白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜 作:チャリンコ2025
───前回までのあらすじ
怪我をした元四宮かぐやの乳母で近侍・早坂愛の母、早坂奈央の見舞いに訪れたかぐやは、愛の父親・早坂正人から愛の秘密を打ち明けられる。
───火曜日放課後・生徒会室上の秘密部屋
『なんで、弦を全部切っちゃうんですか!?
ピックの持ち方だって、楽器に恨みでもあるんですか!!?』
『・・・すまん。』
四宮かぐやが休みの為、生徒会室には白銀御行・藤原千花・石上優・伊井野ミコの四人しか集まらなかった。
前日の騒動から、早坂愛・四条眞妃・柏木渚・田沼翼、それにかぐやを含め五人も休みであり、御行達は心配ではあるがそれ以前に差し迫った問題、「文化祭にバンドで参加する」企画の期限が迫っていた。
本番の文化祭までにバンド演奏を形にしなければならないが、千花とミコが電子ピアノ・優がギター・御行がボーカルを担当して練習を始めたのだが、思いの外形になったので練習休憩の時に御行が試しに予備のギターを弾いてみて、冒頭の有様になったのだ。
不器用にも程があり、ギターを持つ御行の手付きは危なかっしく、おにぎり型ピックをギターの弦に対して広い面を向けて弾くのを、どういう訳か垂直に一番飛び出た部分で強く早く弾いてしまったのだ。
更に、通常はそれぐらいでは切れる筈の無い弦が、切れてしまったのだ。
しかも、予備のギターの為に新品であるにも関わらず、である。
『・・・会長にも苦手なものがあるんだな。』
『・・・あれは、苦手で済む話じゃないわよ。』
日頃の仕返しか、千花は遠慮なく御行を責め立てる様を見て、優とミコはある事を連想する。
『・・・なあ、伊井野?
何を想像してる?』
『・・・多分、アンタと同じよ。』
『『・・・会長、結婚したら相手の尻に引かれる(な・ね)。』』
相手が千花でなくても、女性の剣幕に押しまくれて沈黙してしまう御行の姿が二人には容易く想像できてしまい、優は明日は我が身と身震いし、ミコは御行の様な弱点持ちで反論してこないタイプは責め立てたら主導権が握れると学習する。
ミコにとっては、余計な教訓を得る機会となってしまった。
『・・・悪かったって。
俺が直すから。』
『弦は張り方次第で音が変わるんですから、調整が繊細なんですよ!
大体、手に力を入れ過ぎなんです!!』
『力の入れ過ぎって、こんなもんだろう?』
そう言って見せる御行のピックを持つ手は、どう見ても人を殴るぐらいの強さで握り拳を作っていた。
『だ・か・ら、そうじゃない!』
『そうじゃないって、じゃどうするだ?』
『はぁ〜・・・、いいですか?
ピックを持つ時はですね・・・。』
手取り足取りギターの持ち方からピックの持ち方、力加減など事細かく千花は御行を指導していく。
その様を見ていた優とミコは、
またまたある感想を抱いた。
『・・・なあ、伊井野。
今、何考えてる。』
『・・・多分、アンタと同じ事。』
『『・・・保育園の先生と園児みたいだ(な・ね)。』』
さっきといい、今といい、同じ事を考え綺麗にハモった事が二人には可笑しくて堪らず、二人は笑い出してしまった。
突然、優とミコが笑い出した事に御行と千花は呆気に取られ動けなくなってしまった。
『突然どうしたんだ、石上、伊井野?』
『・・・何となくだけど、嫌な想像してるでしょ、二人共?』
直感の働いた千花が不貞腐れ、訳が解らず御行はギターを持ったまま、三人の反応に困惑するばかりだった。
『会長、よかったら僕が教えましょうか?』
『すまんが頼む、石上。
楽器は「ちょっと苦手」なんだ。』
千花は、もう何回も聞いた台詞を反芻しながら、「ちょっと」なんて言えないレベルを人並みに矯正する為に御行の訓練に付き合った日々を回想しながら涙が出る思いだった。
愛が、かぐやが御行に告白するまでに付き合わされた日々を回想して涙したのと、似た心境である。しかしながら、普通な挫折して投げ出すところを最後までやり切り物にしてきた御行の「姿勢」と「努力」は見上げたものであり、その部分だけは千花は素直に尊敬に近い感情を持っている。
ピアノの練習漬けだった自分の過去を振り返り、もしも今も続けていたらこんな大変だけど楽しい日々は送ってなかったろうと思い、そのキッカケをくれた今日は休んでしまい来ていない大事な親友であるかぐやを思う。
そのかぐやが人の恋路に巻き込まれ叩かれるなど想像できず、それだけにそうまでしてかぐやに庇われた愛の存在を千花は羨ましく思い、嫉妬してしまう。
───もし、自分が同じ目に遭ったら、かぐやは庇ってくれるのだろうか?
