ソードアート・オンライン ~灰の剣帝の英雄譚~ 作:アキ1113
それでは、どうぞご覧ください。
遺物拾いへと繰り出したサツキたちは、第5層の街中を歩いていた。
「なるほど……確かにハマるとヤバいわね……」
アスナは納得したようにそう口にした。
「だろ?ベータの時なんか、遺物拾い専門になったやつもいてさ……敬意を込めて『ヒロワー』なんて呼ばれてたりしたな」
「敬称なの、それ?……でもこれ、私たちだけでこんなに拾っても良かったの?」
「確かに……ちょっと拾い過ぎた……?」
アスナとサツキがそんな心配をしていたが……
「……優しいんだな、2人とも」
「は、はぁ!?別に私は……」
キリトに優しいと言われたアスナは、照れ隠しなのか思わずそう返していた。
「まぁ、気に病む必要はないよ。俺たちが拾ったのは、この層にある遺物全部から見れば微々たるものなんだからさ」
「えっ?」
「そもそも街中での遺物拾いは、ここのトレジャーハントとしてはオマケのようなものだからな」
「それどういうこと?」
サツキがそう訊くと、ミトとキリトが……
「この下には地下墓地―――ダンジョンが広がっててね……ここで拾える遺物っていうのはたかが知れてるのよ」
「つまり、トレジャーハントはダンジョンの方が本命ってことだ」
真実を明かしたのだ。
「は?……は?……はぁーー!?」
それを聞いたアスナは……
「それを!先に!言いなさいよね!!」
「うおっ!?」
キリトの左わき腹にフックを食らわせようとした……が、街中は圏内のため、障壁に阻まれてしまう。
「け、圏内なのにアスナのフックはなんだか効くな……」
「でも、これがサツキじゃなくて良かったじゃない?」
「あー……確かにそうだな……」
キリトは前に一度、サツキがリアルで武術をやっていることを聞き、興味本位でその技を見せて欲しいと頼んだことがあったのだ。その時に……
『じゃあ、そこに立ってみて』
『えっ?あ、あぁ……』
サツキはキリトを立たせ、自身は数歩距離を取った。すると……
『よし……何でもいいからさ、ソードスキル撃ってみて』
『『えっ?』』
『スキルを……?』
突然、そんなことを言い出したのだ。その言葉に、キリトや見ていたアスナとミトも困惑の声を上げた。
『ここは圏内でしょ?』
『それは、そうだが……』
『心配しなくてもいいよ』
『……後で文句言うなよ?』
『分かってる』
キリトは渋々ながら背中の剣を抜き、ソードスキルを発動させるための構えを取る。そして……
『はぁあああああ!!』
キリトは片手剣ソードスキル『ソニックリープ』を発動させ、サツキにへと突進していった。キリトの攻撃はその勢いのまま、サツキに当たる直前で障壁によって阻まれるかと思われた……が、
『へっ?』
サツキの前に来た瞬間、キリトの視界は一瞬で上下逆さまになっていた。
『ぐっ……!?』
(な、何が―――っ!?)
サツキは地面に倒れて混乱しているキリトの腹に、素早く拳を打ち込もうとし―――
『……え?』
当たる寸前でそれは止められていた。
『一応はこんな感じだけど……大丈夫?』
『!あ、あぁ………今、何したんだ?』
差し出されたサツキの手を握りながら、キリトはそう尋ねた。
『ソードスキルが来る方向を見て、その勢いを利用して軽く投げただけだよ……簡単に言えば、合気道の技をこの世界でも使えるように、少し工夫してみただけだよ』
『な、なるほど……』
「あれを圏外やデュエルで食らってたらやばかったな……」
「流石にそんなことしないよ」
キリトはその時のことを思い出し、苦笑いをしていた。
「じゃ、バフが切れるまでもう少し祭りを続けようか。あそこにさっき言ったダンジョンへの入口があるからさ」
「そこにはもっと沢山落ちてるの?」
「コインだけじゃなくて、マジック効果付きの指輪とかネックレスとかも―――」
「指輪!?ネックレス!?」
「アストラル系がやたら出るけど、拾い放題だぞ」
「ひ、拾い放題……!」
アスナはその言葉に、さらに目を輝かせたが……
「ん?ねぇ、アストラル系って……?」
アストラル系という言葉に引っ掛かったのか、疑問府を浮かべてそう訊いた。
「モンスターの種類のことだよ」
「種類?」
「ここまで戦ってきたモンスターにも、亜人系とか昆虫系とかあっただろ?」
「え、えぇ……」
