【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ 作:流石ユユシタ
三人は廊下をさらに奥へと進んでいった。
からくり兵を倒した後、美術館の雰囲気が少し変わっていた。美術館の空気が、僅かに軽くなっている。次々と志乃に寄ってくる怪異を倒すだけの簡単な作業、どこよりも効率よく美術館を元に戻しているのはこの三人であった。
「だいぶ浄化されてきたわね」
「あぁ。怪異の気配も、だいぶ減っている」
スザクが、周囲を見回しながら言った。その言葉に詩も頷く。
「でも、まだ完全じゃないわ。まぁ、効率が良く出来るしね……まだまだ、志乃の方に寄ってきてる。ほら、来るわよ」
その言葉と同時に廊下の奥から新たな気配が近づいてきた。それは、これまでの怪異とも、からくり兵とも違う。
もっと、別種の気配だった。巨大な、観音のような姿をした化け物。
六本の腕、それぞれに刀と槍を携えており、顔も三つある化け物。服装は陰陽師と同じ白い狩衣姿を着ている。
「……怪異ではないわね。何かしらね、これ」
「お前でも知らないのか」
「さぁ、知らないわね。初めて見たわ、こんなの。まぁ、早めに倒してあげましょうか。あまり生かしておいても、本人達の為にもならなそうだし」
スザクが、冷めた声で言った。その瞳が、僅かに細められる。そう言って、再び彼女は霊力を昂らせる。
「──
スザクの周囲に、巨大な炎が生まれた。大きな翼が背中から顕現し、それは巨大な手のように観音の化け物に襲いかかる。
まるで、火の海のような大きな炎、そして、圧倒的な熱量。
「アツイッ」
「アツイアツイ、ジニダグナイ」
「イギダイ」
業火に焼かれた化け物が、絶叫を上げた。スザクの炎は骨すらも残さず、灰も焼くほどの大きな炎だった。
その絶叫も、ただ、飲み込まれているのみ。
「「「アアアアアアアアァァァァ!!!」」」
微かに三つの声が重なって聞こえたが、すぐさま彼女の炎によって静寂に戻る。燃え尽きるまで、スザクはその光景を見ていた。
「いつの時代も、愚かなことをする人間はいるのね」
──肉が焦げる匂い。
それだけがあたりに充満する。その匂いに志乃は違和感を持ったが、真実に気づくことはない。しかし、詩はあれが人間であったことに気づいて、目線を下に落とす。
ただ、そんな二人の様子を見て、スザクは切り替えるように前を向く。
「さぁ、先に進みましょうか」
無機質で淡々とした彼女の言葉、いつもと変わらないが少しだけ同情が含まれていたことに志乃と詩は気づいた。
彼女達はその場を後にし、前に進む。
「あの、スザクさん。ここ後どれくらいで元に戻りますか?」
「まぁ、そんなに時間はかからないんじゃない。ここには……
「え、えっと、ここには無いってことは他の二箇所にはあるかもしれないってことですか?」
「そうね……」
スザクはうーんと、首を傾げながら話すか迷っているようだった。だが、しばらく歩いた後、意を決した表情に変わる。
「まぁ、ワタシはずっと影森にいたからそこまで詳しいわけじゃ無いだけど。以前に、晴明は
「地獄の門?」
「なんかの比喩だろうけどね。ただ、地獄の門には数千、数万を超える怪異が封印されてるらしいわ。晴明は二重に封印を施したらしいわ。大量の怪異を扉に閉じて、さらにそれを封印した」
「……それが二つの美術館にあるのかもってことですか?」
「さぁ。あるかもしれないし、ないかもしれないわ。詳しくないのよ。ここら辺。流行ってる漫画、にわかの癖にペラペラ語っても寒いでしょ。だから、あんま言わなかったの」
「は、はぁ……?」
ちょっと後半はよく分からなかったが、スザクの言うことをまとめると、なんかやばい封印がどっかの美術館にあるかもと言うことだった。
「えっと、それってやばくないんですか?」
「まぁ、ワタシと黎明がいるわけだし。三つのうちに一個やばいのが封印されてるとして。三分の二、でやばいのが当たる確率があるから何とかなると思うわ」
「いやいやいやいや!? 三分の一、蓮さんとかのグループに私のお姉ちゃんがいるんですけど!? 当たったらどうなるんですか」
「大丈夫よ、多分」
「多分ですか!?」
「まぁ、安倍家の双子もそれなりに強いし。アンタの姉なんて火力だけなら、二人より上だし。瞳月も分析があるから、ヤバかったら逃げるでしょう」
人間の命に対して、どこか軽そうに考えるスザク。それに対して、軽く困惑をする志乃であったが、確かに大丈夫かなと思っていたりもしていた。
双子は強いのは確かだし、姉も弱くは無い。火力だけなら人類トップ。そう考えれば問題はないかもしれない。
そして、さらに安心する材料を投下するようにスザクが志乃を見る。
「それと、こう言うのって黎明とかが引きそうなのよね。根拠はないけど、異質って異質なのを引き付けるから」
「でも、その理論ならこっちの陣営全員異質では? そもそも怪異って倒せないわけだし」
「……ふむ、論破されたわね」
「えぇ!?」
「冗談よ。引き付けるとは言ったけど、それは引力みたいなもんよ。ワタシ達の中で圧倒的なのは黎明でしょ。大きな星、それは大きな万有引力的なのがあるんじゃないかなって思うわけよ。今までだってそうでしょ、結局、全部大きいのを倒して霊力を得てるのは黎明でしょ」
そう語りながらスザクは突如現れた怪異を適当に倒す。もはや、怪異を倒すことに彼女は慣れてしまっている。
