アキの年齢が微妙にわからん
「あーホント不気味だあの女、なに考えてるか分かりやしない…」
部屋から出て愚痴を吐きながら歩く。
誰に聞かせる訳でもなく、コツリコツリと硬めの靴音をわざとらしく響かせる。
『ふーん、そんなにイヤなら殺せばいいのに』
「出来るかアホ!ってか急に話しかけてくるな!」
頭の中でいきなり声が響く、男とも女とも言えない声。
頭痛と相まって微妙に気持ち悪い。
『ヤだね、いつ喋ろうがツウの勝手』
「お前なぁ……というかお前頭の痛みはいいが定期的に痛みの強弱変えるの止めろよ…」
この頭の中で響く声は悪魔の声。
痛みの悪魔【ツウ】
俺が一番最初に契約した悪魔、今は俺の頭に憑いていて、たまにこうやって話しかけてくる。
『それもヤだ。クナイだってずっと同じモノ食べ続けるのイヤでしょ?』
「まぁそうだけどさぁ…」
コイツは人の痛いと思う気持ちを食べる悪魔
俺のことを食糧庫かなんかだと思ってやがる。
まぁ実際その通りだがなんかムカつく。
「クナイ、なにしてるんだ?」
急に後ろから声が掛けられる。
誰か来てたのは分かってたがいきなり後ろから話しかけられるとちょっとビビる
「あっあぁ…おはようアキ、ちょっと悪魔と話しててね…」
後ろにいたのは黒髪ちょんまげイケメン野郎だ。
"
言うまでもなく原作のキャラ。
一応年齢で言えば俺の先輩なのだが、何度か飲み行ったり(俺はソフトドリンク)仕事で組んだりしてるうちに敬語で話すことは無くなった。
「あぁおはよう。悪魔…っていうと痛みの悪魔か」
「そうそう、というか他の悪魔は喋らない…というか喋らせてないしね……あっそうだ、俺昨日契約悪魔増えたんだよ3体も!」
「またかよ…今月だけでも7体じゃねぇか」
わりと気安く話せるのでアキとの会話は気に入っている。仕事の愚痴が多めだが、愚痴を誰かに話せる時間はとても貴重だ。
「まぁね、なんなら1体貸そうか?」
「止めとく、どうせお前それダシに昼飯タカりに来る気だろ。」
「ハハッバレて~ら」
今のは冗談だが、実際コイツは自分の命を省みないし、なんなら悪魔に自分の寿命すら捧げようとする。
攻撃手段や防御手段はもっとあった方がいいと思うのだが
「なぁアキ」
「なんだ」
「お前…銃の悪魔を倒したいんだよな?」
「……あぁ」
その銃の悪魔はとっくにブッ倒されて国に兵器運用されてんぞ…とは言えないな
「なら…もし"超絶最強絶対悪魔ブッ殺しハンター"が現れたとして…」
「小学生かよ」
「うっせ……それで"銃の悪魔は私が倒す、安心して全て任せてくれ"って言われたら…どうする?」
「……………………………いや───断…る…」
「…………そうか」
たとえどれだけ強かろうと、ただ1人に復讐対象を任せるのは複雑な気持ちなのだろう。
できることなら自分の手で銃の悪魔を倒したい。
家族を奪った銃の悪魔への復讐の為に。
家族を奪った悪魔と契約した俺とは正反対だ。
「…だったらツウと契約してみるか?」
「は…?」
「銃の悪魔を倒したいんだろう?痛みの悪魔の力があれば今より強くなれるし、俺みたいに悪魔に無理矢理契約させれば契約で何かを差し出す必要もない。頭痛だって…これくらいならアキは耐えられるだろうし…」
「………それは『ヤだね』─!」
「ツウ!?」
アキが答えようとしたとたん、俺の頭から黒いトゲトゲとしたモノが出てきた。
これはツウの本体で、滅多に出てくることはないのだが…
『ツウはソイツと契約するのはヤだ、マズそう』
「不味そうって…」
『今のソイツは生きてない、死んでないだけ、そんなヤツの痛みはマズいし腐ってる。』
「…………」
『その点クナイは良い。生きてるし、生きようとしてる。常に新鮮、だからオイシイ。』
「お前な…」
まさかツウが拒否するとは思わなかった。
アキも強くなれるし、ついでに頭痛の悩みも共有できるし良い案だと思ったのだが
「…あーなんかゴメンなツウが」
「………いや、いい」
「まぁなんだ、もうちょい自分を大事しなよ…お前と飲み行けなくなるのヤだし……じゃあな」
