白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜   作:チャリンコ2025

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───前回までのあらすじ


四宮かぐやが、来てほしいと長年思い続けていた父親・四宮雁庵。
その父親が初めて出席した三者面談で、かぐやは海外留学を希望する。


015『サッカー部交流試合』

 

 

 

 

───四宮かぐや達の三者面談の翌日

 

 

三者面談は二日に分けられ実施された。

保護者の都合のつかない生徒もいるので、昨日はA・B・C組中心、週末の今日はD・E組中心に行われる。

そんな日のお昼の生徒会室。

 

 

 

『明日の交流試合の助っ人?』

 

『そうなんだ。

うちのキーパーが怪我をしてしまって、会長に頼めないかと思って。

バレーボールや体育祭でなかなかいい動きだったから、サッカーも出来ないかと思うんだ。

実は名うての選手だったんじゃないか?

勉学の為に今は遠ざかってるだけで、とか。』

 

 

食後の一杯を珍しく生徒会メンバーだけで楽しんでいたところ、アフロ頭が特徴のサッカー部の渡部神童が直に生徒会長の白銀御行に頼み込みに来ていた。

かぐやはモジャモジャさんと記憶してる彼だが、聞けば故障者続出で交流試合の助っ人を掻き集めてる最中だという。

助っ人の話を聞いて書記の藤原千花は無の境地に達しており、そんな千花を見て副会長四宮かぐやは青褪めている。

千花の反応を見る限り、嫌な予感しかしない。

 

 

 

『急に言われてもな。

(明日は寝溜めしようと思ってたんだがな・・・。)』

 

『故障者が多いとは、何かあったんですか?』

 

『良く分からないんだが、体育祭が終わった後ぐらいから腰痛だ捻挫だと増え出してな。』

 

『とりあえず、後で返事をするよ。

色々と調整しないといけなくなるからな。』

 

『急かせて悪いが、なるべく早く頼む。

放課後にグランドで練習してるから、返事はその時に。』

 

 

それだけ言うと、神童は慌ただしく生徒会室を後にする。

 

 

 

『しかし、なんだな。

サッカーなんて小学校以来だぞ。』

 

『会長、サッカーしてたんですか?』

 

『ああ、キーパーをしてたよ。

なかなか大変でな、状況次第じゃ頭でボールを打ち返したり、選手がボールと一緒に飛び込んでくるのを受け止めたり、結構生傷が多くてな。

二年生以降は・・・、色々あって遠ざかってたんだが。』

 

 

そういうと、御行は両腕でサッカーボールを抱き止める姿勢を見せる。しかし、小学生で生傷が絶えないというのは、「御行の小学校は強豪校だったのだろうか?」と千花とかぐやは思う。

 

 

 

『会長、そんなに強いチームに居たんですか?』

 

『いや、男子は大概野球かサッカーなんだが、サッカーはボール一つあればできるからな。

希望者が多くて、俺以外は足が速かったりボールコントロールが上手くて得点に繋がりやすかったりしたんだが、キーパーはなり手がいなくてな。

「御行が守ってくれた方が安心出来る」とか言われて、しょうがないから俺がキーパーで後ろを守ってたんだ。』

 

 

かぐやは思う。

「物は言いようだ」と。

 

千花は思う。

それは、「ボールから遠ざけられていた」のでは、と。

 

二人は、段々御行が不憫に思えてきた・・・。

 

 

 

『オッホン!

という事は、引き受けるんですか?』

 

『まあ、困ってるみたいだしな。』

 

『反対です。』

 

 

それまで押し黙っていた石上優が発言する。

伊井野ミコは文化祭「奉心祭」に向けて風紀委員会に参加していて、今は四人だけだ。

 

 

 

『何故だ、石上?』

 

『会長、夏休み前に僕が言ってた事、覚えてます?』

 

『夏休み前?』

 

『予算に関わる話の時です。』

 

 

千花とかぐやも御行と同じく優の発言の真意が解らない。

が、思い出した御行はある可能性に気が付く。

 

 

 

『・・・おい、しかし、まさかまさか?』

 

『文化祭もありますし、ね。』

 

 

御行と優の共通認識、サッカー・野球・バスケットの三つの部活は彼女持ちが多い。

体育祭も終わり、運動部は裏方に回される文化祭等をサボる口実と、実際にイチャついてうっかり体を痛めてるケースが多発してるのでは?というのが、優が暗に提示した推論であり、御行も否定できないところだった。

 

 

 

『どうしても助っ人が必要なら、予算削減案を呑んで貰っては?』

 

『いや、しかし、本当に怪我なのかもしれんぞ。』

 

『それを探る為にも、提示してみては?

どうであれ、削減案は呑ませる事が出来ます。』

 

『まあ、寄付金も年々減ってるしな。

頭の痛いところだ。』

 

 

事情が呑み込めず、怪我と予算削減が結び付かない千花は首を傾げるが、かぐやは呆れている。

社会人でいうところの、「身内・知人を、殺す・病気にする」アレの事かと思い当たったからである。

そんなテクニックを今から覚えてる学友達って・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───放課後・サッカーグランド

 

 

神童達サッカー部の練習場に御行が返事をしに行ったら、時間がないからと即席の練習会になってしまった。

 

 

『しかし、何でお前達まで居るんだ、風祭に豊島。

それに、四条は女子だろう。』

 

『固い事言わないの。

楽しそうじゃない。』

 

『渡部、女子が参加していいのか?』

 

『公式戦ではないから問題ない。

相手には先程、了解を取った。

交流試合は出場機会のない選手とか、滅多に対戦しないチームとプレイするのが目的だからな。

だが四条、わざとのラフプレーとかは味方であっても言えよ。』

 

 

暗にセクハラ的プレイの事を渡部は言っている。

助っ人して集まったのは、白銀御行、御行の友人の風祭豪と豊島三郎、紅一点の四条眞妃の四人。

三者面談の関係でD・E組(神童は昨日済ませてる)は捕まらず、運動部を中心に殆どの人間に断られた。

眞妃は、柏木渚と田沼翼といるところで翼の勧誘に来て断られた神童から誘われ(渚に睨まれてバツが悪かったので半分冗談)、断ろうとしたら、

 

 

「眞妃ちゃんなら上手くできるだろうね。」

 

 

と、翼が余計な事を言った為に、助っ人を引き受けてしまったのだ。

因みに、渚と翼は明日はデート予定だったのだが、渚が眞妃の応援をすると言い出したのと、二人共日曜は別の予定が有るので来週に変更になった。

その事を、眞妃は知らなかった。

 

 

 

『ところで渡部。

例の件、頼むぞ。』

 

『ああ、解ってる。

「他校に出向いての遠征試合はしない」でどうだ?

大会は無理だが、それ以外の試合は減るから遠征費は下げられるだろう。

相手校が交通の便の悪い立地の所も少なくないから、いい口実になる。

結構、移動に文句が出てたんだ。』

 

『だな。

大概学校は、そういう所に作るからな。

それでいいよ。

それで、俺は何をしたらいい?』

 

『交流試合なので、そんなに激しいプレイにはならない筈だ。

試合時間も、30分を前・後半二回の60分で、終われば昼食予定だ。

正直、怪我をされるなら負けてもいい。

本番は年末からだからな・・・、と思ってたらこの有様で、助っ人を引き受けてくれた四人には本当に助かった。』

 

 

そう言うと、渡部は四人に頭を下げる。

 

 

 

『良いって事よ。

なあ、白銀。』

 

『お前達二人が参加してる事が、俺は驚きなんだがな。』

 

『僕は豪に無理やりだよ。

運動不足だから丁度いいけど。

白銀とプレイするなんて、まず無いしな。』

 

『仲良いわね、アンタ達。』

 

『まあな・・・。

色々、あったんだよ。

色々、とな。』

 

 

そう言うと、御行達三人は頷き合う。

 

 

 

『そろそろ、いいか?

では、まずはボールの扱いに慣れてくれ。』

 

 

そういうと、四人それぞれにサッカーボールを手渡していって即席サッカー講座が始まる。

その様子を、不安げに千花とかぐや、優とミコは見ていた。

まさか練習会になるとは思わず、四人とも気になって帰るに帰れない。

 

懸念された、御行の「ちょっと苦手」発言は今回は言わなかったので、流石にボールさばきは危なげ無く千花とかぐやは一先ず安心する。

小さい頃にやっていたというのは、確かなようだ。

 

 

 

『しかし・・・、まさか、眞妃さんまで参加してるなんて・・・。』

 

『大丈夫なんですか、かぐやさん?

確か、従姉妹さんでしたよね?』

 

『大丈夫とは思いますけど、眞妃さんは部活はやってなかった筈なんだけど。』

 

 

そんなかぐやの心配を他所に、眞妃はなかなかのボール捌きを見せていた。

頭の上にボールを乗せてバランスを取ったり、リフティングをしたりと、御行達男子三人より上手い。

それを見ていたかぐやは、何故だかウズウズしてくる感覚に襲われ、

 

 

「やってみたい。」

 

 

と、思いだしていた。

御行達を注視してるかぐや達二人と一メートル程開けて、ミコと優も練習を見ている。

 

 

 

『石上、アンタは参加しないの?』

 

『団体競技は苦手なんだ。

僕は中学までは陸上の短距離だったから。』

 

『・・・そう。』

 

『・・・伊井野。』

 

『・・・何よ。』

 

『この間は、ごめん。』

 

『・・・いいわよ、私も悪かったから。』

 

『・・・。』

 

『・・・私は、多分アンタに期待してたんだと思う。』

 

『・・・。』

 

『・・・でも、勝手に期待されても困る、よ、ね?

