喜多郁代の徐々に奇妙な冒険──Like a Rolling Stone── 作:ほっこく
もしもしお母さん?
もう家にいる? うん……うん。あのね、実は友達の家に泊まらないかって誘われて、できれば直接向かいたいの。その、場所が神奈川だから
……いや、想像が膨らんでるところ悪いけど、女の子の家だからね?
あー、分かってるわよ、向こうのお家の人は……えーっと、その、凄く歓迎してくれるみたいで。ぜひ来て欲しいって、お泊まりの道具とか服も貸してくれることになってて……うん、うん。
ありがとう、着いたらまた連絡するね。
◆ ◇ ◆
「後藤さん! お母さんから許可がでたわよ! 今日はよろしくね」
「あっはい、よろしくお願いします……」
駅のホームで母親に連絡を入れ終えた私は、許可が得られた旨を後藤さんに報告した。
ちょうど予定していた電車が到着したので、運よく空いていた席に滑り込んだ私たちは、今は肩を並べて電車に揺られている。
深刻な顔をした後藤さんに、細かい事情を説明したいから家まで来て欲しいって言われたときは、まぁほんの少しだけ心配になったけど、考えてみればこれって友達とのお泊まりよね。高校生になって初めてのお泊まり、なんだか楽しくなってきたわ。
そんな調子でテンションを上げる私とは対照的に、後藤さんの顔色は悪くなる一方だった。
「ねぇ大丈夫? やっぱりどこか怪我してたんじゃ……」
「あっ、いえ、家に同級生が来るの、は、初めてで……き、緊張してて」
「そうなの? 私が初めてなんて、なんだかちょっと嬉しいかも」
後藤さんの家、遠いもんね。電車で2時間かかる家まで高校の友達を呼ぶのが中々にハードル高いのは分かる。まさか小中から通算しての話じゃないだろうし。
「私も友達の家にお泊まりするのは初めてだし、結構楽しみだったりして」
「き、喜多さんは友達多そう……グフっ、なのに、い、意外です」
返答の合間に謎のダメージを受けてたけど何があったのかしら。
「だって高校始まってまだ一週間でしょ? これが最初の週末なんだし」
「……えっ、あっ、あぁ、そうぃぅ」
「ちょっと後藤さん?! 電車で崩れないでよっ、恥ずかしいって〜!」
崩れてしまった後藤さんのパーツをなんとか組み立てていく、これも彼女のスタンド能力ってこと?
最後に残った口のパーツをはめ込むと、彼女はようやっと再起動してくれた。
「……えっ、と、友達?! だ、誰と誰が??」
……えぇ? 今? 今そこが引っかかったの? 後藤さん会話のテンポが独特なのね。
「あっ、『アローン・アゲイン』と友達になった、とか? スタンドと友達になれるなんて、流石喜多さん陽のオーラが限界突破してるぅ」
「違うわよ?!」
そして着地点はそこなの?! も〜っ、全然違うってば。
「私と、後藤さんがよ。私たち、もう友達でしょ?」
「あっ、い、いや、そんな、友達なんて」
私なんかが、烏滸がましいです。
そんな言葉が、微かに聞こえた。
「……私はね、後藤さん。友達って、経験とか、気持ちを共有したい間柄だと思ってるの」
今日のカラオケ最高だったー、とか。
歴史の授業退屈だねー、とか。
単に共有するだけじゃなくて、そういう経験や感情を、共有したいと思う相手、それが友達なんじゃないかって私は思っている。ちなみにさっつーみたいなのは腐れ縁ね。切っても切れない縁ってやつ。
「私は今、後藤さんと一緒にいて楽しいし、後藤さんもそうだといいなって思ってる」
こう言っちゃうと、なんだか言わせてるみたいだけどね。
私が小さく笑うと、後藤さんは大きな声で返事をしてくれた。
「わっ! 私も、たた楽しい、です」
言ってからここが電車の中で、今の声が少なくない乗客の注目を集めたことに気がつくと、後藤さんはまた顔を青くして俯いてしまった。
「じゃあ、やっぱり私たちは友達よ。ね?」
「あっ、は、はい。そっか、喜多さん友達だったんだ……う、生まれてから初めての友達、へへ……うへへへ……」
どうしよう、早まったかもしれない。
俯いたままニチャニチャと崩壊した笑みを浮かべる後藤さんに、私はほんのちょっぴり後悔するのであった。
◆ ◇ ◆
「喜多さん、後藤家へようこそ〜!!」
それから電車を乗り継ぎ2時間、たどり着いた後藤家の扉を開けたところ、今にもクラッカーを鳴らし始めそうな勢いで、後藤さんのお母さんは歓迎してくれた。
てっきり後藤さんに似て物静かな人なのかと想像していたけど、そんな風には感じられない。お父さん似なのかしら。
「お邪魔します! 今日は急な話だったのに、ありがとうございます」
「いいのよ〜、そんな気を使わなくて。この子から友達を泊めたいって聞いたときはたぶん妄想か幻想だろうって思ったから、驚いちゃった」
「えっ、妄想か幻想……?」
私、この扉が開かれるまで実在を疑われてたの?
