王城に入城してから3日がたった。
勉学に関しては意外にもあまり苦労していない。
文字は小さい頃から親が読み聞かせをしてくれたおかげで自然と身についた。中でも算学は王が付けてくれた教師よりもできた。
「リオ様、この計算式の解き方を教えていただけますか?」
初老の数学教師が困惑した表情で俺に尋ねてくる。
「ああ、これは二次方程式の応用ですね。こうやって因数分解すれば簡単に解けますよ」
まあ腐っても前世で大学まで出てたんだからな。微分積分まではいかなくても、この世界の数学レベルなら楽勝だ。
礼儀作法に関しては…あまり聞かないでくれ。
「リオ様! そのフォークの持ち方は違います! もっと優雅に、こう…」
「すみません。…もう一度お願いします」
前世が一般市民だったからな。普通のマナーはあるが、貴族の作法となると厳しいものがある。毎日のように注意され、正直げんなりだ。
だが、レベルに関しては着々と上がっていっている。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「フレア、そっち行った!」
俺は大声で叫びながら、槍を構えて魔物を追い立てる。
「わかりました! 第二階位魔法――炎弾!」
フレアの放った火球が魔物の頭部を直撃し、断末魔の叫びをあげて倒れた。
街の外に出て魔物狩りをする際は、できるだけフレアに声をかけることにしている。勇者である俺とフレアが同じパーティーを組むと、それぞれのスキルにより経験値が四倍にまで上がるのだ。
「あっ、またレベルが上がった」
温かい光が体を包み込む感覚。ステータスが上昇していく快感が全身を駆け巡る。
「私も上がりました」
フレアが嬉しそうに微笑む。その笑顔は普段の聖女のような微笑みではなく純粋にレベルが上がったことに対しての喜びの笑みだった
「最近レベルが上がりにくかったのに、リオ様と組むとこんなに上がるのは…やはり勇者のスキルのおかげなのでしょうか?」
「そうだと思うよ。俺のスキルは自分の経験値とパーティー内の仲間の経験値をそれぞれ二倍にする。フレアのスキルも似たような効果があるんだろう? それが上手く噛み合ってるんだと思う」
「なるほど…相乗効果、ですね」
魔物狩りでは俺が走り回り魔物を追い立て弱らせ、最後にフレアが魔法でトドメを刺す。この作戦が功を奏して、レベルがこの短期間で12になった。
今のステータスは――
▼▼▼▼▼
レベル12
MP 28
物理攻撃 40
物理防御 29
魔力攻撃 18
魔力抵抗 25
敏捷 48
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レベルが上がりステータスが上がるというのはいいものだ。レベルが上がるたびに成長している実感を強く感じ、多幸感が体を包む。まるで麻薬のような快楽だ。
「ああ〜気持ちいい〜」
思わず声が漏れる。この感覚、クセになりそうだ。
「リオ様?」
悦に浸っていると、フレアの声で現実に引き戻される。
「ああ、ごめん。何?」
「お伝えし忘れていたのですが、明日から戦闘訓練にも講師が付くことになりました」
「…随分と急だね。誰なんだ?」
「彼女、講師の名は――剣聖クレハ・クレイラットです」
剣聖この国最強の剣士の称号を持つ人物か。原作でもヒロインの一人である重要なキャラクターだったはずだ。
「楽しみだな」
俺は期待に胸を膨らませながら答えた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ライナラ。
それはこの国の象徴とされている、青みがかった白い花。気高く美しいその花を愛さない国民はいない。
ライナラの間は、フレアの発案で王城内に造らせた室内庭園だ。色とりどりの花が咲き乱れる、城内でもっとも美しい場所。天井の魔法陣から注がれる柔らかな光が、まるで本物の太陽のように花々を照らしている。
そこで俺は、彼女に会った。
白の騎士服を身にまとい、体からは肌を刺すような剣気が立ち昇る。その隙のない佇まい。流麗な所作。腰に下げた剣は実戦で使い込まれた跡があり、装飾品ではなく本物の武器だと一目でわかる。
その姿はまるで、名だたる鍛冶師が作り上げた一本の名刀のようだった。
「初めまして、【槍】の勇者様」
凛とした声。だが冷たさはなく、むしろ温かみすら感じる。
「あ、ああ…初めまして、【剣聖】クレハ・クレイラット。俺が槍の勇者、リオだ」
彼女に声をかけられ、思わず戸惑ってしまった。
ここに来てからいろんな女性に会った。肌を重ねたこともあった。経験も増え、男として自信もついてきた。だが彼女を前にすると、まるで思春期の少年のように言葉が尻すぼみしてしまう。
「リオ様、お噂はかねがね伺っております。最近勇者になられて…」
「い、いや、そんな大したことは…」
ああ、なんて美しい人なんだ。
完全に俺の好みの女性だ。凛とした佇まい、澄んだ瞳、そして何より――その強さ。
まだあまり話せていない。だがそれだけでも分かるほど、芯のある強い女性だ。こんな女性が俺の理想だった。
「明日から、私があなたの戦闘訓練を担当させていただきます。厳しくなるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いいたします」
クレハが優雅に一礼する。
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
俺も慌てて頭を下げる。
原作だとケヤルが抱いて自身の女にしていた。レベルを上げ、薬物を使い、精神を支配して――。
俺は今の今まで、原作の流れを壊すことなくこの世界を楽しもうと思っていた。
だが、そんなものもういい。
彼女を手に入れる。
ケヤルのようなやり方ではなく、正面から――俺自身の力で。
「では、リオ様。明日の朝、訓練場でお待ちしております」
「ああ、わかった」
彼女とにこやかに話す俺の心の中では、今それだけが渦巻いていた。
クレハが去った後、俺は一人ライナラの間に残り、青白い花を見つめる。
「絶対に、手に入れる」
小さく呟いた言葉は、誰にも届かず花々の間に消えていった。
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