慌てて頭を振り、千花は邪な考えと感じてしまう考えを頭から追い出す。
『会長、力入りすぎですよ。
もうちょっと力抜いて、ピックもこういう風に摘む様に持ってみてください。』
『こ、こうか?』
微笑ましい光景ともいえるのだが、ミコは唯一と言っていい友人で同じ風紀委員の大仏こばちの影響でボーイズラブ的視点に目覚めつつあり、そんなミコの視点では優が御行に教えてる姿に興奮を覚える自分に困惑していた。
そういえば、優は大友京子の一件で友達どころか喋り相手もおらず、ミコの知る限りは学校での人間関係は生徒会のメンバー以外は接点がない。
当の優は周りと接点がない訳ではなく、体育祭の応援団繋がりで子安つばめや小野寺麗、団長で優を気にかけてる風野や風紀絡みでこばちともミコの知らないところで交流している。
ミコと居ると喧嘩の様な言い合いに毎回展開する為、ミコは優の学校での人間関係が好転しつつある事に気が付かないだけなのだ。
因みに、優とミコ以外は夫婦喧嘩は何とやらで、二人とも仲が良いなと周りには勝手に思われている。
当人達にはその意識はない。
優を取り巻く環境は体育祭で大友京子から声援を受けた事で、変わりつつあった・・・。
その時、御行達のスマホが一斉に通知音を鳴らした。
千花がスマホを起動すると、かぐやからのラインメッセージを知らせる音だった。
『かぐやさんからです!
怪我をしたご家族のお見舞いのかえりで、明日は学校に来れるそうです!!』
『ああ、俺にも同じ内容で入って。
グループの方に入れたんだな。』
『僕にも来てます。』
『私もです、良かった・・・。』
『・・・。』
グループへのメッセージの為に、生徒会メンバー全員に同じメッセージになる事が御行には少し落胆だったが、連絡が来た事は嬉しかった。
以前からかぐやとのラインを増やしたいと考えていたが、昨日の一件を足掛かりに増やす画策をしてはいたが、いざ送ろうとすると文面で悩みアレコレ理由を考えて結局送れず、意を決して送ったら返事が遅かったり事務的な内容だったりと、御行の妄想通りには発展してなかったのだ。
『四宮の事はとりあえず一安心だが、家族の方が怪我というのが気になるな。
入院する程なら、余程の怪我か?』
『まあ、誰が入院したかで変わってきますけどね。
怪我と思ってたら嬉しい事がおきた、とか。』
『ああ、それは嬉しいですね。』
『僕もそう思います。
そうなったら、これから大変ですけどね。』
『・・・何の話だ?』
千花は暗にかぐやの家族の誰かが妊娠したかも知れないと話し、ミコと優は理解して話に乗ったのだが、御行はそこを理解できてない。
嫌な事を考えるより明るい話題の方がいい、という千花なりの気配りではあった。
『さてと、なら練習をして明日四宮が来たら一曲弾いて驚かせてやるか。』
『・・・会長、流石にそれは無茶が過ぎます・・・。』
『まだ、一音も出せてないじゃないですか・・・。』
『・・・人に聴いて貰える演奏をするって、そんな簡単じゃないですよ・・・。』
『・・・ダメなの?・・・。』
『仕方ないですね。
一節ぐらいは弾ける様になって貰いますよ。』
そういうと、千花は「オニ」と書かれた白鉢巻を取り出し自分の頭に縛る。
対御行用に常備する様になった千花の特訓のお供だ。
『さあ、ビシバシいきますよ!』
『お、お手柔らかに・・・。』
千花と御行のやり取りを見ながら、優とミコは思う。
「やっぱり、尻に引かれるな会長。」
と。
そう思いクスクス笑いながら千花と御行の練習の輪に優とミコも加わる。
───泉岳寺別邸
遅い昼食を取ったかぐやと愛は、雲鷹と真琴がそれぞれの護衛達を率いて引き上げたのを確認して、改めて早坂奈央の見舞いをしてかぐやは愛や奈央達の献身に謝意を示す共に、今回の奈央の怪我の経緯を尋ねる。
