花より団子、ならぬ。展示より志乃なのね。怪異からすると」

 

 

 

 

 

 スザクが、そう言った瞬間、廊下の奥から怪異が現れた。黒い影のような怪異。それが、五体、十体、次々と現れてくる。

 

 

 ──店が開いた瞬間に、わらわらと動き出す転売ヤーのように、怪異は志乃の方に向かってくる。

 

 

「うわっ、気持ち悪い……!」

「あぁ、かなりの量だな。どれだけの怪異が居るんだ」

 

 

 詩が志乃の肩に手を置いた。少しだけ下がれといいながら、彼女の前に立つ。志乃を守るのが、大人の自分の責務であると彼女は思っている。

 

 

 

 

「詩さん。私もサポートしますっ」

 

 

 

 しかし、志乃も今までとは違う。黎明とであって、彼女自身も戦おうとする意志がしっかりと育っている。

 

 すぐさま、炎を手のひらに生み出した。

 

 

 

炎宝(フレアボム)!」

 

 

 炎が、怪異に向かって飛んでいく。それは、以前よりも遥かに大きく、強力だった。

 

 

 炎宝(フレアボム)。彼女が最初に覚えた術だ。よく使う術ほど、発動までも慣れにより速い。

 

 

 だからこそ、彼女以外も好んで選択する。それに志乃ほどの霊力であれば、ただの炎宝(フレアボム)でも大きな威力となるのだ。

 

 

 

 炎が怪異を焼き払う。三体、四体、五体。志乃の炎が、怪異を次々と倒していく。

 

 

 

「よし……! って、あれ!?」

 

 

 志乃が小さく笑った。だが、怪異は止まらない。まだ、十体以上残っている。まだまだ、怪異からの志乃の人気はとどまるところを知らない。

 

 

 

「私がやるわ」

 

 

 

 

 スザクが前に出た。その瞳が、赤く光る。

 

 

 

 

 

 

「──火神の権能(ごけん)

 

 

 

 スザクの周囲に巨大な炎が生まれた。それは、もはや炎というよりも、威光のような光を放っている。

 

 

 炎が彼女の背中らから翼のように生えて、それが大きく広がり、辺り一面を猛々しく火で満たす。

 

 

 その攻撃により、生まれた熱波が廊下全体を襲った。志乃と詩は思わず腕で顔を覆う。

 

 

 

「あっつ……!」

「大した熱だな……」

 

 

 

 炎が怪異を飲み込んだ。わずか一瞬で全ての怪異が消滅をしてしまう。大海に飲まれた藻屑のように怪異はあっさりと黒い霧へと変わり果てた。

 

 

 床には、焦げた跡だけが残っている。それを見て志乃は感動をしたようにスザクを褒め称える。

 

 

 

 

「スザク様、やっぱり桁違いです……」

「当然よ。私は一応神として祀られてるし。まぁ、最近は人気配信者でもあるし。信仰の度合いが違うわ。あの怪異程度、どうということはないわね」

「す、すごい。神様で、怪異も倒せて人気Vチューバーなんて」

「当然よ」

「そして、一切謙遜もしないなんて。自信に溢れてて尊敬します!」

「当然よ」

 

 

 

 スザクは、そう言って、廊下を進み始めた。焦げ付く匂いを後にするように、前を向く。

 

 

 

「さっさと進むわよ。時間を無駄にしたくないわ。折角、千葉に来たわけだし、中古ショップとかでゲームとか買いたいし」

「はい!」

「あぁ……別に千葉じゃなくても中古ショップはあると思うが」

 

 

 

 

 

 志乃と詩はスザクの後を追った。そのまま三人は、美術館の奥へと進んでいく。

 

 

 

 

 

 

「あ、あの、スザクさん」

「なに?」

「この美術館、どうしてこんなことになったんですか?」

「多分、霊具の封印が解けたからよ」

 

 

 

 志乃の疑問にスザクは、簡潔に答えた。

 

 

 

「安倍晴明が封印した怪異たち。その封印が、弱まっている」

「……安倍晴明。えっと、蓮さんと紅さんの、先祖ですよね」

「ええ」

 

