ソードアート・オンライン ~灰の剣帝の英雄譚~ 作:アキ1113
それでは、どうぞご覧ください。
4人パーティーを組んだサツキたちは、トールバーナの街にある広場へと来ていた。そこにはサツキたち以外にも、数十人のプレイヤーたちが集まっていた……今日は第1層の攻略会議が行われる日であり、広場にいるプレイヤーたちは全員、ボス攻略のために集まっているのだ。
「僕たち含めて40人くらい……これって人数的にはどうなの?」
「……明らかに少ない方だな」
「そうね……」
「そうなの?」
「1つのパーティーで組めるのは6人……フロアボスを攻略するなら、そのパーティーが8つでできるレイドパーティーってのが必要になるんだ」
「それでもって、犠牲者を出さずに攻略しようとなればレイドパーティーが2つ必要になるの」
「「なるほど……」」
その説明に、ビギナーであるサツキとアスナは口を揃えてそう呟いた。すると……
「今日は呼びかけに応じてくれてありがとう」
ステージの上に、青髪で上半身に騎士のような鎧に片手剣と盾を装備した青年が立った。
「俺の名はディアベル。職業は……気持ち的に『ナイト』やってます!」
「SAOに職業システムなんてねーだろ!」
この攻略会議はディアベルが呼びかけたものであり、自己紹介でプレイヤーたちの緊張や不安を払拭していることから、リーダーとしての素質も高い人物であることがうかがえた。
「さて……今日集まってもらった理由は他でもない……
俺たちのパーティーが、迷宮区の最上階でボス部屋を発見した」
『!?』
その言葉を聞き、プレイヤーたちは大なり小なり反応を見せた。
「俺たちはボスを倒し、このデスゲームがいつかクリアできるってことを、みんなに伝えなきゃならない!それが今、ここにいる者たちの義務なんだ!そうだろみんな!」
ディアベルはそう言い、プレイヤーたちの士気を高めていた……が、
「ちょお待ってんか!!」
『!?』
突然そんな声が聞こえ、プレイヤーたちは一斉にそちらの方を向く。そこにはサボテンのような髪型をしたプレイヤーがいた。
「何だ、あの人……?」
ステージの方に歩いていくそのプレイヤーを目で追いながら、サツキは思わずそう呟いていた。
「発言があるなら、まずは名乗ってくれないか?」
「ワイはキバオウってもんや!ボスと戦う前に、言わせてもらいたいことがある!」
「……」
(これって……まさかキリトが言っていた……)
プレイヤーたちの視線が先ほどよりもキバオウに集中していく。サツキはキバオウの言葉に嫌な予感がしながらも、まずは話を黙って聞くことにした。
「よく聞け!!こん中に今まで死んでいった2千人にワビ入れなあかんやつらがおるはずや!!」
「キバオウさん。君の言う『やつら』とはつまり、元ベータテスターの人たちのことかな……?」
「その通りや!」
(やっぱりか……)
サツキはキリトからベータテスターが今後、立場が悪くなる可能性を聞いていたようで、その可能性が現実のものとなったことから、僅かに顔をしかめていた。
「やつらはこのデスゲームが始まったあの日、真っ先にウマい狩り場やクエストを独占しくさった……!そのせいで、この1ヶ月で2千人も死んでいった!!」
「「っ……」」
キバオウの言葉に、元ベータテスターであるキリトとミトは思わず肩を震わせた。本当は違うと言いたかったのだが、糾弾されることが怖くそうとは言えなかった……。
「こん中にもおるはずや!そいつらがワビ入れてアイテムやコルを全部差し出さんと、パーティーメンバーとして命は預けられん!」
それに対し、数人のプレイヤーが賛同するように声を上げた……
「ちょっといい?」
「「「サツキ(君)!?」」」
サツキは立ち上がってそう言うと、極めて落ち着いた様子でステージへと歩いていく。その行動を見た3人は、驚きを隠せずにいた。
「な、なんやお前……?」
「僕はサツキ。キバオウさん……だっけ?さっきの言葉だけど……それ、本気で言ってるの?」
「あぁそうや!もしお前もベータテスターなら、ここで賠償してもらおか!!」
その返答を聞き……
「なら……
パーティーメンバーとして命は預けられないって言葉、そっくりそのまま返すよ」
