【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ 作:流石ユユシタ
最後の一人から怪異を取り除き、黎明はナイフを床へ置いた。
礼拝堂には、気を失った信者達が並んでいる。もう半人半魔ではない。全員、ただの人間に戻っていた。黎明は超人的な神技で怪異の部分だけを、切り裂き、痛みを自覚する前に魔法で癒したのだ。
「終わったよ。澪の両親も治したから」
「本当、ですか……?」
澪は倒れている二人のもとへ駆け寄った。父親と母親。服は汚れ、顔色も悪い。それでも、体から怪異の気配は消えている。
澪が母親の手を握る。
「お母さん……お父さん……」
最初に母親の指が動いた。ゆっくりと目を開き、目の前にいる澪を見る。
「……澪?」
「お母さん!」
澪は母親へ抱きついた。少し遅れて父親も目を覚まし、二人を見て目を見開く。
「澪……どうして、ここに……」
「助けに来たの。二人とも、ずっと帰ってこなかったから……!」
途中から声にならなかった。澪は両親にしがみついたまま、何度も名前を呼ぶ。二人も事情を理解できないまま、澪の背中へ腕を回した。
「よかった……本当に、よかった……」
その言葉を聞き、澪の体からようやく力が抜けた。
綾乃は少し離れた場所で、その再会を黙って見ている。両親との絆、それを彼女はあまり理解できないようで、少し理解できないようだった。
そして、黎明は残りの信者に異常がないか確かめながら、床に落ちていた記念硬貨を拾った。
「これ、やっぱり使い道ないのかな」
沢山集めたら、珍しい道具と交換とかもやっぱり無理そうだなぁと、黎明は考えていた。
◾️◾️
光の明日が所有する山へ、二人の陰陽師が向かっていた。
陰陽庁で起きた襲撃への対応を終え、そのまま京都まで移動してきた二人は、借りた車を山の手前へ停めた。
そこからは徒歩である。二人は、舗装されていない山道を進んだ。
「姉ちゃん、黎明が先に向かったんだよな?」
「えぇ、陰陽庁襲撃、それがあったタイミングで、影森町に信者が現れてたみたい。そこから、榊原澪さんから両親の救出依頼があり……黎明くんと榊原澪さんが、先に本拠地へ向かったみたい」
「どれくらい前だ?」
「数時間は経ってるでしょうね」
「なら、急ぐぞ。黎明に経験値全部取られたら、最悪だしな」
蓮は歩く速度を上げた。陰陽庁を襲った教団員と怪異は、人を簡単に殺めるほどの強さを持っていた。
恐ろしい集団。放置をしておけば、多くの死者を出す可能性がある。野放しにはしておけないのは当然の話。
だがしかし、黎明であると別の心配が出てくる。単純に一人で全てを終わらせてしまい、霊力が吸収できないという心配だ。
「黎明君が数時間前に向かってるなら、全部終わってる気がするけどね。黎明君強すぎて、もう彼一人でよくないって思う時あるし」
「っち、そうだったら残念だな」
言い合いながら斜面を上り、二人は白い外壁の前へ到着した。そこで同時に足を止める。
そこにある門は開いたままだった。
左右にいたはずの見張りは、壁にもたれて気絶している。その奥にある居住区でも、白い服を着た信者達が道や畑へ倒れていた。
紅が近くの女信者へ駆け寄り、首筋に触れる。
「生きてる。気を失ってるだけ」
「全員か?」
「多分ね。目立った傷もないわ。一体全体誰が……と言いたけど、黎明君でしょうね……」
「あぁ、だろうな」
蓮は居住区の中央を見た。金色の尖塔があり、その付近でも人が大量に倒れている。どうやら、既に事件は始まっていたと二人は理解する。
「こんなにたくさんの人が……気絶している。只事ではないわね」
「いったい誰が……まぁ、考えるまでもないがな」
「黎明くんしかいないわね」
二人は倒れた信者を避けながら、地下の礼拝堂へ向かった。既に、ここの信者達は全員気絶をしており、怪異が消えた残穢なども残っている。
途中、建物の窓がいくつも割れている。扉の壊された部屋もあれば、廊下へ壺の欠片が散らばっている場所もあった。
