ルミナステラ - 西伯令嬢は思い込みで突き進む! - 作:千里亭希遊
①四十億年程の未来
彼女は思い至った。
こんなの絶対真のヒロインが出てきて婚約者に裏切られて死ぬルートしかない悪役令嬢っていうアレだ。
(……でも)
セレア・レア・コー・イ・ヌールは、気分を撃沈させ、そのまま諦めた。
(わたしを殺したいやつがいるならもうどうぞお好きにだわ……)
他人とごちゃごちゃとこじれて嵌められるなんていう、疲れることはもう御免だった。
物語の中でそういう役割をこなさなければいけないくらいなら、暗殺あたりでとっとと退場したい。
彼女はそう思いながら盛大にため息を吐く。
(こんな現世なら、前世の記憶なんて思い出したくなかった)
前世はそれなりに賢いアタマは持っていたようなのに、やることなすこと全方向で性悪女に嵌められて人間関係が破綻し、精神を壊して働けなくなって、家族のすねをかじるしかできないまま老いて死んだ。
いっそ、そんな事態になる前に事故だのなんだので死んでいたかった。でも命だけは大切にされる世界だったのだ。心も尊厳もなにも保てなくても、死ぬことは赦されなかった。
生きているだけで税金を取られるから、社会復帰しなければと懸命になって働き出すと、性悪女のせいでますます精神を病み、再度働くことができなくなる。
それを繰り返していたせいで、『働いたことがあるのだからまた働けるはずだ』と判断されていたのか、障害年金の申請がしたいと弱音を吐いたら心療内科医は渋面になるだけだった。
そんな絶望の中本当に大量に睡眠薬を飲んだのに、何故か死ねなかった。
胃の洗浄すらせずに、数日で自分という意識が戻ってきた。
しかも毎日ちゃんと起きて食べて寝るなど動いていたらしい。
おかげで家族は様子が変だと思いつつも病院に連れていくことさえしなかった。
そんなだったから心療内科の先生もまったくその自殺未遂を重く見てくれなかった。
服用していた薬が強いものだったおかげで耐性があったんじゃないのと嗤ったやつがいた。
そうだったのかもしれない。彼女はもう自殺を考えることも無駄でしかないと虚無に包まれた。
そんなの思い出して何になったと? ただ苦しいだけだった。
賢いアタマというのも学歴がそこそこだったというだけ。
精神が壊れて引きこもるしかできないうちに、勉強した知識なんて失われていくのだと黄昏る。
しかも、学歴がそこそこだった中でも、特殊な技術や知識を育てられていない残念な分やにあたる。
学校で勉強することに必死になるしかできなくて、他で己を充実させる余裕なんて持てていなかった部類の人間。
だから現世で知識チートなんてことをできるわけでもなかった。
まだファンタジックな世界でチートな魔法力を持って転生させられたとかの現世だったら、彼女は前世を反省しつつまともな人生を送れたかもしれない。
しかし、今居るのは科学の結晶である宇宙船の中なのだ。
現世の彼女が足掻ける要素はほんの少しも存在しない。
どうやら地球は、太陽が赤色矮星になっていく時期を迎えたらしく、生き物が住める環境を失ってしまったらしい。
それで人類は新たな環境を求めてこうして宇宙を漂っているのだ。
前の彼女が生きていた時代、こうなるまでには四十億年以上かかると言われていた。
だから、現世はそれ以上の未来なのだろう。
この宇宙を漂う箱舟は、このまま他の惑星に辿り着かなくても人類はいつまでも生きていけるのではと、そう思えるほどのモノ。
そんなものを作り出した程の技術を持つはずなのに、人々が纏う衣服や、建築様式、そのあたりの色々はまるで、彼女が生きた時代に中世と言われていたヨーロッパのような様相を見せている。
技術や文化が進みまくっているせいで何かが退行しているのか、もしくはかの時代の文化に憧れるミーハー心が人々に浸透していて、あえてそういう文化をその技術力で再現しているのか。
人々は王族や貴族や平民という身分を演じている、しかも本気の本気で。
そういう体制以外に効率的な人類の運営というものがあるのを知らない文明ではないらしいのに。
だから爵位なんてものもあり、上層の者は疑似国家を動かす義務を所持している。そして豪華な生活を送っている。
平民の方も飢えて死ぬようなものをはじめとする厳しい環境はないし、生活水準も低いものではなさそうだ。
衛生周りも完璧で、娯楽なんてごまんと存在している。
多分テレビだのゲームだの漫画だの、ああいうものやそれの進化したものを満喫できるような環境さえあるようだ。
ただし貧しさはなくともある程度質素な生活を送ることになるらしい。
そしてその身分というのは生まれで決められてしまうものだから、ある程度個人が不満をかかえていることもあるようだ。
こんなよくわからない
そして婚約者は第一王子。
こんなの本当に、そのうち平民出身の宇宙の歌姫とかに殺されるに決まってる。
彼女はマイナス思考の沼にいた。