 

 

 スザクは、そう言って、立ち止まった。ちょうど、大きな展示室に辿り着いたからだ。そこには、日本の歴史に関する絵画が飾られていた。

 

 平安時代の貴族、戦国時代の武将、江戸時代の町人。様々な時代の、様々な人々が描かれている。

 

 そして、その中に、一枚の絵があった。安倍晴明の絵画。白い装束を纏った、一人の男性が描かれている。どこか神々しい雰囲気があった。

 

 

 

 

 

「……安倍晴明、こんな顔なんですか?」

「この絵、偽物ね。本物は女だもの」

「あ、そうなんですね」

「えぇ、それでその安倍晴明が封印した怪異たち。その封印が、解け始めている」

「山神とかと一緒……?」

 

 

 

 

 志乃が聞いた。自身と黎明の出会いに大きく関わっている怪異。それが【山神】、あれも封印が解けそうであったと彼女は覚えている。

 

 

 

「そうよ。安倍晴明の封印は、千年以上も前のもの。時が経てば、弱まるのは当然。そして、封印が弱まれば、怪異が解放される」

「……タイミングがちょうど今ってことですか」

「そうね。今が平穏だからって、明日も安全とはならないのよ」

 

 

 

──千年の平穏は、ガラスの上のものであり。それはいつまで続くかは分からない。

 

 

 

 志乃もそれはよく知っている。黎明が居なければあのまま姉と共に死んでいたことは明白だからだ。

 

 

 

「まぁ、黎明がいるからね。そんな重く捉えなくてはいいけど。それに今は、目の前の怪異を倒すのが先よ」

 

 

 その時、展示室の奥から、何かの気配が近づいてきた。

 

 

 

「志乃、アンタ本当に怪異に人気ね。どんどん来るじゃない。モテモテね」

「え、あえと、嬉しくないですね」

「ギャルゲー主人公くらい、寄ってくるわね」

「あ、RPGじゃなくて、ギャルゲーやるんですね」

「最近ね。因みにワタシはヒロイン別ルート全部攻略するんじゃなくて、気に入ったキャラだけ攻略するタイプよ。もっと言うとエロゲーもやるわよ。人間のちちくりあいとか、興味なかったけど、割と面白いわよね。大音量でやってたら、アンタの姉に怒られたけど」

「あ、聞いてないです」

「まぁ、最近配信とかもしてるしね。志麻に色んなゲームやらせてるのよ」

「あ、そうですか」

 

 

 

 スザクの現代への適応が凄まじいと、志乃は思った。なんなら、自分よりも現代を満喫してるのでは? と志乃は訝しんだ。

 

 

 

 そんな彼女たちの前に現れたのは……人型のからくり兵。

 

 

 

 

 全身が金属で覆われ、顔には仮面がついている。そして、その動きは、まるで生きているかのように滑らかだった。

 

 その数は、二十体以上。全てが、一斉に三人を見た。

 

 

 

 

「……これは。なんだ?」

「からくり兵……。負の遺産か」

 

 

 

 詩の疑問にスザクが、冷たく言った。しかし、質問に答えたというよりも、自然と彼女の口から出てしまったような印象だ。

 

 

 

「かつて、安倍晴明が台頭してきた頃、彼女だけに権力が集中するのを恐れた人間たちがいた」

 

 

 スザクの声が、静かに響く。

 

 

「その者たちは、ナギサマの呪いを使い、安倍晴明を再現するような兵隊を作った。それがこれよ。彼らは、安倍晴明の力を利用しようとした。だけど、制御できなかった」

「結果的に暴走した、か」

「ええ。そして、結局……安倍晴明が封印する事態になった。愚かな人間たちの、愚かな行い」

 

 

 スザクはそう言って、手を掲げた。

 

 

「ふーん。この展示物のどこかに封印した霊具があったのね。ちょっと興味はあるけど。まぁ、さっさと倒してあげましょうか」

 

 

 

