深夜、寝ているカミツレを置いて一人外を歩いていると、空がざわつきはじめた。空気が重く震えている。
ヒノヤコマは羽を逆立て、ロトムは身を縮め、グレイシアは耳を立てて空を見つめる。
雲が裂けた。
青い稲妻が縦に走り、その中心から巨大な黒い影が降りてくる。
低い唸りが、大気そのものを震わせた。
ゼクロム。
漆黒の体から青い電気が放たれ、光を宿した目でこちらを見下ろしている。
お前の理想はなんだ。ふと、そう問われている気がした。
正直、確たる答えは持ち合わせていない。
途端、ゼクロムのモーターのような尻尾に電力が集束し始める。
おいおい、何だって言うんだよ。勘弁してくれ…。
ロトムが戦闘態勢に入り、こちらも青白いプラズマを全身へ集める。
雷の柱がゼクロムをめがけて落ちるが、黒い翼がそれを受け止める。
電気と電気のぶつかり合い。空気が焦げる。
ヒノヤコマも負けじと、赤い彗星の如くフレアドライブで突っ込む。
グレイシアはれいとうビームで支援する。
息もつかせぬ攻防の中、ゼクロムが一層青白く光り始める。
瞬間、空が裂けた。
雷撃。
青黒い電気を纏いながら、バリバリと音を立て突進してくる。
爆風が周囲の木々をなぎ倒し、大地に亀裂が走る。
三匹のポケモンともども吹っ飛ばされる。
凄まじい威力だ。
ゼクロムがこちらを射抜く。
視線が合った瞬間、身体のどこかが内側から崩れていく感覚がした。
逃げ場がない、というのはこういうことかと思った。
雷が落ちてくる。
クロスサンダー。
次の瞬間、視界が白く弾けて、何も分からなくなった。
意識を失った後、目を覚ますと、病院の天井が揺れていた。
MRI検査の結果、特に異常はないという。
だが肩に黒い電紋が刻まれてしまったようだ。
リヒテンベルク図形というらしい。
考える。
何かを問われていた気がする。
覚悟を試されていたのだろうか。
少しわかる気もする。
なぜ彼の前に姿を現したのか。
自分は理想を押し殺している。
確かにそう言えるかもしれない。
なぜ、ふたご島に向かった?
絶望していたから。
何に?
自分の人生が未来に向かって閉じていく感覚、に。
だが、この旅の果てには、きっと何か答えがあるんじゃないかと予感しているんだ。
三匹のポケモンが心配そうに顔を覗き込んでくる。
格上の相手との闘いに何かを感じたようでもあった。
「は?寝ぼけてるの?」
明朝、カミツレのところに帰り、起こったことを全て話してみると、眠そうな目をこすりながらこう言われてしまった。
本当なんです。
「ふーん、本当だとしたら呪われてるんじゃない?」
それは確かにそうかもしれない…
寝れる気はしないが、とにかくベッドで横になる。
イッシュ地方でもたくさんの新しい出会いがあった。
日本にはない魅力があり、とても楽しい日々を過ごせている。
直近、死にかけたが。
あいつはまた現れるだろうか。
だが、どうしても最後に訪れてみたい地方が頭によぎる。
ガラル地方。
昔から一度行ってみたかった、イッシュとはまた違う海外。
小さいころからの夢、蓋をして諦めてしまったが、それらを全部叶えていこうと思う。
じゃないと、また雷が落ちそうだしな。
そして、彼女にも会っておきたかった。
次の日の朝、起きると、横にいたカミツレは彼に言った。
「ね、あなた、また旅に出るのね」
え?何?エスパー?
そして圧が凄い。
あー、別に彼女と言っても、ヒトジャナイヨ?
彼は彼女を見つめ渋々頷いた。
カミツレの目が潤んだ。
「必ず帰ってきてね?」
彼は彼女を抱きしめた。
なんで女はみんなこうも勘がいいのだろう。
こうして彼は新たな都市、ガラルへ移動することにした。