白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜 作:チャリンコ2025
───翌日、生徒会室上の秘密部屋
白銀御行は四宮かぐやに投げ飛ばされていた。
口実は護身術伝授───
に、かこつけた、「四宮かぐやの知らぬ間に四条眞妃とライン交換した事」に対するお仕置きだった。
アメリカ留学中に必要性から有段者のかぐやから御行は護身術を習っていたが、アメリカでも御行の優しさは勘違いされやすく余計な虫が湧いてくるのだが、御行の人の良い(優柔不断な)態度が余計相手を増長させて、虫を追い払った後で御行にかぐやがケジメ(折檻)を付けて仲直りが二人のルーティーンになっていた。
かぐやにヤキモチを焼かれて内心喜ぶ御行もタチが悪いが。
実際問題、来年の「事件」の際に少しでも御行が怪我をしなくて済む可能性を上げておく必要もあり、今の内に鍛えておく必要もあった。
───八割方、かぐやの鬱憤晴らしだが。
『おっ、俺は初心者だぞ?
いきなり投げ飛ばすな!』
『何言ってるんですか?
暴漢がこっちの都合に合わせてくれますか?』
絶対零度の氷のかぐや姫の態度に怯む御行。
このところ、優しかっただけに御行には余計にキツイ。
『大体、なんで急に護身術なんだ!?』
『覚えて損にはなりませんよ〜、会長〜。』
凄みのある笑顔が御行に有無を言わせぬ空気で追い詰める。
壁に簡易防音処理に床にカーペットを敷き詰めただけ(早坂愛に頼めないのでかぐや自身がこっそりDYIした)の生徒会室上の秘密部屋は、練習場としてはまあまあな広さがあったので、体操着に着替えた(御行は強制された)二人は練習をしていた。
『会長、体硬いですよ。
手順と瞬発力が大事なんですから。
決まった形に持ち込んで、こっちのペースに相手を嵌めるんです。』
咄嗟に「普段のお前だな、四宮。」と言いそうになり、顔を背ける御行。
───言ったら殺される。
そう確信する御行だった。
『四宮、すまんがそろそろ生徒会室に戻らないと・・・。』
『お待ちなさい、まだ終わってませんよ。』
階段に逃げ様とする御行の襟首を後ろから掴む、かぐや。
そのまま背負い投げの体制に入ろうとして御行は慌てる。
『いやぁ、もう基本は解ったからぁ!
これ以上はぁ!!』
『私は!
会長に怪我とかされたくないんです!!』
『練習で怪我するっつうの!』
─────一方、生徒会室
『石上、会長と四宮先輩は?』
『二階でデート中。』
そう言いながら天井を指差す石上優。
激しい音と僅かな振動が伝わってくる。
今日の業務の書類を準備しながら伊井野ミコは、静かになった天井を見つめる。
『正直、意外だな〜。』
『何が、だ?』
『四宮先輩って中等部の時に何回か見かけたけど近寄りがたい雰囲気だったわ。
高等部で会った時は親しみやすい雰囲気になって、よく白銀会長と連れ立って歩いてたから。
私は一年ズレてるからその間に何があったか知らないけど、二人はお似合いだよね。』
『・・・俺も伊井野と一緒で詳しくは知らないけど、お似合いってところは同意するな。』
『色々あったんでしょうね。
藤原先輩も交えて。』
『二人の普段を知ってるだけにな。』
『毎日激しいよね、二人とも。』
『最近、特にな。』
『おい石上、何勝手な事言ってる?』
『あ〜ら、伊井野さん、どういう意味かしら?
「毎日激しい」って?
