ソードアート・オンライン ~灰の剣帝の英雄譚~ 作:アキ1113
それでは、どうぞご覧ください。
「あれ……ログアウトボタンがねぇぞ?」
「「……え?」」
クラインは放った言葉に、2人は思わずそんな声を出したが……
「いやいやよく見てみろよ。メインメニューの一番下に―――」
「ない……」
「え?」
「クラインの言う通りだよ……ログアウトボタンが……ない」
サツキも自身のメニューを開いて確認したようで、本来あるはずのものがないことを疑問に思っていた。
「!……本当に……」
「ま、今日はサービス初日だしバグも出るだろう……今頃、運営は半泣きだろうけどな!」
クラインはそう言って苦笑いをしたのだが……
「それ、完全にブーメランじゃ……」
「確かにな」
「へ?」
サツキとキリトの言葉の意味が分からず、クラインは首を傾げるが……
「今、5時25分だけど?」
「………あっ!?俺様のテリマヨピザとジンジャーエールがーー!!!」
キリトの言葉で注文していたピザを受け取れないことを理解したのか、頭を抱えて絶叫していた。
「……さっさとGMコールしろよ」
「とっくにしたけど反応が無ぇんだよ!」
「……他にログアウトする方法って何かあったっけ?」
サツキがキリトにそう訊くが……
「……ない。プレイヤーが自発的にログアウトする方法は、メニューを操作する以外に方法はない」
「……」
返って来たのはそんな答えだった……。
「んなバカな!絶対になにかあるはず……戻れ!ログアウト!脱出!!」
クラインは思いつく限りの方法を試すが、それでログアウトできるはずもなく……
「ないって言ってるだろ……マニュアルにも緊急切断方法は一切載っていなかった」
「マジか……!なら、ナーヴギアを頭から引っぺがすとか―――」
「できないよ……俺たちは今、現実の体を動かせないんだ……ナーヴギアが俺たちの体から出力される命令を、全部ここで遮断している」
「っ……なら、バグが直るのを待つしかないのか?」
「それか現実世界の誰かが、僕たちの頭からナーヴギアを外してくれるかを待つしかない……ってことになるね」
「あぁ……」
クラインとサツキの言葉に、キリトは深く頷いた。
「でも俺、一人暮らしだぜ……お前らは……?」
「母親と妹がいる……だから、晩飯の時間には気付いてくれると思う。サツキは?」
「僕は姉がいるから、流石に何かあったら気付いてくれ―――」
キリトとサツキがそう言った途端、クラインは2人の肩を掴んであることを訊いた。
「なぁ……キリトの妹さんと、サツキのお姉さんっていくつ?」
「「こんなときに余裕そうだな(ね)……」」
この状況ではまず出ない発言に、2人は揃って呆れていた。
「まぁそんなことよりも……これ、明らかにおかしくない?」
「おかしいって……?」
サツキの言葉に対し、クラインは疑問府を浮かべながらそう返した。
「ログアウト出来ないなんてただのバグじゃないことは運営だって分かっているはず……とっくに何か動きがあってもおかしくないと思うんだけど……」
「!言われてみりゃ確かに……」
「サツキの言う通りだ。こんなの……一度サーバーを停止してプレイヤー全員を強制ログアウトすればいいのに、そのアナウンスすらないなんて―――」
その時……
「「「!?」」」
急に鐘の音が鳴り響いたかと思えば、3人の視界は光に包まれ……
「!これって……」
「強制テレポート……!」
転移門広場へと強制的に転移されていたのだ。さらに、転移されていたのは3人だけではなく、現在SAOにログインしている全プレイヤーが強制転移させられているようだ。
「あっ、上……」
一人のプレイヤーが発したその言葉につられ、全プレイヤーが空に目を向けた。視線の先には『WARNING』という文字が赤く点滅しながら空の一部分に浮かんでいた。それは、一瞬のうちに空全体へと広がっていき……
「何だ、あれは……!?」
その隙間から血のように赤い液体が流れ出てきたのだ。その液体は、宙で何かを形作っていき……
「ゲームマスター?」
「何で顔がないんだ?」
「怖いよ……!」
それは赤いローブと白い手袋をしたアバターになったのだが、何故か顔が見えないようになっていた。プレイヤーたちが戸惑いの声を上げていると……
『プレイヤー諸君、ようこそ私の世界へ』
「私の世界……?」
『私の名は茅場晶彦……今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』
「っ!?」
赤いローブのアバターがそう名乗ったのだ。茅場晶彦はSAOとナーヴギアの開発者であり、量子物理学者にして天才ゲームデザイナーと呼ばれている人物だ。サツキは茅場のことを詳しく知っているわけではなかったが、テレビやインターネットの記事などで見たことがあった。
「本物……!?」
「随分と手ぇ込んでんな……」
ゲームマスターの登場に、プレイヤーたちのほとんどが驚愕していた。
『プレイヤー諸君は、既にメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う』
その言葉を聞き、ここにいる大多数のプレイヤーがそれに関する説明がされると思っていた……が、
