白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜 作:チャリンコ2025
───前回までのあらすじ
距離を取られていた父親・四宮雁庵との写真を撮る事に成功した四宮かぐやは、今度は想い人で将来の夫・白銀御行のサプライズ誕生日パーティーを企画し成功させた。
その日は、生徒会室には白銀御行と石上優の男性陣2人だけだったが、気まずい空気の中にいた。
原因は、御行のサプライズ誕生日パーティーで行われた王様ゲーム。
───2人へのお題は、
「頬にキスする(どちらからでも可)」
「「誰だ!こんなの書いたのは━!?」」
二人の偽らざる本音である。
女子同士、もしくは、男子と女子なら良いが、何故男同士で!
女性陣は勝手に引いてるが、君たちの誰かだぞ、書いたのは!?
(男性陣には身に覚えがない)
御行には、四宮かぐやは半笑い、藤原千花と姉の豊実(出来上がってた)は大ウケ、御行の妹の圭と千花の妹の萌葉は引いてた様に感じた。
優には、藤原先輩と姉の豊実には大ウケ、四宮先輩と会長の妹さんは引いていて、藤原先輩の妹さんには直ぐ殺しに来そうな殺意の籠もった目で見られていたと感じていた。
実際は出来上がってた豊実以外は引いていて、萌葉は優に殺意を抱いていた。
結局、御行が形だけのキスを優の頬にする完全なる罰ゲームという思い出したくない黒歴史を刻まされる事になり、二人共に口が重いのだ。
『あっ、ここに居ましたね。
石上君、行きますよ。』
かぐやが来て空気が撹拌されたが、直ぐに優を連れていた。
かなり危機的状況なので中間テストまで、かぐやが優の勉強を見ると。
正直羨ましい気持ちがあるが、御行も自身の為にも勉強に打ち込む必要がある。
かぐやから貰った誕生日プレゼントは、『磨穿鉄硯』をかぐやが筆入した扇子と、誕生日カード。
カードの内容は、
『身体を大事にしてください。
何を言っても聞いてくれない仕方のない会長へ』
で、ある。
もっと踏み込んだ方が良いかとかぐやは考えたが、この年の年末まで恋の駆け引き中で変に勘繰られても困るので当たり障りのない内容にしたのだが、御行はそうは取らずに言葉の裏(何もない)を考えこねくり回してところだった。
為に、ラインのID交換してない事まで頭が回らず、気が付いてはモンモン、かぐやに聞こうとしてあれやこれや考えて、結局聞けずでモンモンを繰り返すだけだった。
───秀知院学園・図書室
『・・・なんで、四宮先輩は僕の勉強見てくれるんですか?
自分の勉強もあるのに。』
長テーブルに二人で並んで座り、マンツーマンで教えてくれかぐやに優は疑問を聞いてみる。
『あら?
私じゃ何の足しにもならないかしら?』
『そんな意味じゃないです。
・・・ただ、何でだろうって。
先輩に教えて貰った方法だと飲み込みやすいのは確かですし・・・。』
『さあ、なんででしょうね・・・。
貴方を放っておけないってところかしらね。』
『僕なんか・・・。』
『貴方が会計をしてくれる様になってから、私や白銀会長の負担はかなり減ったわ。
これでも足りない?
石上君、その問題のそこは引っかけよ。』
問題集を解きながら二人の会話は続く。
二人を見ながら本棚の端で3人の女子生徒が小声で話してるのが聞こえてくる。
刹那、かぐやが参考書をわざと大きな音を出して閉じて立ち上がる。
『貴女達、私に言いたい事でもあるの?』
かぐやは女子生徒達の所まで僅かな時間で一気に歩みを進める。
『どうしたの?
言いたい事があるんでしょ?』
口調は穏やかだが、目と態度が裏腹にキツく鋭い。
『わ、私達、かぐや様が心配なだけなんです。』
怯えつつも必死に訴えようとする女子生徒達。
『私の何が心配なのかしら?』
『わ、私は見たんです。
石上が萩野君を殴るところ。
私は石上と同じクラスだったんです。
石上はキレたら何するか分からないストーカーなんです!』
3人の内の1人がかぐやに訴える。
『そうなの?
