白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜 作:チャリンコ2025
───前回までのあらすじ
危うい状態に見えた四条眞妃を追った石上優は、公園で眞妃に泣かれてしまった。
───金曜日・昼休みの生徒会室
『ごめんなさい!』
『藤原も悪気があった訳じゃないんだ。
今回は不可抗力としてくれないか?』
『謝らなくていいよ。
私の方こそ、ごめんね。
ところでさ、他の曲も教えて欲しいんだけど?』
『えっ、良いですけど・・・?』
前日、バンド練習に参加した四条眞妃は藤原千花が見せた「好きになった人/都はるみ」の歌詞に目を奪われた。
歌詞の中の
「さよなら 好きになった人」
が今の自分に重なり、その部分を呪文の様に呟きながら帰ってしまった。
千花は眞妃が何故その様な状況になったのかを知っていたが為に、不用意に歌詞を見せてしまい、眞妃を傷付けてしまった事を後悔していた。
しかし、その眞妃から、更に他の曲を見せて欲しいと頼まれて困惑していた。
『いいのか?』
『ああ・・・、
あのね、私は持病というか体質というか・・・、
聴覚過敏なのよ。
大きな音とかダメなんだけど、歌を聞きたくても大きい音の音楽が多くて困ってたの。
何と言ったかしら・・・、
そう! 懐メロ!!
・・・だったかしら?』
『そうです。
「懐かしのメロディー」、略して「懐メロ」です。』
『そう、それよ。
あの後に調べたら、私にはそっちの方が最近の歌より合ってるみたいだから。
でも、詳しくないから藤原さんだったかしら?
教えて欲しいんだけど。』
『お安い御用です!』
眞妃としては気を紛らわせる事が出来れば何でもいいという心境であり、深い意味はない。
仲立ちをしていた白銀御行も、見守っていた四宮かぐや達も胸を撫で下ろす。しかし、些か不可解な事に眞妃を追い掛けて帰った石上優と、その優を追い掛けて帰った伊井野ミコは、疲れた顔を並べていた。
『ところで、石上。
それに伊井野もだが、どうしてそんなに疲れているんだ?』
『眞妃さん、あの後に何かあったんですか?』
『寄り道して、優達に買い物に付き合って貰っただけよ?』
『か、買い物というか、買い出しというか・・・。』
『す、すごい量でした・・・。』
『そっ、そんな事ないわよ。
車で帰るから、トランクに入る量に抑えたんだから。』
『な、何をそんなに買ったんだ?』
『ええっと、石鹸とかデパ地下のお惣菜とか、よ?』
指折り数えながら買った物を思い出す眞妃だが、実態としては迎えの車のトランクに入り切らないから受け取り用に別の車が来たほどで、眞妃が買って帰った量を見て弟の帝は付いて行けば良かったと頭を抱えて後悔するほどだった。
買った物で日持ちしない物は帝の胃袋に(強制的に)迎え入れられた。
眞妃曰く、
『アンタ、男でしょ。』
「都合の良い時ばっかり男扱いするなよ!」という帝の抗議は完全に無視され、カロリーの高いケーキや海鮮サラダなどを無理矢理胃袋に入れる事になった。
こんな日に限って父親の四条真琴はおらず、護衛やメイド達もそそくさと持ち場に戻るか帰宅してしまい、帝は理不尽と戦う事になったのだ。しかし、眞妃のこの行為は口止めでもあった。
公園での一件は四条家護衛達に見られているが、帝とミコにも見られてしまったという眞妃の一生の不覚と言っていい事実は、口止めをする必要を感じさせた。
優とミコは百貨店で別れた為に帝の悲劇は知らなかったが、眞妃の買い物の仕方と荷物持ちだけで疲れ果ててしまったのだ。
買い物に付き合っただけでなく、眞妃に夕食とお土産を御馳走になり、一人の夕食が常態化していたミコとしては久々の楽しい食事で、眞妃もミコの食べっぷりを気に入り、色々な料理を注文して優とミコと三人で分けて食して満喫したので、優達二人は眞妃との買い物はそこまで嫌ではなかったが、疲れたのは事実ではあった。
それ程の量を眞妃は買ってしまったのだ。
