白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜 作:チャリンコ2025
───前回までのあらすじ
突飛な行動に出た柏木渚の余波はあらぬ方向に波及し、四条眞妃は聞きたくない話も聞く事になってしまった。
───放課後、屋上
『なにやってんだ、お前達?』
柏木渚の騒動で、とても演奏練習などできる気分ではなくなった白銀御行・四宮かぐや・藤原千花の三人は散会し、かぐやと千花は家路に付いたが、御行は屋上の各クラスや部活の出し物等の見廻りに来て、天文部部長で元生徒会会計の龍珠桃に捕まっていた。
『覗き見とは、趣味が悪いぞ龍珠。』
『ここは私の指定席さ。
校長の許可も貰ってるんだから。
それより、どうすんだ?』
『それなんだよな・・・。』
御行が桃に覗き見というのは、生徒会室のある建物は校舎群から独立した建物で屋根付きの廊下で校舎の一つと繋がっている。
為に、そこを見ていれば誰が生徒会室に出入りしたかは解る。
その見える位置の屋上の部分を桃は占有に近い形で使っている為に、ここのところの柏木渚絡みの騒動を把握していたのだ。
桃の横に胡座をかいて座った御行は、右手を顎に当てて考え込む。
桃と御行の間柄には妙な力が作用してるのか、大概御行の隠し事はバレるか白状させられる。
『しかしあれだな、私の方で聞いた限りだとその柏木と田沼は喧嘩した事ないんだな?』
『詳しいな。
しかし、どうなんだろうな。
・・・確かに仲は良い様だから喧嘩もした事ないのかもな。』
『あの二人は結構有名人だぞ?
柏木がむくれて田沼に突っかかってるのは私も見た事あるぞ。
喧嘩した事がないというか、田沼の方から怒った事は今まで無かったんだろう。
元々は、田沼の告白から付き合いだしたんだろう?』
『あぁ!
そういう事か。
確かに、告白した側からだと怒りづらいか・・・。
(待てよ、となると四宮と俺の関係も・・・。)』
『喧嘩慣れしてないから、仲直りの仕方が解らず周りを巻き込んでる。
そういうところだろうから、お前達が仲立ちするしかないんじゃないか?
その為の生徒会であるんだから。
でないと、何しでかすか分からんぞ。
それこそ、ウエディングドレス着て四条に告白し直すとか。』
『生徒会は喧嘩の仲裁が仕事じゃないんだがな。
しかし、まさかウエディングドレスは・・・。
それは流石にないだろう?』
『「婚姻届」は、「流石に」や「まさか」じゃないのか?』
『・・・嫌な事、言うなよ。
現実になりそうだ。』
『まあ、なんか起きたら呼べよ。
加勢してやるよ。』
『・・・誰に加勢するんだ?』
『状況次第だな。』
そう言いながら、桃は人の悪い笑顔を浮かべて含みのある笑い方をする。
明らかに楽しんでるが、年中顰めっ面か無表情の桃がここまで他人を気にするとは、変わったなと御行は思う。
その後は他愛のない会話を楽しんだ二人は、下校を促すチャイムで屋上を後にする。
─────夜、かぐやの寝室
『それは困った事になりましたね。』
夜のお茶会で生徒会室での騒動を話すかぐやに、声は抑揚的だが心底嫌そうな顔で早坂愛は感想を返す。
渚は事実確認もせずに自分やかぐやを叩く程だから思い込みが激しいとは思っていたが、女同士で婚姻届という発想は流石になかった。
『正直、どうしていいか解らないわ。』
『刺激せず静観した方がいいと思います。
更におかしくなる恐れがありますから。
問題は四条様の方ですが・・・。』
『この間と同じで連絡付かずよ。
無理もないわ。
・・・ところで、奈央さんはどうしてるかしら?』
『お陰様で、静養させて頂いてます。
・・・神出鬼没ですが。』
『そう。
折角だから、しっかり体を休めて欲しいわ。』
『ええ、全くです。』
そう話す二人だが、「神出鬼没」の部分が二人を始め、泉岳寺の面々には心臓に悪い。
とは言うものの、愛としては母親であり先輩でもある早坂奈央が職場に居る事は嬉しくもあり恥ずかしくもあり、自分のミスをいつ指摘されるかとヒヤヒヤしてはいる。
件の奈央は、優雅にランチやティータイムを楽しんだりと表面上は静養しているが、一挙手一投足が泉岳寺別邸の使用人達の能力調査を兼ねている。
九月以降のかぐやの突飛な言動(それ以前と別人の様な)が良い刺激となり、泉岳寺の要員達の能力の底上げに寄与していて、奈央は調査結果に満足していた。
『流石は(私の)かぐや様。』
と言いたいが、八月以前のかぐやは良く言えばお年頃、悪く言えば馬鹿馬鹿しい事に人員も金銭も使っていた事(御行関係)は奈央の耳に入っていた。
かぐや達に噂されている当の奈央は、泉岳寺を抜け出して昔なじみのバーである人物と会っていた。
『ご丁寧に身分証付きで水死体が上がった。
潮の流れから推測された場所にある廃屋には、別の二体の死体と俺とお前に使われた凶器のライフルも発見された。
警察は仲間割れで片付けるそうだ。』
『・・・無理筋な話ですね。』
『犯人無しで迷宮入りよりはマシ、と判断したんだろう。
それだけ、尻尾を掴ませなかったのに、おかしいだろう?
藤原の爺もうちの親父も、煙たく思ってる奴らは5万といる。
全部調べるのは、物理的にも不可能だ。』
『・・・それでいいのですか?』
『納得できない奴も5万といる。
後は、それぞれで調べるだけだ。』
『解りました、追跡を続けます。』
『頼む。
ところで、泉岳寺はどうだ?』
『快適ですし満足してます。
ただ、セキュリティに難がありますかね。』
『お前に勝てるセキュリティの方が殆ど無いだろう。
まあ、もう少しかぐやを頼む。
今のうちに、娘も可愛がっとけ。』
『解りました。』
『素直だな。
ついでにこれもどうだ?
好物だったろう?』
奈央の密会相手の四宮雲鷹が出してきたのは、パンと独特の臭いが強烈なシュールストレミングだった。
『あら、だからここだったんですか?
おまけに、ドレスコードも。』
『こいつを食べるなら捨ててもいい服じゃないと、後が辛いだろう。』
『まあ、そうですね。』
『思い出すな。
お前に復讐の様にコレを騙されて食べさせられた時の事を・・・。』
『そんな事もありましたね。』
『それで片付けるな。
あの時は一月は臭いが取れなかったんだぞ?』
『処理を間違えなければ美味しいのに。』
『お前が食わせたんだぞ、お前が。』
『さあさあ、料理が冷めてしまいますわ。』
『元から冷めてるだろう、これは。
温めたら臭いが余計キツイぞ。』
じゃれ合いの様な会話はそれっきりで終わり、二人は静かに杯を重ね、夜は更けていった。
─────つづく