白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜   作:チャリンコ2025

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───前回までのあらすじ


二学期期末試験で思う様な結果が出せなかった石上優は子安つばめにも泣かれ、伊井野ミコとも口論となってしまう。
仲裁しようとした白銀御行は、それまでの無理が祟って倒れてしまった。


014『三者面談』

 

 

 

 

───三者面談当日

 

 

今日は四宮かぐや達二年生は終日三者面談だが、白銀御行、かぐやと近侍の早坂愛、そして藤原千花に四条眞妃は、当日に順番の変更がされて、最後の五組にされた。

 

柏木渚と龍珠桃は午前中に面談となり、既に帰路に着いていた・・・筈だった。

 

順番が最後の御行は、生徒会室で決裁書類を処理しながら時間を潰していた。

会計の石上優は一年生の為、御行の業務に付き合っている。

同じく一年生の会計監査の伊井野ミコは、風紀委員会に参加していて今日はそのまま帰宅予定である。

 

 

 

『しかし、何なんだ?

俺の順番は変わらないが、他の連中は当日になってから変更というのは?』

 

『保護者と教師の都合らしいですが、クレーマーでも出たんですかね?』

 

『・・・で、帰った筈の二人を含めて、最後の順番の全員がここに居るのは、どういう事なんだ?』

 

『あら、いいじゃない?

授業は終わったんだから。』

 

『白銀、堅い事言うなよ。』

 

『・・・。』

 

 

御行の疑問に、眞妃と桃が返事をする。

女子会の様に六人がソファでお茶を飲んでいるのだ。

眞妃と桃の二人は不思議なぐらい馬が合うのか、常に一緒だった渚ではなく、眞妃の横は桃の定位置になりつつあった。

 

眞妃達の対面のソファには、左からかぐや・千花・愛の順で座っているが、渚が圧を桃に対して発しているのでかぐや達三人は居心地が悪そうで、渚の隣に陣取る桃は涼しい顔をしてるが渚の圧に時折圧を返してる。

そういう事に疎いというか受け流す千花ですら圧を感じる程であるから、相当なものである。

その桃の反対側に居る眞妃は、渚を気に止める様子もない。

変われば変わるもんだと、自分を棚に上げてかぐやは感心する。

 

 

 

『さてと、それじゃそろそろ行きますか?

先に行くわよ、白銀?』

 

『ああ、行ってくれ。

俺達は、もう少しで目処がつくから。』

 

『柏木さん、ごめんなさい。

後をお願いします。』

 

『・・・ええ。』

 

(そういう事は他でやってほしいのだけど・・・。)

 

かぐやと眞妃は阿吽の呼吸で退室する口実を口にすると、千花と愛も続く。

残る渚達と言葉を交わして、眞妃を先頭に四人が生徒会室を後にする。

 

 

 

『龍珠さん?』

 

『なんだ?』

 

『眞妃と、仲良いよね。』

 

『そうなのか?』

 

『私には、そう見えるけど。』

 

『なら、そうなんだろう。』

 

 

ソファに二人残った渚は不満を口にするが、面倒臭そうに桃は返す。

生徒会室の空気は渚が一言発する度に息苦しくなってきている。

正直、御行も優も逃げたいのは山々なのだが、機会を逸してしまった。

これなら四人に続いて脱出すればよかったと思っている。

たまらず、御行は優に話を振る。

 

 

 

『先週は済まなかったな、石上。』

 

『気にしないでください。

490点でも上に二人居るのかと思うと・・・。

倒れる気持ちも解ります。

・・・僕なんか。』

 

『まあ、あれは、その、だな・・・。』

 

 

そんなつもりで言った訳ではないので、御行が言葉に詰まってると桃と渚から抗議が飛ぶ。

 

 

 

『おい、それは嫌味か? 白銀!?』

 

『そうですよ、私なんか大きく下がったのに。

点数分けて欲しいぐらいです。』

 

(今の今までやり合ってたのに、共同戦線張るなよ!)

 

(やっぱり、女子は怖い!)

 

 

御行と優はこれ以上矛先が向かない様に急いで書類処理にスパートを掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───廊下

 

 

『パパ!』

 

『眞妃、こっちでいいのか?』

 

『まさか、迷ったんじゃないでしょうね?』

 

『初めてなんだ、迷うよ。

やあ、かぐや君。』

 

『こんにちは、おじ様。』

 

『四条さんとご父兄の方々、どうぞ。』

 

『グットタイミングね。

パパ、順番よ。』

 

『おお、そうか。

では、後でね、かぐや君。』

 

 

三者面談の教室の廊下で迷っていたらしい四条眞妃の父親・真琴は、娘達と合流した直後に呼ばれ、父娘で教室に入っていく。

 

 

 

『千花、来たよ。』

 

『お父さん!』

 

『こんにちは、四宮さん。

ご無沙汰してます。』

 

『ご無沙汰しております、おじ様。』

 

『お父さん、紹介します。

お友達の早坂愛ちゃんです。』

 

『えっ、あっ、はぁ、初めまして、早坂愛と申します。

よろしくお願いします。』

 

『千花の父親で、藤原大地と言います。

娘からも貴女の事は聞いてます。

これからも、末永く娘と仲良くしてください。』

 

『立ち話もなんですから、お座りになられては如何ですか?』

 

 

そういうと、かぐやは廊下に設置された椅子に大地を誘導して、自らは少し離れた椅子に愛と腰を下ろす。

藤原親子は直ぐに談笑を始める。

四宮家や早坂家程ではないが、藤原家も両親は多忙で話す時間もあまり取れない。

秀知院に通う生徒の親達は、というより世間的にもそうだが仕事に押されて家族の時間はなかなか持てない為に、こういう時位しか親子の会話を持てない。

思春期の子供ともなると尚の事、会話は減る。

そこかしこで、面談待ちや面談を終えた親子の会話が弾んでいた。

 

 

 

『愛は、奈央さんが来てくれるのよね?』

 

『多分、です。

・・・不思議なものですね。』

 

『どうかしたの?』

 

『前は会話も殆ど出来なかったのに、今は毎週末会ってますから・・・。

ママが来てくれると思ってますが、実感が湧かなくて・・・。』

 

