白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜   作:チャリンコ2025

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───夜・四条家

 

 

四条眞妃の部屋に泊まる事になった四宮かぐやは、夜も更けた頃にトイレに立った。

特別寝付きが悪いとか、特定の寝具がないと眠れないとかではないが、流石に四条家には初めてのお泊りなので緊張している為だ。

 

これまで他家にお泊りした事があるのは藤原千花の家ぐらいで、千花と妹の萌葉のお陰で疲れさせられるので眠れないという事はないのだが。

 

そして、かぐやの別邸程ではないが広い上に初めての家の為、迷った。

眠っている眞妃を起こすのは憚られたが、付いて来て貰えばよかったかと思う。

困っていると意外な人物から声を掛けられた。

 

 

 

『かぐや君、どうしたね?』

 

『ああ、おじ様。

おトイレをお借りたのですが、お恥ずかしいですが迷ってしまいまして。』

 

『そうか。

眠れそうかね?』

 

『すいません、少し緊張してしまって。』

 

『なら、ココアぐらい入れよ。

私もようやく仕事が片付いたのでね。

時差がある相手とは辛いものがある。

飲むかい?』

 

『頂いてもよろしいですか?』

 

 

かぐやは四条真琴の案内で彼の書斎に通され、少しすると真琴自身がココアを二つと少量のクッキーを持ってきた。

勧められて、かぐやはココアとクッキーを頂く。

 

 

 

『しかし、大きくなったね。

当たり前だがね。』

 

『身体は成長しても中身は子供ですよ。』

 

『自覚があるなら、良い。

自覚もない者が大半だからな。』

 

『そう言って頂けるなら幸いです。

・・・あの、おじ様のお気持ちを教えて欲しいのですが。

・・・おじ様は、・・・私がお嫌いですか?』

 

『そう感じさせてしまったか。

・・・正直に言えば、四宮と名がつくものは好かんよ。

そう教え込まれて、実体験もした。

が、それ以上に外で苦い経験もしてきた。

今の心境は、複雑と言えるかな。』

 

『・・・四宮の家は、

・・・因果な家ですね。』

 

 

かぐやと真琴は互いに気持ちを押し流す様にココアを飲む。

 

今日、かぐやが急であっても無理に真琴に会う事にしたのは、彼こそが今後を左右する存在だからである。

 

「経験」した来年の四宮対四条の全面戦争は和解する事はできたが、雁庵の死後、双方の一部が互いに暴発した。

 

どうしたところで、やられた恨みと記憶は鮮明でいつまでも残る。

そこにどちらが先か、どちらが悪いか、などは意味はない。

 

この点は、和解調停の当事者だったかぐやや帝、黄光や真琴も判断が甘かった。

そして、彼らは火消しに右往左往させられる事になる。

 

この事態収拾にかぐやの夫となっていた白銀御行もかぐやと共に加わり、その功績と雲鷹の口添えで父親の会社であり、四宮に奪われた白銀製薬を取り戻してもいるが。

 

 

 

全面戦争前から両陣営内で動いていたのが四条帝だが、いくら優秀で将来を期待された存在でも、父親の真琴氏の黙認や追認無しでは事態を動かす事はできない。

 

兄である四宮黄光が父・雁庵の意向無しで何が出来る訳ではないのと似ている。

 

 

 

『・・・四宮成らば

人に頼るな

───成らば使え』

 

『・・・人から貰うな

───成らば奪え』

 

『人を愛すな

───成らばはない』

 

『君も仕込まれたか。』

 

『覚えてらっしゃるのですね。』

 

『呪詛の様に耳にこびりついてるよ。

眞妃と帝には、教えてない。』

 

『この家訓を要約すれば、「使って信じず」です。

信じないから、使う事も、奪う事も、愛さない事も、できる。

そこにあるのは、絶対的な支配と上下関係だけです。

しかし、支配は相手の服従あって初めて成立します。

その失敗した例が四条グループであり、今日の状況を作ってしまった。』

 

『つまり?』

 

『この家訓は失敗したという事です。

無論、無条件に全てを否定するつもりもありません。

有用な部分はありはしますから。

ですが、通じない相手や状況があるという事を考えなかった。』

 

 

そう考えれば、父親の雁庵がかぐやに対する態度は「家訓」に従った結果と見えはする。

が、かぐやからすればたまったものではないが。

また、後に判明するがこの「家訓」にある事情があった。

 

 

 

『四宮家内での君の立場。

ついでに言えば、お兄さんの雲鷹氏の立場。

それに対する雁庵氏の態度。

つくづく四宮の家というのは、とは思う。

私なら、耐えられない。』

 

『よく、ご存知ですね。』

 

『嫌でも、耳に入ってくる。

四宮の恥部もね。』

 

(青龍の事かしら・・・。)

 

『仕方ありません。

生まれを呪っても何もなりませんし、同年代の子達に比べれば何不自由のない生活を送れてますから。』

 

『その代価としての肉親の愛情欠落は、あまりに大きいと思うが。』

 

『おじ様のそのお気持ちだけで十分です。』

 

『・・・君は、やはりかなり変わったな。』

 

『と、おっしゃいますと?』

 

『一昨年だったかな、秀知院を訪れた時に君を見かけた。

正直、今日の君は別人かと思ったよ。

もし、あのままだったら、今日はお引き取り願おうと考えていた。』

 

『お恥ずかしいですわ。』

 

『眞妃も似た様なものだったよ。

小さい頃からお転婆だったから、手が掛かったよ。』

 

 

「そうでしょうね。」とはかぐやも思う。

幼い時にパーティーで幾度か会った時は、毎回貴方か帝さんが反抗されてましたものね、と。

 

 

 

『・・・父に会ってみてはいかがですか?』

 

『雁庵氏、かい?