私には石上君はそうは見えないし、思わない。
私は石上君は、私の目で確かめて関わる価値があると判断したから一緒に居るわ。
私の目は、信用できないかしら?』
尚も抗弁しようとする女子生徒を他の子が止めて、3人は頭を下げて図書室から出ていく。
席に戻ったかぐやに優が、
『四宮先輩、もう止めにしましょう。
僕は、先輩に迷惑かけたくないです。』
かぐやはそっと右手を優の背中に置く。
『石上君。
貴方を評価してるのは私だけじゃない。
藤原さんや白銀会長も貴方を評価してる。
いい、石上君。
貴方の可能性は貴方自身にも否定できないのよ。』
『・・・はい。』
勉強を再開した二人を伺う二人の人影、窓の外にいる御行と、図書室内に息を潜めて待機してる愛と。
『・・・俺の出る幕はないみたいだな。』
そういうと、御行は図書室から去った。
一方、平静を装ってるかぐやは、少し後悔がある。
───説教臭い事、言っちゃった。
色々うるさくなった現代、そのつもりがなく言っても曲解されるのと、自分の年齢を意識させられる場面が多くなったのでかぐやはあまり言わない様にしてるのだが、言ってしまう時はある。
「あの人は、こういう事は苦労した分、人の機微が良く判ってるのよね。」
ふと、自分の年代の白銀御行を思うかぐやだった。
一方、愛はかぐやとアイ・コンタクトを交わして図書室を出て、帰路に着く。
最近は千花にたまに絡まれるぐらいで、かぐやの配慮で無理難題が鳴りを潜めた事でかなり空き時間が増え、妄想止まりだったデートプランの検証なども出来て充実していた。
デートコース検証の帰り、本屋でその手の雑誌を立ち読みしていたら参考書を買いに来た御行と出会い、誕生日パーティーのお礼を言われてたその流れで情報収集の一環から書店併設のカフェテリアで談笑し、雑誌の特集内容のデートプランなどの話で盛り上がってしまった。
御行もプラン好きの為に、意外に馬が合ったのだ。
『しかし、意外だったな。
君が四宮と仲が良いなんて。』
不意に御行が意外な事を言い出す。
『結構、意外な組み合わせだもんね。』
『いや、そうではなく・・・。
なんというか・・・、
四宮にはいつも藤原書記が連れ立ってるから、中々イメージが沸かなくて。
ただ、安堵もしてる。』
『安堵?』
『四宮の友達だからいうんだが、あいつはあまり人と馴れ合わないというか、自分から関係を持つ事を恐れている様に見える。
生徒会に入ってから変わったが、それでも距離を取り、周りも遠慮する。
かぐや様とか持ち上げてる奴らもいるしな。』
マスメディア部の2人の事が愛の頭をよぎる。
『だから、せめて俺だけでもあいつと・・・、四宮と対等でいる様にしたいと思ってる。
一人は、かなりキツイからな。』
『・・・いいんですか?
そんな事聞いちゃって。』
『パーティーの時しか見てないが、二人を見てるとお互いを理解し合ってる、信頼し合ってると思った。
後、君だとなんか喋ってしまうし、喋ってもいいと思える安心感がある。
だからかな。』
『(困る事言うな、会長・・・。)
・・・かぐやさんも、同じですよ。』
『えっ?』
『会長は無理ばかりして心配になるって。
目を離すと倒れてしまうんじゃないと思うって。
結構、気にしてますよ。』
それこそ、四六時中貴方の事ばかり聞かされてますよ、とは言えないが。
『・・・そうか、四宮は俺を心配してくれているのか。』
ほんのり紅潮する御行に、少し苛つく愛。
その後、御行は帰り、カフェテリアに一人になった愛はポツリと。
『今なら、リア充爆発しろって気持ち、ちょっと解かるかな。
サッサとくっついたらいいのに。
・・・いいな、二人とも。』