アンタが落ち込んでるの見て、本当は怒るべきじゃなかった・・・。』

 

『・・・僕は良かったと思ってる。』

 

『・・・え?』

 

『あんな状態じゃなければ、伊井野の本音なんて聞けないだろう。

それだけ、僕に真剣になってくれたんだって思って・・・。

お陰で、会長や四宮先輩の気持ちも少しは解った様な気がする。

僕からは、伊井野も含めて三人とも高い点数を取るのは当たり前に思えてたから・・・。』

 

『・・・正直、逃げ出したくなるけど、逃げたらもっと悪くなると思ってるから・・・。

そこを乗り越えて、結果を出せたら、私は間違ってなかったって思える。

・・・私がしっかりしないと、パパやママに迷惑掛けるし。』

 

『・・・羨ましいな。』

 

『なにが、よ?』

 

『・・・僕は、色々あったから。

今でも尾を引いてる。

自業自得だけど、それもあって・・・。』

 

『・・・石上は正しかった。

私が言ってあげる、アンタは正しかった。

少なくとも、萩野を殴った事は。』

 

『・・・ありがとう・・・。』

 

 

かぐやと千花は、優とミコの話が気になってしっかり聞き耳を立ていて、御行達の練習どころではなくなっていた。

一通りの軽い練習が終わって、御行は神童に気になってた事を聞く。

 

 

『ところで、聞いてなかったが対戦チームは何処なんだ?』

 

『一昨年までは無名だったんだが、去年から急速に頭角を現してきたチームだ。

今年は優勝候補の一角で一部では「ボーイフォッカー帝」とあだ名を付けられた選手、四条帝が率いるチームだ。』

 

『四条帝・・・。』

 

『・・・へぇ、アイツはそんな渾名を付けられてるんだ。』

 

 

神童の発言に御行と眞妃の雰囲気が変わる。

 

 

 

『つまり、この人選は、狙って声を掛けた、という事か渡部?』

 

『何を言ってる?

偶然だよ。

狙って女子に声掛ける訳ないだろう。』

 

『だが、本命は年末の大会で、それまでに四条帝のチームの情報が欲しいのが本音だろう?

そうでなければ、文化祭準備の始まってる今頃に試合など組まん。

まして、四条の姉である四条眞妃を試合に出したら、女子である事を含めて本気にならないだろう。』

 

『・・・待て、「姉」なのか?』

 

『・・・知らなかったのか?』

 

『待て、おかしいだろう?

姉が秀知院で、何で弟が公立高なんだよ!?

それって・・・。』

 

『何の話してるの?

私の名前が聞こえたけど?』

 

『あ、いや、四条・・・。

大変聞き難い話なんだが、何で弟さんと学校が違うんだ?

姉弟と言うのも、俺は知らなかったんだが?』

 

『ああ、アイツは秀知院に入学予定だったけど、友達とサッカーやりたいからって、公立高に行ったのよ。』

 

『・・・そんな理由で?』

 

『何かおかしい?』

 

『友達とうちに来てサッカー部に入ってくれてれば、どれだけ良かったか・・・。

歓迎したのに・・・。』

 

『渡部、そんなに四条の弟は、サッカーが上手いのか?』

 

『白銀、四条帝は一人で十一人を相手してると言われる程だ。

試合の記録映像を何度も見たが、対面するとボールを取られた事に相手が気が付かない速さで奪って、ゴールを決めるんだ。』

 

『なっ!

そんな凄腕か・・・。』

 

『帝のチームと対戦するなら対策は一つ。

帝を徹底的にマークしてボールに触れさせない事と言われてる。』

 

 

御行の顔が引き締まる。

神童は御行の帝への対抗意識は知らない。

全国模試で自分を負かした相手である事を御行は認識していたが、四条の弟がそれ程の猛者とは思いもしなかった。

考え込みだした御行の事は気にせず、神童は他の三人に説明を始める。

 

 

 

『さて、ポジションの話をしよう。

最初に言ったが、試合時間は30分・30分の計60分になる。

間に15分の休憩を入れて、コートとメンバーチェンジになる。

白銀は60分間キーパー、風祭・豊島・四条にも、前・後半の計60分間をお願いしたい。

ポジションなんだが───。』

 

 

神童から伝えられた翌日の試合時の配置は、

 

 

先頭・フォワード二名(四条眞妃・渡部神童)

二段目ミッドフィルダー(左端・風祭豪、右端・豊島三郎)

の中央二名と三段目ディフェンダーの四名はサッカー部

キーパー白銀御行

 

という4-4-2の布陣で、神童を含むサッカー部七人で自陣中央部で相手を食い止めて、ボールを取ったら神童が素早くゴールを決めに行くというものだった。

眞妃・豪・三郎は、中央部でのボールの奪い合いには参加せず、陽動やこぼれたボールの回収を主目的にする。

場合によっては、コートからボールを蹴り出してもいいとも言われた。

 

 

 

『うちの連中もそうだが、怪我をされるのが一番怖い。

特に、四条は女子だから体格差で不利になりやすい。

ボールの奪い合いには絶対参加しないでくれ。

オフサイドとハンドにも要注意だ。

何度もいうが、怪我が一番怖いから、それを一番注意してくれ。

他に、質問は?

 

では、明日はよろしく頼む。』

 

 

こうして、即席サッカー講座は終わり、交流試合前日は過ぎていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───交流試合当日

 

 

早朝から、サッカー部は呪われているのかと言われるぐらいの不運に見舞われる。

 

当日朝、登校途中のサッカー部員が交通事故に遭遇し、怪我の為に出場出来なくなったのだ。

親に車で送ってもらっていたら居眠り運転の車に追突されて、運転手の親御さんと二人でムチウチで検査入院する事になってしまった。

 

臨時キーパーとして参加する白銀御行を応援する為に観戦予定だったかぐやは、お弁当を大量に準備して登校したのだが、事故の対応で慌てる渡部神童達サッカー部と生徒会長として対応してる御行に、事態が解らず困惑するばかりだった。

既に対戦相手は到着しているので取り急ぎ代わりの人員確保をしなければいけないが、何ら有効な方策が思い付かない状態だった。

 

 

 

『だめだ、捉まらない!

あと一人が、いない!!』

 

『運ばれた部員の親御さんから、大事には至ってないが念の為の検査の後、今日は安静にする必要があるから帰宅するそうだ。

どうする、渡部?

相手チームに事情を説明して延期してもらうか?』

 

『だめだ、今日以降は予定を組めないんだ。

あと一人いれば・・・。』

 

『会長、おはようございます。

先程から慌ただしいですが、何かあったんですか?』

 

『ああぁ、四宮!

おはよう。

実は、出場予定だった選手が交通事故で来れなくなったんだ。』

 

『そんな!

大変じゃないですか!?』

 

『それで、渡部が誰か出れないか心当たりを当たってるんだが・・・。』

 

『元々、居ないのに更に居ない状態で、どうにもならなくなった・・・。』

 

『・・・あの、お困りなら、私が出ましょうか?』

 

『『・・・えっ?』』

 

『し、四宮、サッカーできるのか?』

 

『まあ、多分。』

 

『な、なんでもいい、頼む!』

 

『おっ、おい、渡部!

 

四宮、本当にいいのか?

怪我をするかもしれんぞ?』

 

『会長も出るんですから、大丈夫ですよね?』

 

『俺は、キーパーだからゴール前から動けないんだが・・・。』

 

『それなら、眞妃さんと組ませて貰えませんか?』

 

『・・・そう、ならざるを、得ないか・・・。』

 

『おい、待て!

いくら人がいないからって、初心者の女子二人にフォワードを任せるなんて、危険だぞ。』

 

『俺がフォワード下に待機して、二人には始まると同時に俺の方にボールを蹴って貰う。

予め、キックオフはうちからに決まってるんだ。

その後も、俺が二人のフォローをする。

正直、相手チームは四条帝以外は警戒する程の選手は居ない。

敵が上がってくるルートからは逃げて、俺達が相手を抑えて溢れたボールを拾ってくれたらいい。

ただ、後半戦も出て貰う事にはなるから、ペース配分には気を付けてもらう。』

 

『四宮達は女子だ!

男でもバテるだぞ!!

交代要員を出せないなら、生徒会長権限で試合を中止するぞ!!!』

 

『大丈夫だ、フォローするから!』

 

『渡部、お前がキーパーやれ!

俺が前に出る!!』

 

『何、騒いでるの?』

 

『あっ、眞妃さん。

いえ、事故で欠員が出たので、私が出ると言ったら会長が。』

 

『えっ、また欠員!?

なら、そうね・・・、

かぐやが出るなら・・・、

わ、私と組みなさいよ。』

 

『そう、ですね。

私もその方が、いいですね。』

 

『じゃあ、決まりね。

(本音いうと、あの人とはやりにくそうなのよ。)』

 

『よろしくお願いします。

(まあ、雰囲気的に解りますわ。)』

 

 

二人は小声で割と酷い事を話してたりする。

 

 

 

『四宮!?

四条も、本当にいいのか!!?』

 

『良いわよ、別に。』

 

『私も、眞妃さんなら。』

 

『白銀、本人達が良いと言ってるんだから。』

 

『渡部、考える事を放棄したな?』

 

『もう、どうにもできん。

こんだけ問題だらけだと、助けがあるだけ幸運だよ。』

 

 

そういうと、神童は遠い目をする。

 

 

 

『まあ、解らんじゃないが・・・、

 

四宮・・・、あれっ?』

 

『彼女達なら、あそこだ。』

 

 

神童の指差す方を見ると、談笑しながらかぐやと眞妃が歩いて行くのが見えた。

 

 

 

『・・・心配だな。』

 

『過保護だな、白銀。

彼女達を信じろよ。

俺は、相手チームと審判に挨拶してくる。

メンバーチェンジの説明もしてこないと。』

 

『それなら、俺も行く。』

 

 

二人は揃ってサッカーグランドに近い更衣室兼休憩所に向かう。

到着していた相手チームは着替えを済ませており、引率の教師が審判と打ち合わせをしていた。

あらかじめ大筋の話は連絡していたが、詳しい説明を改めて行う。

 

 

 

『災難だな・・・。

流石に居眠り運転までは予測できないからな。

そういう事情なら、メンバーチェンジと女子二人が参加する事は了解するが、皆いいな?