『しかしこれはゲームの不具合ではない。繰り返す。ゲームの不具合ではなく、SAO本来の仕様である』
その期待は裏切られ、茅場は淡々とログアウトボタンが消滅していることが、バグではないことを告げる。
『諸君は自発的にログアウトすることはできない。また、外部の人間によるナーヴギアの停止、あるいは解除も有り得ない。もしそれが試みられた場合、ナーヴギアの信号素子が発する高出力のマイクロウェーブが……
諸君らの生命活動を停止させる』
「ど、どういうこと!?」
「盛り上げるための演出だろ……?」
茅場の言葉を信じられないプレイヤーが、驚愕や困惑といった反応を見せていた。
「な、何言ってんだあいつ……なぁ2人とも……」
クラインも信じられないのか、隣にいる2人にそう訊いた。
「信号素子のマイクロウェーブは電子レンジと同じだ……リミッターさえ外せば、脳を焼くことも不可能じゃない……!」
「……電源を切るのは?」
サツキがそう尋ねてみたものの……
「いや、ナーヴギアには内蔵バッテリーがある……」
「っ……」
「ム、ムチャクチャだろ!なんなんだよっ!?」
キリトは無情にもそう告げた。サツキは思わず黙り込み、クラインは全プレイヤーが思っているであろう言葉を口にする。
『……残念ながら、現時点でプレイヤーの家族、友人らが警告を無視し、ナーヴギアの解除を試みた結果……
213名のプレイヤーが、この世界たる浮遊城アインクラッド及び現実世界から永久に退場している』
「「……!?」」
「……」
『多数の死者が出たことを含め、この状況をあらゆるメディアが報道している』
その言葉と同時に、現実世界で報道されているニュースが映し出される……そのニュースはナーヴギアによって死亡者が出たというもので、プレイヤーの家族であろう人が泣いている様子も映っていた。
『よって、既にナーヴギアが強制的に解除される危険は低くなっているといえよう。諸君は安心して、ゲーム攻略に励んでほしい』
「……」
(安心、ね……こんな状況でできるわけないのに……)
茅場の言葉に、サツキは内心でそんなことを思っていた。
『しかし、十分に留意してもらいたい。今後ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は存在しない。HPが0になった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に―――
諸君の脳は、ナーヴギアによって破壊される』
「「「……っ!?」」」
HP0=死ということに、3人を含めた全てのプレイヤーが衝撃を受けていた。
『諸君が解放される条件はただ一つ……このゲームをクリアすればよい。現在君たちがいるのは、アインクラッドの最下層―――第一層である。各フロアの迷宮区を攻略し、フロアボスを倒せば次の層に進める。そして、第百層にいる最終ボスを倒せばクリアだ』
「百層、だと……ベータじゃろくに上がれなかったってのに、できるわけねぇだろ!?」
厳しすぎるゲームクリアの条件に、クラインは茅場に向かって怒鳴り声を上げた。そんなクラインや呆然とするプレイヤーたちを余所に……
『……それでは最後に、私からのプレゼントだ』
その言葉の直後、全プレイヤーの手元に鏡が現れる。
「鏡……?」
「何でこんなもの―――」
茅場からのプレゼントに、キリトとサツキが疑問を覚えていると……
「「!?」」
「うわっ……!?」
プレイヤーたちが次々と光に包まれていったのだ。
「!……これって……」
サツキは目を開けて鏡を見る……そこには自身のアバターではなく、現実世界での自分の顔が映っていた。それは、サツキ以外のプレイヤーも同様で……
「大丈夫か……キリト?」
「あぁ……大丈夫だクライ―――って、お前……誰?」
「!……お前こそ誰だよ……?」
キリトとクラインも互いの顔を見て、驚きを隠せずにいた……。
「あれ……!?何で俺の顔が……」
「アバターはどうなったんだ!?」
自身の顔が現実世界のものになっていることに、驚愕しているプレイヤーたちもいる一方……
「アンタ男だったの!?」
「17って噓かよ!?」
「VRでネカマすんなよ!」
「う、うるせぇよ!」
性別や年齢を変えてプレイしていたのか、そのように言い争っているプレイヤーもいた。そんな周りの状況を見て……
「ってことは……お前がクライン……!?」
「お前キリトか?」
2人はお互いが、先ほどまで一緒に狩りをしていたプレイヤーであると察した。
「!」
(まさか……)
サツキは何か悪い予感があったのか、ゆっくりと前髪を上げて額の左側を見た。そこには……
「っ……」
現実世界でもあった痣がはっきりとあったのだ。さらにサツキは、現実世界で包帯をしている左腕の辺りを見ると……
「っ……」
(こっちにも、あるんだ……)
何かで切った痕なのか、沢山の切り傷があったのだ。
「サツキは―――あまり変わってないな……?」
「確かに……そんなに違和感がねぇっつうか……」
「!ま、まぁ……ね」
