頭痛がひどいデビルハンターの話   作:kanesa

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訓練の痛み

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──特異4課訓練施設内

 

 

 クナイは目前の男と向かい合い立っていた。

 

"岸辺"、最近特異1課から特異4課隊長に異動した、現デビルハンター内で最強と名高い男。

 

 岸辺はクナイに向けて口を開く

 

「仲間が死んでどう思った?」

 

「悲しいと思いつつ仕方ないとも思っています」

 

「敵に復讐したいか?」

 

「いいえ、そんな面倒なことやりません」

 

()()とはなんだ?」

 

()()でもあり()()でもあります」

 

 矢継ぎ早にクナイに質問を浴びせる岸辺

 クナイはそれに苦もなくスラスラと返答する。

 

 やがて岸辺は回答を聞き終えると短くため息をつき

 

5()0()()、やっぱりお前は半端だな」

 

良いとこ取り(ハイブリッド)って言ってくださいよ…それに()()()()()()()しかいなくてもそれはそれで問題でしょう?」

 

「まぁ…ブレーキも必要か…」

 

 そう言って手に持った酒を一息で飲み切り、空になった容器を背後にあるゴミ箱に、確認もせず投げ入れる。静かな空間で、ガランとゴミ箱の音は響き渡った。

 

 

 

「…始める、殺す気で来い」

 

「《霧》《悪臭》《静寂》」

 

 岸辺が言い終わると同時にクナイは悪魔の力を発動させる。《霧》で視界を、《悪臭》で嗅覚を、《静寂》で聴覚を封印、この空間においてクナイを捉えることはほぼ不可能となった。

 

 

「…………」

 

 

 岸辺はその場を動かず、ただナイフを抜き佇んだ。

 一瞬の間の後、状況が動きだす

 

 岸辺の背後に霧の中からクナイが顔を覗かせる

 その手に持ったナイフは、躊躇いなく岸辺の首元へ向かう。

 その軌道に迷いは無く、このまま行けば岸辺の首に突き刺さるだろう────

 

 

 ───だが、ここで岸辺が動く

 後ろに眼球でも付いたかのような動きで身体を回すと、その手に持ったナイフで襲いかかる凶刃を受け止めた。

 

 刃と刃の鍔迫り合いの中、岸辺はナイフを持った手の人差し指をクナイへ向け

 

「《》」

 

 音もなく呟くと、その指の爪が急激に伸びた。

 

 顔面近くでの攻撃、クナイはギリギリで避けるも岸辺はその隙を突き、腹に蹴りをかます──

 

「…!」

 

 ──突如、クナイの身体が煙と共に破裂する

 

 煙が消えて現れたのは獣の姿

《狸の悪魔》他人に化ける力を持った悪魔だ。

 

 岸辺は一瞬瞬きをした後、唐突にナイフを後ろに投げ飛ばすと、後方に肘打ちを繰り出した。

 

 

「──ガハッ」

 

 それと同時に《静寂》が消え、ドサリと倒れる音が響いた。

 

 見ると、岸辺の後方で腹を押さえて蹲るクナイの姿。

 ナイフを短刀で弾いた隙を突かれ、そのまま肘打ちを鳩尾に喰らってしまったのだ。

 

「眼と耳と鼻を塞いだ所で()()まで消えたわけじゃない、ワンパターン過ぎたな」

 

「う"ぅっ…ふざけた酒カスだ…」

 

 蹲りながら愚痴を吐くクナイ

 その後、ゆっくりその場に座ってため息を溢した。

 

「クナイ、悪魔は同時に何体使える?」

 

「…まぁその日のコンディションや悪魔の種類にもよりますが…4~6体ですね、それ以上の同時使用は脳の処理が追い付きませんし…」

 

 悪魔のすべてを使うということは、能力の維持やどの対象に能力を使うかなどにも、意識を割かなければならない。別々の仕事を同時に、頭の中だけでこなすようなものだ。そのため、必然的に同時に使う悪魔の数は少なくなる。

 

 

「そうか…ならもっと攻撃のバリエーションを増やせ、相手に思考の隙を与えるな」

 

「お前の《痛みの悪魔》の力は強力だ、大抵の相手はそれでやれるだろう」

 

「だからお前が警戒するべき相手は二つ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ」

 

「ソイツらと会えば、ほぼ確実に痛みの悪魔の力は通じない…痛みの悪魔無しでの戦い方は頭に入れておけ」

 

 岸辺は一つ一つ説き伏せるように、クナイに向けてアドバイスを語る、その言葉の端々には妙な実感とリアリティーが込められていた。

 

 