『!?』
サツキは怒気を含ませながらそう言い放ったのだ。プレイヤーたちはサツキのそんな態度に驚きを隠せずにいた……特に、初日から一緒にいてそのような姿を見たことがなかったキリトや、サツキに助けられた時に優しく温厚な人だという印象を持っていたアスナとミトは、その反応が顕著に出ていた。
「な、なんやと!?」
「キバオウさんが言ったことはつまり……『元ベータテスターは死ね』ってことでいいんだよね?」
「!そ、そこまでは言って―――」
「同じだよ。仮にそういうつもりがなかったとしても……アイテムやコルを全部差し出させて、それで元ベータテスターが1人でも死んだ時に、責任なんて取れやしない……そうでしょ?」
「っ……」
「そもそも今は、元テスターとかビギナーとか言ってる場合じゃない……考えるべきなのは、犠牲を出さずにこの層のボスをどう倒すのかじゃない?それを考えられない人に……僕は命を預けるつもりはない」
サツキの言葉を聞いたキバオウは思わず押し黙り、何人かのプレイヤーは納得した様子を見せる者もいた。すると……
「俺もその兄ちゃんの意見に同意だ」
サツキの意見に賛同したであろう、スキンヘッドで身長が190cmある斧使いのプレイヤーが声を上げた。
「?えっと……」
「俺はエギルだ……キバオウさん、俺から言わせてもらえば、金やアイテムならまだしも情報ならあったぞ?」
エギルはそう言いながら、1つの手のひらサイズの本を出した。
「このガイドブック……あんたも貰っただろ?道具屋で無料配布しているモンだが……」
「ワイも貰ろたで!それがどうかしたんか?」
「……これを配布していたのは、元ベータテスターたちだ」
『!?』
「いいか?情報は誰にでも手に入れられたんだ。なのに大勢のプレイヤーが死んだ……だが今は、その責任を追求してる場合じゃないだろ?この兄ちゃんの言う通り、これからどうボスに挑むべきなのか……俺はそれがこの場で議論されると思ってたんだがな……」
「ぐ……」
その正論に、キバオウは何も言い返すことが出来なくなっていた。
「キバオウさん、君の言う事も理解できる……でも2人の言う通り、今は前を見るべきだ!元ベータテスターの協力は、ボスの攻略に必要だからな」
「ちっ……ここはあんさんに従うといたるわ」
キバオウはそう言い残すと、元いた場所へと戻って行った。その後、サツキも3人のところに戻って行くと……
「「「サツキ(君)?」」」
「え、何?」
「「「後で話があります」」」
「?分かった」
3人からそう言われたが、言われた本人はどういうことかよく分かっていない様子でいた。
「……それじゃあ再開するよ。ボスについての情報だが……実は先ほど、ガイドブックの最新版が配布された!」
『!?』
「これにはボスの名前、ソードスキル、ダメージ量、取り巻きMobまで記されている………すごい情報量だ……各自、目を通しておいてくれ」
「すげぇ……」
「これならいけるんじゃ……!?」
最新版のガイドブックを見たプレイヤーは、記されたボスの情報の多さに驚愕していた。
「キリト、これって……」
「あぁ……あいつの仕業だな」
「アルゴさんも無茶するよね……」
「……それ、お前が言うのか?」
「え?」
このガイドブックの情報がアルゴによるものだと察したサツキとキリトが、そんな会話をしていると……
「よし、これを踏まえてレイドの構成をしよう。まずは自由にパーティーを組んでくれ」
プレイヤーたちはディアベルの言葉に従い、各々パーティーを組み始めていく。そして、サツキたちはというと……
「僕たち4人は確定として……あと2人でいいんだよね?」
「そうだな……でも他はもう組んでるし―――」
すると……
「君たちは4人のパーティーかな?」
「?そうだけど……」
「君たちには、取り巻きのコボルト潰しのサポートをお願いしてもいいかな?これも重要な役目なんだ」
ディアベルからそう頼まれたのだ。サツキはキリトの方に視線を向け、この頼みを受け入れていいかの判断を仰いだ。それに気付いたキリトは、サツキの意図を察したのか静かに頷く。
「……分かった」
「すまない……助かるよ」
サツキの返事を聞いたディアベルはそう言い、ステージへと戻って行った。