思わず聞き返すと、後藤さんが焦った様子で割って入ってくる。
「ちょぉ、お母さん!」
「だって、ひとりちゃんが友達を家に連れてくるなんて初めてでしょう? 喜多さん、お腹空いてるよね? お夕飯の準備はもう出来てるの、それとも先にお風呂がいい? あぁでも、お父さんが帰りにケーキを──」
「もうっ! 喜多さんはまず私の部屋に荷物を置くの!」
力強く言い切って、後藤さんは私の手を引いて二階への階段を登り始めた。
後藤さんてば家族には大声で話すのね。少しだけビックリしちゃった。
早く降りてくるのよ〜、というお母さんの呼びかけを背に、私たちは後藤さんの部屋に入った。間を置かず彼女が
その勢いが少しばかり強かったものだから、肩がピクンと反射的にすくんでしまった。当然、後藤さんにも気づかれる。彼女は申し訳なさそうに弁解を口にした。
「す、すみません。家族には、す、スタンドのこと話してなくて」
「ううん、いいの。全然気にしてないって〜。優しそうなお母さんね」
「は、はい。とっても、優しい母です」
はにかむ後藤さんを見ていると、私も心が暖かくなる。さてと、そしたら荷物を置かせてもらわないと。
「荷物はここでいい?」
「あっ、はい。喜多さん……が、楽器、やるんですね」
「あー、うん。そうなの、少しだけね」
鞄とギターケースを部屋の隅に置いたタイミングだった。後藤さんから急にそう聞かれて、咄嗟に誤魔化すような返事をしてしまった。
事件に続く事件で頭からすっかり、まぁ抜けていたわけではないんだけれどね? 私はあと一ヶ月ちょいでギターをある程度、弾けるようにならないといけない。先輩たちとのライブが迫っているから。
彼女たちの期待を裏切りたくない、そして自分を嘘つきのままで居させないためにも、ギター問題は解決を急ぐ必要がある。
でも誰にギターの指導を頼めばいいんだろう、超初心者にも分かるように教えてくれる人が身近にいればなぁと、都合のいい妄想をせずにはいられない。
私が目下の悩みに内心頭を抱えていると、後藤さんの机の上に、なにやら見覚えのある小物を見つけた。
三角形を膨らませたような形状の薄い板、これってギターを弾くときに使う物だった気が──
「あ〜!! 本当にいた!!」
スッパーン!!
そんな擬音をつけたくなる勢いで襖が開かれた。現れた声の主は、後藤さんを二回りくらい小さくした女の子。
「ふ、ふたり! ど、どうしてここに」
「おかーさんがおねーちゃんの友達が来てるって言うから、本当にいるのか見に来たの」
「い、妹にまで疑われる私っていったい……」
ガックリと肩を落とした後藤さんに代わって、私は女の子の前に出た。見れば見るほどそっくりさんね。
「もしかしなくても、後藤さんの妹さん?」
「はじめまして! 後藤ふたりです! こっちは犬のジミヘン」
女の子もとい、ふたりちゃんが片手をあげて挨拶をすると、彼女の後ろ、陰になっていた場所からクゥーンという犬の鳴き声が聞こえた。
ふたりちゃんの肩越しに覗き込むと、茶色い子犬がちょこんと後ろに控えている。
「可愛い〜! 私はお姉ちゃんとお友達の喜多っていうの、よろしくね!」
「うん! ねぇ喜多ちゃん、あかーさんがお夕飯にしようって! 早く行こ!」
「ふ、ふたり。喜多さんはお姉ちゃんと、だ、大事なお話があるから、先に降りてなさい」
「え〜?! 喜多ちゃんと一緒に行きたい!!」
言いながら、ふたりちゃんは私の足にしがみついて来る。う〜ん、これを引き剥がすのは至難の業だわ。
