スギ花粉の悪魔がいれば強いかもしれない
───病院内
クナイは入院中の姫野の病室にいた。
「いんやぁ~来てくれてありがとねー!……おっコレ駅前のやつじゃん!お酒と合うんだよね~」
「…入院中なんだから飲まないでくださいよ?」
「わかってるわかってる!…でもちょっとだけ」
「おいマジでやめろ」
冗談冗談とケラケラ笑う姫野と本当に冗談かと苦い顔をするクナイ
それからしばらくして、クナイが口を開く
「しっかし、もうとっくに退院してる頃だってのに…なんで入院期間延びたんです?」
「アハハ…実はリハビリがてらベッドでトレーニングしたら、怪我してる所思いっきりぶつけちゃってさ~」
「…先輩が行くべきは頭の方の病院だったかもしれないですね」
「ひっどいなぁー!?」
「──で、アキに呪いの悪魔との契約はやめさせました」
「…そっか……そりゃよかった…」
クナイは心の底から安心したように息を吐く姫野をチラリと横目で見ると、壁に寄りかかり、腕を組んで眼を閉じた。
そして、少しの間を置いた後に質問を口にする
「…姫野先輩はアキに《銃の悪魔》と戦って欲しくないんですか?」
「……ん、というか…アキくんに…………」
「アキに?」
「アキくんに……死んでほしくない…」
「………………」
クナイは彼女の想い自体は事前に原作で知っていた。
だが、紙面で見るのとは違い、目前で改めて聞かされると何かが違うモノ。彼は閉じた眼を開き、沈黙と共に想いの吐露を促す
「…今回の襲撃で、4課ほとんどの人が死んじゃって…改めて思ったんだ」
「人は簡単に死ぬって…」
「師匠が言ってた…『悪魔が恐れるデビルハンターは頭のネジがブッ飛んでるヤツだ』って…」
「だから前までは…優しくて…マトモだから…普通の人だからアキくんは死んじゃうんだって思ってた…」
「でもさ…いくら頭がブッ飛んでたって…いくら悪魔に恐がられたって……結局は人間だから…銃弾1発当たれば死んじゃうんだよ……」
「……それで、半分悪魔のデンジならば銃の悪魔を代わりに殺せるかもしれないと?」
「…!」
内心で考えていたことをいきなり言い当てられ、姫野は目を見開く。瞬きの多くなった二つの眼は、クナイのいる方向へと向けられた
「正直、難しいかと」
「でも──」
「デンジの強さの話ではなく、アキの話です」
「アイツは『なんでもいいから、どんな手を使ってでもいいから銃の悪魔を殺したい』より『自分の手で銃の悪魔を殺したい』という節が、若干ですがあります」
「よく考えてください、『強くなったデンジが代わりに銃の悪魔を殺すからお前はやらなくていい』って言われて素直にハイと頷くようなヤツですか?」
「それは…………」
言葉に詰まる姫野、それはそうだ。
何故ならクナイは実際に似たようなことを質問している、それに対するアキの答えは少し間を置いて考えてからの"否"であった。
アキの性格をよく知っている姫野ならば、それを想像するのも容易いことだろう。
「ッじゃあどうすれば!!」
「──
「…え?」
「…なにそれ?」
──暗い教室
止まぬ雨が眩しく照らす音と共に、静かな月明かりが、窓と部屋を打ち付ける。
どうにもおかしいが、デンジと共に窓を見つめる少女がいるならば、その表現もおかしくないように思える…そんな不可思議な雰囲気が、この空間内を占めていた。
「『イソップ寓話』ってお話のひとつだよ」
「都会にいるネズミは美味しいご飯は食べられるけど、人間や他の動物に狙われるから危なくて…」
「田舎のネズミは都会みたいに美味しいご飯は食べられないけど、人間も他の動物もいないから安全に…平和に暮らせる……」
「デンジ君は…どっちがいい?」
「僕は田舎のネズミがよかった…けどマキマに捕まって都会に連れて来られたんだ」
「僕の心は田舎にあるのさ」
「都会のキミに付き合って危険な目はごめんだね」
──横殴りの雨
風に流された空の雫が、まるで壊れたシャワーのように斜めに降りしきる。
バラバラと入り口の屋根に打ち付ける音が、周囲の足音や車の音を遮断する、聞こえるのは二人の会話だけとなった。
「……あのなぁ」
「今のキミは都会だろう?少なくとも、田舎でしっかり安全に…ってワケじゃない」
「………」
「でも、完全に都会のネズミってワケでも無いよね」
「都会のネズミは美味しい食事を求めて危険に向かう、でもキミはそれすら求めてない…なにも無く、ただ危険だけに向かってる…」
「ねぇ、キミの心はどこにあるんだい」
「…俺は───」
「イソップ寓話ですよ、知りません?」
「いやそりゃ…知ってはいるけど…」
いきなりそんなことを言われて戸惑う姫野、何故急にイソップ寓話を?そう思うのも無理はないだろう。
そんな姫野を見ながらクナイは気にせず言葉を続ける
「要はアキを、危険のない田舎のネズミにしたいってことでしょう?」
「そう…なのかな…」
「…アイツは、元は田舎のネズミです」
「というか、本来田舎にいるべきネズミが無理矢理都会に連れて来られたようなもんですかね」
「だから都会の
「アイツの…アキの心は
「『俺は本来あの場所で家族と共に死んでるハズの人間だ、だから死んでもいいし、俺が死ぬ前に悪魔を殺せるのならそれでいい』…そんなことを考えてるんじゃないですかね」
淡々と、思い起こすように語るクナイ
その瞳は足元を見ているようだが、また別の何かを見ているようにも見える
姫野はクナイの話を聞き、ベッドのシーツを静かに握り締め、口を開く。
「……じゃあ…どうすればいいのかな」
「自分の命に価値を与えてやるんですよ」
「…どういうこと?」
クナイが寄りかかっていた壁から離れ、ゆっくりと歩きだす。
その足は病室の出口へと向かっていた
「アキは自分の命に価値が無いと思っています、だから簡単に自分の命を捨てようとする」
「『この人は俺が死ぬと悲しむ』『この人は悲しませたくない』…そう思わせて…価値を与えてやって下さい」
ドアノブに手をかけ、扉を開く。ギギギと、重い音がクナイの頭に痛みと共に響いた
「……それと一度、先輩の気持ちを伝えてみてもいいかもしれません。今のアキは…デンジやパワーと同居して、ほんの少しですが和らいできていますから」
──お大事に。
そう言い残し、扉が閉じられる。
姫野は一度だけ手を振ると、その手を裏返し、掌をじっと見つめた。
──彼女が何を思っているのかはわからない
だが少なくとも退院後には、デビルハンターとして、早川アキのバディとして復帰することだけは確かだ。
─────電話ボックス
────喫茶店
───夜の学校
──祭り
それは二人にとっては永く、とても濃厚な時間
「デンジ君」
だが、他者から見れば…まるで映画のように、一夏の思い出などあっと言う間だ。
「私の他に好きな人いるでしょ」
──火花が、夜空で咲いた。