雲鷹と奈央が狙撃で負傷した事、狙われた可能性は直前に居たかぐやの父親の四宮雁庵や、藤原千花の曾祖父に当たる藤原元総理もあり得た事、その為に事件解決の目処が付くまでは身辺警護を固める事を奈央から伝えられた。
事が事だけに深刻な顔になってしまったかぐやと愛だが、奈央と話す内にほぐれていった。
そこは、一時期でも母娘の様に生活していた感覚が戻り、かぐやと愛は緊張を解せたが、帰りの車の中は二人とも物思いにふけていた。
夕食後、今後の事で愛とかぐやはかぐやの寝室で話し合っていた。
『窮屈とは思いますが、暫くは外出は学校のみにしてください。』
『殆ど出かける用件もないから大丈夫よ。』
『・・・しかし、雲鷹様を狙うなんて・・・。
四宮家に弓引くなんて相当な相手ですよ。』
『・・・実行犯はどうとでも用意できるけど、その足取りが掴めないならかなりの規模の相手でしょうね。』
『はい。
既に2日経ってるにも関わらず、手がかりは見つかってないそうです。
・・・申し訳ありません。
そんな状況でお側を離れないといけなくなってしまって。』
『大丈夫よ。
奈央さんが退院するまでだから、土曜日まででしょ?
こんな時なのだから、付いていてあげて。
本当は、私も行きたいのだけど、その分を愛にお願いするわ。
・・・でも、あのお兄様から依頼という形で話が来るとは思わなかったけど。』
『そこは、私も意外でした。』
かぐやと愛がそういうのは、奈央の看病に愛が短時間だが付く事が決まり、それを雲鷹からかぐやに「依頼」という形で頼まれた事だ。
いくら家族といっても愛はかぐやの近侍であり、母親の看病よりかぐやの身の回りの世話や護衛が優先される。
為に、度々奈央の元に通う事は難しい。
それを「依頼」という形にする事で、通える事になった。
その為、今週は愛は学校を早退しなければならなくなったが。
帰ったと思った雲鷹が後から病室に現れて、かぐやに頼んだのである。
狐に摘まれる感覚というか、かぐやは四宮かぐやとしても白銀かぐやと雲鷹から「頼まれた」のは初めてだった。
雲鷹は色々理由を付けてはいたが彼なりの気遣いと思えた為に、悪戯心というかこの後に及んで体裁を張る兄に苛立ちを覚えたかぐやは、
『私は、そんなお兄様が大好きです。』
と声域を上げて態とらしく言った為に、雲鷹は少し頬を赤くして顔を背けて黙ってしまった。
その姿を、かぐやの意図を察した奈央はニヤニヤしながら眺め、愛はそんなかぐやに困惑する。
雲鷹には初対面で「小鼠」と言われた記憶があり、所詮はクソジジイの息子だと毛嫌いしていたが、案外可愛ところがあるなと思う。
それに、先週末は雁庵が関東に来てる為に両親とは会えないと思っていたのが、おかしな形になったが会う時間が生まれた。
週末に会う事が常態化していたので、会えない事に落胆していた自分自身に愛は情けなさを覚えていたが、やっと両親に甘えられる環境が出来た事は愛には掛け替えのないものだった。
自分に関わる事柄と両親の深い愛情を感じ、「密告」などその後の課せられた職務などは過酷で、同年代の少女達の様に青春を謳歌したかった本心はあるが、今はこれでいいと思える様になった。
そんな事を考えていると、かぐやから現実に呼び戻された。
『愛、藤原さんが心配してたわよ。』
『・・・ああ、そうですね。』
『・・・変な事、言われた?』
『・・・ちょっとありまして。』
愛がそういう反応をするのは、どうも千花が奈央の入院を勘違いしてる様で、千花からのライン(御行の誕生日パーティーで強引にライン交換させられた)が妙な言い回りになっていて、取り様に寄っては愛が妊娠してかぐやが付き添って病院に行ったのを家族のお見舞いと言い訳して学校を休んだと言わんばかりの内容に、軽くキレていた。
その根拠ゼロの想像力は何処から
出てくるんだと問い詰めたいが、親身に心配してくれてる事が解るだけに怒るに怒れない不完全燃焼に愛は陥っていた。
そんな千花と親密なかぐやには、正直尊敬の念を抱いてしまう愛だった。
─────つづく