結局、その後は眞妃と千花が懐メロで盛り上がり、和やかな昼食となった。
『良かったな、藤原。』
『・・・そうですね。
でも、四条さんはまだ大丈夫じゃないと思います。』
『藤原さんもそう感じますか?』
『・・・何処か無理してるというか・・・。』
『無理もない。
先週からの事を考えると、四条には辛い事が多かったからな。』
お昼を終えて先にクラスに戻っていた眞妃の様子を見て、生徒会室を後にした御行達は案じていた。
特にかぐやは、帝や眞妃から聞いていたインド渡航の語られてない背景は、眞妃の田沼翼への絶ち難い恋心があったのだろうと合点がいって、腑に落ちてはいた。
それ故に、不安ではあった。
が、千花達が感じた眞妃の違和感は全くの別のものだった。
眞妃は優とミコが昨日の眞妃との公園での出来事を話さないか不安になって釘を差しに来たのが真相であり、千花と盛り上がったのは予期せね展開だった。
優としては眞妃からの相談も御行と受けていた経緯もあり、ミコと二人で固く話さないと眞妃と約束を交わす事になったが・・・。
眞妃が怖かったのもあったがその気持ちも理解でき、秘密を三人で共有してると無理矢理前向きに考える事にした。
平静を装ってはいるが眞妃は優を見ると公園の一件を思い出してしまい恥ずかしくなってしまう為に、その日の放課後には眞妃は生徒会室に来ず、御行達は練習に勤しみ御行のギターも大分形になっていた。
───下校を促すチャイムが鳴る
『もうこんな時間か。
さて、片付けるとしよう。』
『会長、その前にタオルをどうぞ。
かなり汗をかいてますよ。』
『ああ、ありがとう四宮。』
この時、かぐやと御行はお互い澄まして平静を装っているが、かぐやは汗をかく程に集中する御行に見惚れていた。
結婚後、互いに仕事が忙しい為に一緒に入れる時間は少なく、これ程に集中して物事に打ち込む御行をかぐやは見れなくなっていた。
御行が一生懸命に何かに打ち込む姿がかぐやは好きなのだ。
御行は御行で、かぐやから差し出されたタオルに平静を装いながら高揚していた。
タオルだけでなく、毎日になったかぐやのお昼のお弁当や今日までの数々の出来事でのかぐやとの距離が縮まっていく事は、御行の日々のモチベーションを高めていた。
試験や喧嘩の様な出来事に凹んだ事はあったが、夏休み以前までに感じていたかぐやとの緊張感や距離感は感じられなくなっていた。ただ、後一歩の「告白」には至っていないが・・・。
従って、御行は今「ギター演奏を物にする」ミッションを成功させて、そのままかぐやとの告白まで持ち込みたいと考え、文化祭本番で格好良く演奏を決めてかぐやから告白させる作戦を目論んでいた。
『ミコちゃん、ドラム凄く上手くなったね。
もうプロって言っていいぐらいだよ。』
『そんな・・・、藤原先輩恥ずかしいです。
まだまだですよ。』
『いや、伊井野は上手くなったよ。
この動画の演奏と比べても遜色ないって。』
千花とミコの会話に優も参加し、スマホでプロドラマーのソロ演奏の動画を再生する。
『いやいやいや、こんな演奏はまだ無理だって。』
『いや、伊井野ならやれるって。』
『そうだよ!
ミコちゃんなら出来るよ!!』
『そ、そうかな・・・。』
ミコは優と千花に励まされてドラム演奏に自信を持ちつつあり、そんな三人を見守りながら御行は楽しげであった。
優とミコは顔を合わせれば喧嘩が定番で、千花と優も割とやり合っている為に、やっと纏まりが出来てきたなと安堵する。
『ミコちゃんとかぐやさんは問題ないですけど、石上くん?
それに会長も、もう少しどうにからならないですか?
さっきも、二人とも音を外しましたよね?』
『あ、ああ・・・。
済まない、頑張ってるんだがなかなか・・・。』
『藤原先輩、会長はギターの練習を始めてから間もないんですから、無理言わないでください。』
『まあ、会長は仕方ないですよ、会長は。
石上くん?
君は一年以上はギターは演奏してるんですね?