『・・・うちが異常なのよ。

それなのに、それに気が付かずに当たり前と思って愛の時間を奪い続けて・・・。』

 

『かぐや様が悪い訳ではありません。』

 

『いいえ。

愛の気持ちは嬉しいけど、私はそれに甘え過ぎていたの・・・。』

 

『そう言って頂けるのは、望外の喜びです、かぐや様。』

 

『ママ!』

 

『奈央さん。』

 

 

二人に声を掛けた人物を見れば、早坂愛の母親の早坂奈央が立っていた。

 

 

 

『遅くなって、ごめんなさい。

間に合ったかしら、愛?』

 

『大丈夫だよ、多分次だから。』

 

『かぐや様、先週はお会い出来ず御無礼を。』

 

『奈央さんもお変わりなく・・・。

殆ど毎週会ってるから、あんまり実感ないですね。』

 

『そうですわね。』

 

 

そういうと、かぐや達三人は笑いあった。

もっと早く、こうするべきだったとかぐやは今更ながらに後悔する。

過ぎ去る時間の早い事、取り返せない大切な時間の貴重な事、大人になった今だからこそ解る。

 

 

───戻ったら奈央さんに会いに行こう。

愛と一緒に。

 

 

 

『そうだ、奈央さんに聞きたい事があったの。

この漫画みたいな事は出来ますか?』

 

 

かぐやはそういうと、自分のスマホに保存している電子コミックスを奈央に見せた。

ガン・アクションの漫画だが、散弾銃が仕込まれた防弾仕様の傘を持つメイドが、マフィアを文字通り撃ち倒していく姿が描かれていた。

 

 

 

『かぐや様、ママを何者と思ってるんですか?

こういうのは、あくまで映画とかと変わらないSFものですから。』

 

『やっぱり無理かしら?

できるって言って全く出来なかった人も居たから。』

 

『かぐや様、一度交友関係を洗いざらい教えて貰えませんか?』

 

 

かぐやと愛が真剣な話をしていると、渡されたスマホの漫画に一通り目を通した奈央は頭を振る。

 

 

 

『残念ながら、無理ですわ。』

 

『やっぱり無理だよね、ママ。』

 

『ご期待に添えられず大変申し訳ありません。

仕込み銃は連射し難い構造で耐久性も信頼性も低いので、実戦には使えないのです。

内容はところどころ誇張がありますが、10年前位なら私も描かれてるぐらいの働きはできたのですが、今はそういう荒事はめっきり減りましたから、訓練メニューから外されてしまいまして。』

 

『『・・・。』』

 

『どうか、されました?』

 

 

奈央の返答に唖然としていたかぐやと愛は、奈央の問い掛けに無言で首を横に振る。

 

 

───この人を、怒らせてはいけない。

 

 

二人の直感が警告している。

 

 

 

『でも、初めてですね。

かぐや様がこういう物にご興味を持つなんて。』

 

『流行りもチェックしておかないと、話題に乗り遅れるから。

うちに来る方々も意外なご趣味をお持ちの方もいますから、勉強も兼ねてです。』

 

『(私も読もうかな・・・。)』

 

 

かぐやは無趣味人で、愛(仕事が原因)共々漫画もロクに読んだ事もなく、御行の策略で少女漫画に一時ハマった事があるが、本格的に漫画やアニメの世界に入ったのは御行と交際が始まってからで、御行の妹の白銀圭の影響が大きい。

ハマり過ぎて漫画とアニメの部屋が出来て、夫婦で休日は中から出てこなくなる時もあり友人達に呆れられたが、ミイラ取りがミイラで友人達もハマって白銀夫婦共々全員出てこなくなるので、話にならないが・・・。

 

 

 

『やあ、かぐやちゃん。

元気にしてるか?』

 

 

聞き覚えのある声にかぐやは振り返ると、御行の父親が手を振りながら近付いてきた。

見知らぬ人物に瞬時に臨戦態勢に入る奈央に愛が耳打ちする。

 

 

 

『あの人が、生徒会長のお父さん。』

 

『ああ、例の。』

 

 

九月以降、毎週末会う早坂親子は仕事の情報交換も密に行っていた為、かぐやの恋の進捗状況も共有していた。

娘の愛の見立てでは御行に害はないと判断していると奈央は聞いていたが、白銀家と四宮家となると問題はあったが。

 

 

 

『お父様、会長の先日の件、私が付いていながらあんな事になってしまい、申し訳ありません。』

 

『(お父様呼びって、外堀は埋めてらっしゃるのですね、かぐや様。)』

 

『御行から聞いてるよ。

あいつの自業自得だ。

君達にこそ迷惑を掛けてしまったね。

 

・・・ところで、あれからどうなの?』

 

『可もなく不可もなくです。

予想外な事ばかり起きてしまって・・・。』

 

『イヤイヤ、そんな事ではなくて。

具体的に何処まで進んでるの?』

 

『(お義父様ってこういう人だった・・・)

進展なし、ですよ。』

 

 

そういうと、かぐやは自然とワザとらしさの中間の溜息をついてみせる。

 

 

 

『何だ、つまらんな。』

 

『何がつまらないんだ、親父?』

 

『何だ、来たのか?』

 

『そりゃ、こっちのセリフだ!』

 

 

白銀の父親の背後には、いつの間にか来ていた白銀御行が立っていた。

 

 

 

『会長、大丈夫でしたか?』

 

『俺が時間だから出ると言ったら、皆帰ると言ってな。

石上達はそのまま帰るそうだ。』

 

『その、何か起きませんでしたか?』

 

『いや、大丈夫だ。

俺もそれが心配だったから残ったんだが、生徒会室では何も起きなかった。

帰り道は、・・・知らん。』

 

 

途中から声を抑えて二人だけの会話をしてるが、話の中身は桃と渚の事である。

かぐやと御行、二人して小さい溜息をつく。

 

 

 

『なんだ、中々良い仲になってるじゃないか?』

 

『ええ、全く。』

 

 

 

二人の様子を見ていた白銀パパと奈央は、これなら心配ないなと感じていた。

 

 

 

『そういえば、初めてですね。

会長、お義父様、紹介します。

私の母です。』

 

『えっ!?』

 

 

普段動揺しない奈央がいきなりのかぐやの発言に驚く。

 

 

 

『かぐや様、嬉しいのですが誤解を招きかねませんので、訂正いたします。

初めまして、私はかぐや様の母代わりを務めております、早坂と申します。

乳母の様なものとお考えください。

以後、お見知りおきを。』

 

『(メイドに乳母!