・・・難しいだろう。

小さい頃の僅かな記憶では怖い人物としか憶えてない。』

 

『・・・おじ様は現在の状況、四宮と四条の関係は今後はどうなる方が良いとお考えですか?』

 

『・・・過去を水に流す事は無理だろう。

そうするには、あまりに大きな溝になってしまった。

付かず離れず、互いに邪魔をしない関係が望ましいかな。』

 

(フランス銀行との資本統合の妨害の件ね。

全般的な妨害の事も含むでしょうけど。)

 

『お互いに競合する分野は難しいのでは?』

 

『だが、競り合っていては消耗でしかないよ。

それに、世界は広いよ。

 

もう無いか、おかわりは良いかね?』

 

『いえ、これ以上は眠れなくなりそうですので。

ありがとうございました。』

 

『出て、左の階段を上がって、突き当たりを右の二つ目のドアが眞妃の部屋だよ。

済まないが、私はまだやる事があるから。』

 

『はい、判りました。

夜分にありがとうございました、おじ様。』

 

 

かぐやが書斎を辞して数分、かぐやが出て行ったドアとは別のドアから息子の帝が入ってきた。

 

 

 

『どうだい、父さん。』

 

『悪くはないな。

眞妃とも相性が良い様だ。』

 

『姉貴と相性がいいのは、柏木さん以来じゃない?

僕は、かぐやを迎えたいのだけど。』

 

『なら、ライバルはどうにかしないとな。』

 

 

書類を読みながら真琴は帝に一冊の報告書を渡す。

折り目の付いたページをめくれば、ある人物の写真と詳しい経歴が書かれていた。

 

 

 

『白銀御行君、というそうだ。

高等部からの特待生入学で二期連続の生徒会長は、特待生では初の快挙。

秀知院高等部生徒会長としても、二期連続は数人しかいない。』

 

『名前は知ってるよ。

いつも全国模試で見てる名だ。

 

補欠合格で入学後に成績を伸ばして、かぐやや姉貴を抑えて学年首席を一年間維持して、全国模試でも一位常連。

親は事業で多額の借金を背負い、両親は別居状態。

決して華々しいだけじゃない、か。

会ってみたいな。』

 

『私なら、彼もうちに迎えたいね。』

 

『・・・それもいいかもね。』

 

 

 

 

ドアの向こう、部屋に戻った筈のかぐやはドアを完全には閉めずに四条親子の会話を聞いていた。

かぐやは何も言わずに眞妃の部屋に戻ろうとしたが、階段の踊り場に待ち人がいた。

 

 

 

『冷えるわよ。

戻りましょう。』

 

『ごめんなさい、起こしてしまいましたね。』

 

 

眞妃と二人で部屋に戻りベットに入り直す。

天井に目線を向け遠い目をしてる眞妃を心配そうに見つめる、かぐや。

立ち聞きを見られたのもバツが悪い。

何か言うべきか、言わぬべきか逡巡していると、眞妃から話してきた。

 

 

 

『・・・パパやアイツは、大人の話をしてる時は別人みたいな顔になる。

嫌っていた四宮の不調法者と同じ様な顔に、ね。

特にアイツは、そんな顔は似合わないのに・・・。』

 

『・・・。』

 

『もう大人と変わらないから、余計にアイツの顔をアイツ自身に私は忘れて欲しくないの。』

 

『・・・私も同じ様に仕込まれた。

だからなんでしょうね、私が白銀さんに惹かれるのは。』

 

『アイツには悪いけど、私はかぐやを応援するわ。

少なくとも、かぐやと白銀は向き合う努力はしてきたんだから。

アイツはボール転がしてただけだから。』

 

 

実力に差のある味方と強敵相手に、チームで戦って勝つのは並大抵ではないのだけどとは思うかぐやだが、折角の眞妃の好意に水を差すのもの野暮と聞き流す。ただ、その横顔は弟の恋を応援したいと物語っていた。

かぐやは左手を眞妃の右手に絡め握る。

一瞬、眞妃は身を固くするが握り返してくる。

 

 

 

『・・・私は「普通」で良かったのに・・・。』

 

『・・・何が災いで、何が幸いか、解らないわ・・・。』

 

 

いつしか、二人は互いの寝息を子守唄に眠りにつく。

 

 

 

 

 

───一方、白銀御行はかぐやに掴まれ握られた左手に残るかぐやの感触に、眠れる夜を過ごしていた。

 

 

 

 

 

 

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