白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜 作:チャリンコ2025
───前回までのあらすじ
婚姻届まで持ち出した柏木渚の暴走に関係者は飽きれるが、触発されたかの様に紀かれんと巨瀬エリカが言わなくていい事を暴露し、事態は更に混迷を深める。
───金曜日放課後、生徒会室
龍珠桃の諫言(半分冷やかし)を受け、月曜の一件から折を見て四条眞妃や柏木渚らの関係改善の仲立ちの機会を伺っていた白銀御行だったが、文化祭『奉心祭』の準備や生徒会演目のバンドの練習等に忙殺され、関わっていられない状態になってしまった。
生徒会室に眞妃や渚が来なくなって練習が捗ったが・・・。
『四宮、四条はどうなっているんだ?』
『なかなか連絡が付かなくて、どうも進展無しの様です。』
『そうか・・・。
そういえば、石上や伊井野は最近来てないが、忙しいみたいだな。』
『石上くんは文化祭実行委員会で、伊井野さんは風紀委員会ですから多忙なんですよ、私達みたいに・・・。』
二人の前のテーブルには書類が小山を築き、二人してウンザリした表情になっていた。
こんな人手の欲しい時に、書記の藤原千花は所属しているテーブルゲーム部に参加しており、生徒会室に二人しかいない。
最も居ても遊んでる事が殆どで、生徒会の事務戦力としては除外しているが、そんな千花でも欲しいと思える程に立て込んできていた。
『考えるより、手を動かすか。
「馬鹿な考え、休むに似たり」というからな。』
『そうですね、動いていたら気も紛れますしね。
少しでも処理しないと埋もれてしまいそうですしね。』
『全くだ。
さて、やるか。』
奮闘の甲斐あり、二人が書類の処理を殆ど済ませた頃合でドアをノックする音が聞こえた。
『どうぞ。』
反射的に御行が返事をして、最後の五枚程の為に二人が集中していると誰かが入って来る気配がして、その気配が二人に近付いてくる。
テーブルの端、御行の視界の右端に誰かが立っているのは認識したが最後の一枚に集中して、処理が終わりやっと視線をテーブルから来訪者に向けて御行は固まる。
かぐやは書類仕事で固くなった身体をほぐす為に左腕を伸ばしてストレッチをしようとして、御行と同じく固まった。
二人の前には左頬に手形が赤く残った桃が、同じ左頬に赤い手形が残った渚と立っていた。
『・・・なにが、あったんだ?』
『・・・こいつがあんまりにも人の話を聞かないからな。』
『・・・先にぶってきたのは龍珠さんでしょ。』
『お前を止めようと手を伸ばしたら頬を掠っただけだろ?』
『・・・冷静じゃなかったのは認める。』
『それより、冷やさないと!』
慌ててかぐやが救急箱を取りに行く。
そのタイミングで、タオルを濡らした眞妃が生徒会室に入って来る。
『眞妃さん、何があったんですか!?』
『・・・渚に聞いてよ。』
『わりぃな。』
『眞妃、ごめん。』
『ともかく、三人とも座れよ。』
桃達に席を勧めながら、御行がテーブルの書類を片付け、空いたスペースにかぐやが救急箱を広げ、桃と渚は眞妃から貰った濡れたタオルをそれぞれの頬に当てて座る。
『で、何があったんだ?』
『・・・話していいか?』
『・・・構わないです。もう知られてる事ですから。』
『よし、実はな───』
桃の話は、渚と眞妃が月曜の一件からあっちこっちで言い合いをしてるのをよく見かける様になり、昨日今日は屋上で言い合いになってるのを桃が迷惑だからと横槍を入れて、はずみでビンタの応酬になってしまったというものだった。
『実際、迷惑だったんだよ。
ゆっくりしたいのに、「寄りを戻せ」だ「告白しろ」だ、重い話を側でされてもな。』
『だって、始めての事ばっかりで頭も心もグチャグチャで、何したら良いのか何がしたいのかも分かんなくなっちゃっただもん!』
『だとよ、誰かさんみたいだな。』
『その言葉、そっくりそのまま返す。』
『うるせぇ。』
眞妃と渚は桃と御行のやり取りに引っかかるものを感じるが、顛末を知ってるかぐやは理解する。
御行は自分への、桃は前生徒会長への恋心やアタックの失敗の事を話しているのだと。
『柏木さん、貴女は何人巻き込んだら気が済むの!
