白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜   作:チャリンコ2025

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───前回までのあらすじ


田沼翼の行動に猜疑心が強く刺激された恋人の柏木渚は、早坂愛を叩き、庇った四宮かぐやと互いに叩き合う事になった。


065『四宮雲鷹は忌々しい』

 

 

 

───時は遡り、日曜日の正午

 

 

土曜日までに政財界要人らと密会していた四宮雁庵は、月曜日には四宮家お抱え医の田沼正造の病院に検査入院の予定の為、日曜日には予定を入れていなかった。

 

 

───一件を除いては、───

 

 

その一件だけの面会の為に、雁庵は浅草の浅草寺境内でスカイツリーを眺めながら揚げ饅頭を食べていた。

既に二つを食べ三つ目を食べ切ると、秘書として同道している早坂正人からお茶を受け取り、飲み干す。

流石、「昭和の怪物」と言われただけあり、まだまだ体は丈夫だ。

 

 

 

『健康不安なんかデタラメじゃねえか。』

 

 

横に腰掛けて雁庵と分けた揚げ饅頭を食べる雁庵の三男・四宮雲鷹は呆れるやら感心するやら、よく解らない感情を抱く。

この週末、この歳で奇妙な親子旅行の様な状況に戸惑いもある。

関東の要人達との面会は、四宮家と雲鷹の地場固めの意味合いもある。

西日本は既に済ませたとの話だった。

 

 

 

『お前は黙って食わせてくれるが、他の奴は煩い。

正直、息が詰まる。』

 

『先は長くねえんだ、好きに食えよ。

俺も、これは止められねえ。

嫁は渋顔だけどよ。』

 

 

そういうと、懐のタバコを雲鷹は見せる。

 

 

 

『程々にしとけよ。

 

しかし、変わったな・・・。

 

昔はこんなに周りが高くはなかった・・・。』

 

『アレができて特にそう感じるだろう?』

 

 

そういうと、雲鷹はスカイツリーを指差す。

 

 

 

『変わったのは、それだけでないがな。』

 

 

そういうと、浅草寺境内にも多数居る外国人を顎でしゃくる。

浅草寺には日本人だけでなく、外国人観光客の姿も多い。

 

 

 

『俺のガキの頃は外人は殆ど見なかった。

進駐軍が来たが、その時もその後もこれ程じゃなかった。』

 

『時代の流れ、ってやつだろう。』

 

『・・・似合わないね。』

 

 

声を掛けてきた方に顔を向ければ、面会相手の藤原元総理が佇んでいた。

即座に雲鷹は席を立ち元総理に挨拶をする。

 

 

 

『ようやく来たか。』

 

『お前さんが早すぎるんだよ。』

 

 

そういうと、空いてる雁庵の隣に無遠慮に腰掛けると、雁庵の膝の上に置いてある容器から最後の揚げ饅頭を勝手に摘んで食べだす。

 

 

 

『コイツは、この歳になるとクドく感じて数を食べれなくなるが、お前さんは何個も食ったんだろう?

元気だね。』

 

『食える時に食っとけ、だ。』

 

『ああ、違いない。

で、どうする?

穴子か鰻でもと考えてるが?』

 

『お前の好きにしろ。

今日一日、付き合ってやる。』

 

『押さえてあるから、一服したら行くか。

ああ、すまんね。』

 

 

正人から差し出されたお茶を受け取りながら、元総理は周りを見回す。

 

 

 

『あの娘っ子は今日はいないか?』

 

『何だ、用があるのか?』

 

『いや、用がある訳じゃないが、な?』

 

『今日は居ない。』

 

『なら、止められずには済むか。

たらふく食うかね?』

 

『そのつもりだ。

明日から暫く、食えん。』

 

『お前さんらしいよ。』

 

 

しばし、すもつくれん二人の話が続く。

 

 

 

『・・・分かんねえもんだな。』

 

『・・・どうかされましたか?』

 

『親父と藤原の爺だよ。

付き合いがあったのは知ってたが、もっと建前の関係だと思ってた。

この間の食事といい、ダチだったとはな。』

 

『・・・旦那様は、かなり不器用です。』

 

