白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜 作:チャリンコ2025
───日曜日早朝、泉岳寺別邸
いつも通りの週末───、
の筈が、早坂愛は四宮かぐやの予想外の行動に面食らっていた。
九月以降のいつも週末なら、毎朝の日課のかぐやの料理が終われば朝食を取り、身支度を終えて愛と二人で東京駅から新幹線で京都にむかう───、
筈だったのが、今朝は違った。
朝食作りから自室に戻ったかぐやは赤のライダースーツに着替えており、外出の身支度の手伝いに来た愛に自分と同じく赤のライダースーツに着替える様に渡してきたのだ。
何時買ったんだと問いただしたいが、唐突な予想外の展開に愛は頭が回らない。
『ほら、早く着替えて。』
『・・・かぐや様、新幹線は?』
『いいから、早く早く。』
急かされて慌てて着替え直した愛を待っていたのは、玄関ホール前のロータリーに用意されていた2台のシャドウ400と、かぐやだった。
『じゃあ皆、行ってくるから。
後はよろしくね。
愛、行くわよ。』
そういうが早いかかぐやはバイクのエンジンを掛けて、走り始めた。
他の使用人達は笑顔でかぐやを見送り、愛には同情の眼差しを向ける。
全員代わりたいとは露程も思わない。
頭の理解が現実に追い付くよりかぐやを優先しないとと、混乱しながら残ったバイクに跨り愛はかぐやを追い掛ける。
かぐやは免許交付されて一週間しか経ってないのに!
「このまま、何処に行くの?」
愛はかぐやの考えを読む。
───東名で京都まで───
イヤ、無理だ。
免許を取って間もないかぐやには高速道路は早過ぎるし危険だ。
───なら、近所?
白銀会長さんの家が可能性高くなるけど、ライダースーツに着替えてまでの距離じゃない。
昨日、生徒会で免許を自慢したと言ってたから晴れ姿を会長さんに見せに行くの?
等と考えていたら、かぐやのシャドウ400は首都高に上がた!
『イヤイヤイヤ!?
高速道路はまだ早いですって!!?』
我が目を疑いながら、かぐやを追って愛も首都高に乗る。
愛の後方に距離を取った2台のバイクも、戸惑いつつ愛に続いて首都高に乗る。
が、愛と後続二台は次第に困惑から確信に変わる。
『『『中央道に行く気だ!』』』
だが───
『かぐや様!
飛ばしすぎです!!
それは免許取り立ての人間の走りじゃない!!!』
ヘルメットの中で一人突っ込む愛を気にする事もない様に見えて、かぐやはサイドミラーで愛のシャドウ400を確認しながら速度を合わせてる。
───さて、この後はどうしましょう?
富士吉田に折れて河口湖に行って富士山眺め様かしら?
その後は浜名湖でウナギでも食べようかしら?
それとも塩尻から上諏訪温泉も良いわね。
等と、旅慣れた人間の気ままな風来旅の気分に、かぐやはなっていた。
「大雑把なスケジュール組んで、後は気分次第で寄り道を楽しむのが旅の醍醐味」というのがかぐやの旅の楽しみ方。
旅に関しては普段と行動パターンが変わるかぐやは、スケジュール第一の白銀御行とこの部分だけは相性が悪い。
気ままに気分で行動する、この部分は藤原千花と相性が良いので、アメリカから日本に帰国したら二人で勝手に遊びに行ったりした。
置いていかれた御行が不機嫌になって、かぐやがご機嫌をとって仲直りまでがセットになったが。
御行は、帰りが遅い飼い主に不貞腐れた飼い猫と同じ扱いをされてる事を理解してない。
───藤原千花に振り回されないか?
スタンフォード大や他国の友人達の方に余程振り回されるので、御行もかぐやも、眞妃ですら、藤原千花ぐらいは何とも思わなくなっていた。
帝は、姉並みに行動が理解できない人間が増えたと「100年の恋も冷める」現実に苦悶したが。
───同時刻・四宮雲鷹
かぐやにバイクをくれてやったところ、同じシャドウ400を別に購入(支払いはクレカで雲鷹に請求が来る)した為、胸騒ぎがしたので念の為に貼り付けた見張り兼かぐやの護衛から報告を受けた四宮雲鷹は、ホットラインで待機させていたある人物に連絡を取った。
『・・・、聞こえてるか?』
『はい。』
『こっちから焼津辺りまでは付ける。
・・・筈だったんだが、東名じゃなくて中央道に周りやがった。
諏訪辺りで引き継げ。』
『えっ!?』
『裏をかかれた。
・・・お前の腕ならなんとかなるだろう。
じゃじゃ馬を頼む。』
『・・・中央道ですか・・・、懐かしいですね。』
『・・・だな。
昔の血が騒ぎそうだ。』
『・・・では、後ほど。』
『・・・「頼む」。』
電話が切れたのを確認した「早坂奈央」。
『はあ・・・、中央道って。』
電話の主は表富士を眺めながら、ため息をつく。
東名を進んでくると予想していただけに山越えルートは面倒なんだけど、と。
先程まで談笑しながら一緒に表富士を眺めていたバイカー達と別れ、止めていたヤマハのドラッグスターに跨りエンジンを掛ける。
今日は黒のライダースーツという奈央としては、珍しい格好だ。
『少し、ヤンチャが過ぎるんじゃありません!』
軽快に山梨に向けて走り出す奈央。
しかし、この直後にかぐやは富士吉田に進路を変えた。
─────
『せめて!