 

しかし、女子達は本当に大丈夫か?』

 

『まあ、お手柔らかにお願いします。』

 

『うちも人数はギリギリだから、気持ちは分かるよ。』

 

『そう言って貰えるとありがたいです。』

 

 

相手チームと引率教師、審判の了承は得られて御行と神童は安堵する。

最悪、取り止めも覚悟していたのだ。

しかし、説明を受けた四条帝は気が気ではなかった。

不審に思ったチームメイトが理由を聞く。

 

 

 

『どうしたんだ、帝。

お前の姉さんって言っても経験者なのか?』

 

『いや、サッカーはガキの頃以来やったことない筈だ。』

 

『なら、問題ないだろう?

軽くお相手させて貰うぜ。』

 

『・・・怪我させるなよ。』

 

『わ、解ってるよ、怖えな。』

 

 

帝は知ってる。

自分の姉に「常識」なんてものが通じない事を。

そこに加えて、かぐやが!

姫が来る!!

 

本来なら想い人とプレイが出来るのは嬉しい事!

まして、小さい頃と違い高校生にもなってから、である。

 

・・・しかし、言い知れぬ恐怖というか悪寒が走るのは何故だろう?

 

 

 

 

一方、ジャージに着替えを済ませた眞妃とかぐやはウォーミングアップにシュート練習をしながら、試合運びの打ち合わせをしていた。

 

 

 

『渡部の考えは、真ん中まで引っ張り上げて、そこで潰してカウンター狙いね。』

 

『それで、弟さんは止められるの?』

 

『無理じゃないかしら?

何度か試合の応援に行ったけど、どんな状況でも切り抜けてたから。

ただ、現状でチームとしてみれば五分五分かこっちが有利よ。

文字通り、帝がチームの屋台骨だから。

だからね・・・、』

 

 

眞妃には、何やら策がある様だった。

 

 

『四条様、おはようございます。

かぐや様、ジャージになんか着替えて、どうされたんですか?』

 

 

二人で話し込んでるところに、かぐやの近侍の早坂愛が話し掛けてくる。

試合後の相手と味方の両チームの差し入れにと、大量に弁当(おにぎりと豚汁)を仕込んだが、量が量なので試合の終わる時間までに運んで貰う手配を愛に頼んで、かぐやは先に登校していたのだ。

 

 

 

『あら、久しぶり。

眞妃でいい、と言った筈よ?』

 

『すいません、なかなか慣れませんもので。』

 

『眞妃さん。

愛さん、手配ありがとう。』

 

『お昼前には届く様に手配致しました、かぐや様。

ところ、どうしてジャージに着替えてるのでしょうか?』

 

『いえね、サッカー部の人が交通事故で試合に出れなくなったからピンチヒッターで私が出るの。』

 

『・・・はい?』

 

『ちょっとアンタ、青筋立ってるわよ。』

 

『あまりにも、あんまりな話だったので・・・。

何故、かぐや様が出場する必要が・・・。

(大人しく観戦しててほしい・・・)』

 

『・・・サッカーって、そんな競技だったかしら?』

 

『かぐや様、サッカーというのはですね、フーリガンなる暴徒まがいの集団もいる程、熱狂すると何が起きるか解らない競技なんです。

例えて言うなら、野球の日本シリーズの球場で阪神ファンと巨人ファンをエレベーターに入れるぐらい危ないんですから。』

 

『・・・その例え、なんとなくしか理解できないわ。』

 

『ともかく危険です!

ただでさえ、ケダモノ共が試合にかこつけて猥褻な事をする恐れも・・・。』

 

『大丈夫よ。

渡部さんがフォローするって言ってくれてるし、いざとなれば会長が動いてくれるから。』

 

『この私が付いてるから、安心しなさい。

それに、あんまり過保護にすると、主人が成長しないわよ。』

 

『・・・(仕方ない)。』

 

 

二十分後、秀知院チームは更に一人の欠員が出て、早坂愛が急遽出場する事になった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ええぇえぇぇぇぇぇっっっ!?

かぐやさんが出るんですか!!?』

 

 

交通事故で出れなくなった選手の代わりに出場する事になった事を告げたかぐやは、応援に来た千花に絶叫される。

 

 

 

『先輩、危険です!

押し倒されてあんな事やこんな事をされかねませんよ!!』

 

『・・・伊井野さん、何言ってるの?』

 

『四宮先輩、何かあったら言ってください。

シメてきますから。』

 

『・・・石上くん、目が座ってるわよ。』

 

『かぐやさん、無事を祈ってます。

証拠写真は抑えますから、勝ちましょう!』

 

『柏木さん、法廷に持ち込む気ね。』

 

 

ヤバ目の妄想が揃って爆発して、とんでもない事を口走り出してる伊井野ミコ達に呆れつつ、一番目が笑って無い千花はかぐやのジャージの袖を掴む。

 

 

 

『かぐやさん、その時は私も一緒に堕ちますから、一人じゃないですよ!

絶対かぐやさん一人にはしませんから!!』

 

『・・・私は、どこに行こうとしてるの?』

 

『皆、心配性ね。

この私が付いてるんだから、大丈夫よ。』

 

『私は眞妃も心配だよ。』

 

『渚、眞妃ちゃんなら大丈夫だよ。』

 

『・・・翼。』

 

 

こんな時でも二人の世界に入る事に周囲は呆れる。

眞妃には目の毒だが、正直、それどころではない状況が生まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───グランド横の男子トイレ

 

 

 

『お前! 一体、何食ったんだ!?』

 

『まっ、全く心当たりがありません!』

 

 

トイレから出てこれなくなったチームメイトに他のチームメイトが問い詰めるが、当人はそれどころではない。

サッカー部エース渡部神童は遠い目をして涙を流しながら空を見上げ、生徒会長で臨時キーパーの白銀御行とサッカー部顧問教師は、事情を説明して相手チームに頭を下げていた。

最早、相手チームは苦笑いしか出来なくなっていた。

そして、ピンチヒッターが何故か早坂愛になっていた。

 

 

 

『・・・愛さん、何があったの?』

 

『気にしない気にしない、かぐやチャン!

(この子、ドンくさい所あるし、怪我なんかさせる奴がいたら、タダじゃおかないから。)』

 

『・・・かぐや、アンタの周りの人達、危ない人が多くない?』

 

 

千花達と離れて合流したかぐやは、チームに愛が加わってる事に疑念の目を向け、眞妃は引き攣り笑いをする。

 

愛は、かぐやが出場する事を聞いた瞬間から出場不可に出来る者を物色し、試合中にアクシデントを装い女子二人に抱き着こうかと軽口を叩いていた選手のスポーツドリンクに強力な下剤を盛ったのだ。

 

その後、何食わぬ顔で騒動になってる所に、かぐやからの差し入れの話を口実に御行と神童と顧問教師に自身の嘘のサッカー履歴(女子サッカー経験者)を信じ込ませ、臨時に出場枠を獲得したのだった。

 

一連の騒動を見ていた四条眞妃の双子の弟で対戦相手の四条帝は、この試合は荒れると確信していた。

同時に、姉同様に想い人の四宮かぐやもかなりヤバい人間ではないかと思いだしていた。

 

一方、相手チームに説明に行った戻りの御行は、応援に来てくれた目の座った妹の圭から、

 

 

 

『かぐやさんに何かあったら、叩き出すから。』

 

 

と、洒落にならない事を言われていた。

 

そんなこんなで、両チームグランドに並列に並んで一礼の後、配置に付きプレイオフとなった。

 

両チーム4-4-2の配置と同じ陣形でキックオフは神童達のチームからであり、サッカーグランド中央のセンターサークルに入るのは、FW(フォワード)の四宮かぐや・四条眞妃の両名。

 

正直、二人共初めての事に緊張している。

 

同時に、交流試合といえどもこういう機会(新入生代表など面倒な役回りはあるが)はなかったかぐやは、紅潮していた。

それは眞妃も同じで、二人は興奮と緊張の綯い交ぜの心理状態にあった。

試合直前、白銀御行・渡部神童・早坂愛・風祭豪・豊島三郎達から何かあれば俺(私)達が飛び込むからと念を押された二人だった。

 

四人のサッカー部員達は最終防衛ラインになってしまったので、全力で帝を阻止する様に神童に言われている。

 

渡部神童は助っ人女子達に何かあれば、来年度予算半額の上に未使用予算の全没収を行うと、御行から非常に低い声で脅されていた。

故に、必死である。

(泣いてて相手チームに頭を下げに来なかった事も根に持たれてる。)

 

早坂愛は、不心得者一人を排除したが他にも居そうな為、両チーム全男子に鋭い眼光を飛ばして監視している。

 

豪と三郎は、やり合った後に友誼を結んだ御行の恋路(知らない方が秀知院ではモグリ)に感づいているので、かぐやのバックアップに動くつもりだ。

 

そして、一番後ろ。

ゴールキーパーである為にゴール前から動けない御行は、かぐや達が心配のあまり、全身からドス黒いオーラを発して、全選手に圧力を掛けている。

 

 

 

『(四宮達に何かあれば、ただでは済まさん。

生きて秀知院から帰れると思うなよ。)』

 

『『『なっ、何が起きてるんだ!?』』』

 

 

秀知院チームのあまりの圧力に帝達は圧倒される。

 

 

 

『いやぁ、秀知院さんは凄いですね、女子選手まで揃えているなんて。

とても交流試合とは思えない緊張感ですし、見習いたいもんです。』

 

『いやぁ、欠員だらけでお恥ずかしい。

まあ、今日は楽しい試合になればいいですよ。

「交流試合」ですから。

怪我が一番怖いですからね。』

 

『いやぁ、全く。

「明日は我が身」、ですからね。』

 

『『ハッハッハッハッ。』』

 

 

皮肉と嫌味と見せかけの謙遜のブレンドされた暢気な社交辞令の会話を顧問教師同士で交わしている中、試合開始のホイッスルが鳴り響く。

 

ホイッスルの音と同時に、眞妃の作戦が始まる。

 

センターサークル右側にいる眞妃が、体を大きく前方に地面と水平になるほど倒しながら、利き足の右足を後ろ足に真上まで上げる。

横から見ると180°開脚をしてる様に見える状態だ。

後ろから眞妃を見る事になった秀知院チームは、目のやり場に困る。

ジャージとはいえ女子の拝む事など姿だからだ。

その眞妃の右足を振り下ろす位置に、ボールをサークルから出して戻すという面倒な事をしてから、かぐやはボールの位置合わせをする。

と、同時に弾ける様に相手チームの左手側に走り出す。

 

ミッドフィルダー陣の右から二人の位置にいる帝は、二人の動きに目を配っていたが、どちらの動きに対応するべきか悩む。

 

普通はあんな体制からではまともボールを蹴れない、普通なら・・・。

 

しかし、相手はあの「姉」である。

だが、なら自分の方に走ってくるかぐやの動きは説明が付かない

この帝の迷いからの初動の遅れが致命的な結果を生む。

 

帝達のチームのフォワード二人が眞妃の壁になるべく前進。

狙えるなら眞妃からボールを取りに動く。が、二人が眞妃に後三メートルに近付いた所で眞妃の振り下ろした足が、反動を利用した強力なシュートを放つ!

