父さんから話を聞いた俺は、翌朝、村の外れにあるという泉を探し始めた。
東の森へ向かって歩き続けること2時間。木々の合間から、きらめく水面が見えた。
「ここか……」
父さんが言っていた泉に違いない。透き通った水が静かに湛えられ、周囲には人の気配がない。
辺りを散策し、魔物や獣が寄り付かなさそうな場所を探す。見上げると、泉を見下ろせる位置に太い枝を張った木があった。
「あそこなら……」
木に登り、太い枝に腰を下ろす。眼下には、底まで透けて見えるほど澄んだ泉が広がっていた。
「ここなら魔物から身を隠せるし、精霊が来るまで待てるな」
木の幹に寄りかかると、肌をなでる風が心地よい。木の葉の隙間から漏れる陽の光に照らされているうちに、いつの間にか眠りに落ちていた。
ふと目を覚ますと、辺りはすっかり暗くなっていた。
「しまった!」
日が完全に沈んでいる。母さんが心配しているに違いない。俺は慌てて木から降り、全速力で家へ駆け出した。
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「リオ!どこに行ってたの!?」
家の扉を開けた瞬間、母さんの怒鳴り声が響いた。
「ご、ごめん母さん……森で遊んでたら、迷っちゃって」
俺は頭を下げた。本当のことは言えない。精霊のことを話せば、絶対に泉に行くことを禁じられるだろう。
「もう!心配したんだからね!」
母さんは俺を抱きしめた。その温もりに、少しだけ罪悪感を覚える。
「すまない、リオ。俺が変なことを話したせいだな」
父さんが申し訳なさそうに言う。
「ううん、父さんのせいじゃないよ。俺が勝手に……」
「とにかく、もう危ないことはしちゃダメよ?」
「うん……」
俺は素直に頷いた。だが、心の中では決意を新たにしていた。
次はもっと計画的に動こう。食料と水を持って、日が沈む前には必ず帰る。そして──必ず精霊に会う。
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翌日から、俺は周到な準備を始めた。
朝食を多めに取り、水筒に水を入れ、日の出とともに家を出る。母さんには「村の子供たちと遊ぶ」と嘘をついた。
泉のある場所まで走れば一時間半ほどで着く。体力をつけるための訓練も兼ねて、俺は毎日のように泉へ通った。
「はあ……はあ……」
息を切らしながら木に登る。慣れてきたおかげで、登るのも早くなった。
そして待つ。
一日目──何も起こらなかった。
二日目──変わらず。
三日目、四日目、五日目……
「……本当に来るのかな」
六日目の昼下がり、木の上で呟いた。父さんは「数十年に一度」と言っていた。タイミングが悪ければ、何年も待たなければならないかもしれない。
だが、諦める気はなかった。
原作でケヤルが精霊に会ったのは、偶然ではないはずだ。何か条件があるのかもしれない。
そういえば……
原作を必死に思い出す。ケヤルは確か、「星の巡りが重要だ」と言っていた。
「星の巡り……?」
その夜、家に帰ってから夜空を見上げた。満月が明るく輝いている。
そして、ふと思い出した。村の古老たちが話していたことを。
「満月の夜……そして、三つの星が一直線に並ぶ日」
数十年に一度、天空で特別な現象が起こる夜。この星と月の動きが特別な配置になる日のことだ。
「確か……あと三日後だったはず」
俺は父さんの部屋へ向かい、古い暦を借りた。星の配置を確認すると、やはり三日後がその日だった。
その日だ。精霊が現れるのは、その夜に違いない。
それから三日間、俺は準備に専念した。
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