おまけに、二人が親子って!!)

 

ああぁ、初めまして。

四宮にはいつもお世話になってます。

白銀御行です。』

 

『こちらこそ、ご挨拶が遅れました。

白銀御行の父です。』

 

『少し込み入った話ですが、私は早くに母を亡くしましたので奈央さんが私を育てくれたんです。』

 

『ほう、それは大変でしたな。

失礼ですが、そちらのお嬢さんは?』

 

『はい、娘の愛です。』

 

『初めまして、早坂愛です。』

 

『こんにちは。

利発そうな娘さんですね。』

 

『とんでもない。

中々やんちゃですよ、頼もしい娘ですけど。』

 

 

母親の奈央に褒められてまんざらではないが愛は顔が赤くなる。

一方、メイドと乳母のダブルコンボに内心興奮してる御行は、同じく顔を赤くしていた。

この方面は、御行の大好物なのである。

 

面談場のドアが開いて、四条親子が退室してくる。

 

 

 

『次、早坂さんよ。』

 

 

眞妃に声を掛けられて、慌ただしく四条親子と早坂親子が挨拶を交わす。

 

 

 

『早坂さんとご父兄の方々、どうぞ。』

 

 

そのタイミングで面談場の教室から早坂親子に入室の許可が出る。

 

 

『あら、では白銀様。

少しの間、かぐや様をお願いします。』

 

『うちは最後ですから、お任せください。』

 

『では、お願いします。』

 

 

奈央はそういうと、面談場の教室に愛と二人で入って行った。

四条真琴は眞妃に紹介される形で白銀親子とも挨拶を交わしながら、白銀親子に気取られぬ様にして観察する。

親子の経歴は報告されているが、実物はまあまあかなと品定めする。

 

 

 

『では、そろそろお暇しようか?』

 

『そうね。』

 

『では、かぐや君。』

 

『会長も、ごきげんよう。』

 

 

歩き去っていく四条親子を見ながらかぐやと御行は言葉を交わす。

 

 

 

『あの人が、四条のお父さんか。』

 

『なかなか、手強いですよ。』

 

『四条グループが本格的に大きくなったのは彼の代からだ。』

 

『親父、知ってるのか?』

 

『有名な話だ。

知ってる人間の間ではな。』

 

『かなりの辣腕家、か。』

 

『緊張してきたな。

ちょっと、トイレな。』

 

 

そういうと、大股で御行とかぐやから離れてトイレに駆け込む。

二人にしようとあからさまの気遣いに御行は気が気でないが、かぐやは内心嬉しかったりする。

 

 

 

『会長、とりあえず座りませんか?』

 

『あっ、ああぁ、そう、だな。』

 

 

ぎこちない御行より先にかぐやが椅子に座り、御行も横に腰を下ろす。

ふと、その瞬間に御行はある事に気が付く。

 

 

 

『早坂のお母さん、乳母で四宮の母親代わりと言ってたが、そうなると四宮と早坂とは・・・。』

 

『姉妹・・・、それ以上の関係です。

乳姉妹というものです。』

 

『・・・。』

 

 

御行はそれ以上、何も言えなかった。

姉妹以上の存在に密偵をさせて、かぐやの身辺調査をさせる四宮家の異常性に黒い感情が湧いてくる。

ふと見ると、かぐやの横顔は寂しさを帯びている様に見えた。

たまらず、御行が声を掛けようとした時、背広姿の眼鏡を掛けた男性と高等部校長が連れ立って歩いてくるのが見えた。

 

 

 

『シッノミヤさん、おゲンキですか?

シロガーネくんも大丈夫そうですね。』

 

 

唐突な校長先生の登場に反射的に二人は立ち上がる。

正直、胡散臭いカタコト日本語と神出鬼没で不可解な行動の多い校長は、二人共苦手である。

それにかぐやは、何故に本宅に居る筈の父・雁庵の秘書で愛の父親の早坂正人がここにいるのか?

疑問である。

 

 

 

『校長先生、ごきげんよう。』

 

『校長、先週はご迷惑をお掛けして申し訳ありません。』

 

『ノープロブレム。

さて、シッノミヤさん。

アナタの面談はこっちになりマス。

付いてきてクダサイ。』

 

『えっ? こちらではないのですか?』

 

『イロイロありまして。』

 

『・・・解りました。

それでは、会長。

失礼します。』

 

『あっ、ああ、気を付けてな。』

 

 

正人は御行に頭を下げただけで、かぐやとも言葉を交わさず、校長を先頭にかぐやの後ろを二人に続いて歩き出す。

御行が一行を見送っていると、トイレから出てきた御行の父親とかぐやは言葉を交わして、校長についていく。

不思議そうな顔をしながら戻ってきた御行の父親は御行に尋ねる。

 

 

 

『かぐやちゃんは、こっちで面談じゃなかったのか?』

 

『どうも違うらしい、親父。』

 

『やれやれ、チューでもするかと思ってたがな・・・。』

 

『・・・親父、トイレから覗いてたな?』

 

 

父親の行動に苛立つ御行だったが、そのタイミングで藤原親子の面談が終わり、退出時に両家で挨拶と自己紹介が交わされて、白銀家の順番になった。

 

 

 

 

 

 

 

───校長室

 

 

道中、かぐやは考えを巡らせていた。

 

 

 

(おかしい。

早坂のおじ様は、奈央さんと一緒に愛の面談に参加するのが本来の筈。

奈央さんから何も引き継がない上に、私に何も言わずに後に付いてくるだけなんて・・・、ひょっとして。)

 

 

これは予め予定されていた事と考えたかぐやは、校長室にて待っていた人物に驚きを隠せない。

一個上(二十歳以上離れてるが)の兄・四宮雲鷹と、父親の四宮雁庵が既に居たのだ。

 

 

 

『お父様! お兄様!!』

 

『久し振りだな、かぐや。』

 

『来たか。』

 