「黎明が来てから、時代が大きく進み始めている。中心はいつもあいつでしょう。申し訳ないけど、双子やアンタの姉程度が、黎明を押しのけて当たりを引くとは思えないから」
どこか、人間を見下しているような。どこか、人間に対して、冷たいような。そんな感覚がスザクから感じる。
暖かい炎のはずなのに、冷めているような言葉。どこか、不思議な感覚を志乃は持った。
「そう、ですね」
「まぁ、とりあえずワタシ達は目の前の仕事をするだけよ。さっさと行くわ」
スザクはスタスタと奥に進んで行った。そして、再び怪異を見つけてそれを炎で燃やしていく。
──その後、彼女達は封印が解かれた全ての怪異を打破し、美術館を元に戻した。
◾️
何事もないようになる美術館。そこには、大量の人間が美術館に倒れている光景が広がる。
「あれ、これって……」
「生きてるわよ。この人間、多少は死んでると思うけどね。おそらく、怪異は人間をあえて生きさえて恐怖を吸おうとしてたのね。見せしめで多少殺したと思うけど」
「え、えと、大多数は生きてるってことですか?」
「そうね。結界のどっかに隠されてたり、怪異に閉じ込められたりしてたけど。ワタシ達が全部怪異を倒したから、美術館に戻ってこれたんでしょう」
「そ、そっか、生きてる人がいるんですね」
「そうね。さて、この美術館は、浄化されたわ。さっさと帰りましょう」
スザクはそう言って、目の前の扉を開ける。扉の向こうには、美術館のロビーが広がっていた。そして、ロビーから見える外には、既に警察や救急隊が到着していた。
「あれの対処は面倒ね。隠形を使って、別の場所に行きましょう。他二つの美術館の異変とか、色々と情報を共有できる場所を見繕って」
「あぁ、そうだな」
詩がその提案を承諾し、スマホで二つの班に連絡をした。その後、スマホをしまって二人に向き直る。
「集合場所を決めた。だが、二つともまだ返事は来ていない。どちらかの美術館に向かおう。東京の方から行くか」
「なんで黎明の方の美術館に行くのよ。一番援軍いらない場所でしょ。それと安倍家の方も大丈夫よ。集合場所送ったんだから、先に行ってましょ」
「……いや」
「問題ないわ。アンタ、あいつらを舐めすぎ。まごうことなく、人類最高峰の精鋭よ。ほら、ついてきなさい」
スザクは淡々としているが、そう言って二人の先頭を歩く。二人は困惑するが、スザクの言っていることを否定できず、ついていく。
──三人は隠形を使い、マスコミなどの間を抜ける。
すでに、美術館の一件は大事になっていたようだ。テレビ報道者、警察、救急車、そしてそれを見にきた一般人。
それもそのはずだ。この美術館には大量の観客が来ており、誰一人として帰ってきていないのだから。すでに美術館は元に戻っているが、だとしてもこの大騒ぎはどうにもできない。
SNSに動画が出ているのもあるが、観客がまだ生きており、それが外に露見する可能性も高い。
(大きくなるな。安倍家が壊滅した時以上の事件かもしれん)
詩は内心でそう考えていた。今回は明らかに規模が大きすぎる、それに加えて、あまりに注目され過ぎていた。
SNSがある現代で、人の口を完全に抑えることは難しい。これが大きくなればなるほどに、恐怖が膨れ上がってしまう。
「怪異が大きくなるか。黎明に何かなければいいが」
「アンタ、まさか今回の一件で人間の恐怖が大きくなって、それで怪異が強化されて、黎明が負けるかもとか思ってるの」
「……いや、そんなはずはないとは思ってる。だが、どうにもな」
詩は黎明の身を案じていた。確かに彼は最強にして、負けなし、敗れる姿が想像できないほどだ。だが、それでも彼女は心配だった。
(こいつ……)
スザクはその姿を見て、僅かに内心で毒をついた。
(本当に黎明以外はどうでもいいのね。そんな心配そうな顔を、他のメンバーの話題で見たことがないわ)
(それに、なんていうのかしらね。この子、黎明を利用したいという側面があるわ。前言っていた家族の復讐かしらね)
(でも、それに黎明を使うことへの嫌悪感と罪悪感。それで溢れている。だからかしらね。いつも黎明の側でひっついてあいつの世話してるのは)
詩はそこまで感情を表に出さない。今も表情は大きく動いてはいないが、スザクには彼女の瞳の奥が激しく揺れていることに気づいた。
(ある意味、一番精神に難を抱えている感じな気がするけど。黎明と一緒にお風呂入ったり、寝たりしてるとか聞いたけど。なんていうか、依存に近いのかしら)
(万が一、みたいなことがあっても問題ないって思ってるとか。まぁ、人間なんてそうやって繁殖したんだからね。ただ、こいつの場合はそうなっても罪悪感の軽減になるし、そもそもが好意も持ってるし)
(問題ないと考えてるのかしら。よく見たら化粧とか最近ちゃんとしてるし。身だしなみを気にしてはいても、化粧とかまでするタイプではなかったと思うんだけどね)
(全部、黎明なのかしら。例え、仲間のような存在が出来つつあったとしてもね)
罪悪感、愛情、依存、それらが詩の中にある。そんな考えがスザクの中には湧いていた。
(まぁ、ただの憶測だし。そもそも、人間なんて、感情に振り回される生き物だし。そういうもんかしらね)
(安倍晴明も、感情に振り回されてたし。どんな人間もそうなのね)
──スザクはそこで結論をつけて、前を向いた。
三人はそのまま、他のメンバーとの集合場所へと歩き続けた。
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