民間軍事会社アルスヴィズ   作:氷猫=シマラー

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第6話 県庁解放作戦Ⅱ

22:24

 鳴海はモニターに映る第一部隊のヘッドカメラ映像を驚愕の眼差しで見つめていた。

正面玄関から1階に突入したユウたちをサルダート旅団兵が出迎えた。5〜6人ほどの人数だったとはいえ、瞬く間に全滅させたのだ。

暗闇の中、1階を隈なく捜索し人質を探したが、その途中でも待ち構えていたサルダート旅団兵を苦もなく排除した。隊員たちの見せた連携は、まるで機械のように正確だった。

《1-1。1階クリア。人質はいない》

《2-1。6階クリア。こっちもだ》

ほぼ同時にユウとオリヴァーから制圧の報告が入る。時間にして僅か10分程度の早業だった。

モニターを見つめる鳴海は、息を呑む。アルスヴィズの実力は想像以上だ。まるで戦場を操る精密機械のようだ。このプロフェッショナリズムに、畏怖と同時に戦場の非情さが胸を刺す。こんな戦いが、彼らの日常なのか。

「了解。中央の階段を使えば貴賓室は目の前だけど、挟撃の可能性あり。南北どちらかの階段を推奨するわ」

雲母の冷静な指示に、鳴海はハッと我に帰る。第二部隊への指示を聞きながら、第一部隊の進路を考える。

「えっと、第一部隊。前進してください。ただ……西側の階段は講堂への通路の目の前に出てしまい、そこで待ち構えられている可能性があると…思います…」

県庁は1階から3階、5階と6階、そして4階で構造が違う。ユウたち第一部隊の担当する1階から3階はロの字型で、建物を一周する必要がある。

階段は4か所あるが、西側は講堂の通路に面し、防衛に有利。そう判断した鳴海は慎重に進言する。

《……了解した。東側の階段から進む》

ユウも県庁の構造を頭に入れ、鳴海の指示に従う。

 

22:35

 続く2階でも、アルスヴィズの圧倒的な練度は揺るがない。1階に比べてやや数が増えたサルダート旅団兵たちだったが、その程度では止められず1人、また1人と倒されていき、遂には講堂を除き制圧された。

《こちら1-1。講堂正面にいる。鳴海、いい読みだ。通路上にバリケードを張って待ってやがる》

ユウから送られてくる映像には、講堂へと続く通路を塞ぐように、デスクやらでバリケードを築いた数名のサルダート旅団兵がいる。

《機関銃を据えてやがる。ここを進むのは自殺行為だな》

加えて、バリケードの中央には重機関銃が設置されており直線の通路では身を隠す場所もなく、攻略は困難に思える。

《ここは俺が抑える。お前たちは来た道を戻って、もう一本の通路から背後を狙え》

ユウがいのりと隊員3名に指示する。

講堂への通路はもう一つある。そちらも一本道だが、片方から攻撃を受ければその対応のため敵も動く。というのがユウの考えなのだろう。

だが、それはユウが単身で重機関銃と対峙することを意味する。

「ユウさん…それは…」

思わず声を上げる。

地下鉄で鳴海を庇って血に濡れたユウの姿が脳裏によぎる。

《大丈夫だ。お前を庇った時みたいに蜂の巣にされる気はねぇよ。ちょっかいかけるだけだ。行け》

 鳴海の心配をよそに、現場は動き出す。

ユウは廊下を駆けていく隊員たちの背を見送り、遮蔽から小銃を構え、機関銃陣地に向ける。

即席ゆえに隙間のあるバリケードに、針の穴を通すかのような射撃をし1人を仕留める。続く射撃はデスク群に弾かれてしまう。

ユウが弾倉を撃ち尽くすと、重機関銃が火を噴く。重低音の射撃音がモニター越しに鳴海を震わせる。まるで自分が撃たれているかのようだ。

が、ユウは冷静に弾倉を交換し、射撃を再開。

ユウ単身での散発的な射撃では、デスクの山から銃身だけ突き出して射撃する重機関銃への決定打にはならないが、ユウは機関銃手以外の兵士を狙っており、また1人を仕留める。

柱を遮蔽にし再度リロードをするが、その隙に敵射撃が集中する。柱が大口径の弾で削られ、ユウの小銃が弾き飛ばされる。

被弾した——鳴海の心臓が跳ねる。

《ちっ!》

遮蔽として役に立たなくなった柱を捨て、ユウは拳銃を抜きながら通路の反対側に駆け出す。

乱射しつつ滑り込むが、銃弾が殺到する。このままでは時間の問題だ。

 その時、盛大に発砲していた機関銃陣地の内側で爆発が起こる。悲鳴と砂塵が舞い、機関銃が沈黙する。

いのりたちが背後から奇襲する事に成功したのだ。手榴弾によって壊滅した機関銃陣地では瀕死のサルダート旅団兵たちが呻き声をあげていたが、何発かの発砲音のあとそれは聞こえなくなった。