 

「経験」した今年、叶わなかった父親との三者面談。

のみならず、初めて学校に父親が来てくれた事に、かぐやは涙が止まらなくなる。

 

 

 

『こんな事で泣く奴があるか。』

 

 

そう言って立ち上がりかぐやを慰める雲鷹も、その気持ちは理解できる。

四宮雁庵の子として生まれた以上、大勢にかしずかれても一番欲しかった父親の情は、触れ合いは得難かった。

雁庵自身が遠ざけていたかぐやは余計に難しかった事は、保護者として七歳から自分が養育をさせられた雲鷹が良く知っている。

正月の年始の挨拶以外に、雁庵がかぐやと会う事が無かった事も。

母親が違い、親子ほど離れていても、四宮の人間としてかぐやを育てた雲鷹は、かぐやの姿に込み上げるものがあった。

今更、自分なんかが抱く筈がないと思っていた感情が、雲鷹に雁庵を睨み付けさせる。

ようやく落ち着いたかぐやを雁庵の横に座らせると、雲鷹自身は二人の後ろに立つ。

雲鷹は保護者ではあるが、親権者ではない。

かぐやの親権は雁庵が持っていて、その雁庵が居る以上、かぐやの事に口を出す権利は雁庵にしかない。

 

 

 

『さて、シッノミヤさん。』

 

『その胡散臭い、ワザとらしい言い方は、寄せ。

俺に啖呵を切った時は、そんな喋り方はしてなかったと覚えてるが?』

 

『・・・親父?』

 

『お、お父様、校長先生ですよ!?』

 

『お前達は知らん筈だが、俺はこいつと関わりがあるんだ。』

 

『・・・懐かしい話ですね。

それで、どうですか?』

 

『!? (校長先生が普通に喋ってる!?)』

 

『・・・(さっき迄のはフェイクか)。』

 

『今日、俺がここに来てるのが答えだ。』

 

『認めて貰えて、光栄です。

なかなか、大変でしたよ。』

 

『フンッ、鳳凰会現会長がよくも言う。』

 

『さて、つもる話は後にしましょう。

今日の本題は、かぐや君の進路です。

かぐや君、君の希望はなんですか?』

 

『わ、私の希望は・・・。

 

・・・お父様、思うところを申し述べてよろしいでしょうか?』

 

『聞かせてくれ。』

 

『・・・私は、・・・海外の高名な大学に進学を希望します。』

 

『理由は、なんですか?』

 

『私は、日本どころか秀知院の全ても知らない世間知らずです。

お父様のご意向に沿う生き方が私の務めと思い、今日まで来ました。しかし、世間知らずで狭い見識しか持たぬ人間では、お父様に顔向けできないとも考えております。』

 

『・・・必要ない。

お前は・・・、かぐやは・・・、必要な相手に嫁いで子を成せばよい。』

 

『例えそうであっても、世間知らずの阿呆では子に悪影響が出ます。

子を育てるのに、豊富な見識は何ら邪魔になりません!

私は、進学したいのです!!』

 

『かぐや、頭でっかちでも子供に悪影響が出るぞ。

それに、どこに行く気だ?』

 

『米国・スタンフォード大学を希望します!』

 

『ならん!』

 

『お父様!』

 

『他国に行く必要もない。

行くなら国内の大学に行け。』

 

『国内で、「四宮」の名を知らぬ者は少ないです。しかし、海外ではその限りではありません。

今、秀知院には他国の王族の方も学びにいらしてます。

王族ですら他国に学ぶのに、私が学んではいけませんか、お父様?』

 

『『・・・。』』

 

 

雁庵と雲鷹は他国の王族が居る事は把握してるが、実態は国内に居ては火種になるから秀知院に預けられている事を知らない。

為に、咄嗟の反論に困ってしまう。

預けた王族側も、他国の要人の子弟との誼を将来の商いや政略に活かす腹づもりなのが見え透いている。で、あるならば、かぐやにも同じ役割を期待してもいい。

二人の男の頭には、打算の算盤が弾かれていた。

余談だが、「今回」は「前回」と違い、かぐやは学園内外のコネクション強化に動いていて、件のガルダン・アーラサム王国の王子とも気安く話せる程の関係になっていた。

 

 

 

『・・・今日は、お子さん達の希望を聞く日です。

今日聞いた事を必ず実行しなければいけない訳ではありません。

日本国内であっても、進学かそれ以外の道を選ぶのは重大な決断です。

 

ただ・・・、』

 

『なんだ?』

 

『日本と違い、米国の入学時期は秋です。

試験もそれに合わせて行われます。

半年待つか、早めるか、です。』

 

 

この段階で御行の受験したアーリーは締め切られている為、かぐやには年始までにレギュラーに出願する必要がある。

「経験」した来年、かぐやの出願は兄であり四宮雁庵の長男・四宮黄光に妨害(脅迫)されて、かぐや自ら出願取り下げをせざるを得ない状況となり、のち、黄光と和解して進学したが、御行とは一年違いでスタンフォード大学に進学する事になった。

かぐやとしては、「今回」は御行と一緒に入学・卒業したい。

 

また、その一年の間に三年次の夏から秀知院を早退して進学した御行の元に、自身が秀知院を卒業するまで毎週末通い続けたかぐやだったが、悩まされ続けたのが「女の影」だった。

 

米国は、恋愛はデートからスタートであり、デートして気が合うか確かめてから交際を続けるか、判断する。

 

日本は、告白してから交際がスタートであり、この習慣の違いの為、又、人の良い御行は単純な交流は語学力向上の為に受けてしまうので、誤解を招く事が多く、毎週末訪れるかぐやは御行の部屋に二人以外の髪色の髪の毛やらが落ちてる事にヤキモキし、たまに御行と喧嘩になる。

 

御行も御行でヤキモチを焼かれる事が満更でもなかったりするから、達が悪い。

 

かぐやは自分の恋人が魅力的に見られる事自体は嬉しい反面、万が一が怖かったのだ。

最も御行はイロモノに好かれる性質から、危うく同性に後の純潔を奪われそうになったが、この時ばかりは互いに牽制し合う関係だったかぐやと御行に好意を寄せていた

留学先女性陣が共同戦線を張って御行を守った経緯がある。

兎にも角にも、「来年」のゴタゴタで二人だけの甘い時間は満足に取れなかった(会うのは殆ど生徒会室のみ、たまに御行の家でお泊り)かぐやは、二人の時間確保プラスヤキモキする事を無くしたいのだ。