『お前も、だろ?』

 

『貴方様も、です。』

 

『・・・そうかもしれん。

それじゃ生きていけない世界に身を置いたのが、な。』

 

 

その後、二人の間に会話は生まれず、雲鷹がタバコを二本吸い終る頃に親父達のじゃれ合いは一段落して、目的の店に向かう為に車が近くに着けられた。

雲鷹はここまでで別行動になる為に、雁庵達を見送ると後ろには雲鷹の秘書の天野八雲と今日だけのお付きになる早坂奈央が待っていた。

 

 

 

『さて、行くか。』

 

 

振り返り待ってる車に乗り込もうと歩き出した瞬間、雲鷹は身体の右肩を中心に身体を斜め右側に引っ張る強い衝撃を、次いで痛みを受ける。

同時に、周囲に居た鳩や烏といった鳥が飛び立ち、つられて更に外側の鳥達が一斉に飛び立つ。

 

 

 

『なっ・・・。』

 

 

痛みと衝撃の為に立っていられない雲鷹は、同時に身を隠す必要があると前のめりに地面に転がる選択をする。

身体が一回転して視界が道路のアスファルトを捉え暗転し、直ぐ様明るさを取り戻した視界に捉えたのは、自分の右横をすり抜ける女の姿だった。

 

 

 

『よせっ!』

 

 

雲鷹を庇う様に両腕を広げ身体を張った奈央。

その瞬間、奈央の左肩から血が吹いた。

うずくまる様に反射的に丸まろうとする身体を意思で抑えて、雲鷹の壁になり続けようとする奈央。

状況を半分ぐらいしか理解できてない八雲は、それでも雲鷹の身体を引っ張り近くの建物の影に入る。

それを確認し負傷しても機敏に動ける奈央は、自分も同じく建物の影に入る。

 

ようやく事態を理解した雲鷹の警護チームが動き出し、出迎えの車からも護衛が降りて走って来る。

 

 

 

『お怪我はっ!?』

 

『俺より、早坂を!』

 

 

実際、雲鷹は右肩を抑えているが

出血は抑えている左手を濡らす程度の面積で済んでいる。

対して奈央は、左肩を中心に胸の近くまで着ている服の内側を血に染められていた。

背中の左側も同様である。

 

 

 

『だ・・・、じょうぶですっ。』

 

『・・・早く車に入れて、止血しろっ!

乗ったら直ぐに口の硬い医者のところに回せ、早くっ!!』

 

『ハッ、はい!』

 

 

雲鷹は痛みをこらえる程度だが、奈央は顔から血の気が引き始めて、元々白い肌が更に白さを増して来ていた。

呼吸も荒くなりだし心拍数が上がってきている。

車から降りてきた護衛と八雲に担がれながら奈央を先に車に入れると、直ぐ様雲鷹も車内に入る。

周囲は警護チームが固めたが三度目の銃撃は起きなかった。が、まだ狙われてないとは言えず、車を出させる。

走り出した車内で、八雲に促されて上半身裸になった雲鷹は傷の手当てを終えたが、その間に奈央は自ら手当はしたが失血が進み、身体を起こしては居られなくなっていた。

座らさせて居た座席も血液が床まで垂れだしている。

雲鷹のリンカーンの車内が広い為に横にはなれるが、手当てする人員がいない。

護衛を雁庵側に振ったのと慌てて発車させた為に、八雲以外は護衛を乗せなかったのが災いした。

 

 

 

『手際が悪いぞ!

ガーゼでも何でも良い、出せ!!』

 

『す、すいませんっ!』

 

 

そういうと、雲鷹は奈央の背中に自分のハンカチを握った右手を回し、八雲に渡されたガーゼを左手で束で掴み、奈央の左肩の撃たれた部分を前後から挟み直接圧迫止血法を行う。

 

 

 

『邪魔だから上着ぐらいは脱がせたいがな、暫く我慢しろ。』

 

『い、いけません・・・、私には夫と娘が・・・。』

 

『この状況でそれだけ言えるなら大丈夫だ。』

 

『私の家は、そういう家ですから。

 

・・・随分、用意がいいですね。』

 