いつもより遅く別邸に帰った愛はかぐやに呼ばれて優の勉強の事で相談事をされた際に、書店での御行との事をかぐやに報告し、デートプランはかぐやも目を輝かせて聞いてきてくれてかなり話し込み楽しい時間を過ごした。
その内、温めてるプランで二人をデートさせて冷やかしてみたいなと、悪魔の尻尾が生えてきそうな事を考える愛だった。
───そして、二学期中間テストの結果発表の日。
───二学期中間テスト・結果───
1位、白銀御行 496点
1位、四宮かぐや 496点
3位、四条眞妃 478点
・
・
・
順位が張り出された場所は多くの生徒が自分や友人の順位を確かめていて、黒山の人だかりになっていた。
───そこから少し離れた場所
『や、やるぅではないかぁ、四宮ゃ。』
音程が乱れた発言が御行の動揺を如実に表してる。
学年首位、1位はキープしたもののかぐやと同位。
かぐやに真横に並ばれたのである。
御行は唯一の優位である学力で並ばれる状況に危機感を覚えた。
『・・・今回はたまたまですよ。
会長に怒られますが、一夜漬けで覚えた問題が多かったので。』
俯いて答えるかぐやはどうにか言い訳をしたが、後ろめたい気持ちで一杯で目が泳いでおり、御行を見る事ができない。
一年次に御行に勝負を挑まれ負けて以来、彼が語学習得に変更して学力競争から降りるまで負け続けたので、この時期のテスト問題は丸暗記に近いぐらい覚えてしまって、問題を見た瞬間に頭に答えが出てきてしまう合法なカンニングをしてる様な状態で、御行の顔を直視出来なかった。
『み・・・、会長がどれだけ勉強に打ち込んでるかは、私は知ってます。
到底、私なんか足元に及ばないです。』
(この人の努力を知ってるだけに、本当に気まずい。)
『け、謙遜するぁ、四宮ぁ。
逆ぃに、嫌味に聞こえるぞぅ。』
『あら? おば様!
今回は、大分頑張ったんですね。』
困ったと思ってるところにタイミング良く声を掛けてきてくれたのが、柏木渚を伴った再従兄弟姪にあたる四条眞妃。
四条家と四宮家は一族関係にあるが遺恨があり、四宮かぐやに対する四条眞妃の態度は、それ以外の要素もあり棘がある。
声を掛けてくるのは非常に稀である。
ただ、かぐやは知ってる。
眞妃は根が良いので表面上だけで所謂ツンデレであり、かぐやとは双子レベルで似てる。
でなければ、「あの状況」で私を庇って泣いてなんかくれない。
───私が1番びっくりしたけど。
『あら、眞妃さん。
柏木さんもごきげんよう。
・・・そういえば、会長、紹介します。
私の「従姉妹」になる四条眞妃さんです。確か、会長と同じB組ですよね、眞妃さん?』
(助かったは、眞妃さん!)
『白銀生徒会長なら存じ上げてますわ。
ご挨拶が遅れました、四宮かぐやの「再従兄弟姪」の四条眞妃です。』
『あぁ、こちらこそ。
も、申し遅れました、生徒会長の白銀御行です。
・・・しかし、四宮の「従姉妹」とは知りませんでした。』
『・・・おば様、「従姉妹」ってどういう事です?』
『「再従兄弟姪」で紹介すると説明しても理解に時間が掛かるのから、「従姉妹」で良いじゃない。』
『続柄は正確に言わないといけないのでは?』
『正確さも時によりけりよ。
解りやすさが第一ですし、私が眞妃さんを「そう」紹介したいんです。
ダメかしら?』
『・・・なに企んでるの?』
『あぁ~、酷い。
柏木さん〜、眞妃さんがイジメる。』
(誰? 本当におば様?
別人にしか思えない。)
四条眞妃の頭脳が、今までにないかぐやの反応に黄色信号を点灯し警戒態勢に入る。
『眞妃、そんな言い方したら四宮さんに悪いわよ。』
なんで渚がおば様をイイコイイコしてるのよ?
あんた達、何時からそんなに仲良くなったの?