「後藤さん、話はご飯の後じゃダメかしら? ふたりちゃんもお姉さんと一緒がいいだろうし」
「おねーちゃんとはいつでもお話しできるもん、喜多ちゃんだけでもいいよ?」
「そ、それじゃあ意味ないでしょ! わ、分かりました。どっちみち長い話になりますから……」
「やった〜! いこ喜多ちゃん!」
姉から承諾を得ると、ふたりちゃんはぴょんと跳ねて私の手を握る。そのままリビングまで案内されれば、お母さんとすでに配膳の済まされたテーブルが私たちを待っていた。
「今日はひとりちゃんの好きな唐揚げで〜す、いっぱい食べてね」
「美味しそ〜! ありがとうございます!」
いそいそと席に着こうとすると、ポケットに入れていたスマホから聞き慣れた着信音が鳴り響いた。
画面を確認すると、そこにはお母さんと表示されている。
いっけない、後藤さん家に着いたら連絡しようと思ってたのを忘れてたわ。
「すみません、ちょっと親から電話があって」
「あら〜、そしたらご挨拶しても大丈夫? その方がお母様も安心よね。三人で先に始めててちょうだい〜」
「えと、じゃあ、お願いします」
もしもし。
遅れてごめんね、今さっき着いたところなの。うん……うん、もうっ、平気だってば。
それでね、後藤さんのお母さんがご挨拶したいって言ってくれてて……うん、代わるね。
電話に出ると、間髪入れずに心配とお叱りの声が飛んできたので、私は母親を宥めつつ、通話中のスマホを預けることにした。
「もしもし〜、初めまして。後藤ひとりの母です〜。い〜え〜、迷惑だなんてとんでもない。とっても明るくて素直ないい子で、きっとご両親の教育の賜物ね〜。うちの子にこんな素敵な友達ができて私感動しちゃって──」
すると、そんな調子で私のことを褒めちぎりながら廊下へ移動するものだから、おかげで私は赤くなった頬をパタパタと冷やす羽目になってしまった。
「あはは! 喜多ちゃんお顔真っ赤〜!!」
「ふたりってば!! あっ、いやでも、お母さんが言ってたことは大体あってて、その……っ!」
「うん、ありがとう後藤さん。でも、ちょーっと静かにしてもらっていいかしら?! あー、もう。いただきます!!」
誓って照れ隠しではないけれど、話題を強引に断ち切って、私は熱々の唐揚げを頬張ることにした。うん、とっても美味しい。
◆ ◇ ◆
それから母親同士の会話は一向に終わる気配を見せず、私たちが三人で食卓を囲んでいたところ、だし抜けにふたりちゃんがこう尋ねてきた。
「ねー喜多ちゃん、おねーちゃんって学校だとどうしてるの? お友達たっくさんいるってホント??」
「むぐぅ?!」
「えーっと……それは」
そっと目線を送れば、なにやら血走った目をした後藤さんが喉を抑えつつこちらを凝視しており、彼女が妹に対して見栄を張っていたことは明白だった。
後藤さん、私が初めての友達って言ってたもんね……よし! ここは私が友達として人肌脱ぐとしますか。
でも一足遅かったらしい。
「そっ、そ〜だよ! お姉ちゃん学校には友達がたぁ〜っくさんいるんだよ。休み時間は私の周りに人集りができるし、バスケ部のエースとも最近いい感じなんだから〜」
後藤さん凄くスラスラ嘘を吐くのね〜。
まるで一度どこかで使った虚言を使い回してるみたいだわ。
「そーなんだ! 喜多ちゃん、しってる人?」
「あ〜ははは、どうだったかしら〜」
流石にこれのフォローは無理よ〜。ごめんね後藤さん。でも、ほら自分で蒔いた種なんだし……ね?
