白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜 作:チャリンコ2025
───前回までのあらすじ
四条眞妃は、柏木渚から婚姻届へのサインを求められた。
───月曜日放課後、生徒会室
『・・・何で忘れて帰るんだ・・・。
これ、どうしたらいいんだ?』
『・・・会長、捨てません?』
『・・・藤原、祟られないか?』
『置いといたら、また来ますよ?』
『今頃、忘れた事に気が付いてるだろう。
今日来なくても、明日には探しに来る・・・。』
昼の騒動の為に午後の授業に遅刻した面々だったが、文化祭の準備などで遅刻した生徒は多く、教師に小言を言われるぐらいで収まり放課後に改めてバンド練習の予定で生徒会室に集まったのだが、柏木渚の忘れ物「婚姻届」がテーブルに置かれたままになっており、先に来た白銀御行と藤原千花は扱いに困っていたのだ。
置いていかれた「婚姻届」を見つめながら、御行は頭を掻きながら感想を零す。
『しかし、どう考えたらこの結論に辿り着くのか謎なんだがな・・・。』
『普通、こうはならないですからね。
・・・こういうのは、相思相愛の相手でも考える時間が欲しいんですけどね・・・。』
『藤原は、経験あるのか?』
『会長こそ、経験あるんじゃ?』
『ないよ。
差出人不明のプレゼントはあったがな。』
『私、実は一回だけ経験あるんですよね。』
『へっ!?』
『相手の眼の前で破り捨てましたけどね。
「恋の順番ぐらい守りましょうね?」って言って。』
唇に右手の人差し指を当てながら、千花は「その時」を回想する。
御行は千花の大胆さに驚き、突飛だが勇気の必要な行動を起こした見知らぬ相手に敬意を抱く。
・・・藤原千花を見初める時点でどうかとは思うが。
『「一度挨拶した位の相手にそんな事されても怖いだけでしょ?」って言って、怒りましたけどね。』
『ぎゃ、逆上されたりしなかったのか?』
『まあ、そこは上手い事・・・。』
『・・・藤原は凄いな。
俺は、色々考えてしまってこんな事は無理だな。』
『ええぇ〜?
会長ならやっちゃうんじゃないですか?』
『どうだろうな・・・。』
『遅くなりました。』
『ああ、四宮か。
石上達は今日は来れなかったな。
さて、では練習をしないとな。』
そう言いながら、御行は生徒会長席のデスクに向かう。
引き出しを開けて茶封筒を取り出すと何やら表面に書き込み、直ぐ様テーブルに戻ってくる。
その間にテーブルに視線が向いたかぐやは、まだ「ソレ」が置いたままになっている事に眉を顰め、小さく舌打ちをする。
真横にいた千花は、まさかかぐやが舌打ちするとは思わず驚きを隠せない。
社会人経験のある「未来」のかぐやにしてみれば、舌打ちでもしないとやってられない状況は多々あり、つい出てしまった。
───大概、夜には御行と愚痴り合ってるが・・・。
そんなかぐやが思わず舌打ちする「婚姻届」を、テーブルに戻って来た御行は丁寧に折り畳むと茶封筒にしまう。
『会長、それはどうされるのですか?』
『柏木が、いずれ取りに来るだろう。
ここに置いておくのも良くないから保管しておく。』
そう言いながら御行が戸棚に身体を向けた瞬間、ノックも無しに生徒会室のドアが開けられて目が充血して座っている渚が入ってきた。
御行達が視線を向ける中、B級映画に出てくるゾンビの様なカクついた動きで首を回して室内に何かを求めて視線を走らせる。
『探してるのは、これか?』
御行の声に反応して渚の視線が御行の持つ茶封筒に釘付けになる。
かぐやと千花を庇う様に御行は二人と渚の中間に身を置くが、三人とも逃げ出したい衝動にかられる。
それぐらい、今の渚は鬼気迫るものがある。
『かえして・・・、かえして・・・。』
声は弱々しいのだが目は怪しい光を放ちゆっくりと御行に迫ってくる。
『別に取る気なんてないぞ、柏木。』
そう言いながら渚に近付いた御行は茶封筒を差し出す。
自分の胸の位置に差し出された茶封筒に視線を落とした渚は、両手でそれを掴むと動かなくなる。
身じろぎ一つしなくなった渚をかぐやと千花も御行の背中越しに見つめる。
それ程間を置かず、茶封筒に黒い斑点が一つ二つと増えていき、渚が嗚咽と共に涙を零し出した。
『座った方が良いだろう。』
御行に誘導されてソファに腰を下ろした渚は自分を止められなくなったのだろう。
茶封筒がよれて原型を失いかねない程の力を込めて握り、自身の額にくっつけたまま身体を震わせて泣き出してしまった。
御行と千花の二人はどうしたらいいか解らなくなったがかぐやは動こうとしたその時、生徒会室のドアがノックされた。
『失礼します、こちらに柏木さん・・・。
居られましたか。』
入室してきたのはマスメディア部の紀かれんと巨瀬エリカだった。
『ああ、柏木ならここにいるぞ。』
『友人がご迷惑をお掛けしました。
柏木さんとここでお話しても構いませんか?』
『ああ、いいぞ。』
本当はよくないのだが、この状況で出て行かせるのは気が引ける。
マスメディア部の二人では、目を離して余計な事を記事にされてもたまらない為、見張っておく必要がある。
───今日の練習は出来そうにないなと御行は諦めのため息をつく。
が、当のかれんとエリカは重度のかぐや信者とかぐや・御行のカップル厨の為、二人の園の生徒会室に居る事に高揚していた。
昼に部長の朝日雫に付いてきて貰ったのも、二人だけでは卒倒と介護で何をしに来たかわからなくなる恐れがあったからだ。