「つまりアストラル系っていうのは、幽霊の類で―――」
「にぇっ!」
「むぐっ!?」
アストラル系=幽霊と知ったアスナはそれ以上聞きたくなかったのか、キリトの口を塞いだ。
「えっと……今の『にぇっ!』って……?」
「………ロシア語で『ノー』って意味よ」
「……何がノーなんだ?」
そんなやり取りを見ていたサツキは……
(アスナの前では、この類の話題は禁止だね……)
アスナの前では、心霊系の話をしないようにしようと心に誓った。
◇
ダンジョンへと足を踏み入れた4人は、見栄を張ったアスナを先頭として順調に進んでいた……が、アスナはどう考えても恐る恐るといった様子で進んでおり……
「……アスナ?」
「ひゃ!?な、何?」
「……もし怖いんだったら、僕が先頭に―――」
「だ、大丈夫だよ!ゆ、幽霊なんてこ、怖くないんだからね!」
「……」
その様子を見て、サツキが気を遣って交代しようと提案したが、アスナはサツキが言い切る前に拒否したのだ……そのまま進んでいると、下層にある礼拝堂のような部屋へと辿り着いた。
「わぁ……凄い……!」
「慌て過ぎてこけるなよ?」
「こけないわよ!」
そこにある宝石の山に目を輝かせているアスナに、キリトが冗談めかしたように声を掛ける。
「壁際にはトラップがあるから気を付けろよ?あとここは圏外で、モンスターが出るぞ?」
「うん、分かってる」
「特に『モーンフル・レイス』っていうのが急に現れるから、注意しろよ?」
「っ!」
それを聞いたアスナは不安そうな顔をし……
「えっと……レイスって確か、スコットランドの伝承に出てくる……」
「詳しいな……察しの通り、さっき言ってた幽霊系の―――」
「幽霊…………っ!?」
予想通りの事実にアスナが恐怖を感じていると、突然風が吹いてロウソクの灯りが全て消えてしまった。
「!来たわね……」
「あぁ……」
「「……」」
それに対し、何かが起きると感じた4人は、それぞれの武器に手を掛けた。
「あ、灯りを……」
アスナは何とか灯りを確保しようとして、動こうとした直後……
「!」
後ろに青白い灯りがともったのだ。誰かが灯りをつけてくれたと思ったアスナは、後ろを向いたが……
「あ、ありがと――――えっ?」
その光は灯りではなく、床の一部が青白く発光しているものだったのだ。
「みんな!気を付けろ!」
すると、光の中から青白い腕が生え、同じ色の髪をした女性―――否、モンスターが徐々に姿を現した。
「だ、ダメダメダメやめてやめてやめて……!」
そのモンスターこそ、先ほどキリトが言っていた『モーンフル・レイス』で、目の前にいたアスナに狙いを定めて襲い掛かろうとしていた……が、
「「アスナ!」」
「い、いや……」
「まずい……!」
幽霊が苦手なアスナは動くことが出来ず、それを見たサツキはすかさず曲刀を抜刀し、アスナのところへと走り出した。
「いやぁあああああ!?」
アスナが叫び声を上げながら後ろに下がると、足元にトラップがあったのか床が回転し始めた。
「きゃっ!?」
「アスナ!?」
そのままアスナは、床の下にある場所へと落ちてしまった……すると……
「っ!」
『!?』
アスナの方に走っていたサツキは、すれ違いざまにレイスに一撃入れると……
「サツキ!?」
そのままアスナを追って、床が閉じる前に自ら下へと落ちていった……。
◇
アスナを追って、床の下へと落ちたサツキは……
「アスナごめん!」
「えっ?」
一言謝ってから、アスナの腕を掴んで自身のところに引き寄せると……
「くっ……!」
壁に足を付けて減速し、地面に近づいたタイミングで壁を蹴った。それからアスナを守るようにして近くの壁に背を向けて激突し、落下ダメージを軽減して着地することに成功したのだ。
「サツキ君!?」
「ダメージは………少しだけか」
サツキがすぐさまダメージを確認すると、思ったよりも減っていないことに少しだけ安堵した。
「だ、大丈夫なの……?」
「ダメージはそれほどないから大丈夫。それよりもメッセージ―――は、圏外だからダメか」
2人に何とか無事を伝えようとしたが、圏外ではメッセージ機能が使えないことを思い出した。
「ど、どうするの……?」
「……とにかく、進んでみるしか―――ってあれ?レイピアは?」
「えっ?」
サツキはポーションで減った分の体力を回復すると、アスナの腰にレイピアがないことに気付いた。