「随分と荒れてるわね」
「黎明が通った後だろうな」
礼拝堂へ近づくほど、壊れている物が増えていく。さらに信者達は全員気絶しており、それが進むほどに増えていった。
二人は進むにつれて、地下に溢れる霊力を感知した。それが黎明のものであると悟り、そこに向かって急いだ。
◆◆◆
二人が最初に見たのは、数百人の信者だった。全員が乱闘を終えたかのように、乱れて倒れている。
一部、澪の両親は目を覚ましていたが、それ以外は気絶していた。教祖も倒れており、一方で黎明は余裕の表情で立っている。
「やっぱり終わってるじゃねぇか……」
蓮が呟く。その声に気づき、黎明が振り返った。
「あれ、紅と蓮。遅かったね」
「お前が速いんだろ。結構急いだんだぞ」
「あら、どう? 経験値は入った?」
「煽ってるのか、ねぇよ」
あ、そうなんだ。と黎明は軽く流した。
「黎明くん、怪我は? あ、してないと思うけど、念のために聞いてるだけだから」
「大丈夫。あっても治すし」
「そうよね。まぁ、一応社交辞令みたいなものだから」
「それでも心配してくれるなんて、サンキュー」
紅が近づき、頬や腕にできた傷を確かめる。あるわけない怪我を探す様は、夏祭りのおもちゃくじ引きの出店で、くじを引く子供のようである。
心配はしてないが、黎明が無事なので紅が息を吐いた時、その後ろから澪が歩いてきた。
「あの、清泪村では、ありがとうございました」
澪は小さく頭を下げる。紅と蓮も、清泪村で彼女の姿を見ていた。落ち着いて話すのは、これが初めてである。
「榊原澪さんね。ご両親は?」
「だいぶ疲労があるみたいで、今はあちらで眠っています。全部黎明さんが、なんとかしてくれまして」
「そう。二人とも無事なのね」
「はい」
「なら、まずは良かったわ。アタシは安倍紅。こっちは弟の蓮よ」
「安倍蓮だ。怪我はないか?」
「わたしは大丈夫です」
「それにしても、お前なかなかのMPがあるな。どうだ、冒険者にならないか? 年功序列でもないし。自由だぞ」
蓮に誘われた、澪はちょっと困った顔をするが、そこに紅がわって入った。
「蓮、澪さんが困ってる」
「あ、ありがとうございます」
「いいわよ、この二人ちょっと押しが強いから」
「あ、えと、はい」
「ワタシはそんなことないから安心して」
「あ、ありがとうございます」
「それでなんだけど、貴方の両親もかなりの霊力あるみたいだし。このままだと怪異が寄ってきてしまう可能性だってあるわ。そういう時の保険じゃないけど、三人揃って冒険者になっておくのは悪くないと思う。今、人員不足だし、こっちとしても──」
──あ、この人も結構グイグイくるんだ。
そう、澪は思った。彼女は、今度は先ほどより少しだけ柔らかい表情で頭を下げた。
「え、えと、ちょっと考えたいかなって」
「まぁ、無理にとは言わないわ」
「──でも、澪もぜひきてよ。楽しいよー」
今度は黎明が彼女を誘った。なぜか、黎明に誘われると、彼女は少しだけ迷うような顔つきになる。
「あ、楽しい、ですか?」
「そうそう、志乃って言う今までモンスターが寄ってきちゃう性質の子がいてさ。今まで友達とかできなかったけど。今では友達できまくり」
「そうですか……黎明さんが、誘ってくれるなら」
「うん。人手足りないし。ぜひぜひ。両親もMP一般人より多いみたいだし。三人できたら? モンスターに怯えるより、理解して怖さを消すほうがいいと思うし」
「……わかりました。入ります」
黎明が言うと、彼女は入ることを決めた。
「おい、なんでオレの誘いは迷ったのに黎明は即断なんだよ」
「蓮、そんな言い方したら、困っちゃうでしょ。それはそれとして、ワタシの誘い方ちょっと怖かった? 今後勧誘増えてくから、誘い方に指摘する箇所あったら言って欲しいんだけども」
「あ。えと」
この二人とも、グイグイ来るな。と澪は思った。