 

 

 

『ともかく、四宮さんの希望は外部進学に一応しておきましょう。

決断は早くした方が良いですが、慌ててもよくありません。

今日は以上です。

遠路、お疲れ様でした。』

 

 

流石、かつて四宮雁庵と渡り合った曲者校長。

雁庵の性格上、これ以上はこじらせる可能性が高くなると話を切り上げる事にした。

 

 

 

『かぐや、今夜は食事会がある。

お前も出席だ。』

 

『お食事会ですか、お兄様?』

 

『俺と親父も出る。

主催は、・・・藤原元総理だ。

ただ、な・・・。』

 

『藤原元総理って、確か・・・。』

 

『「あの」爺さんだ。

・・・俺は、苦手だ。』

 

『・・・私もです。』

 

『・・・。』

 

 

校長室を出た四宮兄妹が暗い気持ちになるのは、件の元総理がこっちの理屈や計算が殆ど通じない上に、振り回される確率の高い御仁だからだ。

が、元総理だけあって引退した今でも政・官・財界に影響力があり、国際的な問題が生じた時は政府特使を務める人物の為、付き合わない訳にはいかない。

因みに、「あの」藤原千花のひいお爺さんに当たる人物でもある。

隔世遺伝で藤原姉妹に資質が出たとしか思えないぐらい似てるが、姉妹より遥かに予想もコントロールも出来ない。

 

 

 

『四宮。』

 

 

暗い気持ちになり始めていたかぐやは、一番聞きたい声で声を掛けられて正面を向く。

御行と父親がそこには居た。

 

 

 

『誰だ?』

 

 

かぐやが反応するより早く、雲鷹が反応しかぐやの前に立つ。

既に、雁庵は正人が庇う立ち位置に移動していた。

 

 

 

『雲鷹様、高等部生徒会長の白銀様です。』

 

『生徒会長?』

 

『初めまして、生徒会長を務めております、白銀御行と言います。

四宮のお父様ですか?』

 

『・・・まあ、そう見えるわな。』

 

『お兄様!

すいません、会長。

ご紹介します、私の兄です。

父は、あちらです。』

 

『・・・申し遅れた、かぐやの兄の雲鷹だ。』

 

 

雲鷹は名乗らず去ろうかと思ったが、かぐやの手前もあり名乗る事にした。

続けて、父親同士で短い挨拶を交わす。

 

 

 

 

 

四宮かぐやの父親・四宮雁庵と白銀御行の父親は、短い挨拶を済ませた。

双方、特に雁庵が興味なさげだった。

続けて、白銀御行が挨拶をする。

 

 

 

『初めまして、知らない事とはいえ失礼しました。

生徒会長を務めてます、白銀御行と申します。

四宮・・・、娘さんにはいつもお世話になってます。』

 

『かぐやの父親の雁庵だ。

娘が世話に、とは?』

 

『お父様、私は副会長を拝命してます。』

 

『お前、副会長だったか?』

 

『もう、いつも言ってるじゃないですか。』

 

 

雁庵は、暗にかぐやが会長ではないのか?と言ってるのだが、かぐやははぐらかす。

が、挨拶した御行の特に目を見て雁庵は少し見どころがあるか、と感じていた。

 

 

 

『シロガーネクン、ドーシましたか?』

 

『ああ、校長。

校長室に行く様にと言われまして、父と参りました。』

 

『オー、そうでした。

ではシッノミヤさん、ゴキゲンヨウ。

気を付けて帰ってクダサーイ。』

 

 

胡散臭さだけのカタコト日本語がワザとらしかったが、雲行きが怪しくなってきたので双方助かった。

その間に白銀の父親とかぐやの兄の四宮雲鷹も挨拶を済ませる。

 

 

『・・・かぐやの兄で雲鷹だ。

妹が世話になってる。』

 

『・・・白銀と言います。

うちも、息子が妹さんにはお世話になってます。』

 

 

互いに社交辞令の顔をしてるが、腹は「油断ならない相手」とお互いを見て短い挨拶を交わす。

雁庵といい、その様子を見ていてかぐやと御行は不安になる。

御行からの話でも、父親達は会う事も無く雁庵は逝ったからだ。

 

 

 

『四宮、あちらの方は?』

 

『お父様、早坂のおじ様を紹介しても?』

 

『・・・まあ、いいだろう。』

 

『おじ様、うちの生徒会長の白銀御行さんです。

会長、早坂愛さんのお父様です。』

 

『早坂愛さんのお父様でしたか。

生徒会長を務めてます白銀御行と申します。

こっちが俺の父です。

娘さんとは仲良くさせて貰ってます。』

 

『どうも、初めまして。

白銀と申します。』

 

『・・・早坂愛の父です。

初めまして、娘がお世話になってます。』

 

 

正直、父親としては娘の男性の知り合いというのは、警戒対象になる。

白銀御行はかぐやの定期的身辺調査で報告は聞いていたが、なるほど見どころはありそうだと感じる。

 

 

 

『終わりマシたか?』

 

『すいません、直ぐ行きます。

じゃあ、四宮。』

 

『かぐやちゃん、失礼するよ。』

 

 

白銀父の言い方に雁庵は片眉が反応し、ぷいっと踵を返して歩き出す雁庵。

 

 

 

『お父様。』

 

『なんだ?』

 

『どうした、かぐやちゃん?』

 

 

かぐやの声に両方の父親が反応する。

特に雁庵は、不快感をあらわにする。

 

 

 

『お前じゃない!

