ポケモン判定された異形種   作:紅絹の木

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雪山にて

 

 

 ある日の朝。

 お許しが出たので、朝から病院にお邪魔する。

 いつも対応してくれるイエッサンに導かれて、赤子がいる部屋に向かった。

 

 いつもは静かなその場所に、男女の人間がいる。二人ともスーツ姿で、動きやすそうだ。

 彼らは赤ちゃんを見ていた。何かを話しているようだ。相変わらず話の内容はわからない。

 私は、他の赤子のご家族かな?と思った。

 

「ねえ、イエッサン。私、このまま赤子を見に行ってもいいのかな?あの人間たち、私を怖がらないかな?」

「大丈夫よ。……話を聞く限り、あなたに用があるみたいだし」

「私?」

「とにかく行ってみましょう」

 

 男女に近づくと、二人は私に気づいた。

 一瞬、ギョッと目を丸くさせた。だけどすぐに鋭く私を観察する。

 それから男性の方が声をかけてきた。ダンディな低めの声だ。何を言っているのか、さっぱりわからない。なので隣にいるイエッサンに話しかける。

 

「彼はなんて言っているの?」

「かいつまんで要点を話すと、どこから赤子を連れてきたのって聞いているわ」

「そう。近くの雪山から助けたって伝えたいんだけど、どうしよう……」

「ちょっと待ってて。ホワイトボード借りてくる」

 

 すぐにイエッサンが、大きなホワイトボードをガラガラと押してきた。

 ペンを渡されたので、雪山を描いた。山と上から降ってくる小さな丸。これで伝われ。

 

 男女の顔色が悪くなった。雪山が描かれたホワイトボードを見て、何やら話し込む。

 イエッサンが通訳してくれた。

 

「雪山かなって。レンジャーの力が必要になるかもって。もう赤子の親は……」

「死んでたよ」

「……そう、なのね」

 

 イエッサンの顔色も悪くなっちゃった。

 友達の調子が悪くなるのはやだなあ。言葉、もう少し選べばよかったかな。

 

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 

 スーツ姿の男女が病院に来た日から、二日後。

 最近は、町に近い山の洞窟で夜を過ごしていた。自分で作った洞窟は、案外心地いい。

 ドレスや帽子は汚れても大丈夫なように、元から汚れがキレイになる魔法が付与されている。

 今日も魔法が発動して、装備品は新品同然になった。

 

 朝になったら病院の中庭に行く。

 いつものベンチに座って、いつも病院を案内してくれるイエッサンを待った。

 いつもなら朝の十時に来るイエッサンが、今日はすぐに来てくれた。

 後ろにはスーツ姿の男女がいる。二日前に会ったあの二人だ。今日はなんだかスキーウェアのような、目立ちつつ暖かそうな服を着込んでいた。

 

「おはよう」

「おはよう。イエッサン、今日は早いね」

「うん。あの二人がね、赤ちゃんを見つけた場所まで案内して欲しいんだって」

「……私の都合は?」

 

 せっかく赤子に会いにきたというのに、これでは台無しではないか?

 イエッサンは困ったように言う。

 

「ごめんね。昨日、あなたが帰る前に伝えられたら良かったんだけど……」

「急に決まったの?」

「そうみたい。どうする?断ることもできると思うけど」

「うーん。案内が終わったら赤子に会える?」

「面会時間内に会いに来るのは、大丈夫だと思うよ。時間が過ぎたらダメだけど」

 

 最悪、今日は案内だけで終わって赤ちゃんには会えないかもしれないと……。

 やだあ。

 嫌なことはさっさと済ませるに限る。

 私は彼らを案内することにした。

 

 念の為、イエッサン以外のポケモンとも意思疎通が取れるのか確認されてから、私と大人二人は出発する。

 私がこっそりと【飛行】の魔法を自身にかけて、上空へ飛ぶ。空中で待っていると、二人もそれぞれポケモンに乗って、ついてきた。

 女性はムクホーク、男性はカイリューだ。

 私はとりあえず、話ができるポケモン側に挨拶をしておく。

 

「初めまして、案内役です。どうぞよろしく」

「――ムクホークだ。よろしくな」

「俺は可愛い可愛いカイリューだ。よろしく」

 

 私とムクホークは固まった。

 違う。それ名前じゃなくて、つい口から出ちゃうやつ。

 スルーしようと思ったが、ムクホークが親切心からか言った。

 

「可愛い可愛いは、名前の部分ではないと思いますよ」

「え!?」

「だってバトルの時、可愛い可愛いカイリューとは、呼ばれないでしょう?」

「た、確かに……!」

 

