【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ 作:流石ユユシタ
数百人の信者が、一斉に動き出した。それぞれの白い服の下から、鉈や鎌、鉄の棒が現れる。
だが、無秩序に襲いかかってきたわけではない。
「足を止めなさい! 前後左右から一斉に攻撃しなさい!」
教祖が両手を動かす。まるで人形を動かす手品師のようでもあった。すると、信者達の瞳に絡んでいた金色の糸が強く光った。
正面から武器を持った信者が迫り、その間に別の者達が礼拝堂の左右へ広がっていく。さらに後方にも周り武器を振り上げる。
数百人全員が、教祖の指示で一つの生き物のように動いている。
「やっぱり、アンタが司令塔なんだ」
「全ては我が手に収まっている!!」
最初の信者が鉈を振り下ろす。黎明は半歩だけ横へ動き、その手首を掴んだ。そのまま男の足を払う。
男の体が一回転し、後ろから来た三人を巻き込んで床へ落ちた。続いて、左右から鉄の棒が迫る。それも黎明は右の棒を手の甲で逸らした。
軌道を変えた鉄の棒が、反対側から来た鎌へ衝突する。二つの武器が持ち主の手を離れ、天井近くまで飛んだ。
その間を黎明が通り抜ける。次の瞬間、目にとも止まらぬ攻撃を繰り広げ、信者達は同時に崩れ落ちる。
「廊下にいた人達と、あんまり変わらないね」
「まだまだ!」
教祖の指示を受け、さらに信者が集まる。前方から十五人。左右からも十人ずつ。
そして後方から、何十本もの金色の糸が伸びる。人間の精神へ入り込み、教団への服従を強制する術だった。
「神の御前へ跪け!」
しかし、黎明は飛んできた糸を片手で掴んだ。
「それは、さっき見た」
掴んだ糸を引く。すると、後方で円盤を持っていた信者達が、まとめて前へ引っ張られた。
さらに黎明が腕を横へ振ると、金色の糸が近くにいた別の信者へ絡みつく。
「さて、俺も操ってみるか」
術を受けた信者達が、今度は互いに掴み合った。前へ進もうとする者と、それを止めようとする者が衝突し、礼拝堂の一角が動かなくなる。
「なぜ、神の御技を操れる……!」
「これくらいはね。俺も人形師やってみるかな」
黎明はそのまま金の糸を、信者全体に巻き付くように広げていく。教祖に操られていた信者、それらを今度は自分が操ろうとしているのだろう。
「所詮は猿真似。神の御技を完全な再現はできん!!」
「いや、これ簡単だよ。糸にMPを流して、繋がっている人を動かすんでしょ?」
「何を――」
黎明の霊力が、金色の糸へ流れ込んだ。その瞬間、教祖の腕が大きく弾かれる。
金色の糸、それが黎明の手中に収まっていく。。教祖の霊力を押し返し、そのまま信者達との繋がりを奪っていた。
「馬鹿な! 上書きするつもりか!」
「お、できた」
黎明が人差し指を曲げる。すると、鉈を持っていた男の腕が止まる。続けて中指を動かす。男は背後へ振り返り、近くにいた信者の頭を鉈の柄で殴った。
「ぐっ!?」
「な、何を!」
「違、違います! 体が勝手に!」
「こ、こっちも体が!?」
黎明が五本の指を動かすたび、信者達の動きが変わっていく。
鎌を持つ女が、別の信者の足を柄で払う。鉄の棒を振り上げていた男が、そのまま隣の男の腹を殴った。
後ろから黎明を捕らえようとしていた者達は、突然互いの腕を掴み、そのまま床へ投げ合う。
「おお、面白い」
「やめろ! そいつらは私の信者だ!」
「モンスターバトルってのも面白いかも」
教祖も両手を激しく動かした。信者の体が一度止まり、黎明へ向き直ろうとする。しかし、その前に黎明が指を弾いた。信者達は再び反転し、別の信者へ襲いかかる。
「動け! 私の命令に従え!」
「いけ、バトルだ」
教祖と黎明が指を動かすたび、信者達が礼拝堂の中を右往左往する。だが、主導権は既に黎明へ移っていた。次第に教祖は誰一人として操ることは不可能となる。
「ちょ、待て! やめろ! 貴様ら同士で戦うな!」
