【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ   作:流石ユユシタ

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第76話 ボス戦へ

 最後の一人から怪異を取り除き、黎明はナイフを床へ置いた。

 

 礼拝堂には、気を失った信者達が並んでいる。もう半人半魔ではない。全員、ただの人間に戻っていた。黎明は超人的な神技で怪異の部分だけを、切り裂き、痛みを自覚する前に魔法で癒したのだ。

 

 

 

 

 

「終わったよ。澪の両親も治したから」

「本当、ですか……?」

 

 

 

 澪は倒れている二人のもとへ駆け寄った。父親と母親。服は汚れ、顔色も悪い。それでも、体から怪異の気配は消えている。

 

 

 澪が母親の手を握る。

 

 

 

「お母さん……お父さん……」

 

 

 

 最初に母親の指が動いた。ゆっくりと目を開き、目の前にいる澪を見る。

 

 

「……澪?」

「お母さん!」

 

 

 澪は母親へ抱きついた。少し遅れて父親も目を覚まし、二人を見て目を見開く。

 

 

「澪……どうして、ここに……」

「助けに来たの。二人とも、ずっと帰ってこなかったから……!」

 

 

 途中から声にならなかった。澪は両親にしがみついたまま、何度も名前を呼ぶ。二人も事情を理解できないまま、澪の背中へ腕を回した。

 

 

「よかった……本当に、よかった……」

 

 

 その言葉を聞き、澪の体からようやく力が抜けた。

 

 綾乃は少し離れた場所で、その再会を黙って見ている。両親との絆、それを彼女はあまり理解できないようで、少し理解できないようだった。

 

 そして、黎明は残りの信者に異常がないか確かめながら、床に落ちていた記念硬貨を拾った。

 

 

 

「これ、やっぱり使い道ないのかな」

 

 

 

 沢山集めたら、珍しい道具と交換とかもやっぱり無理そうだなぁと、黎明は考えていた。

 

 

 

 

 

◾️◾️

 

 

 

 光の明日が所有する山へ、二人の陰陽師が向かっていた。

 

 安倍紅(あべべに)安倍蓮(あべれん)

 

 陰陽庁で起きた襲撃への対応を終え、そのまま京都まで移動してきた二人は、借りた車を山の手前へ停めた。

 

 そこからは徒歩である。二人は、舗装されていない山道を進んだ。

 

 

「姉ちゃん、黎明が先に向かったんだよな?」

「えぇ、陰陽庁襲撃、それがあったタイミングで、影森町に信者が現れてたみたい。そこから、榊原澪さんから両親の救出依頼があり……黎明くんと榊原澪さんが、先に本拠地へ向かったみたい」

「どれくらい前だ?」

「数時間は経ってるでしょうね」

「なら、急ぐぞ。黎明に経験値全部取られたら、最悪だしな」

 

 

 蓮は歩く速度を上げた。陰陽庁を襲った教団員と怪異は、人を簡単に殺めるほどの強さを持っていた。

 

 

 恐ろしい集団。放置をしておけば、多くの死者を出す可能性がある。野放しにはしておけないのは当然の話。

 

 だがしかし、黎明であると別の心配が出てくる。単純に一人で全てを終わらせてしまい、霊力が吸収できないという心配だ。

 

 

 

「黎明君が数時間前に向かってるなら、全部終わってる気がするけどね。黎明君強すぎて、もう彼一人でよくないって思う時あるし」

「っち、そうだったら残念だな」

 

 言い合いながら斜面を上り、二人は白い外壁の前へ到着した。そこで同時に足を止める。

 

 そこにある門は開いたままだった。

 

 左右にいたはずの見張りは、壁にもたれて気絶している。その奥にある居住区でも、白い服を着た信者達が道や畑へ倒れていた。

 

 紅が近くの女信者へ駆け寄り、首筋に触れる。

 

 

 

「生きてる。気を失ってるだけ」

「全員か?」

「多分ね。目立った傷もないわ。一体全体誰が……と言いたけど、黎明君でしょうね……」

「あぁ、だろうな」

 

 

 蓮は居住区の中央を見た。金色の尖塔があり、その付近でも人が大量に倒れている。どうやら、既に事件は始まっていたと二人は理解する。

 

 

「こんなにたくさんの人が……気絶している。只事ではないわね」

「いったい誰が……まぁ、考えるまでもないがな」

「黎明くんしかいないわね」

 