 

眞妃の放ったシュートは、フォワード二人の頭の間を抜いてゴールに、翔ぶ!

 

同時に、加速して速さの安定したかぐやが帝の右を抜く!

 

瞬間、帝は直感で「理解」した!

 

姉のシュートはかぐやへのパスだと・・・。

 

急いで振り返ってかぐやを視界に収め直した瞬間、姉が蹴ったボールも視界に入る。

ボールはゴールにまっすぐ進まずやや左に、それも縦回転が掛かっていた。

そのまま、帝からはかぐやの背中がボールの軌道を隠してしまった為にボールの最終コースが判断できなかった。

この頃になって帝チームのキーパーとディフェンダーの五人が事態を飲み込み、動き出す。

既にかぐやはディフェンダー陣に差し掛かっていた。

 

このとき、大きい音と共に眞妃の放ったボールは帝チームの右ゴールポストの根元近くに当たり、かぐやの方に跳ね返ってきた。

ドライブシュートだったのだ。

サッカー初心者がやる芸当ではない。

 

この瞬間、かぐやの俊足が生きる。

伊達に、優と追いかけっこ(勉強からの逃亡阻止)をしていた訳では無い。

一学期に優の追跡で経験した逃げ足と逃亡の機転が、変なところでかぐやの役に立つ。

今のかぐやには、少し古い記憶だが・・・。

 

帝チーム各員はボールを目で追って頭を上げていた為、帝以外は自陣に入り込んでいたかぐやの存在に気付いてない。

 

 

 

『止めろぉぉぉぅぅぅぅぉぅぅ!』

 

 

帝の叫びと、目に映ったかぐやの姿にその存在に気付いた周りのディフェンダーとキーパーが、かぐやの持つボールに殺到しようとした瞬間、かぐやはバックパスを出す。

オフサイドのホイッスルは鳴らない。

 

果たして、かぐやがパスを出した先には早坂愛が居た。

 

キックオフと同時にボールを蹴り左手に走り出したかぐやの穴を埋める様に、愛と神童は眞妃の側に、両端に居る豪と三郎もセンターラインまで進む。

キックオフ時点でかぐやと愛は10メートル程距離が離れていたが、短距離のタイムはかぐやより愛の方が良い。

バックパスの先、愛がボールに対してシュート体制に入った瞬間を見た帝チームの全員が一瞬硬直する。

 

眞妃・かぐや・愛と女子が予想外の働きの連続で、頭も体もついていけない。

 

まさか、開始早々ここまで切り込まれるなんて!?

女子にここまでやられるなんて!!

 

そこからは、スローモーションだった。

 

愛がボールを蹴り、ボールはゆっくりと、だが確実に、ゴールに向かって宙を舞う。

 

やがて、皆が見てる中を無常にもボールはゴールに入りゴールネットを揺らしながら、地面に落ちる。

 

数瞬の間の後、観戦していたミコ達から、次いで秀知院チームから歓声が上がった。

 

かぐや達の作戦勝ちの先制ゴールが決まったのだ。

 

 

 

信じられないという目で、ゴール内に転がるボールを取る帝チームのキーパーは、帝に肩を叩かれる

 

 

 

『どうした!?

始まったばかりだぜ!!』

 

『・・・けどよ。』

 

『取られたら取り返せばいいだろう。

悔しい思い、今までどれだけしてきたよ?』

 

『・・・ああ、ああぁ、そうだな、やってやるか!』

 

『皆、やるぞ!』

 

『『『『『おぁ、おおおぉぅぅ!!!』』』』』

 

『姉貴、そっちがその気なら手加減なしだな。』

 

 

ゴール前から、センターサークル内からシュート後に一歩も動かず、仁王立ちをしている姉の眞妃を睨み付けて不敵に笑う帝。

対する眞妃も、ドヤ顔で見下す様に帝を睨み返して不敵に笑う。

 

 

 

『やれるもんなら、やってみなさい。』

 

 

その横を抱き合いながら愛の得点を喜ぶかぐやと、喜んで貰うのが

照れ臭い愛が紅潮しながら自陣に歩いていく。

 

試合は一旦仕切り直しになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キックオフ直前に愛を加えて変更が加えられたかぐやと眞妃の作戦は、

 

一、派手な挙動で眞妃に注意を引き付けておいて、かぐやがゴール前に近付く

 

二、眞妃がゴールポストにぶつけるシュートを打ち、跳ね返ってきたボールを確保してかぐやが愛にバックパスをする

 

三、本命の愛が、帝チームの注意が眞妃からかぐやに移って守備に綻びが生じた所をゴールを決める

 

 

というものだった。

いかにも素人が考えそうな無理が多い作戦だったが、決定的に違う点は、三人が帝チームより「動ける」事だった。

そのまま、眞妃のシュートだけで得点してもよかったが、かぐやと愛が絡む事で三人に警戒心を持って貰う事も狙いだった。

 

結果オーライではあるが、神童は最初から切り込むという、当初予定と違う眞妃達の行動に冷や汗をかいていた。

直感的に、こっちの言う事は聞いてくれない───。

そう感じていた。

 

 

 

 

 

秀知院臨時編成チーム・早坂愛

開始二分で初得点

 

帝チーム 0━1 秀知院

 

 

 

 

 

先制点を許してしまった帝チーム(便宜上)は、遮二無二に秀知院チームゴール目掛けて攻め上がるが、ボールを持つ選手はゴール前のサッカー部ディフェンダー陣が壁になり、後続は助っ人豪と三郎を中心にサッカー部エースの神童指揮の元に妨害されて寸断、カウンターでフォワードのかぐやや眞妃にボールが渡れば自陣ゴールが脅かされ、攻勢に全力を振り向けられず消耗させられていた。

特にセンターサークルから正確にゴールを狙ってくる眞妃のシュートは脅威だった。

 

随所で愛の絶妙なアシストも効果的に機能し、帝チームを寸断してボール持ちを孤立無援にして、人数と技量で勝る秀知院フォワード陣が有利に戦えている。

 

しかしながら、流石は四条眞妃の弟・四条帝は姉達に負けない駿足を発揮し、味方が秀知院コート中盤まで囮でボールを運び、秀知院ディフェンダー陣を前に釣り上げて、空いた隙間を縫ってパスを受けた(こぼれ球)帝が秀知院ゴールに同点ゴールを叩き込んだ。

 

この時、キーパーの御行は帝への反応が遅れたのと、帝が打ち込んだ球筋と違うところに身体を出して守ってしまい、得点を許してしまった。

 

秀知院応援団(主に千花達)から悲鳴が上がる。

相手チームは数人の女子生徒(帝の追っかけ)が応援に来てるが、ゴールした帝に黄色い声援が飛ぶ。

 

 

 

 

 

帝チーム・四条帝

試合前半十八分で同点ゴール

 

帝チーム 1━1 秀知院

 

 

 

 

 

この時、御行の動きに違和感を覚えたかぐやは、「来年」に愛がコンタクトレンズを御行に装着させようとして御行と揉めていた事を思い出した。

その後は、かぐやが代わってかなり怪しい光景(かぐやは御行の鋭い目が大好き)を展開し、御行はコンタクトレンズが当たり前になったが、この段階では裸眼のままではコンデション次第ではかなり視力が悪かった筈と思い当たったのだ。

 

しかし、サッカーのルール上、眼鏡類の装着は専用仕様で主審の許可がいる。

昨日の晩に、観戦してもルールが解らなければ状況が理解できないと、かぐやはルールに目を通していたのだ。

 

幸い、頭角を現してきてる新興チームのエース相手で混戦状態だった為と、素人に近い御行だからと周りは失点理由に納得しているが何度もそうはいかない。

祈る様な気持ちで御行をかぐやは見つめる。

その視線に気が付いた御行は右手を上げて応えるが、相手がかぐやとは判別出来てない。

 

勘で反応しただけだ。

 

両者の距離は二十メートルは離れている為、御行からは人らしい輪郭と参加者の中で女子だけ青色のジャージを着てるので、かぐや達のうちの誰かだろうと予測して応えたのだった。

そんなかぐやの様子を不審に思った愛が話し掛けてくる。

 

 

 

『どうされました、かぐや様?』

 

『ねぇ、愛さんはコンタクトレンズよね?』

 

『・・・そうですが?』

 

『ハーフタイムの15分(女子参加の為)で必要だから、予備は持ってるかしら?』

 

『ありますけど。』

 

『じゃあ、お願い。

使わせて。』

 

 

深刻な顔をしていつもは言わない事を言うかぐやに、首を傾げる愛はかぐやからある懸念を伝えられる。

 

その頃、千花達応援組の席では、かぐやに頼まれて千花が望遠レンズ付きのカメラを、かぐやの友人の柏木渚が猥褻被害の証拠にとスマホで録画している。

御行の妹の圭は、御行やかぐやを案じて無言で佇み、心配そうな視線を向けている。

 

 

 

『藤原さん?』

 

『千花でいいですよ?

