天使と悪魔は世界を描く   作:もく 

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最終話後の話になります


エピローグ チェンソーマン編

無限の棚が天を貫くように連なる天界の図書館

 

黄金の光は変わらず静かに満ち、あらゆる世界の物語が眠っている

その奥に漫画のエリアでは一つの物語をまとめた一冊の本が神の手によって静かに本棚へと戻された

 

ほんのわずかに背表紙が温かい

まるで、まだ物語の熱が残っているかのように

 

 

「戻りましたー」

 

軽い声が響く

白い羽をゆっくりと畳み、スーツ姿の天使が歩いてくる

 

彼はその世界で天野ヒカリと名乗っていた者

神はソファから身体を起こした

 

「お、おかえり」

 

その隣には、一人の悪魔が立っている

黒い角と、闇を溶かしたような翼

ヒカリは瞬きをした

 

「あれ? なんでクロがいるの?」

 

悪魔は肩をすくめる

 

「その名前で呼ぶなよ」

 

神が楽しそうに笑う

 

「彼の本当の名はツクヨミ。君と同じく、世界を旅する悪魔だよ」

 

ヒカリの瞳がわずかに揺れる

断片的な記憶が、静かに戻ってきた

 

何度もここで会っていたこと

何度も同じ本を手に取っていたこと

何度も幸せを願っていたこと

 

そして、何度も同じ世界を旅していたこと

 

 

けれどこの世界では——

その記憶は消されていた

 

ツクヨミもまた、悪魔としての記憶を封じられていた

 

だから互いに気づかなかった

何度も、何度も隣にいたのに

 

「……そっか」

 

ヒカリは小さく笑う

 

「また一緒だったんだ」

 

ツクヨミは視線を逸らす

 

「勝手に巻き込まれただけだ」

 

神が両手を広げる

 

「いやぁ面白かったよ。君は自分を“異物”って言ってたけどさ、時間の悪魔なんて元の世界じゃ出てこなかったでしょ? それも全部僕の仕込みってわけ」

 

ヒカリはツクヨミを見る

 

「……そうなの?」

 

「さあな」

 

ぶっきらぼうだが、否定はしない

神は楽しげに続ける

 

「それで? 今回はどうする? また志願する? それとも勝手に送られたい?」

 

ヒカリは本棚の方を見る

さっき戻した本

その背表紙の隣には無数の分岐した物語が眠っている

 

幸せになれなかった2人も幸せになった2人も

届かなかった想いも届いた想いも

 

ヒカリは微笑む

 

「今回は……どうしようかな」

 

ツクヨミは翼を広げる

 

「好きにしろ。俺はどっちでもいい」

 

少しだけ間を置いて

 

「じゃあな、ヒカリ」

 

ヒカリは首をかしげる

 

「え、もう行くの?」

 

「別に待つ理由もないだろ?」

 

そう言いながら、ほんの少しだけ笑った

ヒカリも羽を広げる

 

「じゃあまた、どこかの世界で」

 

神が指を鳴らす

空間が揺らぎ、新たな門が現れる

 

光と影が絡み合い

まだ名前のない世界へと続く道が開く

 

二人は並んで立った

 

「次はどんな話にするんだ?」

 

「ハッピーエンドに決まってるでしょ」

 

「懲りないな」

 

「まあ天使ですから」

 

ヒカリはバディと同じ言葉を言った

 

二人は門をくぐる

羽音と闇が交差し、姿が消える

 

静寂

 

神はソファに寝転がり、手をひらひら振った

 

「いやぁ、やっぱり君たちは最高の暇つぶしだよ」

 

奥から側近の声が飛ぶ

 

「仕事してください」

 

「はーい」

 

神は目を閉じる

その横で、さきほど分岐した物語が、静かに枝を伸ばし始める

 

一つの結末は、別の可能性へ

救われた世界の隣でまだ救われていない世界が待っている

 

そして——

本棚のどこかで、

まだ白紙の背表紙が、ゆっくりと震えた

 

その物語が開かれるのは

 

もう少し先の話

 

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