 カイリューは顔を赤くした。しかし飛行にブレは出ていない。

 人との飛行は慣れている様だ。

 私はフォローをいれておいた。

 

「ま、まあ、いつも呼ばれていたら間違えますよ」

「そうだよな!」

「そうですよね!さあ、雪山へ急ぎましょう!」

 

 どうやら雪山に行く事は、トレーナーから聞かされていたらしい。

 ならば話は早い。

 私は二匹と二人を案内した。

 

 

 

 

 

 程なくして、雪山の影になっている場所で、それはあった。

 トレーナー二人は何かに祈るように頭を軽く伏せて、それから前を向いた。

 女性はどこかに電話して、男性は遺体を寝かせて何かを探し始めた。……身元がわかるものを探しているのかな?

 そういえば初めてここに来た時、荷物とか周りにあったか?……探してあげるか。

 周囲を警戒しているムクホークとカイリューに、声をかけた。

 

「遺体の荷物を探してくる。少し離れるね」

「わかった。いってらっしゃい」

「ここら辺のポケモンは強い。気をつけて」

「ああ、ありがとう」

 

 まずは人間から距離を取る。

 声が聞こえない程、十分に離れたら魔法を発動する。

 

 〈道具探知〉

 

 これは、自分を中心に半径一キロ圏内に落ちているアイテムの場所がわかる……というものだ。

 いくつか反応があったので、近場から飛んで向かった。

 

 

 

 

 見つかったアイテムは様々だった。

 女性用のショルダーバッグ、トレーナーカード数枚、ゴミが数点、未使用と思われる道具が数点、ポケモンを進化させる石が数個。

 全てをアイテムボックスに放り込み、再び遺体があった現場に戻る。

 

 遺体の上空にはヘリコプターが飛んでいた。

 そして地上から、人の大きさほどある赤い袋を、どんどんヘリコプターの中へと引き上げている。

 私はその作業が終わるまで、離れた場所で見ていた。

 赤い袋はヘリコプター内に積まれ、ヘリコプターは町の方へ飛んでいった。

 

 ヘリコプターの姿が小さくなってから、トレーナーたちとカイリューとムクホークの前に出た。

 人間たちから何か言われるが、さっぱりわからない。

 だから、カイリューとムクホークに通訳を頼んだ。

 

「遅くなりました。……あの、人間たちはなんて?」

「多分どこに行っていたのか、聞いているんだ」

「本当にどこまで行っていたんだ?」

「色々見つけたので、拾って来ました」

 

 カイリューとムクホークが、私を観察する。

 

「ふうん?何も持っていないが?」

「しまっていますから。後で見せます」

「わかった。それじゃ、仕事も終わったし帰るか」

 

 今度は、人間を乗せたカイリューとムクホークたちが先頭となって、私たちは山を飛んだ。

 

 

 

 どうやら目的地は病院だったらしい。ヘリコプターが降りている屋上には、ポケモンたちが乗り降りする広い場所があって、そこに私たちは降りた。

 

 時刻は……まだ夕方前だな。良かった。赤子に会えるぞ。

 とりあえず荷物をトレーナーたちに預けようか。

 

 雪山へ運んでくれたカイリューとムクホークを労わるトレーナーに近づく。

 二メートルほど離れた場所で、私は止まった。

 彼らがこちらを向く。私は空中に手を伸ばし、アイテムボックスに手を入れた。

 そして雪山で見つけた物を、全て足元に置いていく。

 

 トレーナーたちはギョッと驚き、慌てて駆け寄って来た。すぐにしゃがみ込んで、まずトレーナーカードを持ち上げる。

 何やら騒がしくなってきたが、私の仕事は終わったので、病院内へと入っていく。

 さあ、赤子に会いに行こう。

 

 

 

 

 階段を数階分降り、途中で朝も会ったイエッサンに案内され、私は赤子がいる場所に到着する。

 ガラス越しに赤子を見ようとして……左奥に誰もいなかった。ありゃ?

 

「今、検査しでもしているの?」

「多分ミルクの時間じゃないかしら?」

「あ〜……。待っててもいいかな?」

「大丈夫だと思うわ」

「じゃあ、待とうかな」

 

 ガラスの向かい側には、五人ほどが座れるソファがある。そこに私は座った。

 

「イエッサンも座ろうよ」

「そうね。ねえ、雪山で会った事、教えてくれる?」

「いいよ。と言っても、大した事はしていないけれど」

「私にとっては十分、冒険だわ」

 

 

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