どうしたんですか、柏木さん?』

 

『じゃあ、千花さん。

かぐやさん、輝いてますね。』

 

『そうですね、凄くイキイキしてますね。』

 

『楽しそうだな・・・。

私もやってみようかな?』

 

『サッカーですか?

女の子ならフットサルとかもいいですよ。』

 

 

和気あいあいという感じで観戦しているが、彼女達はある現実から目を逸らしてる。

 

交流試合の為に一部の保護者も観戦に来てるいるのだが、サッカーのルールがイマイチ呑み込めてない保護者もおり、生徒会会計・石上優と会計監査・伊井野ミコの二人が保護者の集団に捕まり解説と接待役をする羽目になっていた。

 

決して顔を向けず地味に集団から距離を置く千花達は、なかなかである。

 

 

 

『一人をあんな人数で取り囲んで、反則じゃないの?』

 

『そういうルールなんです。

サッカーボールをゴールに入れるのを競う競技ですから、ゴールに入れられてしまうと点数を取られてしまうんです。』

 

『それにしても・・・。』

 

 

一人の質問が終われば、また別の質問が飛ぶという面倒な状況が生まれていて、優はうんざりしていた。

ミコはミコで、人数は少ないが前期高齢者の方々に孫の様に可愛がられて、うんざりしていた。

しかし、相手は保護者達なので下手な事は出来ない。

我慢のしどころだが、知らぬ顔で観戦してる千花達を見ると、

 

 

「先輩方〜?」

 

 

と恨み節の一つも言いたい気分になる。

 

どこで聞きつけたのか、御行達が臨時に参加してると知った龍珠桃と子安つばめまで観戦に来ていた。

 

 

 

『しっかし、白銀の野郎、トレぇなぁ~。

それに比べると、四宮はよく動くな。

反対に眞妃は真ん中からあんまり動かねぇ〜な。』

 

『桃ちゃん、仕方ないよ。

でも、四宮さん達はそういう作戦なのかな?

ねぇ、藤原さん。

四宮さん達から何か聞いてる?』

 

『私は、何も。

かぐやさんや早坂さんが出場するというのも、試合直前に急に決まりましたから。』

 

『・・・急に出場できるものなの?』

 

『なんでも、交通事故で来れない人と体調不良で出れない人が出たから、急遽かぐやさんと早坂さんが出る事になったと聞いてます。

ところで、子安先輩と龍珠さんは会長が出場するから、ですか?』

 

『ああ、渡部が何ふり構わず声掛けまくったからな。

それでも集まらなくて、生徒会に行ったと聞いてな。

しっかし〜、私の前を素通りして眞妃や四宮には声掛けてたとはな〜、いい度胸してるじゃねぇか〜。』

 

『もう、桃ちゃん。

程々にしないと。』

 

『『(子安先輩、止めないの!?)』』

 

 

渚と千花は同じ事を思った。

だが、千花はそれ以外にも不可思議に思ってる事があった。

渚の彼氏の田沼翼が、渚と離れて保護者達から開放された優と観戦してるのだ。

渚も撮影に集中してるせいか、翼が側にいない事を気にしていない様に見える。

 

 

「あれだけベッタリだったのに何があったんだろう?」

 

 

と、千花は嵐の前の静けさの様な不気味さも感じていた。

そうこうしてる間に、交流試合は1━1のままハーフタイムになった。

 

休憩とコートチェンジが行われる中、かぐやと頼まれた愛と眞妃の三人が御行を物陰に強引に連行すると、羽交い締めにして無理矢理コンタクトレンズを装着しようとする。

 

 

 

『や、やめろ!

いっ、イキナリなんなんだ!?』

 

『いいから、大人しくしてください!』

 

『男でしょ! これぐらいでビビるな。』

 

『会長さん、騒ぐと変な噂立てられますよ。』

 

 

かぐやと眞妃の二人がかりで御行を抑えると、愛がコンタクトレンズを装着しようとするが、御行は全力で抵抗する。

やむなく、かぐやは小指を御行の耳に入れる。

予想だにしてなかったかぐやの行動に、御行の愛への注意が反れた瞬間に、無事コンタクトレンズの装着に成功する。

 

 

 

『ひゃっっぅ!

しっ、四宮!?

何するんだ!!?』

 

『こうでもしないと、時間がないんです!

お叱りは後で聞きますから、今は「見えて」ますか!?』

 

『見えてるって、なに・・・、お・・・。』

 

 

非常にクリアな視界になった事で、至近距離でかぐやの顔を見た御行は、思わず見惚れてしまい紅潮する。

 

 

 

『ああぁ、疲れた。

目が悪いんなら自覚しなさいよ、御行?』

 

『コンタクトレンズ付けるだけでこんな大仕事は、御免被りたいです・・・。』

 

 

疲れて座り込む眞妃と呆れてる愛を横目に、かぐやは御行に問い続ける。

 

 

 

『どうです?

しっかり見えますか?』

 

『・・・ああぁ、「しっかり」見えるよ、四宮。』

 

『会長・・・、私は物凄く欲張りなんです。

私は、皆さんと、勝ちたいんです!』

 

 

久々にかぐやからの真っ直ぐな視線を受けて御行は硬直するが、同時に笑いがこみ上げてくる。

 

 

 

『・・・そうか、そうかそうか!

いいだろう!!

四宮、勝つぞ!!!』

 

『はい!』

 

『はっはっはっはっはっ!!』

 

 

眞妃と愛は疲れた顔を二人に向けて思う。

 

 

「「この二人、なに勝手に盛り上がってるの?」」

 

 

と。

しかし、かぐやはともかく、御行は途中からとんでもない事に気が付いてしまった。

コンタクトレンズに抵抗するあまり身体に力を入れ過ぎてしまい、それを抑えるのにかぐやと眞妃は必死だった為に、二人の胸が御行の身体と密着してしまったのだ!

 

その事(柔らかい感触の正体)に、唐突に気が付いてしまった御行は、意識を逸らさないととんでもない痴態を三人に見られてしまう為、ワザと笑って誤魔化していたのだ。

ヒジョーにギコチない動きでゴールに足早にむかう御行を、事態が解らないかぐや達三人は身体の何処かを痛めたのだろうか?と労る視線を御行に向けていた。

 

 

 

『何やってんだ、あいつら?

見えるか、藤原?』

 

『・・・まあ。

状況、理解できませんけど。』

 

 

桃に問い掛けられた千花はかぐやの望遠カメラで見てるが、眞妃は座り込み、傍らに愛が立って、その前にかぐやと御行が向かい合って御行だけが笑ってる様に見えるだけで、全く状況が解らない。

 

 

 

『ま、まさか、4P!?』

 

『ミコちゃん、イメージ台無しだから止めよう。』

 

『でも、さっきまで三人がかりで白銀会長を抑えてましたよ。

四宮さん、会長の耳に指入れてますし。』

 

『『『エエェェぇ!』』』

 

『撮りたくなかったけど、映っちゃったんです・・・。』

 

『・・・お兄、昼間っから何やってるの?・・・。』

 

『圭ちゃん、大丈夫!

大丈夫だから、怖い顔しないの。』

 

『千花ねぇ~。』

 

 

 

三人が物陰に向かって走っていくところから、スマホカメラの最大望遠で撮っていた渚は、録画してしまったのだ。

保護者達から開放されたミコも加わり、渚の話でただならぬ状況が解ると応援の女子組には困惑が広がる。

 

 

 

『・・・いいんですか、田沼先輩。

(やっと名前が解った・・・。)』

 

『・・・色々相談に乗って貰ったから君には言うけど、内緒にしてね。

サプライズを演出したいんだ。

 

渚を・・・、喜ばせたいから。』

 

 

いつもくっついて離れない渚から離れてる理由を、翼から意外に真剣な顔で種明かしをされて、「リア充シネ」と「成功します様に」という感情に挟まれて、優は複雑な心境になる。

 

コートチェンジとハーフタイムを終えて、1━1から後半戦スタートとなる。

 

ここで、前半はシュートに専念していた眞妃が、かぐやと役割を交代して切り込み役になる。

その為に眞妃は体力を温存し、かぐやが走ってたのだ。

 

サッカーに不慣れな助っ人組はペース配分のミスと、帝達の動きに対応する為にかなり走らされており、臨時キーパーの御行の友人である豪と三郎も動きが鈍くなっていた。

本来なら選手交代をしたいが、予備戦力無しではそれもできない。

残りの三十分間を耐えるしかない。

 

 

 

『さてと、やりますか。

かぐや、後ろは頼むわ。』

 

『ええ、存分に。』

 

 

後半戦、帝チームからのキックオフとなるが、フォワード陣は気後れしている。

 

秀知院チームフォワード、眞妃とかぐやの雰囲気が変わったのだ。

前半戦は、緊張感があってもどこか楽しんでる空気があったのが、今は張り詰めた緊張感しかない。

その緊張感は両チーム全体に広がり、かぐやの近侍の早坂愛とキーパー白銀御行は「久々」と感じていた。

また、渡部神童は冷や汗をかいている。

強豪チームから感じる圧迫感にも似た緊張感を、まさか女子二人が放つとは思いもしなかった。

 

後半戦キックオフのホイッスルが鳴り響く。

帝チームフォワード二人がボールを互いに一回づつ蹴って前に進もうとして、違和感を覚えた。

 

ボールの感触がない・・・。

見れば、足元に有る筈のボールがない。

眞妃に取られて二人共「抜かれた」のだ。が、すかさず眞妃の弟、帝が姉を止めに入る。

 

 

 

『姉貴とやるの、久々!』

 

『そうね!』

 

 

ミッドフィルダーの他の選手達も帝の加勢に入りたいが、帝ですら手こずる眞妃相手に割り込んでも交わされる為、ゴールとの間に壁を作る。

しかし、毎日サッカーをしてる帝と久々の眞妃では力量差が出て、とうとう眞妃はボールを奪われてしまった。

ミッドフィルダー陣両翼の豪と三郎は、まだ動かない。

 

次いで、フォワード下の神童と愛が帝を迎え撃つ。

帝チームフォワードの二人は、秀知院ディフェンダー陣の所まで進み、帝を待っている。

彼らのところにボールを運ぶまで、今一歩。

 

しかし、流石はサッカー部エースの神童は一筋縄ではいかない。

一分間近く激しいボールの奪い合いが続いたが、ついに帝は突破する。

 

 

 

『しまったっ!』

 

 

神童の叫びを背に受けながら走り出す帝。しかし、すかさず愛がスライディングで帝のボールをかぐやに向けて蹴り出す!