「……何か不満そうな顔だな……」
「だってあれ、戦力外って言ってるようなものじゃない……」
不満そうな表情をしていたアスナにキリトが声を掛けると、案の定納得していない様子でいた。その後も会議は進んでいき……
「じゃ、会議はこれにて……解散!」
◇
攻略会議が終わり、広場に集まっていたプレイヤーたちも帰った後……
「それで話って……?」
「「「……」」」
「……?」
サツキは何故か3人に囲まれながら、席に座らせられていた。何のことか分からず、サツキは戸惑っていたが……
「……何で、あんなこと言ったんだ?」
「え?」
「さっきの会議でお前、危ないところだったんだぞ?」
キリトにそう訊かれたのだ……キリトはどうやら、ベータテスターを糾弾する流れが出来つつあった中で、サツキがキバオウや他のプレイヤーに対して意見したことに、その身を案じて説教をするつもりのようだ……が、
「………危ないって、何が?」
「!何がって……」
サツキはキリトの言葉の意味が、理解できていない様子でいたのだ。
「もしあの場で何か因縁つけられてたら、元ベータテスターじゃないサツキが危険な目にあってたかもしれないのよ?」
ミトもサツキのことを心配して、そう言ったのだが……
「逆にあそこで何も言わなかったら、元ベータテスターに対する偏見がさらに広まってたかもしれないよ」
「それは………だからって、サツキ君が言う必要は……」
「でも手遅れになって、他の元テスターたちが迫害されるよりはずっといい……その分、出るかもしれない犠牲も無くせる……そうでしょ?」
「!私たちが言いたいのは―――」
サツキの自身を顧みない言葉に、3人は困惑した様子でいた。
「……」
(アルゴの手伝いや今回のことといい……何でサツキはこんなに無茶するんだ……)
キリトはこの1ヶ月間、サツキと行動を共にしてきた。そんな中でキリトがサツキに感じたのは、他人に対して基本的に優しく、VRMMOが初めてとは思えないほど腕が立ち頼りになる………が、今回のことのように、何故か自分の身を削ってまで他人を助けようとしている……ということだ。
実際、ビギナーであるにもかかわらずアルゴの依頼としてベータテストとの相違点の調査や、新しい情報の裏取りなどを引き受けたり、ビギナーである自身はもっと強くならなければならないという理由から、夜中や早朝に1人でレベリングをしていた―――今はキリトが一緒に行くようにしている―――などということがあった。
(無茶する理由を訊きたいが……無理に話させるわけにもいかないしな……)
キリトはすぐにでもサツキに理由を訊きたかったが、もしデリケートな話だった場合を考えてか、今は訊かないことにした。そして、今もサツキに説教をしているアスナとミトを見て……
「2人ともその辺にしておけよ?」
「キリト君……」
「でも……」
キリトはそれを止めたのだが、2人はまだ言いたいことがある様子でいた……。
「あれは俺やミトを含めた元テスターたちのために言ってくれたことだろうし……あとサツキ、いつも言ってると思うけど、あんまり無茶はするなよ?」
「……善処するよ」
「善処って……まぁ、噓つかれるよりはいいか……」
キリトはしょうがないといった表情でそう言い……
「しょうがないわね……」
「でも、もう心臓に悪いことは止めてよね?」
ミトとアスナもそう言いながらも、渋々納得した。
◇
サツキへの説教の後、4人は泊まっている宿のある方向へと歩いていた。
「サツキ、今日はさすがにちゃんと休めよ?」
「分かってるよ……あ、今日は先に風呂入っていいよ。ちょっとやりたいことがあるし」
「いいのか?ありがとな」
すると、サツキとキリトの会話を聞き……
「「今なんて言ったの!?」」
アスナとミトが、サツキへ詰め寄りながらそう訊いてきたのだ。
「えっと……やりたいことがある―――」
「「1つ前!」」
「……先に風呂入っていいよ?」
「「お風呂あるの!?」」
「!僕らの借りてる部屋にあるけど……?」
サツキは2人に押されながらも、何とかそう答える。
「「……して」」
「えっ?」
「「お風呂貸して!」」
「あ、はい……」
◇