《ユウ、大丈夫?》

砂塵が晴れ、いのりがユウに駆け寄る。

いのりのカメラに映るユウの腕は血に濡れているが、既に再生が始まっている。

《あぁ、あと15秒はやく来て欲しかったがな》

《……ごめんなさい》

ユウの軽口にいのりは申し訳なさそうに謝る。

《冗談だよ》

本気に捉えてしまったいのりに苦笑しながら、ユウは小銃を拾う。

通路奥では隊員が講堂への道を確保している。

《隊長、講堂の入口はクリア。トラップもありません》

《了解だ。カウント3で突入する、行くぞ。3、2、1…突入!》

ドアが勢いよく開く。人質がいれば激しい反撃が予想されたが、静寂だけが迎えた。講堂はがらんどう。机と椅子が散乱し、人質もサルダート旅団もいない。

《ち、ブラフか》

ユウは忌々しげに吐き捨てる。念入りな捜索でも結果は変わらない。

その時、オリヴァーから無線が入る。

《こちら2-1。貴賓室にて10名ほどの人質を確保した、2名を護衛に残す。だが、知事はいない》

《よくやった。こちらは講堂を制圧したがハズレだった。やはり知事室の可能性が高いな》

人質の数は不明だが、知事が不在ならまだ全員ではない。ブリーフィングの際に分散して拘束、という意見があったがその予測が一部当たっていた。

《3階へはどこから行けばいい?》

ユウの問いに、鳴海は県庁の見取り図を確認する。

「……知事室は南側です。そちらの階段は避けた方が良いかと」

《了解だ。北の階段を使う》

鳴海の判断は、2階と同じく目標直結の階段を避けるもの。ユウも異論なく移動を開始。

モニターを見つめる鳴海は一息つく。次の3階で制圧は佳境に入る。敵の反撃も強まるはずだ。気を引き締め、モニターに集中する。

 

22:42

「意外とうまくやれてるね」

2階を歩き、北の階段へ向かう中、いのりがユウに声をかける。

「鳴海のことか?」

ユウが聞き返すと、いのりは頷く。

「オペレーターのミスで全滅、とかはなさそうで良かった」

「いくら何でも、そんなことにはならねぇだろ…」

いのりのやや過剰な心配にユウは呆れるが、気持ちは理解できた。鳴海を臨時オペレーターに据えたのは、我ながら無茶な采配だと今更ながらに思ったが、確かにここまでは上手くやれている。

だが階段をのぼり3階を少し進むと状況は一変した。

「伏せろ!」

ユウが叫ぶより早く通路の奥から弾幕の雨が振る。隊員たちは遮蔽に隠れるが1名が間に合わず脚に被弾し、倒れる。

ユウがカバーを試みるが、講堂の前にも設置されていた重機関銃が2挺、絶え間なく鉛玉を吐き出している。

「スモークだ!」

ユウは素早く判断し、部隊に命令を下す。

いのりともう1人の隊員がスモークグレネードのピンを抜き、通路の奥に投げる。

機関銃の場所までは届かないが、通路はあっという間に白い煙でいっぱいになる。

それでも機関銃は散発的な射撃を続けるものの、狙いをつけずに撃っている弾はそうそう当たらない。

ユウはスモーク越しに数発制圧射撃をしてから、負傷した隊員の元へ行く。別の隊員が既に近くの部屋に引きづり、止血帯を巻いている。

「容体は?」

「命に別状はありません」

冷静な返答に、ユウは頷く。

「ですがどうします?あの機関銃。また回り込みます?」

「いや、反対の通路も同じだろう」

知事室へは、この通路を突破するしかない。一度下がって別のルートを使っても、あの機関銃の制圧は必至だ。部隊単独では困難だ。ユウは無線に向かって叫ぶ。

「こちら1-1!3階に到達したが歓迎が激しい!そっちはどうだ!?」

数秒後、オリヴァーの声が銃撃音と共に響く。

《こっちも4階でパーティー中だ!すぐには行けそうもない!》

敵は3階と4階で徹底抗戦の構えらしい。

第二部隊は人質護衛で2名欠け、火力が足りず援護は期待できない。母船からの自爆ドローンは、知事室に近すぎて危険だ。

《ユウさん!ドローンチームが支援可能です!》

 ユウが攻略の方法を考えていると、鳴海の声が無線に割り込む。

「ドローン?周辺はクリアなのか?」

《はい!ドローンチームから報告がありました!》

ドローンは周辺の索敵のために用いられており、支援要請は出来ないと認識していたユウが窓の外を見るとちょうどドローンが現れる。正面からあの2挺の機関銃を攻略するのはほぼ不可能だが、ドローンなら敵陣の側面を突ける。

「了解、標的を指示する!」

鳴海の進言に従い、ユウが小銃につけられた赤外線レーザーを起動する。遮蔽から敵陣に照射すると暗視カメラを搭載したドローンが、標的を確認する。

《こちらドローンチーム、火力支援を開始する》

ドローンの機関銃が唸り、小型榴弾が窓を突き破る。爆発音が響き、砂塵と悲鳴が通路を埋める。バリケードが崩壊し、旅団兵が次々と倒れる。

《火力支援を終了。残敵なし》

反対側の通路も同じくドローンにより掃討され、一帯には重い静寂が訪れた。

「よくやった、オリヴァーたちも援護してやってくれ。それと鳴海、良い提案だった」

《あ、ありがとうございます》

ユウは無線越しに弾む鳴海の声に、かすかな葛藤を感じ取る。自身の提案が旅団兵の死を招いた罪悪感だろうか。だが、今はそれを口にする時ではない。任務を果たすだけだ。そう意識を切り替えて知事室へと歩みを進めた。

 

22:49

「トラップなし。いつでも突入できます」

崩壊した敵陣を超えて、知事室前の廊下に到達し隊員がドアをチェックするが、異常はない。

「こちら1-1。知事室前に到着。突入準備完了」

《4階、まだドンパチ中! もうちょいかかるぜ!》

無線越しのオリヴァーの叫びが、ドローンの支援を得てなお第二部隊の苦戦を示す。

「第二を待つ?」

「いや、こうも派手にやったならもう時間がない。人質に手を出される前にケリをつける」

上階から響く銃声と爆音の中、いのりがユウに聞くがユウは即時突入を決断する。

「こちら1-1。知事室に突入する。3、2、1…行くぞ!」

ユウのカウントに合わせて扉が蹴破られ、遂に知事室への突入が敢行された。

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