───それは、ちょくちょく恋愛相談し合ってるから───
『しかし、久々の1位じゃない。
オ・・・、四宮さん。』
『「かぐや」で良いですよ、眞妃さん。』
・・・なんか気持ち悪いし、調子狂うわね。しかし、コイツが夏休み前にオバ様と廊下でイチャついてた男か。
こんな目つき悪いのが好みなのね。
頭は切れるみたいだけど。
『・・・えっと、何かついてますか?』
『いえ、別に。』
じっくり品定めする眞妃の視線に、たじろぐ御行。
『でも凄いですね、かぐやさんは白銀会長と同位1位ですか。
私なんか名前も載らないのに。』
『そんな事無いですよ。
一夜漬けで覚えた部分が沢山出たから。
実力で言ったら、眞妃さんに敵わないですよ。』
渚の感想に素直に答えるかぐや。
どうにか話題を転じたい。
『おば様、それは嫌味?』
『手を抜いた、というとおかしいですけど、全力は出してないのでしょ?』
『はあぁ!? そんな訳無いでしょ!!』
『前に言ってませんでしたか?
私は敵わないなと思ってますよ。』
(さらと、スタンフォード大に皆が受けてるからと受験して合格したのは誰でしたっけ?
貴女の実力をあの時は思い知らされたわ。)
『そ、そうなのか、四宮?』
(し、四宮よりも実力があるだと!?)
『おば様、ふざけないでよ!
後、白銀会長も真に受けないで!!』
『柏木さん〜。』
わざとらしく渚に抱き着くかぐや、かぐやの頭を撫でる渚。
息の合った連携プレイである。
『かぐやさん、可哀想に。
私も眞妃はもっと実力あると思ってるけど?』
『渚、あんたまで。』
『褒められてるだから、良いじゃない。』
『かぐや様!』
『えっ!?』
四人の輪に割り込んできた声の方に四人の目線が向く。
そこに居たのは、見知らぬ3人の女子生徒だった。
『あら? 貴女達は・・・。
ごめんなさい、誰だったかしら?』
四宮かぐやは、そう応える。
興味の無い事は忘れてしまうのだ。
女子生徒達の顔が引きつり、泣き出しそうな顔になる。
当人達は相当に勇気を出して声を掛けたのだ。
『おば様に何か用かしら?』
ちょっと可哀想に思えた四条眞妃が三人とかぐやの間に、かぐやを庇う様に立つ。
御行は解らないが、眞妃やかぐやや渚は嫌という程経験のある、家柄目当てで親に言われて近付いてくる人間と警戒しての対応だ。
・・・渚は両方経験してるが。
『せぅ、先日は図書室で大変失礼しました。
この子が、かぐや様にどうしても言いたい事があると言いますので、聞いて上げて頂けますか?』
三人の内でリーダー的な子が前に立つ。
四人からの視線に萎縮してる様であり、周りからも徐々に好奇の視線が集まりだしている。
『眞妃さん、ありがとう。
大丈夫そうですから。』
『まあ、おば様が良いなら。』
微笑むかぐやに、やや不満ながら眞妃は場を譲る。
(貴女のそういう気遣いにもっと早く気づくべきだったのよね、私は。)
眞妃に感謝しつつ場を変わる。
『お話はなんですか?』
三人に正対したかぐやにリーダー的な子に促された内気そうな子が前に出る。
『先日の図書室でのご無礼、お許し下さい。
一言謝りたくて。』
『大丈夫ですよ、気にしてませんから。』
『そ、それで・・・、大変不躾なのは重々承知の上で、厚かましいお願いなのですが、私の勉強を見てくださいませんか?』
『・・・はい?』
『先日の図書室での事を見ていて、実は羨ましく・・・。
私も四宮先輩に勉強を見て欲しいと思って。
・・・駄目ですか?』
『はぁ・・・。』
予想外の申し出に戸惑うかぐや。
今までそんな事、同級生にも言われた事なかったので困惑してしまう。
『・・・軽々には答えられないから、考えさせて貰っていいかしら?』
『あっ、あぁ、はい。
お忙しいのに無理な事を言ってると承知してますので、断って頂いても。』
リーダー的な子がかぐやの困り顔を見て間に入る。
とりあえずその場は保留し後日返答する事となり、三人は自分達の教室に戻って行った。
───放課後・生徒会室───
『勉強を見て欲しいか・・・。
結構難しい事を頼まれたな、四宮。』
『困りました。
そんな事を言われるとは思いませんでしたから。』
『かぐやさん、どうしたんですか?』
やや困惑してる二人に千花が尋ねる。
テスト明けでどうしてもテスト絡みの話題になる中、流れで1年生の申し出の話となる。
かぐやは、優と千花に掲示板の前での下級生とのやり取りを説明する。
『・・・僕は、四宮先輩がいいのなら。』
『・・・教えるのはかなり負担になりませんか?』
千花の視線が刺さり顔を逸らす御行。
『その言いだした1年だけでは済まないでしょうからね。
まあ、上級生の学年トップに教えて貰うのは良い機会ですが。
・・・僕は四宮先輩に勉強見て貰って良かったですが。』
『・・・かなり危ない点数でしたけど・・・。』
『ひっ!(やっぱり、怖い。)』
笑顔だがかぐやの背中には、見えざる雷雲をまとってる様に優には感じられた。
『ですが、真面目な話。
もうすぐ、生徒会も解散ですから引き継ぎや清算業務もある中、もし引き受けるのであれば、その後にしないと大変じゃないですか?』
『そうですね。
やはり難しいですね。』
『何とかしてはやりたいが、時期がな。
俺としても四宮に負担になるのは良くないと考える。』
『・・・何でしたっけ?