アイコンタクトで謝る私をよそに、ふたりちゃんの更なる追求が姉を襲う。
「おねーちゃん、学校で喜多ちゃんとどんなお話しするの〜?」
「あっ、えと、最近は世界平和について話してるかな〜」
どうしよう、後藤さんが今にも死にそうな顔で私に向かって両手を合わせてるわ。
いや、まぁこれくらいなら……
「そうなのよ〜、後藤さん意識高いのよね〜」
「へ〜。ねー喜多ちゃん、ギター持ってたでしょ? あとで弾いて!」
「えっ、い……」
おっと、今度は私が指される番のようね。
ふたりちゃんは一瞬で前の話題への興味を失ったようで、キラキラと期待の眼差しを向けてきた。
反射的に承諾しかけた口をなんとか塞ぎ、私は少しだけ考える。
でも、やっぱり。これ以上の嘘はつけないわよね。
「あのね、ふたりちゃん。私、実はまだギター始めたばっかりで、全然弾けないの。ごめんね」
「そうなの〜? だったら、おねーちゃんが教えてあげれば?」
「あっ、うん……えっ?!」
完全に予想外の返答が返ってきたせいで固まる私と、青い顔から復帰し切れてない後藤さんに向かって、ふたりちゃんは屈託のない笑顔を見せてくれた。
「おねーちゃん、すっごくギターが上手いんだよ! 毎日ずーっと、誰とも遊ばないで練習してるの。ねっ、おねーちゃん!」
「あっ、いや、ギターばっかり弾いてるのはそうだけど。お姉ちゃんは別に誰とも遊んでないわけじゃなくて──」
「えぇ〜、だってお休みの日もず〜っと弾いてるもん!」
「それは、うん……そうなんだけど……」
ふたりちゃんに畳み掛けられて、見る見るうちに後藤さんは萎れてしまった。
そんな後藤さんの様子を見ているうちに、やっと固まっていた脳みそが回りだす。
後藤さん、ギター上手いのね。なら四の五の言ってる場合じゃあないわ。こんなところにギターの先生がいるだなんて、今日は素晴らしい日よ! ほんの数時間前に死にかけたことを頭の片隅に追いやった私は、しなしなの手を握りしめて後藤さんに頼みこむ。
「お願い後藤さん、ギター教えてちょうだい! 私の先生になって!」
「あっはい……」
「ありがとう〜! いつから練習する? 食べ終わったら後藤さんの部屋で始められるかしら」
「喜多ちゃん、よかったね!」
「うん! たくさん練習して、ふたりちゃんにも聴かせられるように頑張るね!」
「あっ、あの喜多さん……その前に大事なお話が……」
よーし、ギター頑張るわよ〜!!
◆ ◇ ◆
食後である。
ふたりちゃんはお母さんとお風呂に入るそうなので、私たちは後藤さんの部屋でくつろいでいる。
「じゃあ、早速ギターを──」
「あっ、あの。喜多さん、まずは矢の話を……」
「あ〜っと、ごめんなさい。気が急いちゃって、そのために来たんだものね」
「すっ、すみません……本当は、聴かせるべきじゃないことなのに」
いけないいけない、当初の目的が頭から抜け落ちていたわ。そうよ、スタンドと、それらに関わる事情を説明してくれるんだものね。
ちゃんと聴かないと、私の『アイ・アンド・アイ』に引っ付いたままの矢のこともあるんだし。
かくして、後藤さんは語りだす。
長い長い、独り言のような、『聖なる矢』と彼女の血族にまつわる話を。
私たちの運命を大きく転がすことになる、『物語』の前日譚を。
◆ ◇ ◆
「私の祖母は三人姉妹で、祖母はその末っ子でした。
「長女は若い頃にイタリア人と恋に落ち──そのまま恋人の故国へ駆け落ちしたそうです。
「えぇと、確かにロマンチックかもですけど、本題はそのあとの話になります。
「私が中学生になった頃、祖母のお姉さん……三姉妹の次女である大叔母が家に来ました。
「そして言ったんです『これが見えるかい』って。
「──はい、大叔母はスタンド使いでした。
「私には生まれつき『アローン・アゲイン』が見えていて、誰にも話したことはありませんでした。
「だって、私以外に、あの腕は見えていなかったから。
「これ以上、変な子だと思われたくなくて。
「……すみません、ありがとうございます。
「でも、だから、大叔母から尋ねられたときは驚きました。
「そして、同じくらい驚いたのは、大叔母が連れてきた──私のハトコについてです。
「いえ、大叔母の孫ではなく……彼女はイタリアに渡った長女の孫でした。
「彼女もまた、スタンド使い。
「発現したのは2001年で、これは大叔母がスタンドに目醒めた時期と一致します。
「スタンド使いになる要因はいくつかありますが、中には血縁者の目醒めがキッカケとなり、素質のある者が呼応するようにスタンドを発現するそうです。
