【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ   作:流石ユユシタ

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第77話 黎明の独白

 俺は今、光の明日という宗教の本拠地にいる。そして、さっきまで戦っていた教祖を引きずっていた。

 

 角を掴んで進むたび、教祖の大きな体が床の上を擦れていく。たまに壊れた椅子とか、信者の人に引っかかるので、その時は少し持ち上げないといけない。

 

 

 他の面々を置いて、俺は一人で出発をした。蓮と紅も一緒に連れて行くか迷ったけど、澪を守っててほしいし、置いてくことにした。

 

 そう言えば、澪は両親の近くにいたなぁ。色々あったんだろうけど、心配してる感じを見るとやっぱり家族なんだろうなぁ。

 

 

──あんまり感覚分からんけども。

 

 俺の前の両親も、宗教を信じていた。

 

 毎日、経典を読んでいたし。水に入って何時間も祈ったり、食べ物に変な液体をかけたりしていた。

 

 家族全員で正しい道を歩むんだ、と言っていたな。俺が嫌がると、何も分かっていないと言われた。

 

 お前のためなんだとも。

 

 だから、澪の両親が澪に酷いことを言っている時、少しだけ前のことを思い出した。

 

 あの二人も、本当は俺を嫌いだったわけじゃないのかもしれない。色々と良い方向になって欲しいと思っての行動だったのかも……なんて、思いながら教祖を引きずって走る。

 

 

 

「いてぇ、いて! いたいっ!!」

「澪の両親はもっと痛かったよ」

 

 

 

 

 気にしないで、走り続ける。まぁ、引きずってるだけだし、問題ないでしょ。偶に腕を伸ばして攻撃をしようとするけど、軽く拳で当てておけば大人しくなる。これを何度も繰り返せば、教祖は何もしなくなった。

 

 

 

 

 なるほど。これがテイムか。

 

 

 

 

 あんまり成功した感覚なかったけど、これがモンスターをテイムか。なるほどね。ボコボコにして攻撃が通用しないと分からせればいいのか。

 

 

 さて、少し脱線したか。俺は前の両親には、もう会えない。会ったところで、何を話せばいいかも分からないけど。

 

 

 ただ、澪みたいに、宗教から両親が離れたら、また一緒にいたいと思うのだろうか。

 

 

 全部を水に流して、ご飯とかを食べたりとか、一緒に出かけたりとか。したいって考えるのかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ、考えても無駄だよね。俺は一回死んで、別の世界に来てしまったから。

 

 

 考えても無駄なことを考えるのって意味ないよね。今の俺は成長をするのが楽しくて、皆んなでワイワイすることに充実感を感じてる。

 

 それが全てだよね。

 

 

 冒険者ギルドとかもどうなって行くのか楽しみだし。次々と仲間が増えて行くのも楽しい。友達、と言えるか分からないけど、蓮とか偶にゲームしたりするし。おじさんとかも、麻雀教えてくれたりするし。

 

 詩は胸が……一緒に風呂入ったりするし。祈はデート誘ってきたりして、恋愛みたいな感じして楽しいし。

 

 

 志乃も一緒に出かけたりで楽しいし。

 

 

 ハッピーで楽しい。だから、これでいい。今これが楽しいってことで。

 

 

 

 でも何よりも楽しいのはモンスターを倒した時だ。自分が成長をしてるという感覚が何よりも面白いのだろう。

 

 

 他にも仲間が成長をしているという時もなんだか嬉しい。やっぱり、全員がレベルアップして行くのがゲームでも面白いしね。

 

 

「いてぇ!! いたぁ!!」

 

 

 引きずられた教祖、また痛いとか言っているがだいぶ人を殺したりしてるだろうし。同情はない。

 

 

 おっと、また話がそれたか。まぁいいか。それにしても、この教祖は経験値が少なそう。まだまだ強くなれるし、改善点も多いからな。

 

 

 現時点で強い方とは思うけど、無敵かと問われるとなんとも言えないところがある。もしかしたら、負ける相手もいるかもだしね。

 

 

 

 

 例えば……じーちゃんの山にいた、あのモンスター。一瞬だけ、相対してほぼ戦ってない。

 

 

 でも、あの時は明確に敗北のイメージが湧いたな。あっちも、戦う気がないのか、見逃すそぶりだったけど。

 

 

 あのモンスター、今なら狩れるかな。でも、やっぱ問題なのはあそこはじーちゃんが居るし、ばーちゃんも住んでる。余波が行くってなると、またある程度抑える可能性だってあるし。

 

 

 山が吹き飛んで他の場所が被害にあるとかあるかもだしねぇ。

 

 

 あのモンスター。どれくらいMPがあるのか、正直分からなかった。それに、あれはMPの量だけが多いモンスターでもなさそうだし。

 

 

 純粋な技量勝負ってなったら、今でも手こずるかも。周りの被害とか一切考えなければ、勝てるとは思うけど。

 

 

 いや、あっちも隠し玉があるかも。あいつ、今まで感じたことのない感じがしたんだよねぇ。スザクは前に、山人喰いみたいな、こと言ってたか?