有名な塾がやってる◯◯先生みたいなシステムなら、多少は勉強を見る事は出来るとは思いますが、目的はテストの点数なんですかね?』
『藤原書記、と言うと?』
『その子は「羨ましい」と言ったんですよね?』
『確かにそう言いましたね。』
『極端な言い方をすれば、「かぐやさんに構って欲しい」。
接点を作りたいだけなんじゃ?
憧れを持つ気持ちは解りますけど。』
『やはり、その可能性はありますね。
・・・そうですね、今回はお断りします。』
かぐやが引っ掛かって即答を避けたのも、それが原因である。が、しかし、事態はかぐや達の預かり知らぬところでややこしい事になっていた。
生徒会業務が終わり下足場に生徒会メンバー四人で来た時、件の女子生徒が一人でかぐや達を待っていたのだ。
『ご迷惑を掛けて申し訳ありません!』
『・・・どうしたの?
何があったのですか?』
順位を見に行った休み時間に会った時より暗い雰囲気をまとった彼女は、開口一番謝罪してきて面食らうかぐや始め一同。
事情を聞くと、あの後にクラスメイトにかぐやに勉強を見てほしいと言った事が広まり、昼休みに非難なのかやっかみなのかよく解らない事を言われ、自分達も見てほしいから代わりに頼んでだとか、収拾がつかなくなりそうなので辞退を申し出に来たとの事。
『本当に申し訳ありませんでした。』
深々と頭を下げて帰って行く女子生徒。
単に勉強を見てほしいと言っただけなのに、少し可哀想に思える。
社会人経験のあるかぐやは特に、学生時分ぐらいしか人に教えを請う事のハードルの低さは大人のそれとは桁違いだと感じてる為、不憫に思えた。
───泉岳寺別邸・かぐやの寝室
『そんな事になったんですか。』
珍しく就寝前に呼ばれて事の顛末を説明された愛は、かぐやの人気を考えればそうなるだろうなとは考えた。
『しかし、非難まがいな事を言いながら、自分達の分を頼むのは図々しいですね、その子のクラスメイトは。』
『会長も気にする必要ないと言ってくれたけど、そんな事で責められるなんて、今年の一年生はどうなのかしら?と思ってしまうは。』
『まあ、確かに。』
そう応えながら、以前から稀にあった話だけど、とは思い返す愛。
大体は今回みたいにクラスメイト同士で牽制しあって立ち消えになり、そうならなければ愛が挫折する様に仕向けたりしてきた。
千花みたいな何を考えてるか予想出来ないが、口は硬い子でもなければかぐやに近付けさせる訳にはいかない。
最も、中等部から去年暮れ近くまで「氷のかぐや姫」と言われていた様に、かぐや自身が近づけさせなかったから表面化しなかったが。
「本当に、変わられたな。」
それが愛の最近のかぐや評である。
現に、以前なら近侍と言えども使用人であるのだから、主人のかぐやに対しては立って相対するのが当たり前だったのが、今は椅子に座って紅茶とクッキーを頂きながら話を聞いているのだから。
寝室に丸テーブルと椅子を一組増やした時は、白銀御行を招いてお泊りデートをするつもりかと勘ぐったりもした。
最近のかぐやの行動力を鑑みれば十分考えられた。しかし、増やした目的は「愛の為」と言われて驚いた。
『私なんかが、いいんです?』
『愛の長時間勤務を考えれば、休憩時間を用意しなかったこれまでは、私の怠慢だわ。
この時間は私と愛以外はこの部屋には入らないし、就寝時間を延ばして私の話を聞いてれてるのだから、これぐらいさせて?』
『いやぁ・・・、ありがとうございます。』
それ以降の言葉を愛は飲み込んで、かぐやの好意に甘える事にした。
今では三日に一回は夜の女子会の様な時間があり、一緒に寝る時もある。