サツキは咄嗟に左腕を袖に隠しつつ、キリトとクラインにそう答えた。2人が言うように、サツキのアバターは現実世界の自分をベースに作成しており、そこから少し変えて作ったものであるため、多少の変化はあるものの現実世界の顔と比べてもあまり違和感がないものとなっている。
「というか、どうなってんだこりゃあ……!?」
クラインは何故、現実世界での顔が仮想世界で再現されているかを理解できずにいた。
「!そうか……ナーヴギアは高密度の信号装置で顔をすっぽり覆っている。だから顔の形を把握できるんだ!でも、体格はどうして……?」
「ナーヴギアを装着した時に確か……キャリブレーション?とかで全身あちこち触ったじゃねーか」
「!そうか……おそらくそのデータを元に……」
「っ……」
(そういうことか……!だから額や左腕の傷まで……)
クラインやキリトの言葉を聞き、サツキは納得しながらも厳しい表情を浮かべていた。
『諸君は今何故?と思っているだろう。何故、SAO及びナーヴギアの開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのかと……実際、私の目的は既に達成されている。この世界を創り出し干渉するためにのみ、私はSAOを作った。そして今、全ては達成せしめられた』
「茅場……!」
キリトは拳を強く握り、茅場の方を見つめていた。そして……
『以上でSAO正式サービスのチュートリアルを終了する。諸君の健闘を祈る……
これはゲームであっても遊びではない』
茅場がそう言い残すと、赤いローブのアバターは消えていき、空も夕焼けへと戻っていった。残されたプレイヤーたちは、数秒間沈黙していたが……
「……いや……いやあああああ!!」
1人のプレイヤーの悲鳴を皮切りに、パニックに陥ってしまった。
「まじかよ……」
「ふざけんなよ!!」
「ここから出せよ!!」
「こんなの……こんなのって……!」
誰もがこの状況を受け入れられない中、サツキは至って落ち着いた様子でいた。そんな中……
「2人とも、こっちに来てくれ!」
「お、おい!?」
「キリト?」
キリトが2人のことを呼びながらサツキの手を引き、広場から路地裏へと入っていった。
「よく聞いてくれ。俺はすぐに次の村に行く。2人も一緒に来い」
「え……?」
クラインはキリトの言葉がどういうことか分からず、困惑していたが……
「……詳しく聞かせて」
サツキは話の続きを促し、キリトは頷いてから説明を続けた。
「この世界で生き残るためには、ひたすらに自分を強化しないといけない。このVRMMORPGが供給するリソース……つまりは俺たちが得られる金や経験値には限りがあるんだ。今いる始まりの街周辺のフィールドはすぐに狩りつくされる……効率よく稼ぐためには、今のうちに次の村を拠点にした方がいい……俺はそこまでの道も危険なポイントも全部知ってるから、レベル1でも安全に辿り着ける」
キリトはせめて2人だけでも死なせたくないと思ったのか、自分について来るように説得した……が、
「でも……でもよ……俺は他のゲームでダチだった奴らと徹夜で並んでさ……あいつら、今も広場にいるはずなんだ……置いては、行けねぇ……」
「……そうか……」
(クラインとサツキだけなら何とかなる―――いや、サツキは初心者と思えないほど戦い慣れているから、余程のことがない限りは大丈夫……だと思う。だとするとあと2人……いや1人増えても無事に済むかどうか―――)
クラインは一緒にログインしているはずの友達を見捨てることはできず、キリトの誘いを断ろうとしていた。キリトはクラインの仲間も何とか連れて行けるかを考えていたが、あと1人までが安全に次の村まで行ける人数だと結論付けており、それ以上の人数になると守り切れる余裕がなかった……すると……
「……悪い」
「!?」
「お前にこれ以上、世話になるわけにはいかねぇよな……だから気にしねぇで次の村に行ってくれ」
「クライン……」
「そんな顔すんなよ?俺だって、前のゲームじゃギルドの頭張ってたんだ!お前から教わったテクでなんとかしてみせらぁ!」
クラインはキリトを気遣ってなのか、そんな言葉を掛けてくれた。
「そっか………サツキは―――」
「ついて行く」
サツキはキリトに聞かれる前に、ついて行くことを決めた。
「……いいのか?」
「うん……僕も今は、早く力を付けなきゃいけないから」
「サツキ……」
「それに、キリトを1人にするわけにはいかないしね」
「!……ありがとう」
サツキのその言葉に、キリトは心から感謝した。
「なら、ここで別れよう……何かあったら、メッセージを飛ばしてくれ」
キリトとサツキはクラインに背を向け、次の村へと移動しようとした。すると……
「……キリト!」
「!」
「お前……案外、可愛い顔してやがんな。結構好みだぜ!サツキもアバターよりそっちの方が綺麗な顔してて好みだぜ!」
クラインが2人にそんな言葉を掛けたのだ。
「……お前も、その野武士ヅラの方が10倍似合ってるよ!」
「それ褒め言葉として受け取っていいのかな………クライン!」
「?」
「……死なないでよ」
「おう!お前らもな!」
クラインが広場に戻っていくのを見送った後、2人は今度こそ次の村に走り出していった。
次回『裏切り』