「私がスタンド使いとして産まれたのも、それが呼水に。
「彼女は『聖なる矢』を追って日本に来たと言いました、そうですね、『石の矢』のことです。
「あの矢は、もとはイタリアで、とあるスタンドによって保管されていた。
「それが三年前、なにかに導かれるようにして消えてしまった。
「矢は保管場所から消えたあと、一度だけ彼女の前に姿を現しました。
「『自分を呼んでいるみたいだった』と、そう感じたそうです。
「彼女は矢を管理していた、あー、その、組織に連絡を取り、そして組織と協力関係にあった財団の情報網を頼った。
「両団体のバックアップもあって、彼女は母親のルーツが日本にあることを知ったんです。
「えぇ、大叔母の姉は子供が産まれて間も無く亡くなり、ハトコの母親は里子に出され、ハトコに自分の親の話はしなかったそうです。
「後になって分かったのは、イタリアに駆け落ちしたあと、大叔母の姉は恋人と別れて、一人で子供を産んだ。
「そして、亡くなってしまった。
「だから、ハトコ自身にも、自分に日本人の血が流れている自覚はなかった。
「……そうですね、私もそう思いたいです。
「兎に角、ハトコは矢が私たち血族を引き合わせた。そこには必ず意味があると考えており、大叔母も同意していました。
「当初、ハトコは数人の仲間と日本を訪れていたらしいんですけど、彼女以外は大叔母が帰らせてしまいました。
「なぜって言うと、大叔母のスタンド能力が理由です。
「大叔母のスタンドは、端的に言うなら、『コインの裏表を百発百中で当てる能力』でした。
「噛み砕くと、二者択一を迫られた際に、自分にとっての正解を選びとる力。
「つまりハトコの仲間を日本に残すか? 残さないか? この二択での正解は、残さない。だったんです。
「その後、まるでそれを待っていたかのように、『聖なる矢』は私たちの前に現れた。
「ハトコは矢を保管しようと試みましたが、大叔母曰く、保管は不正解。無力化する必要があると。
「大叔母のスタンドでそこまで絞れた。けど具体的な方法までは。
「しばらくは三人で矢をどうするか、頭を悩ませる日々でした。
「結果は出なかったけど……楽しかった。
「でも、そんな私たちの前に、矢を狙う敵がやって来ました。
「特徴は星座を冠するスタンドを持つこと。
「また本来であればスタンドのヴィジョンを崩された場合、そのスタンド使いは死亡しますが、彼らは違った。
「そしてスタンドを失うと、まるで別人のように──いえ、本来の自分を取り戻す。
「喜多さんが言っていたように、坂似先生は操られていたんです。
「強大な相手です。素質のある人へスタンドと別人格を植え付けて、自分は正体を見せずに矢を狙い続けてくる。
「唯一の手がかりは──『ポラリス』、敵スタンドの名であり、現在の北極星を指します。
「戦いは二年近く続きました。『ヘヴィ・ケトゥス』、『ハイドラ・エイト』、『アクイラ』。多くのスタンド使いが矢を狙った。
「変化が起こったのは一年前、『アローン・アゲイン』が二本腕から三本腕に成長したことがキッカケです。
「それまで不可能だった『聖なる矢』の収納に成功すると、以来襲撃はパッタリ途絶えました。
「このことから、『ポラリス』はおそらく私たち個人を認識して狙っていたのではなく、あくまで矢の存在を感知して、スタンド使いを差し向けていた。
「けれど『アローン・アゲイン』が矢を仕舞い続ける限り、もう手出しはできない。
「半年が経過し大叔母とハトコは、そう結論付けました。
「決め手は大叔母のスタンドでしたが、長く矢に関わっていたせいか、私たちはそれが事実だと直感的に理解していたんです。
「ハトコは故国へ戻り──大叔母は、私の中学卒業を見送って、亡くなりました。
「癌だったんです。自分が長くないって、大叔母は知っていた。
「私は大叔母から、『矢の守護者』としての役割を受け継いだんです。
「『いずれ、真に矢を持つに相応しい誰かが現れる』大叔母はそう言っていました。
「だから、その日が来るまで矢を仕舞い続けることが、私たち三人の間に交わされた約束で。
「私は、約束を破ってしまった。『アローン・アゲイン』が破られたのと同じように。
「いえ、違いません。喜多さんを危ない目に遭わせてしまいました。
「しかも、矢は『アローン・アゲイン』から離れた。
「この先、矢を狙って『ポラリス』の刺客がやって来ます。
「私が狙われるのはいい、でも──喜多さんは関係ないじゃあないですか。
「すみません、本当に……ごめんなさい」
To Be Continued