石上君も伊井野さんも稽古つけましょうか?』
いないと思って二人とも好きに言ってたので、白銀と四宮からの猛烈な圧に晒されて冷や汗が出る。
『嫌だな、会長。
四宮先輩と仕事してたんでしょ?』
『そ、そうですそうです。
毎日二人は大変だなって石上と話していただけで。』
作り笑顔と適当な言い訳で誤魔化しに入る伊井野と石上。
『仕事というか、四宮に絞られてただけだ。』
『人聞きが悪いですよ、会長。
愛ある指導をしただけです。』
『余計、人聞き悪いわ!』
『ともかく、着替えますから見ないでくださいよ。
会長はちょっと我慢してくださいね。』
『見る訳ないだろう、四宮。』
『・・・今の会長の言い方はどう思います、伊井野さん?』
『会長〜、流石に失礼ですよ。
そこは「お前の事なんか、気にしてねぇよ(ポッ)。」が正解ですよ。』
『お前の趣味は知らんわ!』
『伊井野さん、フォローの方向性が違いますよ。』
『四宮先輩、着替えないと風邪引きますよ?』
『ああっ、そうです急がないと。
直ぐ着替えますから、会長ごめんなさい。』
『慌てなくていいぞ、四宮。』
『ところで、なんで護身術だったんですか?』
『いや、来てそうそう四宮に「手を掴んでみてください」と言われて、意図が解らないから断ったら逆に手を掴まれて、ひねり倒された。
そこから護身術を教えると着替えさせられて、さっきまで上で練習してたんだ。』
『それで、僕が来た時に二人で上に行ったんですね。
しかし、なんでまた。』
『あら、今時は護身術ぐらい覚えていてもおかしくないですよ。
会長、空きましたからどうぞ。』
『ああ、分かった。
・・・覗くなよ?』
『石上くん、会長をスマキにするからロープ頂戴。』
『なんでだよ!』
今日は二人に関わりたくないなと、伊井野と石上は思った。
特に、四宮かぐやが不機嫌なのは見て取れる為、早々に業務を処理した伊井野ミコと石上優は生徒会室を後にした。
二人きりになった生徒会室。
今日は藤原千花は来ない様に思われた。
『四条眞妃さんのお父様にお会いしようと考えてます。』
『生徒個人の家庭事情に生徒会と言えども立ち入るべきではない・・・、と言いたいがな、四条のあの様子では黙っておくのは得策ではないだろう。
俺も行こう。』
『いえ、会長は二の矢として控えていて欲しいので。
いきなり二人で伺っても変に誤解されては困りますから。』
(本当は一緒に来て欲しいけど、これまでの四宮と四条の事を考えると・・・。)
『それもそうか。
確か、四宮と四条は従姉妹だったな。
親戚なら話しやすいか。』
(四宮と四条は対立してた筈だが。)
『遅くなりました。』
何時になく大人しい藤原千花がその時、生徒会室に入ってきた。
『藤原さん、遅いですよ。
どうしたんですか?』
『ちょっと部活が・・・。』
非常に歯切れも悪く、何時ものテンションもない。
おまけに、ソファに座ろうともしない。
『藤原書記、何があったか知らんが、あまりに、』
『会長、うるさい、黙れ。』
『藤原しょ、』
『うるさい、黙れ。』
『おまえな!
なんだ、その態度は!!
人が折角取りなそうとしてるのに!』
立ち上がって抗議する白銀御行を一瞥して、吐き捨てる様に悪態をつく藤原千花。
『女の子も口説けないヘタレは黙れ。』
『やかましいわ!
誰が口説けないだ、誰が!?』
『じゃあ、会長。
私を口説いてみてくださいよ。』
『な、っ!