そのやり取りを、少し離れた場所から見ている女がいた。安倍家の双子とは犬猿の仲と持っていも過言ではない存在。
土御門綾乃である。彼女を見つけると、紅の表情が固くなる。
「……土御門綾乃」
「久しぶりね。安倍家の二人」
「なに? また嫌味でも言いたいの?」
「……いや別に」
「……? あら、珍しいこともあるのね。あなたが嫌味の一つも言わないなんて」
紅は首を傾げた。土御門綾乃は、ことあるごとに自分たちに嫌味を言ったり、馬鹿にしたり、嫌味を言ったり、とにかくうるさいイメージだった。
だが、彼女は黙っている。特に何も言わず、目を伏せて、静かに佇んでいるだけだ。
「どうして、お前がここにいる」
「教団を処分するために来たのよ。父親からの命令でね。ただ、まぁ、わたしはなにもしてないけど」
「そうか」
「……そうよ」
「……お前、いつもよりおとなしくないか? いつももっと嫌味とか言ってくるだろ」
「……そんなことないわよ」
蓮が露骨に顔をしかめる。やはり彼も違和感を持っているようだ。違和感を探るため、蓮は質問を投げる。
「一人で来たのか?」
「そんなわけないでしょう」
綾乃は短く答える。しかし、彼女と一緒に来た陰陽師が見当たらない。その意味を、蓮と紅はすぐに理解した。
「そうかよ」
蓮もこれ以上は何も聞く気もないのか黙った。しかし、綾乃の様子がいつもと違うのは気になっていた。ただ、これ以上何を聞いてもわからないし、はぐらかされるのがオチだろうと思い、一度会話を切り上げる。
綾乃がおとなしいのは、下手なことを言って黎明に敵対とかされると、本気でまずいので何も言わないのだが……それを二人が理解するのはもっと先になるだろう。
さて、二人は礼拝堂の奥へ視線を向ける。壊れた祭壇の下に、人間とは思えない霊力を持つ存在が倒れている。
そう、教祖である。黎明に操られた信者に殴られ、ノックアウト状態だが話はできる状態だ。
「あれが教祖?」
「うん。多分、ここのボスだね」
「まだ、消してないのか?」
「ちょっと聞きたこともあるし」
そのまま黎明は教祖の角を掴んだ。
「ぐっ……!」
そのまま教祖を引きずり始める。黒く膨れ上がった体が、壊れた石床を擦って進んだ。
「さっきのボスモンスターの話だけど、どこに封印されてるの? 案内して」
「な、んだと。誰が教えるものかッ」
「あ、そう。それなら、ここで経験値にしようかな」
そう言って、黎明は右手に炎を生み出す。その圧倒的な熱量に、教祖の体がアイスのように溶け出した。
このままでは、死ぬ。
そんな本能の警告から、教祖は慌てて言葉を絞り出した。
「わ、わかった。お、教える。だから、消すのは待ってくれ」
「で? どこ?」
「し、指示する方向に走ってくれ。ま、まずはここから外に出よう」
「いいよ、じゃ、行こうか。時間もなさそうだし。二人とも、澪達を頼む」
目指すは神が封印されたと言われる、場所。そのまま、全員を置き去りにして彼は加速して走り出した。
「ちょ、!? い、痛いんだが!? 引きずるな!!!」
──教祖を地面に引き摺りながら。
【9月12日】
書籍版『救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ』が、9月12日に発売されます!
書籍といえば、やはりイラストですね。
なんと、見本誌が届いたので載せますね。是非見てください。
【挿絵表示】
表紙はもちろん、挿絵もすべて素晴らしいクオリティに仕上げていただいております。さらに、WEB版から一部加筆もしていますので、ぜひぜひ、お手に取っていただけると嬉しいです!
【9月12日発売!】
下に表紙とAmazonの予約ページへのリンクを載せておきますので、気になった方はぜひチェックしてみてください!
【タイトル入り表紙】
【挿絵表示】
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そして、明日も11時更新!! お楽しみに!