行き先ぐらい言ってください!!』
富士吉田の道の駅で休憩する事にしたかぐやは、トイレから出てきたところを追い掛けて来た愛に捕まり半泣きの絶叫の抗議を受けていた。
早坂愛は去年免許を取ってるがあくまで「乗れる」程度であり、高速道路に乗ったのは二回しかない。
それも一区間だけ。
そんな愛を、免許取り立てのかぐやが置き去りにしそうなぐらい飛ばすから追いかけるだけでも必死なのに、トラック追い越しまでするから膝が震えながら必死にかぐやに食らいついてきた為、感情が爆発したのだ。
当のかぐやはライダースーツの胸元を開け涼んでいた。
流石に二桁に近い運転歴かつアメリカで運転経験があるから、コレぐらいは大した事はない。
『ごめんなさい。
気分が高揚しちゃって。』
『どれだけ私が怖い思いしたか判ってるんですか!?
こんな事になるなら教えなければよかった!』
『ちょっと、愛。
落ち着いて!』
両手を合わせて謝るかぐやだったが、感極まった愛は泣き出してしまった。
遠くから見てる雲鷹の見張り兼護衛も愛に同情の眼差しを向ける。
護衛達から見ても、あんな躊躇なくトラックを追い越していくとは思わず、バイクが無人で走ってるじゃないかと疑う位だった。
とても、免許取り立ての人間の腕ではないと思った。
早坂愛が泣き出してかぐやが慰めるのに時間がかかったおかげで「本命」が到着し、見張り兼護衛達は「本命」を見た瞬間に、触らぬ神に祟り無しと引き継いでサービスエリアに逃げる様に入って行った。
受け継いだ「本命」早坂奈央がかぐや達に大股に近付いていく。
傍目には高校生の娘がいる様には見えない鍛えられた身体をライダースーツに包み、ヘルメットを右手に髪を振り乱しながら同性からも羨望の眼差しを向けられそうだが、表情は息を呑む程の眼光の鋭さで眉間に雷雲が漂っているかの様な憤怒の表情である。
『かぐや様。』
努めて冷静にいつもの声のトーンで、四宮かぐやに話し掛ける奈央。
声の主が早坂奈央と気付いたかぐやが愛をなだめながら奈央に顔を向ける。
『ああ、奈央さぁ・・・。』
奈央の顔を見た瞬間、かぐやは言葉を失い血の気が引く。
不味い!
これは怒られる!!
、と。
かぐやは幼い頃は早坂奈央が乳母として世話をしていたが、一度だけ物凄く怒られた事がある。
イヤイヤ期に入ったかぐやが些細な事で怒って玩具を愛に投げ付けた事があったが、投げた玩具が愛の目に当たりそうになった時に猛烈に怒られた。
『人に物を投げつけるとは、どういう了見ですか!』と。
普段は乳母として優しさが前面に出ていたが、この時ばかりは別人かと思える程に怖かった。
それ以来、かぐやは奈央を「絶対怒らせてはいけない人」と認識している。
久々に冷や汗が背筋を走る感覚に、後は謝る以外にかぐやに選択肢はなかった。
かぐやの10分に渡る反省と謝罪と、愛が泣き止んだ事でとりあえず奈央に許されて、その後は奈央の先導の元に安全運転で、三人は河口湖・上諏訪温泉を周り岐阜で休憩を入れた後、夕方近くに京都本宅に到着した。
モヤモヤした時は走るに限るなとかぐやは実感していた。
早坂奈央に大目玉を食らうとは想像してなかったが・・・。
道中、奈央がナンパされたり、その縁でバイククラブの集団と一緒に走ったり、なかなかに楽しい旅とはなったが。
奈央はナンパされた事で上機嫌となり、実娘の愛は少し呆れていたが、気持ちは良く分かるかぐやだった。
ナンパされた事ではなく、魅力的に見られた事が嬉しいのだ。
その頃には態度が軟化した奈央と愛と三人で久々に親子の様な楽しい時間も過ごせた。
尚、バイクで京都に来た事と道中の出来事を聞いた父親の四宮雁庵はかぐやにしばらく高速道路は走るなと念を押し、仕事で京都にいなかった早坂正人は夜に娘の愛に慰労の電話を入れて、愛が感極まってまた泣き出すハプニングがあった。
報告を受けた兄の四宮黄光や雲鷹ですら、あまりに無謀と写ったかぐやの行動に苦言を呈す程だった。
黄光は気付いてなかったが、「兄として妹が心配」と言う態度に、かぐやや愛、奈央や正人ですら内心「呆れ半分の失笑」状態だった。