かぐやは俺を呼んだんだ!!』

 

『いつも「お義父様」と呼ばれてますから。』

 

 

雁庵の言に、何故かドヤ顔の御行の父親が言い返してくる。

正人は無反応に徹するが、かぐやと御行はオロオロし、雲鷹はそっぽを向くが肩が震えている。

御行の父親の不遜さより面白さが勝ったる。

父親の雁庵がムキになるところなど初めて見るからだ。

 

 

 

『まるっきり、子供の喧嘩だな。』

 

 

雲鷹に笑いながらそう言われて、正人は反応に困る。

 

 

 

『俺の娘を名で呼ぶな!』

 

 

 

「娘、ね・・・。」

 

かぐやの養育を押し付けられた雲鷹と、折に触れてかぐやの事を報告していたが雁庵は無関心だった事を知ってる正人は、失笑している。

二人共「よく言うよ」と心の中で雁庵にツッコミを入れている。

 

 

 

『ちょっと、親父。』

 

『お父様も。』

 

 

御行とかぐやがとりなそうとするが短い睨み合いの末、互いに踵を返して歩き出す。

直感といっていい、かぐやと御行は良い仲だなと雁庵は理解した。

故に、癪に障る。

 

 

 

『後の予定がアリまーす。

さあ、シロガーネクンとオトウサン、どうぞ。』

 

 

校長に先導されて歩く御行だが、父親の心情を考えると挨拶は自分だけですれば良かったかとも考えていた。

 

 

 

『親父、すまない。』

 

『・・・あんなもんだろう。

かぐやちゃんが「普通」なんだよ。』

 

 

そういうと、父親は御行の肩を叩く。

四宮家の人間との付き合いは、かなり忍耐がいるなと思案顔になる。

それっきり喋らず、三人は校長室に入る。

 

 

 

 

 

 

 

───数刻後

 

 

藤原元総理の招きで四宮家の雁庵・雲鷹・かぐやの三名は、ある店に来ていた。

かぐやは食事会と聞いていたので、モストフォーマルかセミフォーマルのおとなしいドレスに着替えようと考えていたら、普段着に近いワンピースでいいと兄に言われた。

 

 

 

『動きやすい格好にしとけ。

あの爺が相手だ。』

 

 

兄は警戒してるが、曾孫にあたる藤原千花や萌葉と付き合いのあるかぐやは、そんなものは意味がないと理解させられたので、流れに身を任せて早々に撤退する算段でいた。

忠告通り、ワンピースにはしたが。

 

一行が着いた店は、普通の寿司屋だった。

肩が凝らなくてよさそうだが老舗である。

が、食事会をするには少し手狭に感じる店構えで、「貸し切り」の張り紙がされていた。

 

 

 

『此方です。』

 

 

秘書の正人が出入口の引戸を開けると、カウンター席の真ん中で一人で手酌でやってる老人が居た。

件の藤原元総理だった。

 

 

 

『皆、好きな所に座れ。』

 

 

雁庵はそういうと、藤原老人の右隣に座る。

 

 

 

『かぐや、そこにするか。』

 

 

そういうと、雲鷹は出入口に近いカウンター席に座わり、左隣の席の椅子を引く。

促されたかぐやは雲鷹の横に座り、正人は出入口横に控えようとする。

 

 

 

『早坂、お前はこっちだ。』

 

 

雲鷹はそういうと、右隣の席を引いて促す。

 

 

 

『何にします?』

 

 

人の良さそうな、にこやかな笑顔の小柄の中年の女性が注文を取りに来る。

 

 

 

『握りの松を三人分、茶碗蒸しも三人分、俺はビールで、早坂はどうする?』

 

『私は遠慮します。』

 

『かぐやは?』

 

『私はお茶で構いません。』

 

『じゃあ、それで。

タバコ、よかったですか?』

 

『生憎。』

 

『ああ。』

 

 

そういうと出し掛けたタバコを仕舞う。

雲鷹の慣れてる様な注文の仕方に、かぐやは不思議に思う。しかし、食事会というのに他に人はいない。

店はカウンターの中の主人と思われる年配の職人が一人と、先程の女性のみで切り盛りしてる様だ。

カウンターは八席、他に座敷席がテーブル二卓にそれぞれ四席の八席、計十六席。

 

カウンター側から雲鷹の前に栓を抜いたビールとグラスが置かれ、雲鷹は何も言わずに手酌で始める。

 

 

 

『お兄さん、おつぎします。』

 

『ああ、すまん。』

 

 

かぐやは「初めて兄に酌をする」。

幼少期のパーティー以来、酒席に一緒に出る事も無くなった兄妹の初めての事にかぐやは不思議な気分になる。

 

 

 

『まさか、お前に酌をして貰えるとはな。』

 

 

雲鷹の照れてる様な口ぶりにかぐやもむず痒くなる。

御行にはよくしているが、慣れもあってこんな反応はしてくれないので、面白みがある。

その間にお茶とおしぼりが。

少し経つと、先程の女性が握り寿司が乗せられた盛り板を運んでくる。

 

 

 

『茶碗蒸しは少しお待ち下さい。』

 

 

そう告げられ、まずはお寿司から頂く。

別邸や各種のパーティーで出される物に比べればとは思えるが、特にパーティーのものは寿司職人を呼んで握って貰うものでもなければ少し硬くなっている。

醤油も本醸造のお寿司用の物を使っているのだろう、ネタの味を邪魔しない。

 

かぐやは御行と付き合い出してから回転寿司等のお店に行ってみたのだが、どうしても口に合わなくて困らされた。

御行達は固くないと言うのだが、かぐやからすると口の中での解け方など違うと違和感を感じてしまう。

無理をして食べて体調を崩す場合もあった。

 

その味覚からすると、ここのお寿司は食べやすくネタも口の中で解けやすく、美味しかった。

あっという間に握り寿司の半分を食べてしまった。

 

 

 

『美味いか?』

 

 

唐突に雲鷹に水を向けられ驚くと共に我に返ったかぐやは、無意識に食べ進めてしまった事にも驚く。

 

 

 

『・・・はしたない姿を見せてしまいました。』

 

『気にするな、食べろ食べろ。』

 

 

見ると、雲鷹と正人の盛り板は握りが無くなりガリだけになっていた。

 

 

 

『ああ、すまねえが、何か当てを二人分と俺に冷を頼む。

あの大吟醸でいい、奥から三番目のな。』

 

『あいよ。』

 

 

盛り板を下げに来た先程の女性に雲鷹が注文する。

雲鷹のかなり気さくな雰囲気にかぐやは軽く驚きを覚える。

 

 

 

『雲鷹様。』

 