 

 

 

 二人は倒れた信者を避けながら、地下の礼拝堂へ向かった。既に、ここの信者達は全員気絶をしており、怪異が消えた残穢なども残っている。

 

 途中、建物の窓がいくつも割れている。扉の壊された部屋もあれば、廊下へ壺の欠片が散らばっている場所もあった。

 

 

 

 

「随分と荒れてるわね」

「黎明が通った後だろうな」

 

 

 

 

 

 礼拝堂へ近づくほど、壊れている物が増えていく。さらに信者達は全員気絶しており、それが進むほどに増えていった。

 

 

 二人は進むにつれて、地下に溢れる霊力を感知した。それが黎明のものであると悟り、そこに向かって急いだ。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 二人が最初に見たのは、数百人の信者だった。全員が乱闘を終えたかのように、乱れて倒れている。

 

 一部、澪の両親は目を覚ましていたが、それ以外は気絶していた。教祖も倒れており、一方で黎明は余裕の表情で立っている。

 

 

 

「やっぱり終わってるじゃねぇか……」

 

 

 

 蓮が呟く。その声に気づき、黎明が振り返った。

 

 

「あれ、紅と蓮。遅かったね」

「お前が速いんだろ。結構急いだんだぞ」

「あら、どう? 経験値は入った?」

「煽ってるのか、ねぇよ」

 

 

 あ、そうなんだ。と黎明は軽く流した。

 

 

「黎明くん、怪我は? あ、してないと思うけど、念のために聞いてるだけだから」

「大丈夫。あっても治すし」

「そうよね。まぁ、一応社交辞令みたいなものだから」

「それでも心配してくれるなんて、サンキュー」

 

 

 紅が近づき、頬や腕にできた傷を確かめる。あるわけない怪我を探す様は、夏祭りのおもちゃくじ引きの出店で、くじを引く子供のようである。

 

 

 

 心配はしてないが、黎明が無事なので紅が息を吐いた時、その後ろから澪が歩いてきた。

 

 

 

「あの、清泪村では、ありがとうございました」

 

 

 

 澪は小さく頭を下げる。紅と蓮も、清泪村で彼女の姿を見ていた。落ち着いて話すのは、これが初めてである。

 

 

「榊原澪さんね。ご両親は?」

「だいぶ疲労があるみたいで、今はあちらで眠っています。全部黎明さんが、なんとかしてくれまして」

「そう。二人とも無事なのね」

「はい」

「なら、まずは良かったわ。アタシは安倍紅。こっちは弟の蓮よ」

「安倍蓮だ。怪我はないか?」

「わたしは大丈夫です」

「それにしても、お前なかなかのMPがあるな。どうだ、冒険者にならないか? 年功序列でもないし。自由だぞ」

 

 

 

 蓮に誘われた、澪はちょっと困った顔をするが、そこに紅がわって入った。

 

 

 

「蓮、澪さんが困ってる」

「あ、ありがとうございます」

「いいわよ、この二人ちょっと押しが強いから」

「あ、えと、はい」

「ワタシはそんなことないから安心して」

「あ、ありがとうございます」

「それでなんだけど、貴方の両親もかなりの霊力あるみたいだし。このままだと怪異が寄ってきてしまう可能性だってあるわ。そういう時の保険じゃないけど、三人揃って冒険者になっておくのは悪くないと思う。今、人員不足だし、こっちとしても──」

 

 

 

──あ、この人も結構グイグイくるんだ。

 

 

 

 そう、澪は思った。彼女は、今度は先ほどより少しだけ柔らかい表情で頭を下げた。

 

 

 

「え、えと、ちょっと考えたいかなって」

「まぁ、無理にとは言わないわ」

「──でも、澪もぜひきてよ。楽しいよー」

 

 

 

 今度は黎明が彼女を誘った。なぜか、黎明に誘われると、彼女は少しだけ迷うような顔つきになる。

 

 

 

「あ、楽しい、ですか?」

「そうそう、志乃って言う今までモンスターが寄ってきちゃう性質の子がいてさ。今まで友達とかできなかったけど。今では友達できまくり」

「そうですか……黎明さんが、誘ってくれるなら」

「うん。人手足りないし。ぜひぜひ。両親もMP一般人より多いみたいだし。三人できたら? モンスターに怯えるより、理解して怖さを消すほうがいいと思うし」

「……わかりました。入ります」

 