決して油断していた訳では無い帝は、一瞬自失するが我を取り戻しボールを追い掛けようと体の向きを変える。

そんな帝を置き去りに秀知院コート右側に出たボールは、かぐやから豪、豪から帝チームのコートにいる眞妃に運ばれる。

帝チームディフェンダー陣は自分達の左側を進むボールに釣られて真っ直ぐ眞妃に向かわなかった為、眞妃に時間を与えてしまった。

駿足の帝でも眞妃のシュートに間に合わない。

 

 

 

『いっっっけぇぇぇぅぅ!』

 

 

ありったけの力を足に込めて、眞妃はシュートを放つ!

 

ボールは一直線に帝チームのゴールへ突き進む。

 

が、この時は帝チームキーパーが意地を見せた。

全身を使ってボールを受け止めたのだ。

溝うちにボールを受けた瞬間に両腕でボールを抱え込み固定すると、勢いを逃がす為に地面に転がる。

眞妃のシュートはゴールラインを割る事が出来なかった。

 

 

 

『みかどぉぉっっっ!

いけぇぇぇっっっ!!』

 

 

眞妃のシュートの衝撃は軽くはないが、ダメージをものともせずキーパーはボールを帝に向けて蹴り飛ばす。

ホイッスルは鳴らず、試合は止まってない。

 

 

 

『わかったっっっぁぁぁ!』

 

 

キーパーからのボールをディフェンダー陣経由で受け取った帝は、キーパーの働きに応える為に瞬く間に神童・愛と抜き、ディフェンダー陣を突破しかけたところ、そこにはいない筈の人物にボールを取られた。

御行が、ゴール前を開けて飛び出してきていたのだ。

文字通り、飛び掛かる様に帝がキープしていたボールに両手から飛び付いて奪うと、かぐやの方に蹴り出す。

 

 

 

『四宮、頼むぞ!』

 

『はいっ!』

 

 

呆然と自分を見つめる帝を見て薄っすら笑う御行は、帝に告げる。

 

 

 

『悪いな、四宮の為にも負ける訳にはいかないんだ。』

 

『・・・。』

 

 

帝の前を悠然と自軍ゴールに戻っていく御行を見ながら、帝は言われた事が頭の中を駆け巡る。

 

 

「四宮の為?

 

姫のため?

 

何も知らないヤツが、何勝手な事を・・・?

 

俺が・・・、

 

姫の為にしてきた様な事を、

 

お前はしてきたのか・・・?

 

 

 

知った風な口を利きやがって!!」

 

 

これがキッカケで、帝にスイッチが入ってしまい(遅かれ早かれだったが)、「ボーイフォッカー帝」の恨み節の渾名が示す様なプレイが始まった。

 

が、しかし、それでも一筋縄ではいかない姉の眞妃を始めとする助っ人陣は、頑強な抵抗を見せる。

 

秀知院ディフェンダー陣にたどり着くまで、かぐや・愛・神童・眞妃の四人がボールを取ってしまうので帝以外では相手にならず、女子達の奮戦に触発されたディフェンダー陣はキーパー御行の的確な指示もあり、帝相手に善戦する。

必ず、二人一組で帝に対する為に帝も苦戦させられ、隙間を縫ったシュートも視力の良くなった御行が俊敏に対応して得点できない。しかし、帝の打ち込むシュート本数は尋常ではなく、三分間に一回は打ち込んでくる。

打ったシュートを御行達にカットされ毎回自軍コートまでボールを戻されるのに、奪い返してシュート位置まで運ぶ姿は驚異的だった。

 

ディフェンダー陣が硬く、時間が掛かれば混戦からかぐや達にボールを取られ、左右両翼の三郎か豪経由か眞妃自身でボールを運び、帝チームのディフェンダー陣では眞妃を止めれない。

それを駿足で戻り、姉を出来るだけ早く阻止してボールを奪わなければならない。

帝は失敗の許されない場に留まり続け、硬い防壁に穴を開けようと奮戦する。

 

もはや、交流試合などという和やかな空気は一欠片もなく、双方各々の選手が出来得る限りの働きを白熱した「闘い」となっていた。

 

そしてついに、帝の執念がゴールを割る。

 

ゴールのホイッスルが鳴り響く。

 

 

 

 

帝チーム・四条帝

試合後半十六分に追加点

 

帝チーム 2━1 秀知院

 

 

 

 

 

自軍ゴール内に転がるボールを掴みながら、御行は自身の不甲斐無さを噛みしめる中、ディフェンダー陣が集まってくる。

 

 

 

『会長、すまない。』

 

『いや、俺こそ申し訳ない。』

 

『しかし、異常な運動量だな、あの「帝」って奴は。』

 

『ああ、あれだけ走ってシュートを打ってまだ動けるんだからな。』

 

『しかし、そのせいか帝以外の選手は大した事ないな。

奴への依存度が高くてチームとしてみたらバランス悪いぞ。』

 

『それだけ、帝が突き抜けてる訳だから、あいつを抑えればいい訳だろう。

俺達の頑張り次第だ。』

 

『だな、折角可憐なる女子達がスライディングとか泥臭い事までしてくれてるんだ。』

 

『ああ、やってやるぜ!』

 

『そろそろ、頃合いだ。

じゃあ、会長。』

 

『ああ、頼りにしてるよ。』

 

 

しかし、ディフェンダー陣の決意と分析は兎も角、帝のサッカーセンスと運動量は他を圧倒していて、再びゴールネットを揺らされる。

 

 

 

 

 

帝チーム・四条帝

後半十九分に三点目

 

帝チーム 3━1 秀知院

 

 

 

 

 

『どうする?

もうバテてもいい筈なのに、全く動きが鈍くならないぞ。』

 

 

次第に焦りが秀知院チーム全体に広がりミスが増えだす。

完全に帝の作り出した空気に呑まれてしまった。

なるほどなと、御行は理解した。

試合終了時間が迫る中、冷静な判断を焦りが邪魔する。

帝チームの後半戦の得点数が多いのはその為かと、神童から渡された帝チームの傾向分析の資料に書かれていた意味を肌で感じる。

 

が、それならばと、御行は考える。

帝の行動に不思議に感じる部分があったのだ。

 

再度、帝の猛攻が防御陣を噛み破り、ゴール前で御行と一対一になる。

御行は体力の消耗が激しくなっていたディフェンダー陣にはゴール左右を固めて貰い、帝を正面対決に誘導したのだ。

帝も消耗してる為に左右のディフェンダー陣突破より、「御行突破」を選ぶ。

 

帝がシュートを放つが御行が飛び付いて阻止して、帝はしくじったと思ったが気持ちを切り替えて自陣に走ろうとする。が、これまでなら直ぐに姉達の方に飛んでいく筈のボールが、自分を飛び越えていかない。

不審に思い後ろを見た瞬間、御行とディフェンダー陣の五人がボールを蹴りながら、帝の横を走り抜けていった。

 

唖然とする帝。

 

御行達はまさかのキーパー含めての全員攻撃に打って出た。

このままでは負ける。

得点できなければ守って四点目を阻止しても変わらないと、強引にディフェンダー達を御行が説得したのだ。

 

更には、帝の行動の間隔が短くなっていたのだ。

シュートを阻止された後に、ゴール前の御行達を見る時間が短くなっていったのだ。

帝の頭には、攻・守のどちらも自分がしなければならないという強迫観念があった。

それが行動の間隔を短くしていたのだ。

 

敵味方に動揺が走る。が、体力を温存してただけあって御行の足は速かった。

 

 

 

『そう来るんですか!?』

 

『御行、やる気なのね!?』

 

『白銀、無茶し過ぎだ!』

 

 

皆を代表してかぐやが驚きの声を上げ、眞妃や三郎も声を上げる。

観戦してる集団からもどよめきが上がる。

 

自陣ゴールを空にする暴挙は、双方の意表を突いた。しかし、秀知院チームは全力で走る御行を見て、皆興奮している。

誰もが、失敗より成功するかもと思った。

 

それは帝チームも同じで、焦りがミスを呼び瞬く間に帝チームは突破され、追い付こうとする帝は御行を守る様に広がったディフェンダー陣に邪魔されて足が鈍る。

 

露払いは眞妃と神童が務め、センターサークルから帝チームゴールに一直線に道ができる。

 

そこを御行が走る!