『お前からは頼みづらいだろう。

あれは長引くから食っとけ。』

 

『・・・ありがとうございます。』

 

『・・・ここに来ると思ってなかったな。』

 

『・・・お兄様は、このお店に来られた事が?』

 

『・・・言ってもいいだろう。

かぐや、お前を東京に連れてきて少し経った頃に、親父が来たんだ。』

 

『えっ?』

 

『他の諸々の案件の合間に僅かな時間だけだがな。

その時に、この店に親父と来たんだ。

もう一昔前の話だ。

忘れてたが、店に入って思い出した。』

 

『・・・そうだったんですか・・。』

 

『口には出さなかったが、親父はお前を気にしてた。

素直じゃない糞爺だよ。

会っていけばいいものを・・・。』

 

『・・・私はお会いしたかったです。』

 

『俺も同じだ。

親父とはろくに会えなかった。

今ならなんとか会えるが、その時はやり方も解らなかった。

本当に手の掛かる糞爺だよ。』

 

 

兄妹に「糞爺」と言われてる雁庵は、藤原と話し込んでいた。

 

 

 

『どうしたんだい、こっちに来るなんて。』

 

『もう見る事も無いだろうからな。

娘達が住んでる街を見てみたかった。』

 

『寂しくなるな。』

 

『「東」が逝って十年だ。

顔を出すにはいい頃合いだろう。』

 

『素直じゃないねぇ。』

 

『身軽に動けるお前とは違う。』

 

『周りなんか見てないお前さんが言うかね。』

 

『・・・』

 

『もう殆ど居なくなっちまったな。

ここも含めて関東が瓦礫だらけで、進駐軍が闊歩していた光景を覚えてる奴らは。』

 

『お前は、あの時はガキだったろう。』

 

『ああ、だから余計覚えてるよ。

物心付いたらそれを見せ付けられたからな。』

 

 

そういうと藤原は杯を空にする。

新しく注ぎながら、同じく空になった雁庵の杯にも注ぐ。

 

 

 

『復興、戦争、経済成長、世界第二位・・・、そこからの低迷。

俺は病気で舞台を降りてやり残した事も、ある。』

 

『「金の卵」と持て囃された世代だろう。

実質、世界第二位はお前らから後の世代の功だろ。』

 

『実態は、都市部の進学する同年代の穴埋めに地方から人連れてきただけだよ。

いい事ばかり言ってな。

メディア、というより、それが暗黙の了解と社会常識になっちまった。』

 

『都合の悪い事を喋る奴はいない。』

 

『お前さんも、やってない事の方が少ないだろ。』

 

『それが必要だった、とは言おう。

その業が、形を変えて現れてきた。』

 

『だがな、揉められても誰にも益はないぞ?

痛み分けがいいところ、悪すりゃ魑魅魍魎が跋扈する。』

 

『資本主義は、破綻する者がいなければ成り立たない。

しかしな、ここじゃなくても良かったろう?』

 

『新しい常連を作るのが、古株の役割だ。

もうすぐ、来るだろう。

その気があって、迷わなかったらな。』

 

『来なければ、お前とサシだ。

その方が、気が楽だがな。』

 

『後始末は自分で付けな。

倅が泣くぜ。』

 

『そんなタマじゃない。

そう、育てた。

及第点には足りんがな。』

 

『厳しいね。』

 

『そうでなければ、当主は譲っとる。

まだまだ、安心できん。』

 

『傍迷惑な親心だな。』

 

 

その時、出入口の引き戸が開き新しい招待客が顔を現した。

 

 

 

『失礼します。

藤原さん、いますか?

此方と伺ったんですが。』

 

 

丁度、かぐや達に茶碗蒸しや当ての料理が運ばれたタイミングで、出入口に一番近い席であったかぐやと雲鷹は振り返り、驚く。

 

四条グループ代表、四条真琴が立っていた。

 

 

 

 

 

藤原元総理の開いた食事会に参加した四宮雁庵達。

後から来た四条真琴との非公式の会談の場となった。

 

 

 

『遅くなって、すいません。』

 

『よう、来たか。

こっちだこっち。』

 

 

出入口側の席だった四宮雲鷹・かぐやと目で挨拶を済ませると、藤原の招きで横のカウンター席に真琴は座る。

早坂愛の父親で雁庵の秘書である早坂正人と藤原老人に挟まれた席で、藤原の反対側には雁庵が座る。

正直な所、雲鷹としてはかぐやの子供の頃からパーティーで顔を合わせていた真琴は、気に入らない相手だった。

よくやっているなとは思っていたが。

 

 

 

『かぐや、お前は帰っとけ。』

 

『それは、どういう?』

 

『集まり過ぎだ。

親父に俺とお前、あいつに藤原の爺だ。

お前ぐらいは離れてろ。

早坂、迎えは準備できてるんだろう?』

 

『はい。』

 

『あの、それでしたら茶碗蒸しを食べ終わるまで、お時間頂けませんか?』

 

『・・・まあ、いいだろう。』

 

 

かぐやは兄の忠告に従い帰る事にするが、少しでも時間を伸ばしたい気持ちもある。

食事会の会場規模から考えて、四条眞妃の父親で四条グループ代表の四条真琴が来るとは予想できなかったのだ。

三者面談の挨拶の際に話が出なかった事を考えると、参加者や会場の事も詳しくは教えて貰ってなかったのだろう。

 

 

 

『まさか、叔父さんも居るとは聞いてませんでしたよ。』

 

『居ては悪いか?』

 

『驚くでしょう。

アピール、ですか?』

 

『必要はあるだろう。』

 

『・・・うちの方針は変わりませんよ。

私でも変えられません。』

 

『だろうな。』

 

『頭ごなしだな、俺も居るんだが?』

 

『これは失礼しました、先生。』

 

『微塵も思ってないだろう。』

 

『いやはや。』

 

 

今夜は実りのある話になるか怪しいなと真琴は考えている。

 

 

 

『何になさいますか?』

 

『あ、すいません。

そうですね・・・、お寿司のおまかせと冷と、煮蛸あります?』

 

『はい、ありますよ。』

 

『では、お願いします。』

 

 

注文を聞いて女性がカウンター内に下がる。

 

 

 

『慣れてるな。』

 

『そうですか?

