白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜 作:チャリンコ2025
週明け、事件が起きた。
体育祭の準備が忙しくなった生徒会は四宮かぐやも参加して手伝っていたら、会長の白銀御行が戻って来ないのだ。
『「体育倉庫」に備品の確認に行かれた筈なんですが?』
正式に生徒会に参加した伊井野ミコから、かぐやはそう告げられる。
今回、かぐやは手伝いで他の事の確認をしており、「あの時」の様に体育倉庫に白銀御行と二人で備品の確認には向かわなかった。
『心配だから見に行ってくるわ。』
『私も行きます、四宮先輩。』
二人で件の体育倉庫に行き重い引き戸を開けると、泣いてる四条眞妃と眞妃の肩を抱いてる白銀御行が居た。
固まる三人と、泣き続ける眞妃。
『なっ、な、何してるですか!?』
伊井野ミコの絶叫で金縛りが解ける白銀御行と四宮かぐや。
四条眞妃も伊井野の声に反応して顔を上げるが涙でグチャグチャなっている。
すかさず倉庫内に入り、伊井野ミコは白銀御行と四条眞妃の間に自身の身体を入れて二人を引き離す。
どう見ても白銀御行が四条眞妃に良からぬ事をして、眞妃が泣いてる様にしか見えない。
白銀御行が伊井野ミコに何か言っているが、かぐやの耳は声を伝える役割を放棄した様に何も聞こえない。
四宮かぐやは見ている光景を信じたくなかった。
両手で口を押さえたが、同時に涙が流れ始める。
見たくない現実を見ない為に、想い人に泣いてるところを見られない為に、かぐやは外に走り出した。
『四宮!』
体育倉庫から離れていく四宮かぐやを視界に捉えた白銀御行は、一瞬躊躇ったがかぐやを追い掛ける選択をする。
背中越しに伊井野ミコに訴える。
『後で説明するから、四条を頼む!』
足の速いかぐやを見失わない為に御行は全力で追い掛ける。
直ぐにかぐやの歩みは近くの校舎裏の人気のない区画で止まった。
暴れる心臓を落ち着かせ、努めて冷静にゆっくりとかぐやに近付く。
『四宮、こっちを見れるか?』
かぐやが頭を左右に振るのを確認して歩みを止める。
『さっきの事、話させてくれないか?』
続けて声を掛けるが、かぐやの肩が震えてるのが見て取れる。
『そっちに、行く。』
ゆっくりとかぐやに近付く。
大きな声で話し掛けて誰かに聞かれては困る為に、出来れば間近に近付きたい。
『何を、してたんですか?』
二人の距離は御行が腕を伸ばせばかぐやに届くほどに近付いた。
その刹那に、かぐやから御行は問い掛けを受ける。
震える声はかぐやが抑揚を失わない様にしてる反動に感じれて、御行の心が痛む。
『備品の確認で体育倉庫のドアを開けたら、四条が中で一人で泣いてたんだ。
見なかった事にしてドアを閉め直そうとしたら、四条に呼び止められて・・・。』
『・・・違うのでは、ありませんか?
眞妃さんと、
・・・そういう事を、男女の事を・・・。
だから、二人で。
眞妃さんが泣いていたのは、そういう事では・・・。』
ゆっくりと、確認する様に言葉を紡ぐ。
少し落ち着いてきたかぐやは意を決して白銀御行に体を向けるが、かぐやが目にしたのは意外な御行の姿だった。
呆然と立ち尽くした白銀御行は涙を流していた。
思わず息を呑むかぐや。
初めて、ハッキリと御行が泣くところを見たのだ。
涙ぐんだり軽く泣くところは見た事はあるが、ここまでハッキリ泣いてる御行を見た事がかぐやは無かった。
当の御行はかぐやに疑われた事がショックだった。
そして、座り込んで泣き出してしまった。
完全に立場が逆転してへたり込んで涙が止まらない御行と、両膝をついて必死に謝り慰めるかぐや。
かつて、藤原千花が白銀御行を評した「ダメな子供の躾をしてる気分」と言わしめた事を、かぐやは今体験してる。
『ごめんなさい、言い過ぎました。
けれど、あの状況では。』
『こんな状況で信じてくれとは言えないが・・・。
だが、虫がいいと言われるだろうが、俺は四宮に誤解される様な事を四条としてない!
