白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜 作:チャリンコ2025
───お泊りの翌朝・四条家
四宮かぐやは別邸と同じ感覚で目が覚めてしまい、四条眞妃を起こさない様にベットを出るが、する事がない。
ベットに入り直そうかと考えたが憚られたので、キッチンなら居てもいいだろうと向かってしまった。
『ごめんなさい、コーヒーを淹れても良いかしら?』
朝食の準備に来た担当者に断りを入れてコーヒーを淹れたかぐやは手伝うつもりはなかったが、朝食のメニューはそんなにバリエーションがある訳ではなく、準備された材料や調理器具を見れば大体何を作ろうとしてるか推測できる。
今朝の四条家の朝食は和食の様に感じたかぐやは、材料を揃えるところから、下ごしらえ、調理、盛り付けと担当者達と談笑しながら、気が付いた時には味噌汁まで作ってしまっていた。
『アンタ、何やってるの?』
『ごめんなさい、毎朝の習慣だから、つい。』
朝は弱い四条眞妃は、少し眠いままベットから抜け出したかぐやを探して、かぐやの声が聞こえた食堂兼キッチンに来たが、メイド達に混ざって朝の支度をしてるかぐやを見つけて唖然とする。
両手を合わせて悪戯っぽい笑顔で謝ってくるかぐやに、眞妃は少しときめいてしまう。
「妹がいたらこんな感じなのかしら。」
そう頭をよぎる。
『すいません、私がお願いしてしまって。』
『良いわよ、どうせかぐやが無理やり入り込んだんでしょう。
それより、コーヒーをお願いね。』
『はい、かしこまりました。』
朝食担当のメイドがかぐやを庇って謝まるが、眞妃は構わないと態度で示して席に着いて、少したらかぐやがコーヒーを持ってきた。
『・・・なんで、かぐやが持ってくるの?』
『大体終わったから、私もブレイクタイムです。』
気にするのを止めて、眞妃はかぐやが持ってきたコーヒーを一口口に含む。
いつもと違う優しい舌触りに、敏感な眞妃は気が付く。
白銀御行がコーヒー党(カフェイン中毒気味)の為、かぐやは早坂愛に師事して淹れ方をマスターした為だ。
その間に朝食が並べられていく。
『毎朝、手伝ってるっていうのは本当だったのね。』
『あら、嘘だと思ってたんですか?』
『四宮の令嬢が朝から使用人に混ざって朝食を作ってるなんて聞いて、信じる方が難しいわよ。』
『花嫁修業みたいなものですよ。
今時、料理は男性もしますから。』
『まあ、ね。』
女として物凄い差を付けられてる様に、眞妃はかぐやを感じていた。
澄ましているがかぐやの横顔が眞妃にはドヤ顔に見える。
「悔しいけど負けたわ」と眞妃は内心褒める。
いつもは何も言わずに準備をしてくれるメイド達が、今日は時折談笑しながら、かぐやと冗談まで言ってるのだから。
弟の四条帝の才能である「おじさん達と仲良くなれる」人心掌握術と通じる部分がある事に、寒気を覚える。
眞妃自身も帝やかぐやと同じで、白銀御行や石上優と短期間で親密になっているので、人の事は言えないのだが。
『おはよう、二人とも早いね。』
『姉貴、かぐや、おはよう。』
朝食の配膳が終わった頃合いに、眞妃の父親の四条真琴が帝を伴って現れる。
正直、昨日からの帝の「かぐや」呼びに当のかぐやは思うところはあるのだが、状況が状況なのと、白銀御行と結婚後も「かぐや」呼びは改まらなかったので、消極的妥協で諦めてはいる。
御行が友人になった帝に「かぐや」呼びを禁じたら、「姫」とか「(凄く強調して)奥さん」とか余計イライラする呼び方をしてくるので、二人とも「かぐや」呼びで妥協した経緯もある。
もっとも、帝も御行の前でしかかぐやを名前で呼ばないので「ウザ絡み」の一種だが。
が、しかし、かぐやは帝の数少ない弱点をしている。
帝は、配膳された朝食のメニューにかぐやが紛れ込ませたある物を退け様として、かぐやに声を掛けられる。
