白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜 作:チャリンコ2025
─────前回までのあらすじ
バンド演奏の練習を約束した石上優と伊井野ミコは、優に野暮用が出来た為に遅刻し喧嘩になりかけた。
───土曜日、昼下がり
『はぁ〜〜〜、食べたねぇ。』
『美味しかったです、藤原先輩!』
『・・・。』
ランニングコース近くにいいラーメン屋があると藤原千花に誘われた石上優と伊井野ミコは、千花が勧めたとはいえ男の優が呆れるほどの量の「超大盛りチャーシュー麺+チャーシュー」を千花とミコの二人は平らげたのだ。
満足してるのは解るが、先を歩く二人を後ろからよく見ると、二人のシルエットがある部分で独楽の様に大きくなっている。
強いて指摘する必要はないが、男の優の前で女子二人があれ程の食べっぷりを見せていいのだろうと思うが、そういえばミコが生徒会に入ってからお昼は必ずと言える程にミコは生徒会室に来て、かぐやの差し入れを平らげていたなと思い当たる。
皆には内緒にしてるが、ミコがあまりに食べる為にかぐやはミコの為に専用の弁当を用意するほどだった。
炒飯対決で御行に食べて貰う為に用意した牡蠣炒飯を、試食を理由に全部食べられてから、かぐやはミコの胃袋を警戒している。
ミコの食べっぷりは見ていて気持ちいい為に、最近は優は世話を焼いてしまいヘルスメーターを避ける生活をミコは送る様になっていたが・・・。
優は、危ない方向に目覚めようとしていた。
─────同時刻、田沼医師の病院
早坂奈央の退院手続き等は昼前に済んでいて病室を引き払っていたが、時間が時間だからと昼も済ませる事になった。
意外に提案したのは四宮雲鷹だった。
彼は彼なりに今回の奈央の負傷を気にしている。
食後のコーヒーに移った時に、奈央が娘の早坂愛に付き添われてトイレに行ってる間に雲鷹からもう一つの提案がなされた。
『かぐや、しばらく別邸に早坂を置けないか?』
『構いませんけど・・・?』
『お前も解ってるだろ。
今一人にすると早坂はどんな無茶をするか分からん。
片腕に支障があるから生活も不便そうだ。』
『宜しいのでしょうか?』
『あそこの主はお前だ。
お前が決めていい。』
『解りました、奈央さんにはうちに来て貰います。』
『それとな、気がかりな事があるんだが・・・。
今回の事で大兄貴達が何も言ってこない。』
そういうと、雲鷹は自分の右肩に左手を乗せる。
『・・・何も言ってこないのは不思議ですね。』
『何か考えてる。
警戒しておけ。』
『すいません、遅くなりました。』
『いや、ちょうど良い。
今、かぐやと話をしていたんだが、早坂は怪我が良くなるまで泉岳寺に居ろ。』
『・・・どういう事でしょうか?』
『客として滞在しとけ。
かぐやの周りを固めておく必要があるから、しばらくは他の来客は断る。』
『宜しいので?』
『その方が何かと都合が良いだろう。』
『承りました。』
『では、行くか。』
そういうと、かぐや達を先導して雲鷹は病院のレストランを後にする。
自分のリムジンにかぐや達を乗せ泉岳寺に向かう道中、誰も言葉を交わさない。
雲鷹と奈央は話す事がないのだが、かぐやと愛は少し違う。
自分達の生活態度やらを奈央に指摘されないか、段々と不安になっていた。
特に愛は、職場に母親がいる状態に気が気でない。
落ち度なく勤め上げてきたつもりだが、先輩であり母親の目から見れば完全に問題がない訳ではない為、不安なのだ。
奇妙な重い空気の中、リムジンは泉岳寺別邸に到着する。
『かぐや様、部屋の用意などもあります為、先に失礼致します。』