前々回は偽新聞であらぬ疑惑を掛けられ、前回はサッカーの交流試合を記事にしたが修正させられた為、二人は生徒会に引け目がある。
ちなみに、御行はこっそりサッカーの試合でかぐやと抱き合った写真の紙面を自宅の自分の引き出しに隠している。
勉強などが辛い時にそれを見てやる気を出してるが、机に向かって時折ニヤついてる事を妹の白銀圭には不気味がられてはいるが・・・。
つまり、柏木渚を探しに来たのは半分本当(ついでのついで扱い)で、取材を口実に御行やかぐやのあんな事やこんな事を聞けないかな?との思惑が二人にはあった。
二人の中で優先順位が変わってしまう程、渚は恋人だった田沼翼を優先して友人付き合いが疎かになっていた。
『柏木さん・・・。
ショックなのは解りますが、今の柏木さんは柏木さんらしくありませんよ。』
『そうです。
私が前に田沼さんの事を聞いたら、告白される前は「誰だっけ? 男子は興味ないんだよね。」って、言ってたじゃないですか!』
『そうです。
それなのに、告白されて付き合い出したら私達の事なんて綺麗さっぱり忘れたかの様に田沼さんと人目も憚らず、周りに見せ付ける様にベッタリ!』
『あんなに人が変わるなんてと驚かされてばかりで、四条さんだけが貴女と今まで通りの友人付き合いをして、私達を始め殆どの人とは貴女は話をしなくなったじゃないですか!』
『どの部にも参加してなかったのに、ボランティア部なんて立ち上げて。
田沼さんと二人っきりになりたいから立ち上げたんだともっぱらの噂になってたんですよ。』
『そこに無理矢理四条さんを加入させて、世間体を整える為だけに加入させられたのに健気に部活に励んでる四条さんはとんだお笑い草だとバカにする意見まで出て。』
『四条グループの娘を隠れ蓑にするなんて、なんて図太い人なんだとまで言われてるですよ。』
かれんとエリカの言い草を聞いてる御行達三人は顔が引きつっていた。
何もそこまで言わなくてもいいのにとはおもうが、翼に「壁ダァ―ン」を伝授した御行、ボランティア部を立ち上げるキッカケを吹き込んだ千花と止めなかったかぐや。
三人とも気に掛けてなかったが、そんな事になっていたのかと自責の念が生まれていた。しかし、ここまで言われても渚は身じろぎ一つしない。
まるで聞いてないかの様に涙で表面が滲んだ茶封筒を握ったままだ。
『・・・エリカ、かれん。
私は全部初耳なんだけど?』
声に反応して室内の全員の視線が出入口に集中する。
身じろぎすらしなかった渚も、視線を向けた先には四条眞妃が居た。
『・・・何で二人とも、今頃そんな話をするの?』
聞かれてはいけない相手に話を聞かれてしまい、二人は腹を括る。
取材で危ない橋は経験済みなのだ。
『・・・言える訳ないでしょう。
そんな話を聞いて四条さんは平気でいられるの?』
『・・・中等部の頃、貴女が荒れてたのは知ってました。
か・・・、四宮さんもあの頃は正直怖かったです。』
『貴女が・・・、また荒れてしまうじゃないかって思えて。
知らない方が良い事もあるから・・・、マスメディア部に居たら嫌でも色んな話を聞くから・・・。』
『そう・・・、余計な心配ね。
私が、それぐらいでどうにかなると思われてたなんてね、とんだお笑い草ね。』
『平気なんですか!?』
『平気な訳無いでしょ!?
親友と思ってる子のだしに利用されて、それを友達と思ってる子達に陰口言われてるなんて・・・。
冗談じゃないわ!!』
そういうと、眞妃は生徒会室を出て行ってしまった。
『眞妃!』
それを追って渚も飛び出していく。
残された者達に重い沈黙が降りる。
『・・・貴方達は、どうするんですか?』
『遅けれ、早かれ、だったと思ってます。
四条さんも、知らない筈はないでしょうから。』
かぐやの問いかけにかれんが答える。
エリカは興奮状態が抜け始めており、かぐやの前である事を思い出して気を保つだけで精一杯になりつつあった。
友人の性質を知っているかれん、かぐやとエリカの間に立つ。
ここで卒倒されては余計ややこしくなる。
『本当は取材に来たのですが、日を改めてお伺いします。
ご迷惑をお掛けしました。
エリカ、参りましょう。
失礼します。』
本当はもっと居てかぐやと御行を観察してアレやコレや想像して楽しみたかったが、今は緊急避難が優先される。
生徒会室を辞した二人は、一番近い校舎の屋上に向かった。
既に文化祭の準備などで普段は昼休みぐらいしか人がいない屋上に出た二人は、火照った頬を風に当てて冷ます事にしたのだ。
手すりに身体を預けたエリカが、夕暮れに染まりながら話を始める。
『何で、あそこまで言っちゃったんだろう・・・。』
『・・・一学期の真ん中ぐらいまでは楽しかったね。
何するにも四人で居る事が殆どで。』
『四条さんも柏木さんもよく部室に来てたものね。
朝日部長や先輩達、渋顔だったけど・・・。』
『そうこうしたら柏木さんが告白されて、あんまり遊ばなくなって。
四条さんも柏木さんの部活に参加するって言って、二人共部室に来なくなって・・・。』
『あの二人、結構賑やかしだったって後で気が付いて・・・。』
『・・・きっと、嫉妬してたんだね・・・。
こんな風に、友達より優先する事が増えて、会わなくなっていって・・・。』
『・・・後で、謝りに行こう。
・・・明日でもいいから。』
『・・・これで終わりなんて、やっぱり嫌ですからね・・・。』
『だね・・・。』
─────つづく