「そんな……どこに―――あっ!」
アスナが辺りを見回すと、近くの地面にレイピアが落ちているのを見つけた。どうやら落ちる時に手放していたらしく、アスナはすぐにレイピアを拾いに行こうとしたが……
「!……ネズミ?」
その前に、近くの横穴から黒いフードを被ったネズミ型のモンスター『スライ・シュールマン』が現れたのだ。シュールマンはアスナの方を向くと、何故か笑うように鳴くと……
「ウソ!?待って!」
「そういう感じのやつか……!」
レイピアを持ち去ってしまったのだ。それを見た2人は、すぐさまシュールマンを追いかけていく。
「もう少し……!」
先に駆け出していたアスナがシュールマンを捕まえようと手を伸ばした……が、
「きゃっ!?」
シュールマンにばかり気を取られていたのか、水溜りに足をとられて転んでしまった。サツキはアスナの上を勢いを落とすことなく飛び越えると、ソードスキルのリーパーを発動させ……
「しっ!」
『ギャッ!?』
アスナのレイピアを奪ったシュールマンを仕留めたのだ。サツキはドロップしたアイテムを確認すると、その中の『シバルリック・レイピア』をオブジェクト化した。
「これで合ってるよね?」
「うん!ありがとう!」
レイピアが無事に戻ってきたアスナは、一先ず安心した表情をしていたが……
「……」
サツキはドロップしたアイテムの中にあった『丸めた紙くず』というのをオブジェクト化し、それを広げて見つめていた。
「サツキ君、それは?」
「さっきのやつからドロップしたんだけど……」
「えっと……今日の日付、時間に場所……と『181、203』って、座標?」
アスナが紙を見ると、そこには『29、22:00、B3F、(181、203)』と書かれていたのだ。
「今いる場所は……!近い……」
アスナはマップを開き、自分たちのいる場所を確認すると『181、215』とあり、現在時刻は『21:45』とあった。
「……サツキ君、どうする?」
「……」
(それにしても……こんな圏外で待ち合わせ……?)
サツキは明らかに、書かれている場所で何かがあると思ったようで……
(普通ならこんなところで待ち合わせなんてしない……普通のゲームならまだしも、SAOでリスクのあることをするはずがない。圏外で会う理由があるなら………誰かに聞かれたくない話をする、か……)
「サツキ君……?」
「……行ってみよう」
「そうだね……」
自身の予感を確かめるためにも、紙に書かれた座標の場所へ向かうことにした。その場所には時間を掛けることなく到着し、顔などを見られないようにサツキはフード付きのマントを被り、アスナもフードを被った。
「……もし、付き合っている人たちの待ち合わせだったら、私たち完全に覗き魔だよね……」
「……」
アスナは苦笑いしながらそう言ったが、サツキは完全に黙り込んで周囲を警戒していた。
「……」
(サツキ君、さっきからどうしたんだろう……?)
いつもより厳しい表情をしているサツキを見て、アスナは心配そうな表情をした……それから数分経ち、紙に書かれていた時間の3分前になると……
「……」
((!来た……))
フードを深く被ったプレイヤーが現れたのだ……さらにその直後、
「……」
もう1人同じ装いをしたプレイヤーが現れ、互いの姿を確認すると共通のハンドサインを交わした。
「どもどもー、今日は早いですねー?もしかして……お待たせしちゃいました?」
「いや、大して待っちゃいねぇけど……ここまで来るのがメンドイや。メンドイと言えば、待ち合わせの手書きメモもメンドイ……あれ苦手なんだよね俺、もうメッセでいいじゃん?」
「ダメダメ!ダメですよ?メッセージ一覧に履歴が残っちゃうじゃないですかー!」
(付き合ってる人たちってわけではなさそうね……)
(やっぱり、普通じゃないな………思った通りだったけど。それに後から来た方って……)
サツキが考えていた通り、普通の待ち合わせというわけではないようだ。そして、2人は近くの壁に寄りかかり……
「じゃ、サクっと本題に入りますか……例の話、どうなりましたか?」
(例の話……?)
「上手くいってるぜ?聖竜軍の一部の連中―――過激派の奴らは……
明後日のカウントダウンパーティーをバックレて、フロアボスを討伐しに行くってよ?」
次回『狙い』