白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜 作:チャリンコ2025
───前回までのあらすじ
退院した早坂奈央は、四宮雲鷹の判断で泉岳寺別邸にしばらく滞在する事になった。
───月曜日昼・生徒会室
『ジュリーーーーー!』
『『『・・・。』』』
いつもの面々で昼食にしていると、四宮かぐやの再従兄弟姪の四条眞妃が訪ねてきて、彼女はジュリーこと沢田研二にハマっていた。
先週、懐メロについて藤原千花からレクチャーを受けていた眞妃だったが、どういう経路を辿って沢田研二に行き着いたのか全く解らず、困惑するばかりだった。
一年生の石上優は参加してる文化祭実行委員会の会議兼昼食会、伊井野ミコは親友の大仏こばちと風紀委員会の会議兼昼食会に参加していて、今日は来ていなかった。
為に白銀御行・四宮かぐや・藤原千花の三人で受け止めるしかない。
千花としてはミコと優を茶化してお昼のおかずの足しにしようと考えていたのに、当てが外れてとんでもないババが舞い込んできたと我が身の不運の嘆いていたが、ミコと優にしてみれば迷惑でしかなかったが。
同学年ではあるが生徒会長の御行を始め、眞妃を含めて平成生まれの為に沢田研二という人物が年配の歌手という以外に知識はない。
それも、千花が辛うじて愛称を覚えていたぐらいのレベルだったが、ドハマリした眞妃が魅力を熱弁してくるのを三人は受け流すので精一杯だった。
正直、三人とも大して興味はない。
ただただ、眞妃の傷心が慰められればと付き合っているだけだった。
それ程に沢田研二の魅力を語る眞妃は痛々しい。
失恋を新しい恋で振り切ろうとしてる様に見えたが、好きな歌の歌詞が、
「結婚という言葉はタブーにしよう」
/麗人(090-4107-0)
「あなたはすっかりつかれてしまい
生きてることさえいやだと泣いた」
/時の過ぎゆくままに(055-5371-7)
等、今の眞妃の状況を考えると重いが的確な歌詞に御行達は何も言えなくなっていた。
『(どうすんですか、会長!?)』
『(何も言えんだろ、この状況は。)』
『(眞妃さん、貴女そこまで・・・。)』
『(四宮、同調すると引っ張られるぞ。
ここは堪えるんだ。)』
『(解ってます、解ってます・・・。
でも・・・、あまりに不憫で・・・。)』
『あぁ・・・、皆あんまり好きじゃない?』
『あ、いやっ!
なんというか・・・、始めて聞いた上にかなり大人な歌詞だから、大人になればこういう事もあるんだな〜、と。』
『ああぁ!
じゃあ、こっちはどうかしら?
女性のグループなんだけどね。
なかなか良いのよ、これが。』
そう言って眞妃がスマホで再生したのは、
「私待つわ・・・ 何時までも待つわ
例えあなたが振り向いてくれなくても」
/あみん(080-6095-9)
「ひと言 言ってもいいかな
くたばっちまえ アーメン」
/SUGAB(010-6596-3)
『『『(重い(わ)よ!!!)』』』
最後だけ少し前向きな歌ではあるが、眞妃がはしゃいで明るく振る舞う様は無理があり、痛々しくて三人とも目を向ける事が出来ない。
『(会長、どうするんですかぁ?)』
『(どうするも何も、何を言っていいかすら解らん。
とんでもない地雷原だ・・・。
藤原、妙案はないか?)』
『(私に振られたって、どうにもできませんよ。)』
『(私、こんな眞妃さんは初めてです。)』
『(まあ、無理もない。
あんな事があってはこうなってしまうだろう・・・。)』
御行としては、眞妃からは偶然が重なり想い人と自分の親友の関係の余波を相談されていただけに、同情を禁じえない。
───もし四宮かぐやが他の人間と付き合って、その関係が破綻しかけている事を相談されたら・・・?
それを想像すると眞妃の気持ちも痛い程解るというものだった。
自分なら、血の涙を流しながら枕に嗚咽混じりの咆哮を吸収させるだろう・・・。
そんな最中にドアをノックする音がして、助け舟だと感じた御行とかぐやが返事とともに腰を浮かした時には、素早く立ち上がった千花が既にドアまで三歩の距離まで近付いていた。
『『(なっ、なんて素早い!)』』
『は〜い、どちら様・・・。』
御行とかぐやには、ドアを開けて応対した千花の姿が硬直した様に見え、声が尻窄みになった事は嫌な予感としか感じれなかった。
困惑が表情から読み取れる千花に道を開けられ入ってきたのは、眞妃をこんな状況にした張本人の柏木渚だった。
『・・・あら、渚。
生徒会に用事?』
問う眞妃の声が先程までと打って変わって硬質なものになっていた。
『眞妃・・・。
四宮さんに相談してからと思ったんだけど、眞妃がいるなら良かった。
・・・横、座っていい?』
『・・・いいわよ。』
その場に居合わせた渚以外の四人は、渚の様子がおかしいと感じていた。
普段の柔らかい感じではなく、硬いというか思い詰めてる様な感じに思えた。
そうして、眞妃の横に座った渚はある紙を眞妃の前に広げる。
『眞妃、これにサインして・・・。』
『何よ、急に。
・・・何の紙なの?
こんいん・・・、とどけ・・・、・・・。』
『眞妃、結婚して。
もう、貴女しか私にはいないの!』
『はぁっっっっあぁ!?