「よし、そろそろ再開するぞ…早く立て」

 

「えっ…もう少しだけ休──

 

「立て」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 ──カツリカツリと静かな空間で三人の足音が響く

 

 

「ここには公安が生け捕りにした悪魔達がぶち込まれてる、ここで武器を見つけましょ」

 

 早川アキは黒瀬と天童の案内で悪魔収容所内部を歩いていた。

 

「…そういえばクナイくんの《痛みの悪魔》も、ここに入っとったんでしたっけ?」

 

「まぁ…そうらしいですね」

 

「でも逃げ出したと……疑問ですねぇ…痛みの悪魔なんていかにも強い悪魔だから逃げ出せるのは納得ですけど、だったらなんで大人しく捕まってたんでしょか?…アキ君なんか知っとったりします?」

 

「変なこと聞くのやめな」

 

 ふと黒瀬が口にした疑問

 アキは何かを思い出すように顎に手をやった。

 

 そして、少し間を置いた後に語りだす。

 

「……これはクナイから聞いた話ですけど──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──痛みの悪魔は腹が減っていた。

 

 人間を襲って痛みを食っても、食べられるのは一瞬だけ…痛みを食べた人間は直ぐに死んだ。

 これではあまりにも少ない…

 

 痛みの悪魔は妙案を思いつく。

 そうだ、人間と契約を結んで定期的に痛みを食べるのはどうだろう、と。

 

 聞けば人間が悪魔を集めている場所があり、しかもそこに居れば人間と契約を結べるとの噂だ。

 わざわざ探しに行く必要も無く、その場から動かずに食えるなんて最高じゃないか!

 

 思い立ったが吉日、すぐに悪魔収容所を探しだし、自分から収容されに行った。

 

 こうして痛みの悪魔は働かずに食える環境を手に入れることに成功した…

 

 

 

 ……だが問題があった。

 痛みの悪魔と契約したデビルハンターは、皆数ヶ月以内に痛みに耐えきれず自死してしまうのだ。

 

 痛みの悪魔は公安内部で"契約した人間が死ぬ悪魔"として知られ、契約されることは無くなり、定期的に死刑囚を契約させるだけになってしまった…

 

 

 

 …複数の人間と契約して痛みの悪魔は気付く。

 痛みにも味の違いがあることに…

 

 

 ある時からまずい痛みばかり食わされるようになった

 

 まずい、まずい、まずい

 あぁまずい

 いつになったらこのまずい痛みは変わるのか

 

 結局、我慢出来なくなってしまった。

 まずい痛みを食べ続けるよりマシと、痛みの悪魔は収容所から脱け出し、探しに行くことにした。

 

 美味い痛みを持つ人間を───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───ということらしいです」

 

「はぁ…"ホテルに長期宿泊したはええけどメシが不味かったんで結局キャンセルした"みたいな感覚かい」

 

「そもそも檻とすら認識されてなかったんですね…」

 

 話を聞いた二人は頭を押さえて苦い表情をする

 まさか収容所を宿泊施設感覚で使われていたとは思わなかったのだろう

 

 

 

「…でも契約したら皆自殺してしまうんでしょう?だったらなんでクナイ君は生きて契約できてるんです?」

 

 天童はふと疑問を溢す。

 それは当然の疑問、口に出しただけで答えは別に無くても良い…そんな軽い口調で呟いた

 

「…他の皆が根性なかったか、クナイ君の忍耐力がめっちゃ高いか…」

 

「…それともクナイ君に()()()()()()()でも──おっ着きましたね。」

 

 黒瀬は言いかけていた言葉を止め、一つの扉の前で止まった。

 

 

「この部屋にいる悪魔とアキ君は契約してもらいます。いるのは《未来の悪魔》、気に入られれば安く済みますよ」

 

 慣れた手付きでロックを解除し、扉が開かれる

 ギィと重い扉の軋む音が静かな空間で響いた。

 

 

 早川アキは部屋の中へと重く歩み始める

 

 先ほど黒瀬が冗談混じりに言いかけたことが、頭の片隅で妙に残ったまま────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




《悪臭の悪魔》:くさい、長時間嗅ぐと鼻が麻痺する。生ゴミが集まったかのような見た目をしている。能力を解除すれば臭いは消えるのでまだマシか

《狸の悪魔》:別のモノに化けることができる悪魔。皮の悪魔と似ているが、皮の悪魔と違って死体は必要なく、自分以外のモノも化けさせることが出来る。ただ、一発でも攻撃を喰らうと変化が解除されてしまうので注意が必要だ。
狐の悪魔とは仲が悪いらしい
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