 

 

 黎明が言うと、彼女は入ることを決めた。

 

 

「おい、なんでオレの誘いは迷ったのに黎明は即断なんだよ」

「蓮、そんな言い方したら、困っちゃうでしょ。それはそれとして、ワタシの誘い方ちょっと怖かった? 今後勧誘増えてくから、誘い方に指摘する箇所あったら言って欲しいんだけども」

「あ。えと」

 

 

 

 この二人とも、グイグイ来るな。と澪は思った。

 

 

 

 

 

 そのやり取りを、少し離れた場所から見ている女がいた。安倍家の双子とは犬猿の仲と持っていも過言ではない存在。

 

 土御門綾乃である。彼女を見つけると、紅の表情が固くなる。

 

 

 

「……土御門綾乃」

「久しぶりね。安倍家の二人」

「なに? また嫌味でも言いたいの?」

「……いや別に」

「……? あら、珍しいこともあるのね。あなたが嫌味の一つも言わないなんて」

 

 

 紅は首を傾げた。土御門綾乃は、ことあるごとに自分たちに嫌味を言ったり、馬鹿にしたり、嫌味を言ったり、とにかくうるさいイメージだった。

 

 

 だが、彼女は黙っている。特に何も言わず、目を伏せて、静かに佇んでいるだけだ。

 

 

 

「どうして、お前がここにいる」

「教団を処分するために来たのよ。父親からの命令でね。ただ、まぁ、わたしはなにもしてないけど」

「そうか」

「……そうよ」

「……お前、いつもよりおとなしくないか? いつももっと嫌味とか言ってくるだろ」

「……そんなことないわよ」

 

 

 

 蓮が露骨に顔をしかめる。やはり彼も違和感を持っているようだ。違和感を探るため、蓮は質問を投げる。

 

 

 

「一人で来たのか?」

「そんなわけないでしょう」

 

 

 

 綾乃は短く答える。しかし、彼女と一緒に来た陰陽師が見当たらない。その意味を、蓮と紅はすぐに理解した。

 

 

 

 

「そうかよ」

 

 

 

 蓮もこれ以上は何も聞く気もないのか黙った。しかし、綾乃の様子がいつもと違うのは気になっていた。ただ、これ以上何を聞いてもわからないし、はぐらかされるのがオチだろうと思い、一度会話を切り上げる。

 

 

 綾乃がおとなしいのは、下手なことを言って黎明に敵対とかされると、本気でまずいので何も言わないのだが……それを二人が理解するのはもっと先になるだろう。

 

 

 さて、二人は礼拝堂の奥へ視線を向ける。壊れた祭壇の下に、人間とは思えない霊力を持つ存在が倒れている。

 

 そう、教祖である。黎明に操られた信者に殴られ、ノックアウト状態だが話はできる状態だ。

 

 

 

「あれが教祖?」

「うん。多分、ここのボスだね」

「まだ、消してないのか?」

「ちょっと聞きたこともあるし」

 

 

 

 

そのまま黎明は教祖の角を掴んだ。

 

 

 

「ぐっ……!」

 

 

 

 そのまま教祖を引きずり始める。黒く膨れ上がった体が、壊れた石床を擦って進んだ。

 

 

 

「さっきのボスモンスターの話だけど、どこに封印されてるの? 案内して」

「な、んだと。誰が教えるものかッ」

「あ、そう。それなら、ここで経験値にしようかな」

 

 

 

 

 そう言って、黎明は右手に炎を生み出す。その圧倒的な熱量に、教祖の体がアイスのように溶け出した。

 

 このままでは、死ぬ。

 

 

 そんな本能の警告から、教祖は慌てて言葉を絞り出した。

 

 

 

 

「わ、わかった。お、教える。だから、消すのは待ってくれ」

「で? どこ?」

「し、指示する方向に走ってくれ。ま、まずはここから外に出よう」

「いいよ、じゃ、行こうか。時間もなさそうだし。二人とも、澪達を頼む」

 

 

 

 

 

 目指すは神が封印されたと言われる、場所。そのまま、全員を置き去りにして彼は加速して走り出した。

 

 

 

「ちょ、!? い、痛いんだが!? 引きずるな!!!」

 

 

 

 ──教祖を地面に引き摺りながら。

 

 




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