何言ってんのアンタ、正気なの!!?
第一、私達女同士よ!!!』
『関係ない!
今は同性婚は当たり前だし、二人で幸せになろう、眞妃!!』
『勝手に決めないでよ!
卒業する前に女同士で結婚なんて有り得ないでしょ、却下よ却下!!
第一、アンタは翼くんが好きなんでしょ!!!?』
『あんな男、忘れる!
だから、だから眞妃!!』
『目が座ってるわよアンタ!
正気に戻って!!』
『私、気が付いたの。
何が一番大切なのか。
眞妃、怖いのも、痛いのも、最初だけ。
直ぐに幸せな気持ちになれるから・・・。』
『わっ、私は男の人と付き合いたいの!』
『男なんてダメよ!
ケダモノで、エッチな事ばかり考えて身勝手で、こっちの事なんか考えずに自分の都合ばかり言って!!』
『渚!
お願いだから正気に戻って!!』
『私は真剣よ。
真剣に私達二人の今後の事を考えてる。』
『私は頼んでないし、そんな事望んでない!』
『なんで?
私なりに真剣に考えたら結論なの!』
『ちょッ! 渚!?』
言うが早いか、渚は眞妃に抱き着いて泣き出してしまった。
『なっ、泣きたいのは私の方なのに・・・。』
我慢の限界に達した眞妃も泣き出してしまい、収集がつかない事態に御行達は立ち尽くしてしまう。
渚の剣幕を止めようと立ち上がった御行とかぐやだったが、いきなり来ていきなり泣き出されて、どうにも出来ない。
『これ、記事にしてもいいかしら?』
『うわっ! どっ、どちら様ですか!!?』
急展開にドアを締めるタイミングを見失い立ち尽くす千花に、第三の来客であるマスメディア部部長・朝日雫が声を掛ける。
後ろには部員の巨瀬エリカと紀かれんの二人も居て、室内の出来事に三者三様の顔を見せていた。
『すいませんが、会長に取材活動の許可の申請に来たのだけど、いいかしら?』
『あっ、えっと、会長っ!
お客様です!!』
雫からの用件に態と大きな声で御行を呼ぶ千花。
それに気が付いた眞妃は渚を離して顔を伏せて泣き顔を収めるが、眞妃の膝の上に崩れた渚はお構いなしに泣き続ける。
二人が態勢を整える時間が必要と判断した御行は、雫達の視線を遮る様に出入口に立つ。
室内の異様な空気を避けてか、雫も生徒会室に入ろうとはしない。が、眞妃と渚の友人であるかれんとエリカはそうは出来ず、御行と雫に断りを入れて眞妃達に駆け寄る。
かぐやも席を立って出入口まで来ていたので、アイ・コンタクトを交わした御行達四人は生徒会室の外に出て、ドアを締めた。
『大変ですね、前生徒会長の新方針も。』
『こういう事を見越した訳ではないでしょうが、実際に必要とされるのは嬉しいものです。
ですが、貴女も賛同された筈ですよ、朝日部長。』
『まあ、駆け込み寺の必要ないの世界はないからね。
大なり小なり、他人に話し辛い悩みを人は抱えるものよ、白銀くん。』
『まあ・・・、そうですね。』
御行と雫が話してる間にも、段々と室内の会話も熱を帯びてきていて、大声や泣き声にテーブルを叩く音などと様々なものが聞こえてきて、ドアに張り付いて様子を窺う千花、諌めるより心配が勝り千花と同じく様子を窺うかぐや、二人の様子と室内から聞こえてくる音がやはり気になってしまう御行と雫もドア周辺に集まり、息を潜めて室内の会話に神経を集中させた刹那、昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴る。
『不味い! 午後の授業が始まる!!』
『い、いけません!
急ぎましょう、会長!!』
『うわぁわぁっ、急がないと遅刻ですよ、遅刻!』
慌てて駆け出す生徒会の三人。
ついで、生徒会室から飛び出してくる眞妃達四人。
特に渚は普段はそんなに慌てて走る事が少ないのに、四人の先頭を切って眞妃より早く廊下を駆けていく。
『『部長、お先に失礼します!』』
『皆、元気ね。』
部員のかれんとエリカが慌てて走っていくのを見送り、一人雫は独語する。
元々おっとりしてるところのある雫は、走っても自分の足では間に合わないのは理解してるので、諦めの境地で七人を見送り生徒会室のドアを締めてからゆっくり歩き出す。
校舎に続く長い廊下には七人の姿はもう無い。
───運動神経は良くない方と自覚している。
それが為に参加した沼の清掃で、一緒に清掃していた子が動物の死骸で取り乱して押されてしまい、沼に転落して溺れかけたところを四宮かぐやに助けられた経緯がある。
───それから、かぐやには頭が上がらなくなった・・・。
あの時、
───押される前に上手く身を躱していたら?
───沼に転落しても溺れなかったら?
汚い状態な上に藻が足に絡んでしまったから落ちた時点でどうにもならなかったけど、かぐやに怯える様にはならずに済んだのだろう。
そんな「氷のかぐや姫」とまで言われ恐れられた四宮かぐやが、御行にテストで負けてからあんなに女の子らしくなるとは、彼女も恋に恋するお年頃だったのだと笑ってしまった事がある。
そんな笑い話でもしないと、かぐやが圧力を掛けてくる時は洒落にならない。
最近は無いがあんな思いはもうしたくないなと胃の辺りをさすりながら、雫は長い廊下を一人歩いていた。
─────つづく