『俺を仕込んだのはお前だろ。

お陰で命拾いしそうだ。』

 

『それは、残念・・・。』

 

『俺もお前もガキが居るんだ、死ぬには早い。

もう、喋るな。』

 

『・・・懐かしいですね。』

 

『喋るな!』

 

『・・・意識を、・・・保つ為です。』

 

『・・・シワが増えたな。

口周りと目尻が特に。』

 

『・・・後で覚えておきなさい。』

 

『ババア手前だな。

俺も直ぐジジイになる。』

 

『・・・その前に、禿げるんじゃありません?』

 

『・・・うちは、禿げない家系だ。』

 

『額が広がったような・・・。

剃り込みみたいのもありますね。

 

腕の良い職人を紹介しますよ、カツラの。』

 

『禿げない!』

 

 

さっきまでの緊張感は何処かに行って、恋人同士のじゃれ合いの様な展開に八雲は呆れていた。

二人共、神経はかなり図太いな・・・。

 

そうこうしている内に、雲鷹らを乗せた車は最寄りの四宮家傘下の病院に滑り込み、応急措置を済ませた後に田沼正造の居る病院に向かった。

 

その頃、雁庵は藤原が贔屓にしている店に着いていた。

知らせを受けて対策を考える為にひとまずその店に入り、周辺を警護チームが固める。

店の二階の奥の個室に二人は通された。

 

 

 

『とんだ事になったな。』

 

『お前が議員の時の方がもっと物騒だったろう。

何回、襲われた?』

 

『・・・小も合わせば、二桁は行ってたな。

 

先輩方も経験者は多い。

 

・・・残念な事になった同期も居たよ。』

 

『・・・ここなら、ひとまず安全だろう。

後は、早坂が考える。』

 

『悠長だね〜。』

 

『大将が動揺したら、勝てる戦も勝てん。』

 

『まあ、な。』

 

 

運ばれてきたお茶に手を付けながら手短に注文を済ます。

食べられるものではないが何も注文しないの不自然な為、酒と当てになる物を頼み、二人は思考を巡らす。

 

 

 

『・・・狙いは、お前さん。

と、いうにはお粗末だな。』

 

『雲鷹に恨みがある者、という割には致命傷ではないのも妙だ。』

 

 

この時、撃たれた雲鷹と奈央の怪我の程度と襲撃時の状況が情報収集して遅れて入って来た正人からの二人に伝えられていた。

冷静を保っているが、自分の妻が撃たれて正人も動揺している。

 

 

 

『狙撃地点はまだ暫定の場所ですが、そこからの足取りを追わせてます。しかし、厳しいと思われます。』

 

『しくじって痕跡を残すなら、あからさまだな。

何が目的か・・・。』

 

 

何らかの手がかりでも得られればいいが、恐らく無いだろうと三人とも考えていた。

報告では車に乗る為に雲鷹が振り返った瞬間に狙撃しているが、二発目との間隔が短いのと、一発目は掠らせた程度なのに、二発目は身を挺した奈央に当てている事が奇妙だ。

 

 

 

『二人は医者に任せるとして、どうするか・・・。』

 

『このまま、予定を早めて病院に入った方が安全かと。』

 

『・・・日曜なら、出入りする人間は特定し易いか・・・。』

 

『今日一日はいいが、明日からはどうするんだい?

相手の気や事情が変われば、病院みたいに出入りの激しいところは狙われやすいぞ。』

 

『病棟の一フロアは確保しています。

各種検査の為の移動も最小ルートにしています。』

 

『それでも、掻い潜ってくるだろう。

たが、俺を狙う前に他の人間を狙うとは考えにくいな。』

 

『おまたせ致しました。』

 

 

 

話し込んでいるところに店の料理が運ばれてきた。

考え込んでも真実に辿り着けるものではないが、腹は減る。

奈央達は撃たれたが無事である事と、一足先に雁庵が検査入院予定の病院に運ばれている以上、後で話しも出来る。

それ程食べれる訳では無いが、食える時に食っておかねば襲撃に対応する事も難しくなる。

 

一先ず、雁庵達は料理に箸をつける事にした。

 

 

 

 

 

─────つづく

 

 

 

 

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