・・・若い頃を思い出しますよ。

こういうお店は敷居が高かった。』

 

『お父様、すみませんがお暇させて頂きます。』

 

『ああ、そうか。』

 

『いや、かぐや君。

眞妃がよろしくと言ってたよ。』

 

『はい、また明日とお伝え下さい。』

 

 

かぐやと真琴のやり取りに雁庵と雲鷹が片眉を上げて反応を示す。

かぐやの護衛からの報告で四条家に泊まった事は知っているが、両家の娘達がどれ程の仲になってるかまでは把握してない。

 

 

 

『ところで、お父様。

お暇させて頂く前にお聞きしたいのですが、お野菜はお嫌いですか?』

 

 

雁庵の動きが止まる。

本宅での雁庵の食事量と比べると、先程からモリモリ食べてるので狐に摘まれた気分にかぐやはなっていたのだ。

雁庵は、盛り板一枚分・刺し身一皿を平らげ、酒をコップに三杯は飲んだ上に、追加で盛り板一枚とつまみを頼んでもいる。

耳のいいかぐやには、注文内容は全部聞こえていたのだ。

たとえ、藤原老人が自分の注文と混ぜて頼んだとしても、その程度の誤魔化しは解る。

 

かぐやの背中にドス黒いモヤの様なものが立ち込めている。

横目で見ると、あの雁庵オジと藤原元総理が振り返ろうともせず、目を泳がせてる事に真琴は驚いている。

かぐやも仕事を持ち様々なクライアントと付き合い、御行との結婚生活もあり、諸先輩方から妻の威厳というものを学んだのだ。

 

 

 

『早坂、目を合わすな。

飛び火するぞ。』

 

『心得てます。』

 

 

かぐや以外、参加者は妻帯者か経験者の為に女房や娘を怒らせるとどれだけ厄介か骨身に染みてる。

多分に漏れず真琴も理解してるが、このままではと思いかぐやと雁庵の間に入ろうとして、かぐやと目が合う。

瞬間、背筋が凍る。

 

 

「不味い、口を出さない方がいい。」

 

 

真琴の頭脳が警告を発する。

しかし、先にかぐやが矛を収める。

 

 

 

『楽しみを邪魔したくありませんから、程々にしてください。

では、皆様、失礼します。』

 

 

かぐやの言い草に圧を感じる五人だった。

因みに、五人とも野菜嫌いの肉好き魚好きだった。

出入口の引戸の開け締めが終わり、誰からともなく五人全員が息をする。

ここは、空気を入れ替えるのは自分の役目と、真琴が話し始める。

 

 

 

『いやはや、女の子は、なかなか迫力がありますね。』

 

『・・・全くだ。

死んだカカアが化けて出てきたかと思ったわい。』

 

『・・・あんなもんじゃない。』

 

『なんだい、骨身に染みてるみたいだな。

で、どうすんだい?』

 

『今夜は楽しむだけだ。

ところで、さっきの話だが?』

 

 

途端に、雁庵の目に鋭さが戻る。

 

 

 

『少し、話をしただけですよ。

娘とは仲良くしてくれてる様ですが、あくまで生徒会の役員としてでしょう。

かなり親身になってくれましたが、娘さんの性格でしょう。』

 

『・・・そうか。』

 

 

八月以前なら疑うが、九月以降のかぐやなら十分考えられると雁庵・雲鷹・正人は思う。

免許取り立てなのに、高速をバイクで東京─京都間を往復する行動力は唖然としたが。

 

店を出たかぐやは、正人の妻娘である早坂奈央と愛が迎えに来ていた。

 

 

 

『奈央さんごめんなさい、折角の時間を。』

 

『構いませんよ、かぐや様。

丁度、娘を送るところですから。』

 

『かぐや様、お疲れ様です。』

 

『愛もごめんなさい。

もっと早くに食事会の予定を教えてくれてれば・・・。』

 

『まあ、仕方ないですよ。』

 

『さあ、参りましょう。』

 

 

かぐやを加えた三人が乗り込んで、車が走り出す。

 

 

 

『お父様は、今夜はどちらに?』

 

『ホテルを用意できてると聞いております。』

 

『そう・・・。

直ぐにお帰りになるのかしら?』

 

『いえ、明日の予定は、競馬と聞いてます。』

 

『えっ、競馬?』

 

『なんでも、四宮家所有の馬が出走するとかで、そのレースをご覧になるとか。

確か、名前は「ガンアンファイター」と「シノエンペラー」でしたか・・・。』

 

 

「何それ、私は知らない。」とかぐやは思う。

 

 

 

『ママ、その名前は誰がつけたの?』

 

『確か、ご当主様が付けられた筈よ。』

 

『『・・・。』』

 

 

かぐやと愛の本音は、「子供の玩具みたいな名前」だったのだが、当主である雁庵自ら付けたのなら何も言わない方がいいと考えた。

為に、無言になる。

 

本当のところは、雁庵はあまり馬に興味はない。

だが、四宮家として競走馬を所有してるので命名する段で黄光に振り、黄光は青龍に振り、青龍がたまたま持っていた玩具のカタログギフトから適当に名前を組み合わせたのが、「ガンアンファイター」と「シノエンペラー」だった。

 

「ガンアンファイター」は、雁庵とファイターをくっつけただけで、「シノエンペラー」は、四宮と皇帝をくっつけてカタカナ読みしただけだが、「シノミヤ」はあからさまだったので命名規則に引っ掛かり「シノ」だけにしたという、しょうもない事を振ってきた兄達への意趣返しだった。

 

馬の資質のせいか、名前のせいか、二頭とも最高順位は五着で青龍同様に期待されてない存在になっていた。

雁庵が所有馬が出走するから競馬場に行くのは完全な口実で、東日本の要人達との競馬観戦にかこつけた懇親会だった。

 

懇親会となるとろくに食事もできないのと、本宅では栄養士や医師の指示で野菜中心の食事になる為、今夜位は好きな物を食べさせろと雁庵は食べていたのだ。

以前、魚を食べたいと雁庵が言ったら、手を変え品を変え魚ばかり続いたので、好みは言わない様になったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

─────つづく

 

 

 

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