白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜 作:チャリンコ2025
『初めまして、生徒会長の白銀御行と言います。』
『副会長の四宮かぐやです。』
『三月まで中等部でした、大友京子です。』
生徒会室の奥側のソファに白銀御行と四宮かぐやが座り、対面のソファに大友京子と案内してきた関係で白銀圭が座る。
早坂愛はかぐやの横に座る事になった。
愛は関係者ではないから退室しようとしたが、かぐやに残ってくれる様に頼まれたのだ。
かぐやの発言に一瞬だけ白銀御行が驚いた表情をしたが、直ぐに表情を引き締めたが気のせいか安堵した表情になったのを、妹の白銀圭は見逃さなかった。
兄達にお節介焼かなくても良いみたいで胸を撫でおろす。
寝室は同じ部屋を仕切っただけなので、お兄が沈むとこっちまで引っ張られるからイヤだからと訪ねてきたけど、無駄足で良かったと圭は思ってる。
『それで、大友さん。
今日はどの様なご用件で。』
『はい。・・・実は、石上優さんにお会いしたくて、伺いました。』
畏まっているだけかと思ったがそれだけではないなと白銀御行は思う。
石上優と大友京子の間にはある問題が起きていて、それが為に石上は半強制的に引きこもりになっていた時期がある。
その石上優を引きこもりから連れ出し生徒会会計に任命したのは、白銀御行だった。
最も、石上優の「事件」を見つけてきたのは横に座る四宮かぐやだったが。
しかし、会わせて欲しいと言われてもどうしたものかと考える。
件の石上優は、体育祭の紅組応援団の練習に行っている。
最近はそのまま帰るから、今日は生徒会には顔を出さないはずだ。
それに、やはり本人に聞かないと、と考える。
『何分急なお話なので、本人に聞いてみないと即答という訳には参りませんが、お会いになりたいという理由は差し支えなければお教え頂けますか?』
白銀御行が応対している間、四宮かぐやは大友京子を観察している。
今年の年明け早々に調べた時は闊達な女の子と聞いていたが、今目の前に居る大友京子は落ち着かない様子で表情も暗く、別人に感じる。
剣道部部長の小島から聞いた通り、元恋人の萩野に襲われ怪我をしたというのは事実の様だが、何が起きたのかは同じ女として想像したくもない。
───もし、私が襲われたら?
おぞましい仮定が現実になれば、私はどうなってしまうのかと考えてしまう。
───御行さんには知られたくない───
かぐやは自身の両腕を掴む手に力が入ってしまう。
『実は・・・、私と石上くんの中等部の時の「事件」は知ってますか?』
『・・・ある程度は、知っています。』
事が事だけに白銀御行の受け答えも慎重になる。
躊躇いがちに俯きながら話していた大友京子は、意を決したのか顔を上げて自身に起きた事を話し出す。
『中等部の時、演劇部部長の萩野と一時期付き合っていました。
その時に、石上君が萩野を殴る事件が起きました。
私も含めて、突然の出来事に萩野の言い分を信じてしまい石上君は停学処分になりました。
その直ぐ後に、私は萩野から振れました。』
『私は石上君を恨みました。
酷い言葉も言いました。
周りの皆も・・・、石上君に味方してたのは風紀委員長の伊井野さんぐらいでした。
職員室で先生達に横暴だと抗議してるのを、何度か見掛けました。』
『正直、私には理解できませんでした。
萩野に暴力を一方的に振るい、謝罪もしないで私に「解るだろう」って。
そんな石上君を庇う伊井野さんの気持ちが、私はその時は解らなかった・・・。』
次第に大友京子の姿勢が俯き出す。
『私は、進級試験に落ちて他の高校に進学したんですが、新しいクラスで酷く暗い子が居たんです。
何故か気になって、何度か話しかけてやっと話してくれる様になってくれて。
夏休み前に、その子が打ち明けてくれたんです。
秀知院の中等部に通ってた時に、萩野に騙されて酷い目に遭わされて萩野から逃げる為に秀知院を辞めたと。』
『その子は元々は明るい子で、確かに一年の時に居た事を私も覚えてました。
夏休み前に引っ越しで転校したと聞いてましたが、クラスも違い友達でもなかったので忘れていたんです。』
『私はショックで萩野を庇ってしまったんです。
「彼はそんな人じゃない。」と。』
『その時のその子の顔が、あの事件の時の石上君の顔に似てたんです。
誰にも解って貰えなくて、それでも訴えてくる石上君の顔に。』
『直ぐに、その子は学校に来なくなりました。
それで、夏休みに入って家族旅行に行って、旅先で偶然萩野に会ってしまったんです。
私は連絡先を交換して、その晩に泊まり先の近くで会う事になったんです。』
『会いに行ったら、萩野以外の知らない人達も一緒に居て、私は襲われたんです。
・・・あの子や石上君が言ってた事が真実だったんです。』