なんでそんな話になるんだ!?』
『出来ないんですか?』
あまりの急展開にかぐやは既についていけなくなっていた。
少し考えて案が思い付いたかぐやは、言い合いをしてる二人の横を通ってお茶を淹れ始める。
電気ケトルが沸騰を始める頃には二人の不毛な言い合いは収まり、淹れた紅茶をそれぞれの前に出す。
かぐやがソファの真ん中に座り直して紅茶を飲み始めると、白銀も席に着き直して紅茶に手を付ける。
かぐやが横を開けたので、藤原もかぐやの横に座って紅茶を飲み始める。
次第に顰め面だった二人が穏やかな表情に変わっていく。
それを見てかぐやは声を出して笑い出す。
『ど、どうしたんですか、かぐやさん?』
『いえ、私が淹れた紅茶でも二人を穏やかな顔にできるのだと思って。』
『・・・。』
『三人だと思い出しますね、去年の今頃。
まだ生徒会が発足して直ぐの頃、殆ど毎日私と会長が喧嘩みたいになって、千花さんが仲裁してくれて。』
『ああ、あの頃はな。』
『私が尖り過ぎてたんです。
試験の点数で負けたのも初めてでしたから。』
『・・・。』
『あの後、体育祭や試験や奉心祭やら、苦しめられましたね・・・。』
『特に会計関係が死ぬ程うんざりさせられたな。
部費関係は前会長達が処理してくれてたから助かったが。』
『もうあの書類の山は嫌ですぅ〜。』
頭を抱える藤原千花を見つめながら二人は思う。
(貴女、遊んばかりだった(でしょ?、よな?))
『ねえ、千花さん?』
『・・・はい?』
気を取り直して、かぐやは視線を千花に向ける。
受けて千花もかぐやを見返す。
『中等部の頃から、今も貴女が側に居てくれた。
私は、それに甘えてしまって・・・。
この紅茶みたいに、私は貴女を穏やかにできてるかしら?』
『・・・。』
そう言われて藤原千花は俯いてしまった。
それから会話はなく、三人は紅茶を飲み干すと帰り支度をして生徒会室を後にする。
『四宮、訪問の件だが、必要なら声を掛けてくれ。』
『解りました。
その時はお願いします。』
『ああ。
じゃあ、また明日。』
『はい。
また明日、です。』
白銀御行は自転車通学の為に下足場で別れて、校門まで藤原千花と四宮かぐやの二人だけとなった。
『か・・・、ぐやさん?』
『はい?』
『もう少し、時間をくれませんか?』
『・・・。』
何も言わずかぐやは、千花を抱き締める。
誰も居ないはずの夕暮れ終わりの時刻。
かぐやは千花に見送られて車で帰ったが、千花は少し歩くと待っていた白銀御行と合流した。
自転車を押しながら浮かない顔の御行に千花は尋ねる。
『ねぇ、おかしいでしょう、かぐやさんは?』
『何処がだよ。
俺にはいつもの四宮にしか見えないぞ。』
『かぐやさんは強情っぱりの意地っ張りだから、あんなに感情表現豊かじゃないんです。
絶対、おかしな物食べたんですよ。』
『お前の中で四宮はどういう存在なんだ?』
『大切な親友ですよ?』
『言ってる事がちっとも合致しない!』
『氷のかぐや姫時代を知らないからですよ、高等部になってからかな〜り丸くなったんですから。』
『・・・中等部の時は、そんなにすごかったのか?』
『一言言えば三人の心を粉々に破壊し、二言言えばクラス全体を地獄に突き落とし、三言言えば先生を辞職に追い込む、あの頃を知らないから御行君はそんな事を言うんですよ。』
『本当に大変だったんだな。』
『ええ、大変でした。
物凄く不器用で臆病で傷付きやすくて、純粋でお人好しで世間知らずで。』
『・・・本当に親友か?』
『親友じゃなければ、ここまで知りませんよ。
かぐやさんは、私には色々教えてくれましたから。』
『・・・羨ましいな、そこまで理解し合えてるなんて。
なら、信じて待ってやれよ。
四宮は、何も変わってない。』
『・・・これだから、胃袋を掴まれた男は。』
『何か言ったか?』
『いいえ、何も。』
『しっかり聞こえてるぞ?
四宮の味噌汁が美味いのは確かだろう。
弁当も美味いぞ。』
『・・・ガッチリ掴まれてるから手遅れか。』
『お前、イチイチ棘があるぞ。』
本人達はいつも通りだが、二人の連れ立って下校して行く姿は、他人には違う様に見えた。