 

 

 美術館のモンスターの方が霊力は圧倒的に多かった。だけど、あの山のモンスターと美術館のモンスターが戦えば、前者が勝つだろうと思う。

 

 

 小さい時だったから、そう思うだけかもだけど。まぁ、どちらにしても、もっと強くなりたいし、もっと強いモンスターに勝ちたい。

 

 

 まだまだレベルの上限は見えない気がするしね。なんて考えたら、封印場所に到着した。

 

 

 

「ここでいいんだよね?」

「あ、あぁ……こ、ここだ、です」

 

 

 

 

 気づけば敬語を使ってるモンスター。なるほど、これがテイムしたってことか。そして、俺が辿り着いたのは、

 

 

 

 大きな山だった。京都にこんな山があるとは、確かに邪悪なMPが満ちてるね。

 

 

 

 

◾️◾️

 

 黎明がたどり着いたのは大きな山だった。そこの山全体から、邪悪な霊力が漏れ出している。

 

 

「ここでいいんだよね?」

「あ、あぁ……ここ、です」

 

 

 いつの間にか、教祖は敬語を使うようになっていた。その様子を見て、黎明はやはりテイムをしたと確信をする。

 

 

 

 

 

(なるほど。これがテイムしたということか)

 

 

 

 黎明は少し満足した。

 

 

「封印されてるモンスターは、山の中?」

「地下に大きな地底湖があります。その中央に、神が封じられておりまして」

「どうやって入るの?」

「山の裏側に入口があります」

 

 

 

 黎明は山の奥へ意識を向けた。その周囲に、人間の霊力が三つある。

 

 

 

「あれ?」

「ど、どうしました?」

「中に誰かいるね」

「それは、恐らく私の手下かと、封印を解くように指示をしてましたので」

「あ、そうなんだ」

「陰陽庁から盗んだ霊具などが、ここの鍵でして。それを持ってきて今まさに解放をしてるのかと」

「あ、そう」

 

 

 教祖が顔を上げた。山の地下から、低い振動が伝わってくる。

 

 

 

 

「案内を続けて」

「……はい」

 

 

 教祖の角を掴んだまま、山の斜面を進む。しばらくすると、大きな岩に隠された洞窟が見つかった。

 

 そして、その奥から、さらに強い霊力が漏れていた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 山の地下には、巨大な地底湖が広がっていた。黎明と教祖が辿り着いた時、封印を解く儀式は最後の段階に入っていた。

 

 湖の中央に小さな島がある。そこには三本の石柱が立ち、その中央へ人の形をした水が封じられていた。

 

 透明な体には黒い鎖が巻きつき、胸には一枚の鏡が埋め込まれている。そして、それぞれの石柱の前には、白い服を着た信者が一人ずつ立っていた。

 

 

 三人とも、陰陽庁から奪った霊具を手にしている。

 

 

 

 一人は、細長い金属製の杭。一人は、古い勾玉。そして、最後の一人は、幾重にも札を巻かれた小さな鏡を持っていた。

 

 

「教祖様!」

 

 

 信者の一人が、教祖の姿に気づいた。

 

 

「ご無事でしたか!」

「無事に見えるか?」

 

 

 黎明に角を掴まれ、床を引きずられている。教祖は一度黙った。

 

 

 

「い、いえ。しかし、封印はもう解除されました!!」

 

 

 

 

 そう信者が言うと、一斉に三本の石柱と、それぞれの霊具が砕けた。同時に、封印の中央にある水の人型が顔を上げる。さらに、胸に埋め込まれていた鏡へ、最初の亀裂が走った。そこから亀裂が広がっていく。

 

 

 

 

「あれが、復活させたかったモンスター?」

「そ、そうです! 罔象大神(みつはおおかみ)! 人間の悲しみを全て水へ流す、救済の神!」

「へぇ、あれを支配しようとしてたと言うわけね。あの金の糸で」

「は、はい」

「ふーん、あれじゃ、無理と思うけど。まぁ、さらにあれの子供を澪に産ませようとしてたわけね。どちらにしても、無理だったと思うけどさ」

「で、でも、可能らしくて」

「なんで言いきれるの? 誰かに言われたの?」

「え、えとはい。以前に、黒いローブをした存在、おそらくは怪異だとは思うのですが、そう言われて」

「あ、そう。じゃあ、その人は嘘つきだね。あれじゃ、テイムは無理だよ」

 

 

 黎明はこの教祖では、目の前の怪異を支配するのは不可能であると悟った。それほどまでに霊力が大きいからだ。

 

 今封印が解かれ、あたり一面に霊力が広がっている。同時に、地底湖から全ての水が消えた。

 

