ルミナステラ - 西伯令嬢は思い込みで突き進む! - 作:千里亭希遊
1.少しずつ
「……言っておくが、お前みたいな田舎者、絶対に愛さないからな」
冷たい表情でそう言った殿下に内心でぽかんとしてしまう。
いきなり何を仰るのだろう?
さすがに悪意を向けられていることは分かるから、少しショックで胸が痛む。
同時になにかデジャビュのようなものも感じて、私はこの程度で動揺するものなんだなあ、とどこか他人事に思った。
「私はいつか真実の愛を見つけるのだ」
その言葉で一気に色々と馬鹿らしくなる。
もしかしてこれは
だったら大好きなのだけれど。少しわくわくしないこともないかもしれない。不謹慎かしら。
しかし、王位継承権第二位と、正真正銘王族でいらっしゃるのに夢見がちにも程があるのではないかしら?
これは勢力図を元に決められた政略結婚というやつだ。個人の感情なんて微塵も入る余地がないのに。
というか辺境伯家を田舎者だなんて。
東西南北を守る各家は居るべくしてそこに在るのに。一体何だと思っていらっしゃるんだろう。
そんな驚きや失望やモヤっとした色んなものを全て呑み込んで、私は微笑む。
「私もそのようなものを見つけてみたいですね。できれば、殿下と」
繰り返すけど、政略なのだから個人の感情なんて微塵も入る余地はない。
けれど譲歩は必要だ。
何で
できるだけ穏便に持っていかなければ。
しかし殿下はフンと鼻を鳴らした。
「来年学園に入学するというのにお前のスフィアは未だに初期状態の真っ白じゃないか。舐めてるのか? 色々と自覚が足りない証拠だ。田舎でぬくぬくと育った無能など押し付けられるのはごめんだ」
散々な言いようにさすがに目を丸くしてしまう。
確かに私の随伴AIの進化は謎に遅い。でもそれだけで決めつけられたのなら心外すぎる。まだお互い五歳なのに。今の時点で何を判断できるのかしら。
「外見ばかり独特で、中身のないことだ」
私の銀髪青目は
「私のは既に色がついているぞ」
殿下の隣に浮いているこぶし大の赤い球体は、ゆっくりとランダムに回転し続けている。
動きが分かるのは表面につぎはぎのような凹線が走っているためだ。
そこから、動力源や回路の発する光がわずかに漏れ出ている。
「そろそろ造形も始まりそうだ」
淡々と言うだけの殿下は、きっと自慢しているわけではない。
私にはっきりと悪意をぶつけるために、事実を言っているだけなのだろう。
「まあ。たいへんお早いのですね」
ふんわりと目を細めて微笑ん(だつもり)で私は言う。
あくまでことを荒立てないように、低姿勢、低姿勢。
しかし殿下の表情は少しばかり不機嫌になってしまったように思う。私失敗した?
「……本当につまらない人間だ」
ぽつりと殿下は言った。
もう今のところ私にはどうしようもない気がする。ただただ黙り込んで微笑んでおくくらいしかできない。
何かで名誉挽回できればいいのだけれど、もうからこき下ろされている理由もあまり分からないから、そのあたりも含めて今後手探りしていくしかないんだろうな。
前途多難というか面倒臭いというか。
先が思いやられるけれど、もう婚約は決まっているんだから、割り切って頑張るしかないんだ。
……あれ?
私、なんでこんなに色々と可愛げのないこと考えてるんだろ?
何だか急に変に、大人になったような気がするわ。