オーバーロードの、あの自然ある異世界に行くはずだった。
自然をほとんど失ってしまった現代で、格差が広がりすぎた社会で。それでもマシな小卒という肩書を得て、生きていた。
一人で寂しく生きていくのかな?両親を亡くした、そう思っていた矢先に“ユグドラシル”というゲームが発売される。
ユグドラシルはDMMO-RPGという、仮想世界で現実にいるかのように遊べる、体感型ゲームだ。
私はピンッときた!
あのオーバーロードというダークファンタジーな小説世界に生まれたのだと。ならば、ユグドラシルをプレイし続けていれば、サービス終了時には異世界に転移できる。
こんな、両親すらもいなくなってしまった世界に未練はない。
私は早速、ユグドラシルをプレイする。
初日。
異形種を選んだ。ドッペルゲンガーだ。色々な種族になれるところが、魅力的だった。
それとオーバーロードの主人公にあわよくば会ってみたくて……主人公はスケルトンを選ぶから、接点はあった方がいいと思ったんだ。
一ヶ月後。
異形種狩りが流行った。職業のランクアップに必要だから、と私も狩られた。
別にそこら辺のフィールドにポップするモンスターを狙えばいいのに、わざわざプレイヤーキルを選ぶんだからタチが悪い。
一週間も狩られて、流石にユグドラシル引退の文字が頭に浮かんだ頃、強いプレイヤーに助けられた。
――白銀の昆虫騎士か?
いや、あれは……!
「助けるのは、当たり前!」
真っ赤な昆虫騎士だ。
話してみると、たっち・みーというプレイヤーに助けられたから、その人を真似ているんだとか。
「君も、ナインズ・オウン・ゴールのファンクラブに入らないか?」
「入ります」
「いい即答だ」
私たちはニコニコと笑うエモーションを、ピコンと頭上に出した。
一年後。
まずはレベル上げ。強くならないと素材集めにも行けないゲームだから、クランの仲間たちの力を借りつつレベルを順調に上げていく。
時々、ナインズ・オウン・ゴールへと貢いだりした。
無事にオーバーロードの主人公、モモンガさんにも会えたよ!個人的に金貨を貢いでおいた。驚かれちゃった。
五年後。
クランのナインズ・オウン・ゴールから、ギルドのアインズ・ウール・ゴウンへと変わる。
私たちのクランも、数年前よりも人が多くなっていた。
増えた人数分、たくさん貢物を集められるわけで。
前より貢いでます。楽しい!
さらに三年後。
色々あったよ……。
アインズ・ウール・ゴウンの度重なるDQN行為で、ヘイトが集まり過ぎた為に起きた事件。
ユグドラシルプレイヤー千五百人が、アインズ・ウール・ゴウンの拠点に攻めてきたのだ。
まあ、そちらはなんとかなったんだけど。こちらにもユグドラシルプレイヤーが攻めてきて……。
結果耐えられませんでした。
ほとんどのクランメンバーが、拠点が潰されたこの時期に辞めていった。
心が折れたみたい。寂しいなあ。
数年後。
私だけになったファンクラブ。モモンガさんだけになったアインズ・ウール・ゴウン。
一緒に金貨集めに回る日々は、案外楽しかった。
私たちの友情は深まった。ユグドラシルがサービス終了しても遊ぼうと約束するほどに。私は嬉しかった。この世界に未練ができた。
サービス終了時。
私は、一人でクランの拠点にいる。NPCすらもいない、私だけの拠点。
アイテムを保管していて、金貨すらもあったけれど、私は拠点の外に出た。
異世界への転移時、拠点の中にいれば拠点ごと転移できる。しかし建物の外にいた場合は、アイテムボックスの中身を持っていけるとはいえ、身一つで転移する事になる。
私はこの身一つで転移する事に決めた。
異世界でめちゃくちゃ困るかもしれない。でも、大切な物は……貴重なレアアイテムは、すでにモモンガさんへ渡してある。
無くして困る物は、この身以外なかった。
今頃、モモンガさんは拠点の玉座に座っているだろう。彼の仲間たちが創り上げたNPCたちと一緒に、今を過ごしているはずだ。
「――あっちでも、仲良くしてくださいね。モモンガさん」
00:00:00――
目を閉じる。
視界は暗くなった。
――――――
目を開けると、一面の雪景色だった。
驚いて、辺りをキョロリと見回す。どうやら雪山にいるらしい。
今は冬なのかな?転移は成功したの?
成功ならば、モモンガさんとの転移時期はズレているな……。そもそもモモンガさんの拠点近くとは限らないし……。
顎をさする。その時、手が見えた。私の手。人間じゃない、真っ黒で針のように細い手。
体を見る。白と赤のドレスだ。肌をほとんど隠している。お気に入りのドレス。
帽子を被っている。白でつばが広くて、すっぽりと白の薄いベールを被り、体全体を包んでいる。前側だけは左右に割って、邪魔にならないように左右の端でベールを留めていた。
ユグドラシルでの、私のアバター姿だった。
課金して、普通のドッペルゲンガーの姿……黄色の肌
、顔に凹凸はなく目と口の窪みがあるだけ、異様に長い指、全体的に毛はまったく生えていない……そんな姿とは違う私。
全身真っ黒なのだ。マネキンの色違いのように。顔に目と口の窪みがあるはずだが、真っ黒の為か何も見えない。
うん。私だ。
人間に会ったら、変身して人間のフリしないとね。
寒さをものともせず……アイテムによって冷気、吹雪耐性は身についている……私は空に浮き上がろうとして、子猫の鳴き声を聞いた。
ナー……ナー……。
こんな雪山に?
寒さで凍えてしまったら、後味が悪い。だから、私は【飛行】で空を飛び、声のする方へ向かった。
魔法は使える。良かった。
粉雪が降ってきた。私は衝撃のまま立ち尽くしている。
まだ若い女性が、赤ん坊を抱いたまま座っていた。
――息は、していない。
私は真っ白な雪の上に降り立ち、赤ん坊だけを抱き上げる。
赤ん坊はまた泣いた。白い息が上がる。
「……お子さん。お預かりします」
どうか、安らかに。
私はまっすぐ飛び上がり、遠くに見えた灯りを頼りに、人里を目指した。