───前回までのあらすじ
田沼翼と別れ話に発展した柏木渚は、龍珠桃まで巻き込む事態となり更にややこしくなる。
───金曜日放課後・生徒会室
『・・・渚。』
『翼・・・。』
そう言ったきり固まってしまった田沼翼と柏木渚の二人。
片や、自分から別れを切り出したが、連日石上優に泣き言の愚痴を聞いてもらい未練タラタラの翼。
片や、突然の別れ話を拒否したが、始めての恋愛でどうしていいか解らず迷走する渚。
『さてと、子安先輩。
物販物のサンプルはこれだけでしょうか?』
『えっ、ああっ、持ってきたのは煎餅と饅頭だけで、他のグッズ類は指定された教室に運んで貰ってます。』
『なら、確認に行きましょう。
皆も、見てみないか?』
瞬間、渚と翼以外は白銀御行の意図を察する。
───二人っきりにしよう。
言外の言葉を理解した全員が小さく頷く。
『じゃあ、こっちだよ。
案内するね。』
『先輩、お願いします。』
『(面白そうだから、私達も行くか。)』
『(・・・うん。)』
子安つばめを先頭に生徒会の面々に、今回の騒動に関わりの深い四条眞妃は龍珠桃が連れ出し、生徒会室は渚と翼の二人だけになった。
二人共、御行達に付いて行きたい気持ちがあったが、このままではいけないという思いが踏み止まらせた。
『・・・。』
『・・・。』
気不味い沈黙が室内を満たす中、生徒会室の外では事情を知り巻き込まれてる面々が扉の隙間から室内の様子を窺い、事態が理解できないつばめは優と御行から小声で説明を受けて、予想外の事に声に出さない様にしながら驚愕していた。
『(そ、そんな事になってたの!?)』
『(はい。
ですので、みんな気になってるんです。
平穏な日々が戻るかどうか・・・。)』
『(確かにね・・・。)』
事態が飲み込めたつばめも参加して様子を見守る中、事態が動く。
『・・・翼・・・。』
『・・・渚、話してもいい?』
『・・・何でそんな聞き方するの?』
『渚は、僕と目を合わせてくれなかったじゃない。
何度も話し掛けたかったけど、直ぐ居なくなっちゃうし・・・。』
『それは、翼の方じゃない?
私が見てもこっちを見てくれないし、何時も何処かに行ってしまうし・・・。』
『・・・僕達、何やってるんだろうね。
・・・座らない?』
『・・・うん。』
二人は隣り合ってソファに腰を下ろす。
『・・・久々、だね。』
『・・・もう何年も一緒に居なかったみたいに感じる。』
『渚、覚えてる?
始めて喧嘩した事?』
『・・・この前が最初でしょ?
今も続いてるけど・・・。』
『・・・それじゃなくて、僕が渚の電話に出れなくて、渚が心配して家に来た日だよ。』
『・・・あれは、翼が風邪気味って言ってたから心配して行っただけだし、借りてたDVD返したかったのもあったから・・・。
あの時、喧嘩なんかした?』
『・・・じゃあ、デートの帰り道に少しでも長く居たかったから遠回りの道を選んだら、星空が綺麗で僕が星座の話をしたら、星を間違えてるって渚に言われた事は?』
『オリオン座のペテルギウスをリゲルと間違えたから指摘したんじゃない?』
『そこからテストの点数の話になったじゃない。』
『・・・そうだったかしら?』
漏れ聞こえて二人の話を聞いてる廊下のギャラリー陣に動揺が広がる。
『アイツ、失点多くないか?』
全員を代表して桃が聞かせる訳にはいかないが的確なツッコミを入れ、かぐやや千花は苦笑いを浮かべる。
そもそも論で言えば、折角のチャンスに前の喧嘩の話をしても何のプラスにもならないだろうに・・・。
『と、ともかく!
僕は一人になって、改めて渚の大切さが解ったんだ。
・・・渚が横にいない事が辛くて、それでも耐えたけど、やっぱり・・・。
この間は酷い事言って、ごめん!!』
『・・・翼。』
優に愚痴を垂れ流していた裏事情を知る千花・ミコ・優は、「どの口が言ってるだ?」との共通の思いを抱く。
『・・・私も、翼が居なくて寂しくて・・・。
部室に行っても、誰も居ないから何も手に付かなくて・・・。』
『・・・あんた、活動方針とかは最初だけで、後は全部私が計画立てたじゃない。
翼君と二人で頷くだけで。』
扉越しの眞妃の小声のツッコミに御行達は口が引きつる。
活動計画や予算案等の部活関係の書類を見ていた御行・かぐや・優は、ボランティア部が夏休み明けからしっかり活動計画に変わった事に納得する。
『渚!』
『翼!』
『もう離さない。
君がいないと、僕はダメなんだ!』
『私も!
私も、翼じゃなきゃイヤなの!!』
ギャラリーの冷ややかな反応など露知らず、二人は勝手に盛り上がり濃厚なラブシーンを押っ始める。
それと同時に出入口の扉は締められ、ギャラリー達は気疲れと安堵で冷たい床に腰を下ろす。
『何とか鞘に収まったみたいだな、あの二人。
(これで最悪の空気で文化祭に入らなくて済みそうだ。)』
『二人が素直にならないのが悪いんです。
(このまま行ったら、御行さんが告白してくれないかも知れなかったから、良かった・・・。)』
『ですけど、神聖な生徒会室で破廉恥です!
(ちょっと羨ましい。)』
『まあまあ、ミコちゃん。
これ以上関わると碌な事がないから。』
『藤原先輩・・・。』
「君に言う権利は無いぞ。」と千花とミコ以外の生徒会の面々は思うが、当然口には出さない。
『だけど、生徒会も大変だね。
サンプルのお饅頭、食べる。
感想も聞きたいし。』
『すいません、頂きます。』
『四条も食べろよ。』
『・・・ありがとう。』
泣きそうな顔で俯いてる眞妃に桃が声を掛けて肩を抱く。
突然の事に驚く眞妃だが、桃の横顔を見るとザワザワしていた心が落ち着く様な安堵感が得られ、隣にはかぐやも居る。
自分は一人ではなく慰めてくれる友人達がいる事に、涙が一雫こぼれて桃から貰った饅頭に掛かってしまったが、それを一息に食べて眞妃の中で何かが少し吹っ切れた気持ちになった。
即席の試食会は、生徒会室の二人の事など忘れた様に和やかな空気になる。
『ところで会長。
この後どうします?』
『藤原書記は何か要件はあるか?
藤原書記以外も、どうだ?』
『最大の要件はアレですけど、今は入れませんからね。』
そう言って、かぐやは生徒会室の扉を見る。
今入っていくのは少し気まずいしいけずだが、他でやって欲しいと言う気持ちもある。
何より、御行とかぐやの鞄が室内に置いたままなのだ。
『そうだな・・・、十分時間も空けた事だし、もういいだろう?』
そう言って立ち上がった御行に合わせる様に全員が立ち上がった時、唐突に生徒会室の扉が勢いよく開かれた。
『もう翼の事なんか知らない!』
扉が開かれたのと同じぐらいの勢いで渚が飛び出し廊下を駆けていく。
『待って! 渚!!』
続いて翼も飛び出し渚の後を追って廊下を駆けていく。
残された一同は反応する事も出来ず、二人を見送るしかなかった・・・。
『・・・まだ、続けるの?』
眞妃の独語が、その場の全員の気持ちを代弁していた。
その後、二人は仲直りして週末にはメチャクチャ◯◯◯した。
─────つづく