なのに、なんで出来ないんですか?』
『・・・それは・・・。』
『『『・・・。』』』
また、始まった・・・。
千花は、突飛な発想と言動で周りを巻き込む為に窘める優とぶつかる事が時折あるのだが、大概は千花側に非がある為に一方的に優の口勢を受けて論破される事が常だったが、バンド演奏の練習が始まってから演奏家としては小さい頃から訓練してきた千花が圧倒的に優位に立ち、まるで小姑が嫁をイビる様にネチネチ責める場面が増えた。
『藤原、足を引っ張ってるのは俺も同じだ。
石上だけ責めるのはおかしいだろう。』
『会長がダメなのは解り切ってますから今更です。
だからこそ、石上くんには期待したのに、自分の悪い癖まで会長に教えてしまってるのが問題なんです。』
『あのぅ、会長。
藤原さんも、大事な話の途中ですけど校門閉まりますよ?』
『ああ、そうだったな。
それじゃ、週末は各自で自主練としよう。
帰るとするか。』
生徒会室から下足場への道すがら、優は千花に指摘された自分の演奏の反省点を反芻していた。
それは御行も同じで、千花に指摘された事で二人に闘志が湧く。
そんな二人の様子を見ながら、千花は安堵のため息をつく。
真面目な話、このままでは文化祭に間に合わない。
それ故の荒療治が必要だった。
『藤原さん。
何か考えがあって、ですか?』
『さあ、何の事でしょう。』
かぐやの問いに千花ははぐらかして答えるが、二人は理解し合っている。
千花が本気なら、平気で心理的トラップを多用しチクチク攻める。
実際、生徒会メンバーはかなり被害にあっている。
かぐや自身も、自分の好き勝手に物事を強引に進める千花に振り回され、その状態になった千花には何を言っても通じない事を思い知らされた苦い経験がある。
天才のかぐやをもってしても、人の心は解らないし制御が困難だと良き教訓となっている。
『ねえ、石上。
明日、一緒に練習する?』
『えっ・・・。』
下足場でミコから告げられた優は、意外な申し出に固まってしまう。
『ほ、ほら、私も練習したいけどドラムセットを使えるところなんて知らないし、学校で練習するしかないのよ。
明日のお昼までなら生徒会室は使えるし会長にも許可を貰ったから、どうかしら?
・・・石上が嫌なら、別にいいけど。』
『明日ね・・・。
解った、僕もその方が助かる。
今週と来週ぐらいしか時間取れないだろうから、明日やろう。』
『うん、じゃあ何時に集まる?』
『8時位にするか?
少し早いかな?』
『解った、じゃあ8時ね。』
二人が約束を交わしてる空間から下足箱の棚を隔てた反対側、2年生の下足場で御行達三人は棚に張り付いて優達の会話に聞き耳を立てていた。
『(こ、ここに来て、急展開じゃないですか!?)』
『(藤原さん、聞こえますよ。
落ち着いて。)』
『(そういうかぐやさんも、ガッツリ聞いてるじゃないですか!?)』
『(あの二人が仲良くなるのは悪くないが、二人っきりで練習になるとは思わなかったな。)』
『(会長、いつ許可したんですか?)』
『(昼休みの終わりにな。
明日は俺はバイトがあるから戸締りさえしてくれれば問題ないと。
こうなるとは思わなかったが。)』
『(まあまあ、後は若い二人に任せて私達は。
これ以上は野暮ですし。)』
『(藤原、何企んでる?)』
『(怪しいですよ、藤原さん?)』
『(何も企んてなんかいませんよ、何も。)』
かぐやと御行を急かす様にその場を離れようとする千花。
しかし、口元は邪悪に笑っていた。
かぐやも気にはなるが、明日は父親の四宮雁庵と母親代わりをしてくれた早坂奈央が退院する日であり、警備の関係から早く家を出なければならない。
『会長、四宮先輩、どうしたんです?』
『あ、いや、なんでもない。
伊井野、明日は頼むな。』
『はい、しっかり戸締まりは確認します。』
『会長、明日は僕も来ますから。』
『そうか、なら石上も頼むな。』
かぐやと御行は後ろ髪を引かれる思いで、ミコは自分から言い出した事ながら緊張し始め、優は自分の演奏の事で頭が一杯で気が付かず、そんな四人を見ながら千花は不敵に口の端が上がる。
そんな五人を夕焼けは染めていた。
─────夜・かぐやの寝室
『それは・・・、かなり気になる展開ですね。』
母親の早坂奈央の見舞い兼身の回りの世話から帰って来たかぐやの近侍・早坂愛は、かぐやから翌日の優達の出来事を聞いて興味津々になっていた。
年頃の娘である以上、男女の話に興味がない訳がない。
『私も本音を言えば、野暮とは思いつつもその場に居たい気持ちはあるのよね。』
『例の彼ですからね。
なかなか報われない立場でしたし、その頃に微妙な関係だった子と二人っきりですか・・・。
気になりますね。』
鎮痛な声を出しながら、目はランランとしてる愛にかぐやは苦笑せざるを得ない。
正直な話、この頃はあの二人はぶつかるのが日常の様な日々を送っており、かぐやの記憶でも文化祭中は二人っきりのシチュエーションをミコが優と積極的に組もうとするなど予想できなかった。
しかし、そうなると優は子安ツバメに恋心を現時点では懐いてはいないのだろうか?とかぐやは疑問に思う。
様々な人間模様が交錯する中、夜はふけていった。
─────つづく