車が止まり後部ドアの側に座っていた愛は言うが早いか、ドアが開けられた瞬間に弾ける様に車を後にする。
『(逃げられた・・・。)』
形式上とはいえ泉岳寺別邸の主はかぐやである以上、客としての奈央の案内はかぐやがしなければいけない。
二人の様子を見ていた奈央は片眉が上がり、雲鷹は口の端が上がってる。
それを見たかぐやは悟る。
───二人とも、私達の反応を楽しんでる。
もはや諦めの境地で観念したかぐやは、奈央をエスコートして車を降りる。
『じゃあ、かぐや。
早坂を頼むぞ。
お前自身も注意しとけ、いいな。』
『お兄様はお寄りにならないのですか?』
『生憎と色々あってな。
早坂、たっぷり休んどけ。』
そういうと、雲鷹は車を出させる。
遠ざかるリムジンを見送るとかぐやは奈央に向き直る。
『改めまして、奈央さん。
お兄様を守って頂いてありがとうございます。
泉岳寺にようこそ、ゆっくりしてくださいね。』
『もったいないお言葉です。
ご当主様からもお言葉を頂きましたが、本来は私共の不手際で雲鷹様にあの様な思いをさせてしまいました。
叱責や非難をされども、感謝をして頂けるほどの働きをしてはおりません。』
『とんでもないです。
あのお兄様があれ程柔らかいなったのは、奈央さんのおかげです。』
『ありがたいお話です。
ですが、そうであるならば、それはかぐや様のお力のなされた事です。』
『私の・・・、力?』
『お気付きではないでしょうが、つい半年前までは考えられない程の変化を起こしているのは、かぐや様です。』
『奈央さんにそう言って貰えるのは嬉しいです・・・。
ごめんなさい、こんなところで長話なんて・・・。
ご案内しますね。
よかったら、お茶でもいかがですか?』
『ええ、頂きます。』
『さあ、参りましょう。』
そういうと、改めてかぐやは奈央をエスコートして別邸内に案内する。
───月曜日早朝、泉岳寺別邸
『それでは、奈央さん。
行ってきます。』
『行ってらっしゃいませ。』
土曜日より滞在してる早坂奈央に見送られながら、四宮かぐやは奈央の娘の早坂愛と送迎の車に乗り込む。
車が走り出し別邸が見えなくなった頃合いで、愛とかぐやは思いっきり脱力していた。
それは運転手も同じで、奈央は何も言わないのだが神出鬼没で気が付いたらあちらこちらに居るので、別邸一同気が抜けなくなったのだ。
『さすが、ママです。』
『奈央さんが凄腕なのは良く解ったわ。
お兄様が信頼する訳ね。』
当面は学校が息抜きになりそうと二人とも考えていた。
それ程に奈央は熟練していて、愛ぐらいでは接近を察知できないのだ。
愛は己の未熟さを痛感させられていた。
そんな愛の仕事ぶりを奈央は及第点と評価しながら、しばらく見ない内に逞しく成長してくれた我が娘に内心込み上げるものがある。
別邸内のあちらこちらを散策するのは警備体制や使用人達をチェックする意味もあるのだが、こっそり影から娘の仕事ぶりを見てみたいという親心もあった。
最も奈央は、かぐやの早朝からの朝ご飯作りには驚かされてはいたが。
夫の早坂正人から話には聞いていたが、本当にここまでやるのかは半信半疑だったのだ。
ついで、文化祭での出し物でバンド演奏をするとの事で、かぐやが練習しているギター演奏にも驚かされた。
当初は三味線を楽曲に合わせて演奏するつもりが、芸達者で飲み込みの早いかぐやをもってしても三味線と楽曲の音域の違いはいかんともしがたく、ギターを練習していた。
その演奏は練習を始めて半月程度とは思えぬ技量に、
「さすが、かぐや様!」
と内心熱くなっていた。
奈央もロック系の楽曲は好みなのだ。
そんな新鮮な驚きを味わいながら、奈央達の週末は過ぎていった。
─────つづく