生徒会室に重い沈黙が下りる。
誰も、なんと言っていいか解らない。
女性陣は青ざめ、白銀御行は四宮かぐやがそんな目に遭わされたらと想像して両手の握り拳に血が滲む。
刹那、青褪めてはいるが目には強い意志が宿ってる四宮かぐやの右手が白銀御行の左手を包む。
『それから、私はあの子に謝りに行きました。
私が間違っていた、と。
最初は相手にされませんでしたが、段々と話を聞いてくれる様になって、最近許して貰えたんです。』
『それで、身勝手ですが、石上君にも謝りたくて、今日来たんです。』
『お前が謝る必要ないだろう、大友。』
急に開けられた扉から件の石上優が生徒会室に入ってくる。
『藤原先輩に呼ばれて、途中から聞いてた。』
大友京子の真横に石上優は立つ。
『僕は、僕に優しくしてくれた君が萩野と幸せになるなら祝福したいと思ってた。けど、アイツはそんな奴じゃなかった!』
『だから、辞めさせ様としたらアイツは「君を好きにさせてる」と最低な事を言い出して、君をめちゃくちゃにされたくなかった黙ってろとまで脅してきた、最低野郎だ!』
『それなのに・・・。
君が傷付かなければいいと思って、僕は、僕は!』
『こんな事になるなら、あの時に・・・。』
最後は弱々しい声になる。
血の滲んだ石上優の右手の握り拳が激しく動く。
大友京子は自身の白いハンカチを取り出すと、立ち上がって石上優の右手を解き巻き付ける。
直ぐ様、ハンカチは血の色に染まっていく。
石上優の心情を表す様に。
『石上君、ありがとう。
こんなに思ってくれる人が身近に居たのに、私は気が付かないで・・・。
馬鹿だよね、私は。』
泣きながら石上優に身を預ける大友京子を、石上優は優しく抱きしめる。
扉の外には心配そうに二人を見つめる藤原千花と副応援団長の子安つばめ、扉に隠れて話だけは聞いてる伊井野ミコと大仏こばちが、二人を見守っていた。
─────
『今日は色々あり過ぎだな。』
『全くですよ。』
生徒会室の片付けをしながら、白銀御行と四宮かぐやは今日の出来事を振り返っていた。
あの後、校門まで大友京子を石上優は見送りに行き、白銀御行と四宮かぐやを生徒会室に残して他の者は帰途についた。
『なあ、四宮?
さっきの大友京子の話だが・・・。
俺は、自分を抑えられなくなるだろう。』
カップ類を棚に直しながら、四宮かぐやは答える。
『そんな「もしも」は聞きたくありません。
・・・でも、私はそうなったら居なくなります。』
『えっ!?』
驚く白銀御行を残してドアに向かう四宮かぐや。
このままかぐやが居なくなりそうな恐怖に襲われた御行は、慌てて彼女を連れ戻そうと動き出した刹那、かぐやが振り向いて口に人差し指を立てる。
怪訝な顔になる白銀御行はドアを注視する。
わずかに振動してる様に見える。
静かに近付き勢い良く開けたドアの位置に張り付いて聞き耳を立てていた藤原千花・伊井野ミコ・白銀圭が視界に入る。
『何してるんですか、三人共?』
極めて低い温度のかぐやの冷たい声に、三人は愛想笑いを浮かべながら後ずさる。
少し離れた所にはヤレヤレといった顔の、四条眞妃・早坂愛・大仏こばち・龍珠桃が自分達は関係ないといった顔で立っているが、かぐやの鋭い視線が四人を撫でる。
かぐやの後からは怒りの炎を纏った御行が近付いて来るのが見えた。
戦術的撤退を選んだ七人は、キャアキャア言いながら蜘蛛の子を散らす様に逃げ去った。
『・・・今日は、もう帰ろう。』
『・・そうですね、かなり疲れましたから。
ああ、そうそう。 会長?』
『どうした、四宮。』
居住まいを正して御行に向き直るかぐや。
『副会長職、拝命いたします。
よろしくお願い致します。』
そういうと、かぐやは深々と頭を下げる。
それに合わせて御行も居住まいを正して頭を下げる。
『こちらこそ、よろしくお願いします。』
挨拶も終わり、二人同時に頭を上げて顔を見合わせた二人はなんだか可笑しくなって笑い合った。
和やかな空気のまま二人で帰途につくと、校門横に座り込んでる石上優が居た。
心配で付き添っていた子安つばめが慰めてる様だった。
聞けば格好付けて大友京子を見送ったは良いが、実は萩野達に襲われたのは娘の行動を怪しんで後をつけてた大友の父親で、大友京子自体は無傷だったのと父親は空手の有段者だったので、萩野達の方が自業自得の状態になったそうな。
想像してたのと全然違う内容に、大友京子を見送った後に石上優は気が抜けて座り込んでしまったのだ。
それを知ったかぐや達は、
『『『『『言い方が紛らわしい!!!!!』』』』』
と、絶叫した。
父親の事は一言も言わなかった大友京子に呆れる一同だった。
お陰でかぐやと御行は、互いに真剣だったからこそまた恥ずかしい思いをする事になった。
体育祭には見学に来る約束を大友と交わした石上優だが、先が思いやられると感じていた。