時より見せるかぐやの顔は、自分が姉の筈なのにかぐやが姉に感じる時もある。
当の白銀かぐやは、個人事業主でフリーランスの様なもので、バイト等を雇う時もあり自分の仕事感覚と他者の感覚の違いと、各種法令に悩まされた時期がある。
世間知らずだったので、先輩や夫の御行にアドバイスを貰い労働環境を整える努力に努める様になった。
その感覚から見た泉岳寺別邸の労働環境は青ざめるレベルだった。
『で、いかがしますか?』
『・・・勉強を見てもいいかなとは思ってます。ただ、時期とやり方を考えると。
どうするのが良いのかしら。』
本音を言うと図々しい事を言った子達を指導しようと考えている。
「四宮流」で、ある。
『かぐや様の思う様にされてみてはどうですか?』
愛そういって微笑む。
『・・・うん、そうね。
ありがとう。
やっぱり、愛に相談してよかった。』
『長い付き合いですから。』
一年生達は肝を冷やすかな?とは考える早坂愛だった。
───一年生の申し出の翌日。
その日、始業前に一年生のB組を訪れたかぐやは、騒然となるクラス内の件の女子生徒に頼まれたからと前置きして、今日から三日間だけ放課後に希望者の勉強を見ると告げた。
休み時間には他のクラスにも伝わり、多数の希望者がかぐやが教師に使用許可を取って準備した予備の空き教室に集まった。しかし、教室にいたのは髪を下ろした四宮かぐや───「氷のかぐや姫」だった。
参加者は中等部二年次に上級生の姿として見た事のある者が殆ど。
憧れの対象と「かぐや様」と呼ぶ者でも正対すれば萎縮する。
『何をしているの?
後がつかえるから入りなさい。』
入口で一瞬の忘我から我に戻った者は急いでい空いた席に向かうが、この段階で教室に入れず諦めた野次馬的な参加者は半数は去った。
臨時勉強会には千花が手伝いで参加したが、かぐやの指導方法は優にした指導と同じだった。
各机にはリラックス効果のあるアロマキャンドル(2時間ほどで尽きる)が灯され、乾物の小魚を噛みながらひたすらドリルを解かせ、解らない箇所は質問に答える方式で、少しの私語も認めず厳しく接した。
16:00から始めて、18:30まで休み無しで参加者はへとへとになって帰路に着く。
二人だけになった教室で片付けをしながら千花が尋ねる。
『かぐやさん、石上君にも同じ教え方したんですか?』
『はい。
石神君も最初は疲れ気味でしたけど、やり切りましたよ。』
『私は、見てるだけでしんどかったです。』
『あらあら。
石上君にはもっと厳しくしましたし、うちの家は同じやり方でしたよ。
・・・体罰付きでしたから。』
『えっ!?』
『うちの家は、出来なければ手の甲をムチで打たれるんです。
小さい頃からそれが当たり前でしたから・・・。』
『それで、開始の合図が「ムチで教壇を叩く」だったんですか?』
暫く見てなかった「氷のかぐや姫」を前面に出した指導方法は、鬼教官と言っていい怖さがあり、おそるおそる聞いてみる。
『実際に体を叩かれるより、音だけで叩かれるところを想像させた方が身が入りますから。
明日は今日の半分も来てくれれば大したものです。』
『それじゃ、かぐやさんが悪く言われてしまいますよ。』
『構いませんよ。
今日のやり方は先生方や会長にも説明して了解を得てますから。』
不意に背後からかぐやは千花に抱きしめられた。
『ど、どうしたんです、いきなり。』
『頼んで来たのはあの子達なのに、かぐやさんが嫌な思いするのは、私は嫌なんです。』
『千花さん・・・。』
『さあ、片付けも終わりましたから帰りましょう。』
『そうね。』
空き教室の戸締まりをして教師に鍵を返し、二人も帰路に着く。
