白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜 作:チャリンコ2025
─────高等部体育祭当日
プログラムは順調に進行したのだが、保護者席のある人物の石上優への声援は、石上優の同学年(特に女子)に巨大な波紋を呼んだ。
石上優が同学年から目の敵にされた原因であった「大友京子」自身が、石上優に熱い声援を送っていたのだ。
今まで散々に石上優をなじっていた彼女達はその根拠を失う事になり、ある者は沈黙を、ある者は大友京子に敵意を、ある者は混乱していた。
『いい気味ね。』
今回は早坂愛と四宮かぐやは白組、白銀御行と他のメンバーは紅組になったので、生徒会メンバーを応援したいが憚られるかぐやは、フラストレーションを石上優を目の敵にしてきた人々にぶつけていた。
『かぐや、あの子が例の子?』
『あら、眞妃さん。
ええ、あの子がそうですよ。』
『なかなか熱心に応援してるわね。』
同じ白組の四条眞妃が声を掛けてきた。
彼女は大友京子の件で石上優を買っている。
『今更引っ込みがつかないのでしょうけど、皆さんは梯子を外されたと思ってるのでしょ。
彼女が真実を告げても聞く耳を持たない。
だから、彼女は「行動」で示してる様です。』
『フフッ、面白いものね。
あの子が頼んだ訳でもないし、違う学校に行ってるのに、勝手に優を弄ってたんだから。』
『先入観と決め付けは意外と強固ですからね。
自分で調べたり確かめたりは、なかなかしませんよ。』
かぐやと眞妃、二人ともかなり黒いオーラを発しながら石上優を虐めてきた連中を笑い合っているが、早坂愛はかなり引いていた。
この二人は敵に回したくないな、と。
─────グランドが見える校舎の通路
『先日は失礼致しました。
白銀会長のお父様ですね?』
『ええっと、どなたですかな?』
『失礼致しました。
生徒会副会長を務めています四宮かぐやと申します。
会長にはいつもお世話になっています。』
『しのみや、四宮・・・、ああぁ、なるほど。
こちらこそ、初めまして。』
保護者席ではなく、校舎の通路で壁にもたれかかりながらノンアルを飲んでいた白銀の父親にあいさつをするかぐや。
「経験」した体育祭では、ここで初対面で御行への想いを喋ってしまい、以後いじられてばっかりだったが、今回はそうはいきませんよと拳を握るかぐや。
『あいつが生徒会長ね。
器じゃないだろうに。』
『・・・白銀御行さんは、私を庇って生徒会長になってくれたんです。』
『・・・どういう事だい?』
『規定で推薦人が百人を超えると自動で立候補する事になるんです。
昔は、それで生徒会長が選挙前に決まってたそうなんです。
それで、私が立候補させられそうになった時に御行さんが
立候補してくれて、それで票が割れて私は立候補しなくてよくなったんです。』
『御行さんは二期連続生徒会長で特待生としても初めての快挙なんです。
それに、御行さんは私の価値観を変えてくれた大切な人なんです。』
『あいつがね・・・。』
『お父様にはお考えがありましょうが、息子さんは素晴らしい人なんです!