 からくり兵が、一斉に三人に向かって襲いかかる。その動きは、機械的でありながら、どこか人間のようだった。

 

 

 

「邪魔ね──火神の権能(ごけん)

 

 

 

 火神の権能(ごけん)。スザクが最近、生み出した御技。怪異であり、神に近い彼女は術を発動するようなことはしない。

 

 直に炎を生きてるように操れる。自由自在であり、全てが致命打を与えられ、同時に防御もできる。

 

 

 彼女は、大きく信仰を獲得したため、この能力を開花させた。そして、今後、これだけを使って戦おうとも考えていた。

 

 

 全てが無条件の高火力になり、最高の防御にもなる。そんな破格の力。他に使うものなどない、そんな印象を自身で持っている。

 

 

 コマンドバトルで、【倒す】が常にあるかのような理不尽さ。今の彼女であれば【山神】ともいい勝負が出来るであろう。

 

 

 ただし、倒せるかどうかは分からない。黎明や山神は、また別の次元に存在している、世界のルールから外れているような存在だからだ。

 

 

 しかし、それでも彼女が世界の中で有数の力を持つことは変わらない。

 

 

 

 

 巨大な炎が、からくり兵を飲み込む。灼熱により、全てが無に帰っていく。それにより、からくり兵が、次々と溶けていく。体も呪いも全てが。

 

 

 金属が、高温で赤く染まり、やがて液体となって床に流れ落ちる。しかし、それでは終わらず、十体ほどのからくり兵が、炎をかいくぐって襲いかかってくる。

 

 

 

「わたしも行きますっ」

 

 

 

 志乃が前に出る。その両手に、炎が生まれる。だが、それだけではない。志乃の指四本、それぞれに異なる術が宿っていた。

 

 右手の親指に炎、人差し指に氷、中指に雷、薬指に風。四つの術が同時に志乃の手に宿っている。

 

 

 

 

「──炎宝(フレアボム)水玉(ウォーターボール)土撃(ガイアアタック)金刃(ゴールドエッジ)!」

 

 

 

 

 

 四つの術が、同時に発動した。火、水、土、金。

 

 それらが、弾丸のようになりからくり兵を襲った。一体貫通して、その威力は終わらず、他の個体にも貫通をしていく。しかも、それがマシンガンのように何度も連射され次々と相手を粉砕していく。

 

 

 

 志乃の指から、連射が止まらない。

 

 

 

 

「ふーん、やるじゃない。なんかマシンガンみたいでいいわね。最近FPSをやってるワタシからしても高ポイントね」

「あ、ど、どうも。FPSもしてるんですね。あ、えと、十本の指、それぞれに術を宿すのが目標です」

「ふーん、瞬間的な火力はありそうね。でも、以前とスタイルが違う気がするわね」

「えと、最近、伸び悩みあって、黎明さんに相談して……【転職】して【ガンナー】になって、術を銃火器みたいに扱うのはどうかなって。このスタイルを思いつきました」

「ふーん、いいんじゃない。まぁ、ワタシなら指十本で連射できるけどね」

「あ、すごい。でも、黎明さんは足の指も使って二十本でやってました」

「ふーん、黎明だし、当然ね」

 

 

 

 黎明は足と指の二十本全てで、同時に二十個の術を使っていた。そんな記憶が彼女に蘇る。流石にこれは無理だろ、と思ったので彼女は指十本を目標にすることにしたのだ。

 

 

 

 

「まぁ、それなりにやってるのね。さっきのはちょっと驚いたわ。大したものね」

「はい! 因みにさっきのは私の四本指は機関銃(フォース・ガトリング)と名づけました!」

「ふーん。まぁまぁの名前ね。それでも感心したわ。頑張りなさい」

「あ、えと【ガンナー】として頑張ろうと思います」

「そう、頑張りなさい」

 

 

 

 

 そして、からくり兵を下した三人は先に進んでいく。しかし、そんな中で詩が自分の力のなさに顔を暗くしていたことに……。

 

 

 その事実に志乃は気づかなかった。スザクはなんとなく分かったが、ここで話しても仕方ないと思い、先を進む。




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