二日目、三日目と参加者は減り、最後まで残ったのは四人。
最終日は髪を束ねた今のかぐやになり、一人一人個別に二日間のドリル等の誤正解を見ながら、それぞれの弱点の把握と対策の相談をして臨時勉強会は終わった。
最初に申し出た三人は最後まで残り、最後は半泣き状態だった。
彼女達以外は風紀委員の伊井野ミコが残った。
他は音を上げて逃げ出したのだ。
『ありがとうございました。』
四人に頭を下げられて、こちらがかしこまってしまう。
少しでも貴方達の助けになればいいのだけど・・・。
『申し訳ありません!』
『『はい?』』
三人組を見送った後に、片付けを手伝ってくれた伊井野ミコから突然の謝罪をされて戸惑うかぐやと千花。
『四宮先輩が私達の勉強を見てくれるとの事で、同級生達が迷惑を掛けないかと思い参加したのですが、初日の「ムチ」で私達を虐めたいだけじゃないかと邪推してしまって。
ですが、今日はしっかり指導くださり、自分の苦手分野も改めて理解できて勉強になりました。
ありがとうございます。』
『ミコちゃん・・・。
偉いね、自分から謝れるなんて。』
『そんな、私なんか。
憧れの先輩お二人に指導して頂いて感無量です。』
『・・・。』
『・・・失礼、ですよね私は?』
『あっ、いえっ、そんな事無いですよ。
貴女の熱意は素晴らしいわ。』
適当な事を言って受け流したが、かぐやは衝撃というか忘れていた事実を思い出す───。
「・・・伊井野さん、元はこのサイズだったのよね。
大学生からお酒を飲み始めて酒乱の気が露呈して、お酒の当てや締めに油ものやラーメン食べて、みるみる大きくなって・・・。
石上君が小言言いながら甘やかすから、ドンドン歯止めが効かなくて、気が付いたら「あのサイズ」になってたのよね・・・。
「アレ」に見慣れてたから、今まで伊井野さんだと気が付かなかった・・・。
黄色の腕章していたけど、他の風紀委員の子だと思ってたから・・・。」
などと、伊井野ミコ本人には聞かせられない・気付かせてはいけない事が頭を駆け巡っていた。
『四宮先輩?』
『かぐやさん?』
二人に声を掛けられて現実に戻る、かぐや。
『ごめんなさい、ちょっと考え事を、ね。
時間だから帰りましょう。』
本当に、人って変わるわよね。
ミコを見ながら、そう考えるかぐやだった。
───夜・かぐやの寝室
『残ったのは四人ですか。
むしろ、多かったぐらいですね。』
『・・・そう言われると、凄いスパルタみたいに聞こえるわね。
実際、そうみたいだけど・・・。
それに耐えさせられた私や貴女はどうなるのかしら・・・。』
『他の子は環境が違いますからね。
・・・私もクラスメイトと話してても時折そう感じますよ。』
『ため息しか出ない現実ね。』
今宵の早坂愛と二人だけの女子会は少し暗い話になっていた。
昼間の出来事だけでなく、最近食べ過ぎと案件が多く運動不足気味である。
為に、ヘルスメーターで嫌な現実を突き付けられて二人とも気が重く、今宵はお茶請け無しにしたのだ。
『サイクリングでもした方が良いかしら?
30キロも走れば1000カロリーぐらいは。』
『会長さん誘って、やってみますか?』
『多分、無理ね。
秋は稼げるからバイト増やすと言ってたから。』
『女二人でツーリングします?』
『そのまま、喫茶店に直行しそうな自分が見えるわ。』
『秋は新作増えますからね。』
実りはないが他愛のない雑談をしながら夜は更けていく。
愛には夏までは考えられない心落ち着く時間だ。
嫌な仕事は先に済ませてるので、かぐやとゆっくりくつろげるかけがえない時間になっている。
─────つづく