 

当然ながら帝チームも黙ってはいない。

常日頃から自分達と帝との実力差を気にしている彼らは、帝の足を引っ張らない様に練習を重ねている。

眞妃達の防壁をすり抜けて御行からボールを弾く。が、都度、かぐやが、愛が、豪が、三郎が、或いは後ろを走るディフェンダー陣がフォローして、ボールを御行の元に戻す。

 

そして、ついにゴール前まで辿り着いた御行は、まずあり得ないキーパー同士の直接対決をすると見せ掛けて、御行がアシストしたボールをかぐやがシュートして、帝チームゴールに突き刺さる。

 

得点を告げるホイッスルが鳴り響く。

 

 

 

 

 

秀知院チーム・四宮かぐや

試合後半二十三分に二点目

 

帝チーム 3━2 秀知院チーム

 

 

 

 

 

『やりましたよ、会長!』

 

『四宮! どうだ、やったろう!!』

 

 

抱き合って喜ぶ御行とかぐや。

 

諦めムードが出ていた他の秀知院メンバーも、御行達の側で喜びを爆発させる。

文字通り、全員でもぎ取った一点だ。

相対的に意表を突かれて得点された帝チームは、雰囲気が沈み始めていた。

 

帝が本気になってから得点されるのは稀だからだ。

大抵の敵は焦るか諦めてしまい、ミスを連発するか怪我をしない様に抑えた動きになる。しかし、今回の秀知院チームは、全員攻撃という博打に打って出るほど貪欲なチームだった為に、帝チームは一点差がありながら焦りを覚えていた。

 

 

 

『君達、喜ぶのはいいが、そろそろ戻りなさい。』

 

『あぁっ! す、すいません。』

 

『わっ、私ったらはしたない・・・。』

 

 

抱き合って喜んでいた御行とかぐやは、審判の声で我に返り人前で憚りなく抱き合っていた事に羞恥心が呼び起こされて、急に恥ずかしくなった。

通常、審判は余程酷い遅延でなければ注意はしないが、今回は女子や初心者が混じってるので口頭注意をする事にしている。

 

二人は恥じらうが、抱き合っていた事より周りは得点できた喜びで全く気にしてない。

 

たった一人を除いては・・・。

 

帝は膝をついていた。

意表を突かれた事でも、得点を許した事でもなく、「想い人のかぐやが自分以外の男と抱き合った」事に衝撃を受けていた。

 

一方、御行達を応援していて撮影をしていたカメラ担当の藤原千花とビデオ担当の柏木渚は、目が点になっていた。

 

千花は、かぐやと御行の関係を怪しんでいたが、抱き合うという事はそういう関係と考えるしかなかった。

 

───かぐやが遠い存在になった様に感じたのだ。

 

写真はしっかり決定的瞬間を撮ったが・・・。

 

渚は、最近はなくなったが、相談ベタでダダ漏れの相談をしてくるかぐやから、御行との関係は後一歩だろうと思っていたら、人前で抱き合う程の親密な関係は、自分と恋人の田沼翼の関係に近いと考え、撮影してしまった二人の抱擁シーンをどうしたらいいんだろうと悩み始めていた。

 

二人の後ろで、三年生の子安つばめと御行達と同じ二年生の龍珠桃は「二人共、大胆だね〜。」と言い合いながら、ニヤニヤ顔が止まらなくなっていた。

 

渚の横に位置する石上優と伊井野ミコは、二人の関係性を「そうなんだ」と平然と事実として受け止めていた。

 

憎からず思ってる相手でなければ、得点できたからと抱き合ったりはしない。

自分達二人ならまずありえないなと、お互いに思う。

 

顔を真っ赤にしながらポジションに戻っていく二人の様子からも、周りにバレてないと当人達は思ってる事に、少し呆れてしまう。

お似合いなのだし、公言すればいいのとも思っていた。

そうでなければ、体育倉庫の一件で互いに泣いて謝り合うなんてしないだろうにと。

 

 

 

『『あれは、信頼関係の裏返し!』』

 

 

と、特に御行が強く主張していたがその時はかぐやは微妙な表情だったので、そこは「好きだ」とお互い言えばいいのにとミコ達は思っていたが・・・。

 

 

 

自陣まで必死に御行達を追い掛けて戻ったが得点を許し、膝をついて動けなくなっている帝に周囲は声を掛ける事すら出来ない。

 

無理もない。

 

一人で頑強な防御を破り三得点を上げたのに、意表を突かれたとはいえ味方が守りきれなかった事で二点目を失ったのだから。

 

 

 

周りにはそう写った。

 

そんな中、一人の女子が彼に近付き肩に手を置く。

帝の視線が、自分の右肩に置かれた手から腕に、その先にある顔に向かう。

彼の目の前にいたのは、姉の四条眞妃だった。

 

 

 

『・・・姉貴・・・。』

 

『・・・諦める?』

 

『・・・・・、嫌だ・・・。』

 

『立てる?』

 

『ああぁ・・・。』

 

 

肩に置かれた眞妃の手は自分の前に移動し、帝は姉の手を借りて立ち上がる。

 

 

 

『ラスト五分ちょい。

面白くなってきたじゃない。

 

・・・みっともなくてもいいから藻掻いてみなさい、御行みたいに。』

 

『・・・アイツに負けるつもりはないよ・・・。』

 

 

それだけの言葉を交わすと、互いのポジションに姉弟は別れて走っていく。

まだ、決着は付いてない。

 

その様子を見ていたかぐやは居た堪れない心情になる。

けれども、中途半端な気持ちで答えてしまうのは御行と帝の二人を苦しめてしまうと、かぐやは前を見据える。

 

 

 

───徹底的に振ろう、と。

 

 

 

けれども、結局は御行と結婚後も帝は諦めきれない様子で、下手な事になってストーカー化されるのも困る。

綺麗に忘れてくれたらいいのだけど、自分もそんな性格じゃないしと、帝にそんな事を望むのもと、試合とは違う事で悩み出すかぐやだった。

 

その後は、双方流石に疲れが出たのか精彩を欠き帝の攻勢も二回が限界で、追加点無しの3━2で帝チームの勝利で試合は終了した。

最後の挨拶を交わしそれぞれ着替えに向かう頃合いで「かぐやの差し入れ」が届いた。

 

が、参加者全員それどころではなかった。

 

最も激しい運動量だった帝を筆頭に、試合が終わった安堵感から疲れが吹き出してしまったのだ。

着替えに入った更衣室で、八月までのかぐやからの無茶振り等を原因としたオーバーワークに慣れてる早坂愛以外、動けなくなっていた。

 

 

 

『・・・眞妃さん、楽しかったわ・・・。』

 

『・・・私もよ、かぐや・・・。

もう、思い残す事は・・・。』

 

『な〜に、雰囲気出してるですか、二人共?

だらしないですよ。』

 

 

女子用更衣室までは人前の為に気力で歩いたが、愛がドアを閉めるなりカーペットの床に寝っ転がってダウンして、死にそうな声を出してるかぐやと眞妃に愛は呆れていた。

何が起きるか分からないと忠告したのに、と。

 

 

 

『後五分・・・、いや十分。

ともかく、動ける元気が出るまで待って。

 

『私も今回は無理です。

年甲斐もなく張り切りすぎちゃった・・・。』

 

『なにオバちゃん臭い事言ってるのよ、かぐや?

動きたくないの同じ気持ちだけど・・・。』

 

 

かぐやは時々、高校生に戻ってる事を忘れて実年齢の感覚が出てしまう。

 

二人して力無く笑い合う光景に、付き合っていては予定が進まなくなると、愛は自分の着替えを先に済ませる。

その頃には体を起こせる程度に回復してきたが、ロッカーや壁に体を預けて気怠い状態で、まだまだ時間が掛かりそうだ。

 

 

 

『けど、愛さんは流石ね。

シッカリ先制点決めてくれたし、綺麗なフォームだったし。』

 

『あれは、かぐや様のバックパスが正確だったからで。

回転掛からずにボールが来たから、狙いやすかったんです。』

 

『私は最初単独でゴール決めようと考えていたけど、かぐやと愛が来てくれたから、それなら私達三人で連携した方が上手くいくと思ったから。

最初から助っ人三人が飛び込んで来るなんて相手も考えないだろうし。』

 

『眞妃さんのシュートも正確でしたよ。

あの片足上げはびっくりしましたけど。』

 

『でしょ?

直前に弟から借りて読んだ漫画にそういうシーンがあったから、やってみようと思って。

キックオフで失敗しても取り返し効くしね。』

 

『借りた漫画って、どんな漫画なんです?』

 

『弟曰く、海外でも有名な漫画らしいわよ。

他国の有名選手も子供の頃に読んだ事があって、アニメ化もされてるって。』

 

『アニメや漫画は話題としては通じますからね。』

 

『かぐや様、お弁当の配膳がありますから先に行きますよ。

あまり遅くならない様に、ゆっくりしてくださいね。』

 

『愛さん、ごめんなさい。

少ししたら行くわね。』

 

『はい、解りました。』

 

 

そういうと、愛は更衣室を出ていき、なんとか立ち上がって内鍵を掛けるかぐや。

まだ、かぐやと眞妃は着替えを済ませてない為に、念を入れて。

 

一方、筋肉量の男女差等からかぐや達に比べれば回復が早い男子どもは、ロッカールームに併設されているシャワールームに裸でなだれ込んでいた。

秀知院学園と言えどもそこは体育会系。

両チーム最初は遠慮があったが、いつしかシャワーのお湯の掛け合いっこなどのじゃれ合いに発展、バカ笑いの響き合う空間になっていた。

 

 

 

『お前達な・・・。』

 

『堅い事言うなよ、白銀。』

 

 

生徒会長としては止めるべきなのだが、御行は豪からお湯を掛けられてやり返して、そこから入り乱れての乱戦に参加して帝ともお湯を掛け合う有様になった。

人数も半数ぐらいは脱衣場に出て行って空いてきたお陰で、御行は帝と話す機会が得れた。

 

 

 

『改めて、白銀御行という。

生徒会長をしている。』

 

『四条帝だ。

俺のシュートを五回も止められるとは思わなかった。』

 

『三点も取られたんだから、五回「しか」防げなかったが、正しいだろう?』

 

 

和やかに話してるが、帝の腹にはドス黒い感情が渦巻いてる。しかし、御行と話せば話すほどその感情が薄まっていく不思議な感覚になる。

 

 

 

『そういえば、話は変わるが四条は全国模試で一位を取ったろう?