この際だから言いますけど、気持ちがハッキリ解ってるなら行動するしかないでしょ!!』
かぐやは、自分の事は棚に上げてもっともらしい事を言う。
『四宮さん、解ってます。
解ってますけど・・・、振られたのにもう一回告白し直すなんて・・・。
もし受け入れて貰っても、前みたいに私や彼は笑えるのかなって・・・。』
『こんちは〜・・・。
お取り込み中なので帰ります。』
『待て、石上。
用があったんだろう。』
『そうよ石上、入りましょう。』
『・・・伊井野、目が怖い。』
『は・い・り・ま・しょう。』
『わかったよ・・・。』
回れ右をしようとした石上優は、御行に声を掛けられたのと、一緒に来た伊井野ミコに挟撃されて渋々生徒会室に入る。
『・・・どういう状況なんです、会長?』
『・・・複雑、だな。』
『・・・石上、あの事言ってもいいんじゃない?』
ミコは、そう言って事情を知っている千花と優を見るが、二人は頭を振る。
『・・・このままだと、何も進展しないと思う。』
『・・・解るけど、本人に断り無しに言う訳には・・・。』
『何の話だ?』
『石上くん、会長には話しておいてもいいんじゃないかな?
石上くんも、大変じゃない?』
『まあ、確かに・・・。』
珍しい千花からの提案に揺らぐ優。
正直、あれからほぼ毎日田沼翼から未練たっぷりの相談を優はされてウンザリしていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜
「そんなに寄りを戻したいなら、ハッキリ本人に言うしかないでしょ!」
「だって、僕なんかの事、渚は嫌ってるんだ。
目も合わせてくれないから、声も掛けれないよ。」
〜〜〜〜〜〜〜〜
毎回このやり取りで翼からの相談は終わるのだが、それまでに二人の思い出や柏木渚の良いところや可愛いところなどを聞かされて、最近は強い殺意を覚えていた。
『実は、会長・・・。
聞いて貰えますか?』
『何だ?』
『柏木先輩達には聞かせられない話なんですが・・・。』
優が御行と側に居るかぐやに翼からの相談事の内容を話す姿を、桃は訝しげに見つめる。
『何こそこそしてるんだ、彼奴は?』
『・・・龍珠さん、改めてごめんなさい。
私、そんなつもりじゃなかった。』
『しょうもない謝罪をするぐらいなら、サッサと恋人に会いに行ってこいよ。
私を叩ける元気があるんなら、問題ないだろう?』
『だけど・・・、翼は・・・。』
『渚、私に約束したよね?
あんたが告白しないなら、私が先に行くわよ。』
『それは!
・・・でも、いざ行こうとすると、身体が動けなくなるの。
また、拒絶されたら・・・。
もう一回恋人に戻れても前みたいに笑えるのかなって・・・。
眞妃の方が、私なんかより彼に相応しいじゃないかって・・・。』
『まあ、な。
お前は船会社の社長の娘だったっけ?』
『造船会社の会長がお祖父ちゃんよ。』
『大して違わねえよ。
私の家より、余程世間受けは良いじゃない?
そんな私ら二人より、もっと良いのが四条だろう?
あの四宮と正面切って張れるんだから。』
『・・・前までは、そう思ってたわよ。』
『含みのある言い方だな。』
『好きになったら躊躇わずに動かないと、家が立派だろうが意味はないって。
「四宮の正当な血筋を引く」なんて言って、好きな人を振り向かせる事も出来ない馬鹿な女よ。』
『眞妃・・・。』
『だから渚、サッサと翼君に告りなさいよ。』
そう言いながら、眞妃の視線の先には仲良く優の話を聞きながら何かに二人してドン引きしてる御行とかぐやが居た。
そんな中、ドアをノックする音が室内に響く。
『こんにちは〜。』
『こ、子安先輩、どうしたんですか!?』
『ああ、伊井野さん達もこっちにいたんだ。
丁度良かった、文化祭で売る物販物の食べ物のサンプルが届いたから、一緒に食べないかなと探してたの。
後、お客さんみたいですよ、会長。』
『『『『『お客さん?』』』』』
意外な人物の来訪に一人優が動揺しているが、つばめから知らされた別口の来訪者の存在に室内の全員が軽い疑問を抱く中、その来訪者が入室してくる。
全員の視線が集まる中、つばめに促された田沼翼が入室してきた。
─────つづく