彼が私の人生を変えてくれた、物凄く大切な人なんです!!』
御行の父親の態度にかぐやはつい言ってしまった。
そうなると、開き直ったかぐやは白銀の父親に礼を述べる。
同時に、謝罪もする。
四宮の家が原因で白銀家に多大な苦痛を与えた事を。
だが、その謝罪は受け付けなかった。
『子供がそんな事を考えなくて、良い。
それより、御行とやりたい事をやりなさい。
キスとかガンガンやっとけ。』
そう言ってかぐやの肩を叩くと、保護者席に戻って行った。
─────体育祭終了後
四宮かぐやは、早坂愛から大友京子の調査結果を聞いていた。
『大友京子を騙して襲った萩野は、死亡してます。』
『・・・それはどういう事なの?』
『大まかな話は大友京子自身の話で合ってますが、強姦未遂は大友京子の父親の突入が僅かでも遅れていれば、強姦になっていた状況でした。』
息を呑むかぐや。
早坂愛が重い口を開き報告を続ける。
『その後、逮捕された萩野達ですが全員から薬物反応が出て、萩野は三日後に心不全で死亡してます。』
『・・・。』
───体育祭は紅組勝利で終わった。
校門まで大友京子を見送っていくと、タクシーと一人の男が待っていた。
『彼がね、話してた子なの。
私の・・・、彼氏。』
石上優は強烈なショックを受けた。
また、このパターンかと・・・。
『今日は楽しかった。
久々にあんなに大きな声出したよ。』
『結構びっくりしたけどな。』
『じゃあね。』
石上優に見送られタクシーに乗り込む大友京子。
タクシーが動き出す瞬間、大友が涙を流したのを石上優は見てしまった。
走り出すタクシー。
気が付いたら、石上優はタクシーを追い掛けていた。
『やりたい事は、出来た?』
彼に問い掛けられて大友京子は言葉に詰まりながら、想いを紡ぐ。
『私がバカだから石上君を傷付けた。
・・・私は、嫌われたくないから皆に話しかけて、馬鹿にされてる事を無視してたのよ。
萩野みたいな奴の本性を判らないで・・・。』
『あのぅ、男の子が追い掛けて来てるよ。』
タクシー運転手に告げられて慌てて振り返る大友京子。
『運転手さん、速度上げて!』
『信号なんだよ。』
赤信号で止まるタクシー。
追い付く石上優。
観念した大友京子はタクシーを降りる。
『何で、追いかけて、来たのよ。』
『お前が、泣いてるのが、見えた。』
『何で、見ちゃうのかな。』
困った顔で石上優を見返す大友京子は、息の上がる彼を見つめる。
本当の事を言おうと・・・。
『本当はね、萩野達に殴られて裸にされたの。』
息をのみ、目を見開く石上優。
彼女は続ける。
『本当は言いたくなかった。
・・・でも、知って欲しいとも思う。
裸にされて押さえ付けられて、抵抗してもダメで・・・。
萩野が笑いながら覆い被さって来ようとした時に、お父さんが飛び込んできて、萩野達を殴ったの。
・・・その姿が、萩野を殴ってくれた石上君と重なったの。』
『「解るだろう」って石上君に言われた事、その時理解できたよ。
なのに私は、そんなに想って助けてくれようとした君を裏切って傷付けた・・・。』
『会わせる顔もないし・・・。
でも、誤解を生んだ原因は私だから、君を傷付け続けてる原因を少しでも減らす事が出来たら、と思って。』
『副会長の四宮さんに教えて貰った。
君が停学中も学校に来る様になった今も、どれだけ傷付けられてるか。
・・・でも、私が否定しても皆は信じてくれないの!
本当に、ごめんなさい。』
大友京子の涙が地面を濡らす。
『・・・笑ってくれよ。
大友、僕は君が笑ってくれたら救われるから、大丈夫だから。』
『笑ってくれよ。
泣いてる大友は、らしくないよ。』
『石上君・・・。』
既に信号は5回青信号に変わったが、この道は一方通行でこの時間は交通量が少ない為に後続車はまだ来ない。
タクシーはエンジンを切り賃走のメーターも切っている。
ラジオから流れる音楽だけが辺りを包む。
『・・・もう、行くね。
お別れだよ、石上君。』
『ああ、元気でな大友。
・・・ありがとう。』
『うん。
私もありがとう、優。』
タクシーのドアが開き、閉じられる。
エンジンが掛かり赤信号が青信号に変わる。
ゆっくりと、唄を流しながらタクシーは走り出す。
『泣いているのに
微笑まないで
唇が震えている
ちがう愛ほど余計つらいこと
誰よりもわかるから
強がってみせる 友達のままで
見つめている 僕にまで
想いをいま届けたい この街角で
抱きしめたい かわらない強さで
あなたを いま見つめてる この先ずっと
ただ誰より 瞳きれいな 恋人』
使用楽曲
鈴木雅之「恋人」
楽曲コード017-6281-8