【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ 作:流石ユユシタ
俺は今、光の明日という宗教の本拠地にいる。そして、さっきまで戦っていた教祖を引きずっていた。
角を掴んで進むたび、教祖の大きな体が床の上を擦れていく。たまに壊れた椅子とか、信者の人に引っかかるので、その時は少し持ち上げないといけない。
他の面々を置いて、俺は一人で出発をした。蓮と紅も一緒に連れて行くか迷ったけど、澪を守っててほしいし、置いてくことにした。
そう言えば、澪は両親の近くにいたなぁ。色々あったんだろうけど、心配してる感じを見るとやっぱり家族なんだろうなぁ。
──あんまり感覚分からんけども。
俺の前の両親も、宗教を信じていた。
毎日、経典を読んでいたし。水に入って何時間も祈ったり、食べ物に変な液体をかけたりしていた。
家族全員で正しい道を歩むんだ、と言っていたな。俺が嫌がると、何も分かっていないと言われた。
お前のためなんだとも。
だから、澪の両親が澪に酷いことを言っている時、少しだけ前のことを思い出した。
あの二人も、本当は俺を嫌いだったわけじゃないのかもしれない。色々と良い方向になって欲しいと思っての行動だったのかも……なんて、思いながら教祖を引きずって走る。
「いてぇ、いて! いたいっ!!」
「澪の両親はもっと痛かったよ」
気にしないで、走り続ける。まぁ、引きずってるだけだし、問題ないでしょ。偶に腕を伸ばして攻撃をしようとするけど、軽く拳で当てておけば大人しくなる。これを何度も繰り返せば、教祖は何もしなくなった。
なるほど。これがテイムか。
あんまり成功した感覚なかったけど、これがモンスターをテイムか。なるほどね。ボコボコにして攻撃が通用しないと分からせればいいのか。
さて、少し脱線したか。俺は前の両親には、もう会えない。会ったところで、何を話せばいいかも分からないけど。
ただ、澪みたいに、宗教から両親が離れたら、また一緒にいたいと思うのだろうか。
全部を水に流して、ご飯とかを食べたりとか、一緒に出かけたりとか。したいって考えるのかなぁ。
まぁ、考えても無駄だよね。俺は一回死んで、別の世界に来てしまったから。
考えても無駄なことを考えるのって意味ないよね。今の俺は成長をするのが楽しくて、皆んなでワイワイすることに充実感を感じてる。
それが全てだよね。
冒険者ギルドとかもどうなって行くのか楽しみだし。次々と仲間が増えて行くのも楽しい。友達、と言えるか分からないけど、蓮とか偶にゲームしたりするし。おじさんとかも、麻雀教えてくれたりするし。
詩は胸が……一緒に風呂入ったりするし。祈はデート誘ってきたりして、恋愛みたいな感じして楽しいし。
志乃も一緒に出かけたりで楽しいし。
ハッピーで楽しい。だから、これでいい。今これが楽しいってことで。
でも何よりも楽しいのはモンスターを倒した時だ。自分が成長をしてるという感覚が何よりも面白いのだろう。
他にも仲間が成長をしているという時もなんだか嬉しい。やっぱり、全員がレベルアップして行くのがゲームでも面白いしね。
「いてぇ!! いたぁ!!」
引きずられた教祖、また痛いとか言っているがだいぶ人を殺したりしてるだろうし。同情はない。
おっと、また話がそれたか。まぁいいか。それにしても、この教祖は経験値が少なそう。まだまだ強くなれるし、改善点も多いからな。
現時点で強い方とは思うけど、無敵かと問われるとなんとも言えないところがある。もしかしたら、負ける相手もいるかもだしね。
例えば……じーちゃんの山にいた、あのモンスター。一瞬だけ、相対してほぼ戦ってない。
でも、あの時は明確に敗北のイメージが湧いたな。あっちも、戦う気がないのか、見逃すそぶりだったけど。
あのモンスター、今なら狩れるかな。でも、やっぱ問題なのはあそこはじーちゃんが居るし、ばーちゃんも住んでる。余波が行くってなると、またある程度抑える可能性だってあるし。
山が吹き飛んで他の場所が被害にあるとかあるかもだしねぇ。
あのモンスター。どれくらいMPがあるのか、正直分からなかった。それに、あれはMPの量だけが多いモンスターでもなさそうだし。
純粋な技量勝負ってなったら、今でも手こずるかも。周りの被害とか一切考えなければ、勝てるとは思うけど。
いや、あっちも隠し玉があるかも。あいつ、今まで感じたことのない感じがしたんだよねぇ。スザクは前に、山人喰いみたいな、こと言ってたか?