なんだか気まずくなって言いたいことだけ言って逃げるようにその場を去った。
怒ってるかなぁ…
期待だけさせてやっぱ出来ないって無いよなぁ…
アキに契約紹介させたのが気に食わなかったのか、さっきより更に痛みの増した頭を揉みながら脳内反省会を繰り返すのだった。
「……飲みって…お前まだ酒飲めねぇだろ…」
言うだけ言って去っていった友人の台詞に聞こえるはずもない返答を呟いた。
最初は気味の悪いヤツだと思った。
契約したデビルハンターが皆自殺してるとかいう噂の悪魔と契約した少年。
契約の代償なのか常に頭痛があり、頭から手を離してる時の方がレア
いつもヘラヘラしていて、説明を聞き逃せば"頭痛くって聞いてませんでした~"とわざとらしく言うのが癪に障る。
経歴も聞いた。
自分の両親を殺した悪魔と契約したと聞いたときは少し落胆した。
どうせコイツは悪魔に無理矢理契約を結ばされたんだろう、そう長くは生きられない。
だから、悪魔10体と契約、しかもほぼ無条件でしたと聞いたときは驚いた。どんなインチキしたんだと仕事に着いていったら更に驚いた。
『イ"ッ"イデェ"!!イ"デェヨ"ォ"ォ"!!!』
『<痛覚3倍>…口は残すから安心しろよ』
『ダズゲデ!!ダズゲデグレ"ョ"ォ"!!!』
『その痛みを取り除いて欲しけりゃ契約しろ。"俺に全てを差し出す"と』
『アァワ"ガッ"ダ!!ワ"ガッ"ダガラ"!ハヤグ!!』
『おーけー契約成立な』
悪魔の四肢を切って少しずつ肉を削いでいた。
まるで作業のように、YESというまでループする選択肢のようだった。
悪魔に恨みを持つヤツが拷問のように悪魔を殺すのは珍しいことじゃないし、俺だってそうしてやりたい。だがコイツは恨みもなにもなく、ただ淡々と契約を迫るだけだった。
俺はコイツのことが分からなくなり、同時に知りたいと思うようになった。
それからだった、コイツと話すようになったのは。話すことも特に珍しいことじゃない。
やれあの店の飯が美味かっただの、やれ頭痛に頭痛薬効かなかっただの。
話してるうちに分かったのは思ったよりも普通のヤツだということ。
だからこそ余計分からなくなった、両親から酷い扱いを受けていたわけでもなく、普通に愛情を持っていたであろうコイツが、両親を殺した悪魔を恨んでない理由が。
『悪魔を恨んでないのかって?…んーまぁ思うところは無くもないですよ?』
『…俺の両親はあんまり俺にどこか塾行けとか指示したり、何かお願いしたりすることは無くて、俺がやりたいことをやらせてくれたんです。失敗したら慰めてくれて、成功したら盛大に褒めてくれて…』
『だから痛みの悪魔に襲われた時、一番驚いたのは悪魔ではなく両親の言葉でした…"生きろ"って…たった一言、初めての大きなお願いで、初めて聞いた両親の荒らげた声でした。』
『そんなこと言われちゃ生きるしか無いじゃないですか、死にたくないし…初めての親孝行だし…それこそ、両親を殺した悪魔の手を借りてでも生きなきゃ…生き続けなきゃいけないじゃないですか。』
『だから俺はどれだけ頭が痛もうと生きるんです、恨むより先に生きる為に
それを聞いて妙にしっくり来た。
俺が銃の悪魔への復讐の為に生きるように、コイツは
もう分からないことは無くなり、俺はコイツを、クナイを友人と思うようにした。
たまに飲みに行くようになり(クナイはノンアルだが)、一緒に飯に行くようにもなり、敬語も止めさせた。
数歳差だが、今では同い年同然の会話をするようになった。まぁたまに先輩なんだから奢れと迫るのがムカつくが…
そんな友人の言葉を聞いて思う、もし俺が死んだらと…無論俺は銃の悪魔を殺すまで止まるつもりはない。
だがもしも復讐を遂げる前に死んだら───
……何度か飲みには行ったが一緒に酒は飲んだことなかったな
友人と飲み交わす前に死ぬのは少し、勿体ないかもしれない…
そんな微妙な心残りを想いながら、俺は廊下を歩き始めた。
誰に聞かせる訳でもなく、カツリカツリと硬めの靴音が廊下に響き渡っていた。