信じてくれ!!』
副会長職辞退でかぐやへの気持ちが鬱積していた御行は、感情が止められなくなっていた。
───10分後
泣き止んだ御行とすっかり毒気を抜かれたかぐやは、お互いに謝り合っていた。
───更に、10分後
座り込んでいた二人は互いに謝罪が終わり立ち上がり、自分達がギャラリーに包囲されてる事にやっと気が付いた。
早坂愛が両手で顔を隠してる。
龍珠桃や小島がニヤニヤしながらこっちを見てる。
マスメディア部の二人が号外を刷るのに駆け出していく。
テーブルゲーム部の二人や藤原千花と伊井野ミコと四条眞妃が真っ赤な顔をしてる。
何故か高等部校長までスマホ片手に居る。
かぐやと御行の顔が引きつり歪む。
『み、見せもんじゃねぇ!』
咄嗟にかぐやを抱く様に庇いギャラリーに背を向けた御行は、龍珠桃が追い討ちをかける。
『まあまあ、お熱い事で。』
途端に激しい羞恥心に襲われたかぐやと御行は耳の先まで真っ赤になる。
『雨降って地固まる。
それで良いじゃねえか。
なぁあ、龍珠?』
言ってる事はまともだが完全に茶化してる発言を小島がして、龍珠と二人で笑い出して連れ立って場を後にする。
『おお、新しい出会いデス。
では皆さん、しーゆー!』
スマホ片手に校長も場を後にする。
恥ずかしさと咄嗟に庇って抱き合う体勢になった為、至近距離に互いに相手の真っ赤な顔がある分、余計羞恥心を刺激する。
『『ここからどうしたらいいんだろう・・・。』』
二人でモジモジしてると四条眞妃が爆弾を投げる。
『かぐや、早くしないとあの子達、号外刷っちゃうわよ。』
『『へっ!?』』
マスメディア部の二人を止める為、慌てて駆け出すかぐや。
『会長、後で!』
かぐやの視界に楽しそうに手を振る四条眞妃が映る。
「貴女のせいでしょ!」と言いたかったが、今は号外を止める事が先と加速する。
早坂愛もかぐやを追いかけて行く。
かぐやに置いていかれた白銀御行に四条眞妃が追加の爆弾を投じる。
『じゃあ、「御行」。
そういう事で後はお願い。
私も「スッキリ」したから帰るは。
色々「ありがとう」。』
『四条、その言い方はわざとだろう?
恩知らず!』
『さあ〜ね〜。』
「だって、ムカつくのよ。」とは言わずに、手をヒラヒラさせて去っていく四条眞妃と入れ替わりに、藤原千花と伊井野ミコは詰問する気満々で御行ににじり寄ってくる。
テーブルゲーム部の二人は興味津々で御行の退路を断つ。
万事休すかと諦めた御行は、ここで話すのは不味いからと四人を伴って生徒会室に戻る。
藤原千花に人数分のコーヒーを淹れて貰いながら、四宮かぐやが戻ってくるだろうから話は少し待ってくれと、話を急かす四人を持たせる。
少しして号外を差し止めた四宮かぐやが、疲れた様子で早坂愛と生徒会室に戻ってくる。
揃ったところで白銀御行は話を始める。
『詳しい話は四条に許可を取ってないから話せないから、俺の見た事を話す。
詳しくは、後で四条に聞いてくれ。』
六人に話して聞かせた白銀御行の話は、体育倉庫に備品の確認に行くと何故か引き戸の鍵が開いていて(壊れてた)、中から物音の様な話し声の様な物が聞こえてきたので、意を決して引き戸を開けると、四条眞妃がマットに突っ伏して泣いていたと。
何故泣いていたかの理由は本人に聞いて欲しい(意趣返し)と前置きした上で、見なかった事にしてドアを閉め様としたら呼び止められて相談に乗っていたら酷く泣き出して、慰めていたと。
この説明を聞いて、四条眞妃を知ってる四宮かぐやと早坂愛は納得する。
許可なしでは話せない泣いていた理由も、田沼翼絡みでしょうねとかぐやは理解する。
かぐやは「既に」知ってるが、早坂愛は「まだ」知らない。
が、校内で時折見かける四条眞妃は田沼翼と柏木渚を見つめて半泣きの暗い顔をしていたから、そういう事なんだろうとは理解した。
『それにしても人騒がせな四条さんですけど、それが原因で会長とかぐやさんが何故謝り合ってたんですか?