教祖が叫ぶ。だが、止まらない。黎明が両手を広げると、白い糸に繋がれた信者達も、一斉に腕を広げた。
そのまま周囲にいる者達を抱え込む。黎明が腕を交差させる。すると、何十人もの信者が互いに絡まり、床へ倒れた。
「すごい。これ、便利だね」
信者がある程度倒れたので、黎明は満足げだった。その様子を見ていた綾乃は黎明の方が教祖みたいだと思っていた。
(やってることだけ見たら教祖より教祖らしいわね……洗脳とかもお手のものでしょうし)
再び、黎明が両手の指を動かした。操られた信者達が、まだ立っている者へ一斉に襲いかかる。
正面から殴り合い、礼拝堂の至る所で信者同士の戦いが続く。もっとも、黎明は急所へ刃が向かないように調整している。
この場にいるのは半人半魔。半分は怪異だが、半分は人間なのだ。だからこそ、殺すことは避けていた。
ただ、数百人による乱闘は続く。殴られ、投げられ、長椅子へ叩きつけられたり、大騒ぎ状態だ。
教祖も慌てるが、信者達は言うことを聞かない。そっぽを向いて乱闘を続けるのだ。
「やめろ! 立ちなさい! 神の敵を殺せ!」
「教祖様!!!」
「──っ!!」
「て、手が勝手に……」
教祖の命令は、もう誰にも届かない。最後に残った信者が、白い糸に引かれて教祖の顎へ拳を入れた。
そのまま白目を剥き、床へ倒れる。そこで礼拝堂から、人の声が消えた。数百人いた信者は、全員が床へ横たわっている。
──教祖は操るのが得意だが、戦闘の強さは、そこまでだった。なので信者の拳でノックアウトだった。
「さてと、この信者達をなんとかするかな」
「ど、どんだけ強いのよ」
「これくらいはね」
「……陰陽庁の全勢力を注いでも、ここを平定するのは無理だったでしょうね」
陰陽庁が複数の部隊を送り込んでも、全滅しているほどの戦力だった。しかし、黎明からしたら、新技を試してる間に終わる程度の戦力だろう。
「まだだ……」
綾乃が驚きを隠せない中……殴られて気絶したはずの、教祖の声が聞こえた。教祖は立ち上がれない。倒れたままだが、口を動かすくらいはできた。
「ククク、これで勝ったと思ったか。既に手筈は整っている……お前達が死ぬ準備はな」
「手筈?」
「その通り。既に、神の復活の手筈は整っていた。そして、その封印は先ほど解かれていたのだ」
教祖は血を吐きながら笑った。
「本当なら、金の糸で支配下に置く予定だった。だが、もういい。全て、水に流そう。文字通りな」
「どういうこと? もっとストレートに言ってくれないと」
「人間も怪異も、全ての上に立つ神格……
光の明日の本拠地から離れた山中で、神の封印を解くための儀式が始まろうとしていた。
「へぇ、それはそれは。是非とも気になるモンスターだ。でも、その前に……信者とか、澪の両親をなんとかしないとね」
そう言って、黎明は落ちていたナイフを拾う。
「モンスターの部分だけを抉ったりするから、ちょっとグロいかも。澪には見せられないな。綾乃は大丈夫そうだから、澪をフォローしてあげて」
「な、なんでわたしは大丈夫だと思うのよ……いやまぁ、大丈夫だけど」
綾乃は未だ地面に伏して落ち込んでいる澪を、介抱する様子。一方、黎明はナイフで怪異の部分を剥ぎ取り始めていた。
「さて、さっさと回復させるか」
一方、黎明は軽い感じで信者達を次々と人間に戻していった。約三分後、この部屋にいるすべての半人半魔は無事に、人間へと戻ることができた。
【9月12日】
書籍版『救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ』が、9月12日に発売されます!
書籍といえば、やはりイラストですね。
なんと、見本誌が届いたので載せますね。是非見てください。
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そして、明日も11時更新!! お楽しみに!