───前回までのあらすじ
柏木渚と田沼翼の喧嘩は漸く和解したかに見えたが、結局最後まで周りを振り回す事になった。
───土曜日、午前中の校舎屋上
『しっかし、精が出るね。』
『龍珠こそ、珍しいじゃないか?
土曜日に学校なんて。』
『仕方ないだろう?
部長やってる以上、顔出さない訳にいかないのさ。
それに、私らだけじゃないだろう?』
『まあ、殆どのクラスと部の人間が出てきてるな。』
『恒例の生徒会長の出し物は、今年は龍か?』
『ああ、あまり詳細に仕上げるのは時間と予算の問題があるから、宝玉を守る様に戸愚呂を巻いてる姿にした。
定番だろ?』
談笑しながら龍珠桃は愛用の寝袋に横になり、白銀御行の作業を眺めていた。
正直、桃は家業の為に学校にいい思い出はあまりない。
去年の文化祭は、生徒総会での騒動が尾を引いて一人だった。
去年だけでなくそれまでも殆ど一人で学校行事は過ごすか、休むのが常だった。
最も、去年は借りのある先輩達と目の前の奴のおかげで、いつもとは違う文化祭を経験できたが・・・。
『さてと、大体出来たな。
龍珠、このロープの端を持ってくれないか?』
『何だ、これ?』
『確率は低いが雨が降らない訳じゃないからな、目隠しを兼ねてシートを掛けておく。』
『分割して作って、直前に組み立てたらダメなのか?
階段の横にスペースあったろ?』
『そうしたいのは山々だが、形が歪になるんだ。
しっかり持っててくれ。
それっ!』
御行がブルーシートを被せて、シートの端に括ったロープを出し物の土台に固定していく。
『手際のいいこった。』
『バイトで鍛えられた。
龍珠もやってみるか?』
『柄じゃないよ。』
『そうか。
ところで龍珠、手伝って欲しい事があるんだがな。』
『・・・嫌だって言ったら?』
『薄情な奴だな。』
『お前の頼み事は、厄介事の大変事と相場が決まってるからな。
・・・聞くだけ聞いてやるよ。』
『そうか、実はな───。』
───月曜日、二年A組
四宮かぐやのクラスはコスプレ喫茶と決まったが、一部男子が悪ノリで「女装」して参加すると言い出して紛糾した。
『接客は女子で、男子は裏方と決まったじゃない!?』
『不公平だ!
男だからって理由で力仕事が自動で振られるのは、おかしい!!』
『コスプレがコンセプトだけど、「非日常感を味わってもらう」のもコンセプトなのよ?
女装は「非日常感」とかけ離れてるじゃない!?』
『普段しない格好をするからコスプレなんだろう!?
女装は日頃からしないだろう!』
単純に男子の一部は力仕事をボイコットしたいだけなのだが、その口実としての女装は方便でコスプレ喫茶が女子主導で決まった事への意趣返しでもある。
───女子達にもっと露出度の高いコスプレをして欲しいという下心もあったから賛成した経緯もあったが・・・。
喧々諤々の言い合いの末に作業進捗が遅れる事が懸念された結果、男子の一部が女装コスプレで参加する事が認められたが、意外に参加男子達が女装が似合う事に女子側の嫉妬心を燃え上がらせたが、ここで問題が持ち上がった。
給仕役の生徒のコーヒーや紅茶の淹れ方の技術格差がより顕著に出てしまった。
経験した事のある四宮かぐやが客から指摘された、『淹れ方が雑』という問題が男女間の対立で表面化してしまい、文化祭準備と並行して給仕各人への淹れ方指南も始まってしまった。
その講師にされたのが、早坂愛とかぐや達だった。
『何でこんな事に・・・。』
『私はともかく、かぐや様は断っても良かったのでは?』
『そのつもりだったけど、男の子達のあの手つきと手際を見たら、黙ってられなくて・・・。』
『・・・茶葉やコーヒー豆が飛び散ってましたからね。』
『聞けばドリップパックは経験あるけど飲む時はスティックタイプが殆どという話だから、仕方ないわね。
かく言う私も、去年まで似たようなものだったけど。』
『かぐや様から淹れ方を教えて欲しいと言われた時は驚きましたが。』
『藤原さんがコーヒーの淹れ方が上手だったけど、不在な時に会長にコーヒーが用意できなくなってしまうから、せめて紅茶でもと毎日淹れてたらこうなってしまっただけなんだけど。』
『・・・。』
かぐやがこっそり練習していた事を知ってる愛は、私に隠しても意味が無いのにとは思う。
『・・・ただ、それはそれとして、アレには何か納得いかないは。』
『・・・まあ、小柄で以前から女子同士では冗談で似合いそうだと話は出てましたけど。』
『そうなの?』
『あくまで冗談の範囲内でしたが、本当に似合うとは思いませんでしたが。
・・・本人達も嫌々だったのが途中から前のめりでしたし・・・。』
『・・・態々着せてみたがるあの子達もあの子達だけど、その変身させた本人達が一番驚いていたみたいだけど。』
方便だった女装は文化祭後にハマる男子が出て、まことしやかな噂ではカップルになった男子達がいるとか・・・。
この時、白銀御行はバルーンアートに挫折しかけて藤原千花にドン引きされ、かぐやと愛は淹れ方指南で多忙となり、一年生の石上優と伊井野ミコはA・B組合同のオバケ屋敷製作や文化祭実行委員会で同じく多忙だったが、優とミコは友人の知られざる一面に衝撃を受けていた。
文化祭実行委員会メンバーで優の良き先輩である三年生の風野と、風紀委員でミコの親友の一年生の大仏こばちが、熱烈なキスしているところを優とミコは目撃して固まっていた。
───つづく