私はそこが謎なんですけど?
正直、四条さんの話はどうでもいいんです。
会長はヘタレだから女の子に何か出来る度胸無いの知ってますから。』
『・・・お前はそういう風に俺を見てたのか、藤原書記?』
なかなかに辛辣な発言の藤原千花。
そこまで言っちゃうのと軽く引く伊井野ミコ以下三人。
本当の事だけどそこまで言わなくいいじゃないのと思う、かぐやと愛。
『ヘタレと言いましたけど、どんな状況でも会長なら一線を越えない節度があるという意味ですよ?』
そう言われると少し気分の良くなる白銀御行。
内心、チョロいと思ってる藤原千花。
なかなか腹黒い笑顔を千花は見せる。
『謝ったのは、色々と四宮には負担を掛けていたなと思ってな。
知っての通り、生徒会は仕事が多い。
やはり、俺がどれだけ頑張っても手が回りきらない。
今日の事で痛感した。』
『そんな事ありません!』
白銀御行の前に座っていたかぐやが御行の考えを否定する。
『会長がどれだけの仕事量を抱えてるか、それを一人で抱えて私達に回さない様にしてきたか、私は知ってます。
私はそれが歯痒くて・・・。』
それを知りながら、自分の勝手な感情で副会長を固辞していた自分が腹ただしい。
今日も私が一緒に行ってればこんな騒動にならなかったのに、とも。
刹那、破裂音の突然の大きな音に全員が驚く。
音を起こしたのはかぐやの横に座っていた藤原千花だった。
『怒りますよ、二人とも。
俺が私がって、貴方達二人は何時からそんなに偉くなったんですか?』
藤原千花の言ってる事を、四宮かぐやも白銀御行も伊井野ミコも理解できなかった。
テーブルゲーム部の二人と早坂愛はなんとなく理解できたが。
『人間一人が出来る事は知れてます。
だから「仲間」が必要なんでしょ?
会長もかぐやさんも俺が私がって言い合ってますけど、それは相手を信頼してないの一緒じゃないんですか?』
かぐやと御行の二人に衝撃が走る。
「「藤原(さん、書記)がまともな事を言ってる!!」」
普段を知らない伊井野ミコは藤原千花を尊敬してるだけに感動してるが、テーブルゲーム部の二人と早坂愛はヤレヤレという顔をしてる。
『わかった、俺が自惚れていた。
よし、それなら藤原書記には・・・。』
そういうと白銀御行がソファから立ち上がり生徒会長席の書類を少し仕分けして、分けた書類の束を掴んで振り向き直した時には四宮かぐやと早坂愛しか居らず、藤原千花以下四人はそそくさと生徒会室から出ていた。
かぐやと愛は呆れ果ててた。
直前に言ってた事は何だったんだと思うのと、藤原千花以外の三人の素早さにも呆れる。
『ふ、ふっ、藤原書記!?!?!?』
白銀御行の絶叫が室内にこだまする中、かぐやと愛はヤレヤレと諦めた。
白銀御行より付き合いが長い二人は藤原(さん、書記ちゃん)はこういうキャラだと諦めてる。
『お兄、どうしたの?』
白銀御行の絶叫を聞きながら御行の妹で中等部の白銀圭が扉を開ける。
『あ、ああっ、圭ちゃんか。
イヤ、何でもない。
それより珍しいな、どうした?』
『イヤ、お兄に用事があったんだけど、お兄達にお客さんだよ。
元ここの生徒さんらしいけど、会いたい人が居るんだって。
立ち入り許可は校長先生から貰ってるって。
どうぞ、こちらが高等部の生徒会室です。』
『失礼します。』
白銀圭に促され生徒会室に入室してきたのは、他校の制服を着たポニーテールの女子生徒だった。
女子生徒を見たかぐやは席から立ち上がり硬直する。
御行も驚きを隠せない。
二人は「彼女」を知っていたからだ。
『初めまして、白銀生徒会長。
中等部までここの生徒でした、「大友京子」です。』