俺はお前に負けてから模試を続けてるが、なぜ出てこない?』

 

『ああ、あったね。

あれは、成り行きさ。

親と進路で揉めて取って見せる必要があったから。

一回ポッキリで、それからは練習で勉強の時間はあんまり取れないよ。

 

・・・俺が頑張らないとチームは負けるからな。』

 

『・・・なるほど、な。』

 

 

込み入った事情がありそうだと御行はこの話題は切り上げる事にする。

本当は本人に会えばもっと徹底的に詰めるつもりだったが、御行も帝と話せば話すほど、敵愾心が薄まっていく。

それに、帝と他の選手の実力差が大きい現状では帝が攻守に走り回らないといけないのは、今日の試合を見れば解る。

帝以外はボールを持ってもゴールまで来れず、守備も難がある。

まあ、眞妃・かぐや・愛・神童が徹底的にカットに入って運ばせなかったのもあるが・・・。

 

その後も他愛のない会話、互いを知る為の会話をシャワー浴びながら二人は続ける。

裸の付き合いはまだまだ続く。

 

シャワールームが混み合う間に、かぐやの差し入れの準備に折りたたみのテーブル等を組み立てている愛のところに、観戦していた保護者達や生徒会メンバーなどが手伝いに来て、こちらも賑やかな話の華が咲いていた。

 

 

 

『えっ!? 四宮家のお嬢さんから差し入れですか。』

 

『ええ、皆さんに気持ち良く過ごして頂ければと。

数もありますから、皆さん遠慮なさらずに。』

 

 

朝三時に起きて豚汁とおにぎりを準備したかぐやを手伝った愛が、些細を聞いてきた保護者に恩着せがましくならない程度に説明して、おにぎりと豚汁を手渡す。

正直、ここまでしなくてもとは愛は思うのだが、百人分位は作っている。

おまけに、おにぎり一個一個を個袋に詰めてる。

衛生管理の観点からは解るが、泉岳寺別邸の厨房は仕出し弁当の工場の様になったのだ。

かぐやは災害時のボランティア等の経験もあるので、この手のイベントは余らせる位が丁度いいと考えてる。

足りなくなったら余計な諍いに発展する事を経験してるのだ。

 

そこに、シャワーを諦めたかぐやと眞妃も合流する。

バカ騒ぎの真っ最中で順番が回ってくるか怪しいのと、女子二人だけ最後になるより、疲れもあり帰宅を早めようとなったのだ。

制汗剤入りのウェットティッシュである程度は吹いたが、早くお風呂に入りたいのが本音ではある。

 

おにぎりと豚汁は、保護者や生徒会メンバー等の観戦していた人々には行き渡り皆が食べ出した頃に、腹ペコ男児共が姿を現しおにぎりに群がろうとしていた。

それを、手伝いに参加した子安つばめらが手際良く捌いていき、限界を迎えていた男児共はそこかしこで夢中でおにぎりにかぶりついては、舌鼓を打っていた。

 

 

 

『四宮、すまない。

遅くなった。』

 

『待ってましたよ。』

 

 

そう言うと、取り置いていたおにぎりと豚汁をかぐやは御行に手渡す。

 

 

 

『はい、帝さん。

お疲れ様です。』

 

『・・・ありがとう。』

 

 

御行と一緒に来た帝にもかぐやは手渡すが、帝は平静を装っているが内心は飛び上がりそうなほど喜んでいる。

しかし、気が付いてないが、かぐやが帝を名前で呼んだのは彼のプレイへの敬意でもある。

噛みしめる様に帝はかぐやのおにぎりと豚汁を堪能する。

 

 

 

『お疲れ様です、会長。』

 

『ああ、本当に疲れたよ石上。』

 

『まさか、全員攻撃なんてするとは思いませんでしたよ。

四宮先輩のシュートも凄かったですけど。』

 

『キーパーは、アシストは出来るんだが得点するには条件があったと思い出してな。

直前に四宮にシュートを代わって貰った。』

 

『・・・あれは、打ち合わせしてなかったんですか?』

 

『ちょっとの間、一緒に走った時に四条達には伝えたんだ。

ゴールに一番近くて相手のマークが外れていたのが四宮だったから、それでな。』

 

『横、失礼しますよ。

びっくりしましたよ。

突然会長が走りながら、「俺がゴールしても得点にならないかもしれない。」と言われた時は。』

 

『サッカーって、変なルールあるわね。』

 

『お疲れ様、四宮、四条、早坂。』

 

『先輩方、お疲れ様です。』

 

 

優と食べながら談笑してる御行の横にかぐやが、眞妃と愛を伴って座る。

御行と帝が渡してない人の最後で、後はおかわりを取りに来るぐらいになっていたので、先に済ませた桃とつばめが気を回りして、代わったのだ。

 

千花と渚とミコ、それに御行の妹の白銀圭は、食べながら撮った写真とビデオをどうしようか話し込んでいた。

 

 

 

『サッカー自体大分してないが、そんなルールがあったのを思い出してな。

勘違いかも知れないが万が一を考えて、な。』

 

『おかげで、私は貴重な経験できましたけど。』

 

『だが、すまん四宮。

勝ちたいと言っていたのに、勝てなくて・・・。』

 

『そんな、あれは・・・。』

 

『御行が落ち込んでたから、元気付けたかったんでしょ、かぐや?』

 

『もう、眞妃さん!』

 

『えっ、そうなの?・・・』

 

『・・・こんだけ鈍いと苦労するわね、かぐや。』

 

 

御行とかぐやは二人して耳まで赤くなる。

もっとも、御行は羞恥心が勝っているのと眞妃とかぐやの感触を思い出した為であり、かぐやは久々の御行との抱擁で赤くなってるだけで、二人で意味合いがちと違うが。

 

 

 

『ところで会長、この後は予定通りで?』

 

『そうしようと考えてるが・・・。

そうだな、四宮はどうする?』

 

『・・・何の話です?』

 

『「楽器」を見に行こうかと石上と話してたんだ。』

 

『楽器、ですか?』

 

『四宮先輩、申し訳ありませんが、会長には事情を説明してます。

正直、時間がありませんので、今日でどの楽器を誰が担当するか決めてしまいたいのですが?』

 

『貴方達、何の話をしてるのよ?』

 

『会長、四宮先輩。

四条先輩に話をしても?』

 

『まあ、いいだろう。

サプライズじゃないし。』

 

『そう、ですね。

なら、私が。

眞妃さん、バンドやりません?』

 

『・・・いきなり、何よ!?』

 

『・・・四宮、端折り過ぎだろう?』

 

『でも、間違ってはいませんよ?』

 

『(私、全く聞いてないんですけど、かぐや様!?)・・・。』

 

 

 

そこからかぐやは、自分が提案した『奉心祭に生徒会としてバンドで参加する』プランを、愛と眞妃に説明する。

二人とも驚いていたが楽しそうだなと感じた。

ただ、愛は別枠で友達とステージで歌とパフォーマンスを披露する予定で、その経験から練習時間が足りないのでは?と懸念を持つ。

 

 

 

『どうしたの、姉貴?』

 

『ああ、帝。

皆、紹介するわね。

私の弟の帝よ。』

 

『俺達は挨拶してるから、こっちは石上と早坂さん、ぐらいかな?』

 

『初めまして、石上優と言います。』

 

『早坂愛です(前に挨拶したんだけど、合わせておきますか)。』

 

『四条帝と言います。

石上さん、早坂さん、よろしく。

早坂さんは、凄い先制点だったよ。』

 

『あ・・・、いえ、あれは・・・。』

 

『謙遜しなくていいよ。

試合中も見事なアシストだったよ。

うちの連中には聞かせられないが、正直姉貴達が羨ましいよ。』

 

 

確かに、愛ぐらいに動ける選手がいれば帝の負担も減るだろうと、実際に戦った御行達は試合を反芻する。

素人目にも、帝のチームは全体の連携などが今一歩という感じだった。

個々の選手の力量も、素人同然の御行達が混ざっても戦えるのだから・・・。

その足りない部分を帝が一手に引き受けて補っている。

 

愛は、忖度無しの賞賛に内心は嬉しかった。

認められるって、癖になりそうと。

 

 

 

『姫、おにぎりと豚汁、美味しかったよ。』

 

『あぁ・・・、ありがとうございます。』

 

 

かぐやは溜息をつきたくなる。

帝の不用意な発言に、御行と愛が僅かに反応する。

正直、二人の関係性を問い質したい御行と、「まだ姫様呼びしてるの?」と愛は思ってる。

笑っているが、冷静に御行達を観察して帝は御行の見せた僅かな反応に少し気分が良い。

要するに、マウントである。

これぐらいは許されるだろうと、帝は踏んだのだ。

 

 

 

『帝、ここだったか。

そろそろ、出発時間だから荷物をまとめてくれ。

白銀会長、今日はいい試合をありがとうございます。』

 

『いえ、こちらこそ。

機会があれば、また。

次はサッカー部も万全に準備をしますから。』

 

『まあ、そう願います。

女子達は大丈夫でしたか?』

 

『はい、私達は問題なく。』

 

 

帝チームの引率教師が帝を呼びに来て、御行達と挨拶を交わして帝を連れて行く。

帝は名残惜しそうだが、早く帰ってくれというのが御行の本音ではある。

 

 

『・・・その、四宮?』

 

『はい?』

 

『・・・いや、何でもない。

 

楽器を見に行く話だが、どうする?

昼下がりの三時ぐらいに落ち合ってと考えていたんだが?』

 

『そうですね、それがいいですね。

正直、身だしなみを整えたいですし、それでお願いします。』

 

 

帝チームの出発を見届けてから御行達は一時帰宅後に楽器店に再集合して、担当楽器はあっさり決まった。が、その後は難航する事になる。

 

 

 

 

 

───つづく

 

 

 

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