「「わぁ……!」」
サツキとキリトが借りている部屋にやって来たアスナとミトは、そこにある念願の風呂に目を輝かせていた。
「……それじゃあ、ごゆっくり」
「あ、うん……」
「ありがとう……」
キリトは2人にそう言うと、浴室の扉を閉めた。ちなみにサツキはやることがあるらしく、既に部屋の外へと出ている。それから少しして、キリトが部屋にあるベッドに腰かけていると……
「!これは……」
部屋のドアが特徴的な叩き方でノックされる。それを聞いたキリトはすぐに扉を開け、外にいる人物を部屋に招いた。
「邪魔するゾ、キー坊」
「アルゴ……お前の方から来るなんて珍しいな?」
「例の交渉、どうしても今日中に返事を聞きたいって言われてナ」
その人物はアルゴで、何やらキリトに訊くことがあるようだ。
「ってことは……」
「キー坊の剣を買いたいって話だけど、今日中なら3万9800コルで買い取るってサ」
「なっ!?」
破格の金額を聞いたキリトは、思わず声を出して驚いた。
「まぁその反応になるよナ……」
「というかその金額なら、普通に買ってそれを強化した方が安く済むはずだろ?」
「オレっちも依頼人に説明したけど、構わないの一点張りダ」
それを聞いたキリトは、あることを訊くことにした。
「……アルゴ、1500コル出す。依頼人の名前を教えてくれ」
「了解ダ。ちょっと待ってナ………!教えても構わないそうダ」
アルゴがその依頼人にメッセージを飛ばすと、すぐにメッセージが返ってきた。
「……?分かった」
キリトは首を傾げながらも、アルゴにコルを渡した。
「毎度あり。で、名前だけど……キー坊も知ってる相手ダ」
「知っている……?」
「あぁ、昼間にサー坊とやり合ってた―――」
「!キバオウか……」
その言葉で正解に辿り着いたのか、キリトはそう呟いた。
「正解ダ……それで、取引は今回も不成立ってことでいいんだよナ?」
「あぁ、そうしてくれ」
「それじゃ、オレっちはこれで失礼―――いや、もう1つあったナ」
「?」
「明日のボス戦……死ぬなヨ?」
「!言われなくてもそうするさ……というか、その言葉を掛けて欲しい奴は他にいるんだけどな?」
「ニャハハ!違いないナ。もし途中で会ったら言っておくヨ」
アルゴはそう言うと、そのまま部屋から去っていった。
◇
「しっ!はぁっ!」
キリトがアルゴと話している頃、サツキは宿からそう離れていないところで素振りや今まで習得したソードスキルの確認していた。それから少しして……
「よっ、精が出るナ?」
キリトと話を終え、帰っている途中のアルゴが声を掛けてきたのだ。
「!アルゴさん?何でここに……?」
「たまたまキー坊に話があってナ……そういうサー坊は?」
「素振りとかソードスキルの確認だよ」
アルゴはそれを聞いて不思議そうな顔をした。
「?素振りって―――」
「やっても熟練度は上がらないって言いたいんでしょ?癖みたいなものだから、そこまで気にしなくていいよ」
その理由に想像がついていたのか、サツキは曲刀を振りながらそう返した。
「なるほどナ……でも、サー坊ってソードスキルじゃないのに明らかに技っぽいの使ってるよナ……もしかして、リアルで何かやってたり?」
「想像に任せる……よっ!」
素振りとスキルの確認を終えたサツキは、曲刀を鞘に納めた。それを見たアルゴは……
「あ、そうだサー坊。キー坊にも言ったけど……明日のボス戦、死ぬなヨ?」
「……努力するよ」
「いやいや、そこは『分かった』っていうところじゃないのカ?」
少し呆れたようにアルゴがそう訊くと……
「明日は何が起きるか分からない……今までは無かったけど、何かが変わってるかもしれない」
「サー坊……」
「もちろん、何も無いならそれでいい……でも、出来ることは今のうちにしておきたい。もしそうなったら、無茶をしてでも……」
サツキはベータからの変更点があるかを不安に思っているようで、不測の事態が起こった時のためにこのようなことをしていたのだ。
「じゃあ、僕はそろそろ戻るよ」
「あぁ、そうしておけヨ……またキー坊たちに説教されたくなかったらナ?」
「!……じゃあね」
サツキはアルゴにそう言うと、宿へと戻って行った。
次回『灰のビーター』