美術館のモンスターの方が霊力は圧倒的に多かった。だけど、あの山のモンスターと美術館のモンスターが戦えば、前者が勝つだろうと思う。
小さい時だったから、そう思うだけかもだけど。まぁ、どちらにしても、もっと強くなりたいし、もっと強いモンスターに勝ちたい。
まだまだレベルの上限は見えない気がするしね。なんて考えたら、封印場所に到着した。
「ここでいいんだよね?」
「あ、あぁ……こ、ここだ、です」
気づけば敬語を使ってるモンスター。なるほど、これがテイムしたってことか。そして、俺が辿り着いたのは、
大きな山だった。京都にこんな山があるとは、確かに邪悪なMPが満ちてるね。
◾️◾️
黎明がたどり着いたのは大きな山だった。そこの山全体から、邪悪な霊力が漏れ出している。
「ここでいいんだよね?」
「あ、あぁ……ここ、です」
いつの間にか、教祖は敬語を使うようになっていた。その様子を見て、黎明はやはりテイムをしたと確信をする。
(なるほど。これがテイムしたということか)
黎明は少し満足した。
「封印されてるモンスターは、山の中?」
「地下に大きな地底湖があります。その中央に、神が封じられておりまして」
「どうやって入るの?」
「山の裏側に入口があります」
黎明は山の奥へ意識を向けた。その周囲に、人間の霊力が三つある。
「あれ?」
「ど、どうしました?」
「中に誰かいるね」
「それは、恐らく私の手下かと、封印を解くように指示をしてましたので」
「あ、そうなんだ」
「陰陽庁から盗んだ霊具などが、ここの鍵でして。それを持ってきて今まさに解放をしてるのかと」
「あ、そう」
教祖が顔を上げた。山の地下から、低い振動が伝わってくる。
「案内を続けて」
「……はい」
教祖の角を掴んだまま、山の斜面を進む。しばらくすると、大きな岩に隠された洞窟が見つかった。
そして、その奥から、さらに強い霊力が漏れていた。
◆◆◆
山の地下には、巨大な地底湖が広がっていた。黎明と教祖が辿り着いた時、封印を解く儀式は最後の段階に入っていた。
湖の中央に小さな島がある。そこには三本の石柱が立ち、その中央へ人の形をした水が封じられていた。
透明な体には黒い鎖が巻きつき、胸には一枚の鏡が埋め込まれている。そして、それぞれの石柱の前には、白い服を着た信者が一人ずつ立っていた。
三人とも、陰陽庁から奪った霊具を手にしている。
一人は、細長い金属製の杭。一人は、古い勾玉。そして、最後の一人は、幾重にも札を巻かれた小さな鏡を持っていた。
「教祖様!」
信者の一人が、教祖の姿に気づいた。
「ご無事でしたか!」
「無事に見えるか?」
黎明に角を掴まれ、床を引きずられている。教祖は一度黙った。
「い、いえ。しかし、封印はもう解除されました!!」
そう信者が言うと、一斉に三本の石柱と、それぞれの霊具が砕けた。同時に、封印の中央にある水の人型が顔を上げる。さらに、胸に埋め込まれていた鏡へ、最初の亀裂が走った。そこから亀裂が広がっていく。
「あれが、復活させたかったモンスター?」
「そ、そうです!