 

「お?」

 

 

 湖の水が、中央にいる神へ向かって吸い込まれていく。水位が急速に下がり、数秒後には、濡れた岩肌だけが残った。

 

 吸収した水によって、人型の体が膨れ上がる。封印されていた時には教祖より少なかった霊力も、際限なく増え始めた。

 

 

 

 

 

「おお、中々のMPだね」

 

 

 

 罔象大神の透明な体へ、人間の顔が浮かんだ。

 

 

 

 

『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️ッ!!!!!』

 

 

 

 罔象大神が、あたり一面が崩れると思うほどの咆哮を放つ。まるで、理性など最初から持ち合わせていないようだ。

 

 

 

 

「やっぱり、これ支配とかするの無理だったんじゃない」

「そ、そうですね。一目見て思いました。これは無理です」

「でしょ。嘘つかれてたんだね」

 

 

 

 

 教祖も神格の怪異を目の前にして、これを制御するのは不可能と思ったようだ。

 

 

 そして、怪異が放った咆哮により。水が大量に再び出現する。それがすごい勢いで足元に迫っていた。

 

 そして、流れが急となり、三人の信者が濁流へ呑み込まれた。

 

 だが、黎明は近くにいた三人を結界に入れて水が届かないようにする。そして、そのまま教祖の角を掴み飛んだ。

 

 

 

「ぐえっ!」

「ちゃんと掴まってて」

 

 

 

 水が岩壁へ衝突した。地底湖の壁と天井が一瞬で砕け、山全体が崩れ始める。

 

 その間を縫うように、黎明は教祖を連れて地上へ跳んだ。崩落する岩の間を抜け、山の頂上近くまで飛び上がる。

 

 空中で体勢を整えた時、一滴の雨が黎明の頬へ落ちた。

 

 

「ん? 雨か」

「こ、これは……救済の雨」

「どういうこと?」

「全てを罪を埋める、神の救済の雨のことです。このままいけば、すぐに日本も水に埋まるでしょう」

「ふーん」

 

 

 続けて二滴。三滴。瞬く間に雨脚が強くなった。そのまま周囲の景色が見えなくなるほどの豪雨へ変わる。

 

 先ほどまで晴れていた空は、山だけではなく京都全体を覆う黒雲に塞がれていた。

 

 

「雨を降らせるタイプか」

 

 

 黎明は右手を空へ向ける。掌の先に炎が集まり、巨大な火球へ変わった。

 

 

「フレアボム」

 

 

 火球が上空へ飛ぶ。それは黒雲の中で爆発し、炎と衝撃が空を円形に吹き飛ばした。

 

 雲へ大穴が開き、青空が姿を見せる。それによって、雨が止まった。

 

 

「これでいいかな」

 

 

 しかし、数秒後。吹き飛ばされた雲が、何もない空間から再び湧き始めた。そして、開いた穴を埋め、また雨が降り出す。

 

 

「あれ?」

 

 

 黎明はもう一度、空へ炎を放つ。黒雲が吹き飛び、雨が止まる。だが、すぐに新しい雲が生まれた。

 

 三度目。今度は、先ほどより広い範囲を焼き払った。山の上にあった雲が全て消え、離れた空まで青くなる。

 

 それでも雨粒は止まらない。空中へ水が生まれ、その場で新しい雲を作っていた。

 

 

「何度消しても、また出てくるのか。これ、あのモンスターの能力?」

「は、はい。救済の雨は、我が神を再び封印しなくては止まりません」

「へぇ。中々の能力だ」

 

 

 黎明が空を見上げている間にも、雨は降り続けていた。これにより、山道を流れる水が川へ変わる。

 

 斜面を下る水は木々と土砂を巻き込み、光の明日の居住区へ押し寄せていく。さらに、山を下った先にある川も急速に増水していた。

 

 川は堤防を越え、道路へ溢れ出す。地下へ続く入口にも水が流れ込み、停車した車の半分が沈んでいく。

 

 それでも豪雨は一切弱まらない。僅かな時間で、京都の盆地へ水が溜まり始めた。遠くから見れば、町の中に巨大な湖が作られていくようだった。

 

 

『◾️◾️◾️ッ!!!』

 

 

 冠水した道路の水面から、罔象大神が現れた。姿は人間に近い。しかし、その透明な体から漏れる霊力は、封印されていた時とは比較にならない。

 

 

 

 

「このまま行くと、京都が沈んじゃうかも。さっさと倒さないとかな」

 

 

 

 

 

 罔象大神が黎明を見る。ほぼ理性がない化け物であるが、目の前の存在が強者であることは本能で感じ取っていた。

 

 

 

 罔象大神の周囲で、水が大きく波打った。豪雨の中、黎明と罔象大神が向かい合う。

 

 

 

 互いの霊力が高まり、二人を中心に周囲の水が大きく揺れ始めた。




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