しかし、バイクの運転経験がある雲鷹と奈央は「かぐやの運転」に強烈な違和感を覚える。
特に奈央は、初心者の筈のかぐやがトラックやバイクのドライバー達と身振り手振りで意思疎通が出来てる事を間近に見て、自分の目を疑った。
免許取り立ての人間には到底思えないかぐやの運転は、最低でも数年運転した事がなければ出来ない芸当だと。
───夜・本宅のかぐやの寝室
『ごめんなさい、私が調子に乗りすぎて、愛を泣かせてしまって。』
『私こそ、かぐや様にあんな口をきいてしまって。』
敷かれた布団の上で手をついて土下座し合ってる様は、喧嘩後の仲直りのカップルみたいな状況にかぐやと愛はなっていた。
『ですが・・・、かぐや様は何処であんな運転技術を得たんですか?』
『あ、あれは、ほら、動画サイトとかで見たり、本を読んだりしたから。』
あやふやな説明しかできないかぐやは、実は自分はタイムスリップしてきた未来のかぐやだと言いたくなったが、今言ってもややこしくなるだけだから止めておこうと考えた。
話したところで愛を混乱させるだけであろうから。
歯切れの悪いかぐやに愛も疑念を抱くが、「出来るかなと思ったら出来てしまったの」と言い切られると追及する材料がなく、今後は控えてくださいと釘を刺すぐらいしか出来なかった。
かぐやに約束させても破られるだろうなと愛は考えたが、止めて貰わないと命が幾つあっても足りないと心底思っている。
翌日、朝食を作り終えたかぐやはバイクを乗って帰らないといけないと、先週の父親の雁庵との外出の約束を延期して貰って京都を後にした。
雁庵自体はすっかり忘れていたが、バイクで京都まで来た理由は何割かは約束の延期の口実にするのが目的だったりもする。
直前で調整がつかない部分が出てしまったのだ。
かぐやの見通しが甘かったのだ。
飛ばしてスッキリしたかったがかぐやの本音だが。
『判ってるな、かぐや?』
『事故を起こすなよ。』
『護衛(見張り)を付けます。』
出発前、雁庵・黄光から念を押され、念の為にと護衛(早坂奈央)が早坂正人によって手配されたが、高速道路を走らず下道を走っては時間がかかり過ぎるので、三人は東名高速道路で東京に帰った。
父・雁庵は解かるが、長兄・黄光は事故を起こすなら諸手を挙げて喜びそうなものなのに、意外に真剣に心配してる様な素振りに悪寒が走るかぐやや正人達だった。
かぐや達を別邸まで送り届けた後、早坂奈央はかぐやの直ぐ上の兄の雲鷹に報告の為に会っていた。
『かぐやにバイクをやったのは、乗れねえと考えたからだ。
アイツの性格と、余程の物好きでなければ乗る訳がないとな。
結果はコレだ。』
『かぐや様は何処かで数年間の乗車経験があります。
そうでなければ、説明がつきません。』
『だが、そんな素振りは今までない。
学校か家かの日々で、少なくともバイクの練習をした痕跡はない。』
『それ故に、「説明」がつかないのです。』
極めて真面目で真剣な話をしてるが、絵面はヘッドの奈央に手下の雲鷹が報告をしてる様な状態である。
場所は古馴染みのバーで、店の奥の革張りのヴィンセント・ソファに、ライダースーツの奈央が髪を解き胸元を開けて頬杖ついて足を組み、日頃からは想像できない態度で雲鷹に対している。
横のソファに座る雲鷹は、浅く腰掛け畏まった様に見える態度で酒を飲んでいる。
コレだけを見れば立場が逆転してる様だが、昔は雲鷹は生真面目で奈央の尻に敷かれた状態だった。
二人の関係はある事が原因で破綻したが、今は懐かしい頃に一時的に戻った様になっている。
『ともかく、ご苦労だった。
ゆっくりしてくれ。』
そういうと飲みかけの酒を置いてバーを出ていく雲鷹。
奈央はそれを目で見送る。
今の二人はそれしかしない・出来ない関係になってしまった。
かぐやと愛にはそんな事にならない事を願うが、早坂家の人間としてのイロハを愛に教え込んだのは奈央自身だ。
愛が心底嫌悪してる任務をしてる事も承知してる。
愛は何も言わないが、奈央自身も嫌悪した任務だから娘の事は解るつもりだ。
『・・・因果なものね。
私自身も・・・。』
結局、奈央は深酒してバーで潰れた。