「へぇ、あれを支配しようとしてたと言うわけね。あの金の糸で」
「は、はい」
「ふーん、あれじゃ、無理と思うけど。まぁ、さらにあれの子供を澪に産ませようとしてたわけね。どちらにしても、無理だったと思うけどさ」
「で、でも、可能らしくて」
「なんで言いきれるの? 誰かに言われたの?」
「え、えとはい。以前に、黒いローブをした存在、おそらくは怪異だとは思うのですが、そう言われて」
「あ、そう。じゃあ、その人は嘘つきだね。あれじゃ、テイムは無理だよ」
黎明はこの教祖では、目の前の怪異を支配するのは不可能であると悟った。それほどまでに霊力が大きいからだ。
今封印が解かれ、あたり一面に霊力が広がっている。同時に、地底湖から全ての水が消えた。
「お?」
湖の水が、中央にいる神へ向かって吸い込まれていく。水位が急速に下がり、数秒後には、濡れた岩肌だけが残った。
吸収した水によって、人型の体が膨れ上がる。封印されていた時には教祖より少なかった霊力も、際限なく増え始めた。
「おお、中々のMPだね」
罔象大神の透明な体へ、人間の顔が浮かんだ。
『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️ッ!!!!!』
罔象大神が、あたり一面が崩れると思うほどの咆哮を放つ。まるで、理性など最初から持ち合わせていないようだ。
「やっぱり、これ支配とかするの無理だったんじゃない」
「そ、そうですね。一目見て思いました。これは無理です」
「でしょ。嘘つかれてたんだね」
教祖も神格の怪異を目の前にして、これを制御するのは不可能と思ったようだ。
そして、怪異が放った咆哮により。水が大量に再び出現する。それがすごい勢いで足元に迫っていた。
そして、流れが急となり、三人の信者が濁流へ呑み込まれた。
だが、黎明は近くにいた三人を結界に入れて水が届かないようにする。そして、そのまま教祖の角を掴み飛んだ。
「ぐえっ!」
「ちゃんと掴まってて」
水が岩壁へ衝突した。地底湖の壁と天井が一瞬で砕け、山全体が崩れ始める。
その間を縫うように、黎明は教祖を連れて地上へ跳んだ。崩落する岩の間を抜け、山の頂上近くまで飛び上がる。
空中で体勢を整えた時、一滴の雨が黎明の頬へ落ちた。
「ん? 雨か」
「こ、これは……救済の雨」
「どういうこと?」
「全てを罪を埋める、神の救済の雨のことです。このままいけば、すぐに日本も水に埋まるでしょう」
「ふーん」
続けて二滴。三滴。瞬く間に雨脚が強くなった。そのまま周囲の景色が見えなくなるほどの豪雨へ変わる。
先ほどまで晴れていた空は、山だけではなく京都全体を覆う黒雲に塞がれていた。
「雨を降らせるタイプか」
黎明は右手を空へ向ける。掌の先に炎が集まり、巨大な火球へ変わった。
「フレアボム」
火球が上空へ飛ぶ。それは黒雲の中で爆発し、炎と衝撃が空を円形に吹き飛ばした。
雲へ大穴が開き、青空が姿を見せる。それによって、雨が止まった。
「これでいいかな」
しかし、数秒後。吹き飛ばされた雲が、何もない空間から再び湧き始めた。そして、開いた穴を埋め、また雨が降り出す。
「あれ?」
黎明はもう一度、空へ炎を放つ。黒雲が吹き飛び、雨が止まる。だが、すぐに新しい雲が生まれた。
三度目。今度は、先ほどより広い範囲を焼き払った。山の上にあった雲が全て消え、離れた空まで青くなる。
それでも雨粒は止まらない。空中へ水が生まれ、その場で新しい雲を作っていた。
「何度消しても、また出てくるのか。これ、あのモンスターの能力?」
「は、はい。救済の雨は、我が神を再び封印しなくては止まりません」
「へぇ。中々の能力だ」
黎明が空を見上げている間にも、雨は降り続けていた。これにより、山道を流れる水が川へ変わる。
斜面を下る水は木々と土砂を巻き込み、光の明日の居住区へ押し寄せていく。さらに、山を下った先にある川も急速に増水していた。
川は堤防を越え、道路へ溢れ出す。地下へ続く入口にも水が流れ込み、停車した車の半分が沈んでいく。
それでも豪雨は一切弱まらない。僅かな時間で、京都の盆地へ水が溜まり始めた。遠くから見れば、町の中に巨大な湖が作られていくようだった。
『◾️◾️◾️ッ!!!』
冠水した道路の水面から、罔象大神が現れた。姿は人間に近い。しかし、その透明な体から漏れる霊力は、封印されていた時とは比較にならない。
「このまま行くと、京都が沈んじゃうかも。さっさと倒さないとかな」
罔象大神が黎明を見る。ほぼ理性がない化け物であるが、目の前の存在が強者であることは本能で感じ取っていた。
罔象大神の周囲で、水が大きく波打った。豪雨の中、黎明と罔象大神が向かい合う。
互いの霊力が高まり、二人を中心に周囲の水が大きく揺れ始めた。
【9月12日】
書籍版『救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ』が、9月12日に発売されます!
書籍といえば、やはりイラストですね。
なんと、見本誌が届いたので載せますね。是非見てください。
【挿絵表示】
表紙はもちろん、挿絵もすべて素晴らしいクオリティに仕上げていただいております。さらに、WEB版から一部加筆もしていますので、ぜひぜひ、お手に取っていただけると嬉しいです!
【9月12日発売!】
下に表紙とAmazonの予約ページへのリンクを載せておきますので、気になった方はぜひチェックしてみてください!
【タイトル入り表紙】
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そして、明日も11時更新!! お楽しみに!