『あら、帝さんは納豆お嫌いですか?』
『いっ、いや、苦手というかなんというか・・・。』
『コイツはダメよ。
納豆食べれないから。』
『・・・そんな事は、ないよ・・・。』
眞妃はさり気なく言ってはいるが、口元は笑っている。
それに対して、弟の帝はみるみる血の気が引いていく。
無論、かぐやも「未来」で帝が納豆だけでなく発酵食品全般が苦手なのを知っている。
まともに食べれるのは火を通したチーズと調味料ぐらいで、納豆が特に嫌いという事も。
何らかの発作を起こすとかではなく、納豆は味と臭いがダメなのだ。
が、目の前には想い人がいて、納豆がダメなど男のプライドが帝に言わせない。
おかげで、楽しめる筈だったかぐやの味噌汁は手を付けれていない。
皆が食事を進める中、帝一人だけ箸が動かない。
『要らないなら貰っちゃいますよ。』
意地悪しすぎたかなと、かぐやが帝の納豆を自分の元に取り寄せる。が、釘を刺す。
『私は好きだから毎日食べてます。』
かぐやの発言が帝の頭の中を反芻する。
「かぐやと一緒にいる為には納豆を食べなければいけない。」
そうかぐやが意思表示している。
帝はそう受け取った。
でなければ、メニューから外されてる筈の納豆が自分の前に何故置かれているのかの説明がつかない。
そう思いかぐやに目線を向けると、かぐやは声を出さず唇だけを動かした。
「お・か・わ・い・い・こ・と」
唇の形から意味を理解した時、帝は耳まで真っ赤になる。
その後、かぐやと帝は一言も交わさず朝食を終えた。
そんな羞恥心とプライドの板挟みになった帝に、落ち着きを取り戻させたのはかぐやの味噌汁だった。
特別美味しい訳では無いが、温もりを感じる優しい舌触りの味に、帝は身体の芯から温まり蕩けさせられる。
具の種類の多さと卵には、既に知ってる眞妃以外は、面食らったが。
『そういえば、沖縄の味噌汁も具沢山だったな。
丼で出てきた時は驚いたがね。』
『かぐやは毎日種類を変えてるわね?』
『季節感を出したいですからね。
今なら里芋とか美味しいですよ。
手が痒くなりますから、触る時は注意が要りますけど。』
会話に入らず味噌汁を堪能している息子を見て、これは難しいかなと真琴は思っている。
手強いなんてものでない事とかぐやの帝への接し方から、ひょっとすると夜中の親子の密談は聞かれていたかと・・・。
───四条家玄関
『『いってきま━す!!』』
準備された送迎の車の横を素通りして、眞妃とかぐやは笑いながら外に掛けていく。
運転手やメイド達は突然の予想外の行動に虚を突かれ対応できず、右往左往する。
『こりゃ、大変だぞ。』
メイド達が慌てる中、二人の見送りに出てきた四条真琴は頭を掻きながらボヤくが、その前を帝が自転車を取りに掛けていく。
二人を追いかけるつもりで自転車に飛び乗り走り去っていく。
が、眞妃とかぐやは僅かな時間に物陰に隠れて、帝や慌てて追いかけて来る四条家の護衛達をやり過ごすと、学校への道の一本横の道を悠然と歩き始めた。
この為に、いつもよりかなり早く出てきたのだから邪魔などされたくもない。
『たまには良いわね、歩くのも。』
『気持ちいいわね、朝の街も。』
が、二人は解っている。
かぐや達の周辺は、直ぐに四条家の護衛達で警護体制が敷かれる事を。
少し歩けば、そこかしこの物陰や通行人に気配を感じる。
それでも秀知院への道中は何事もなく進んだが、道程の半ばまで来た時に護衛からの連絡を受けた帝が必死の形相で前から自転車で走ってくるのが見えた。
この辺は下り坂の為、帝は登り坂を必死に登って戻って来る事になった。
『あら、遅かったわね?』
『姉貴、解っててやったろう・・・。』
『後先考えずに突っ走るからよ。
早朝訓練になってよかったじゃない。』
帝が言い返そうとしたタイミングでかぐやがスポーツ飲料と缶コーヒーを二人に差し出す。
『はい、どうぞ。
眞妃さんも、どうぞ。』
『・・・かぐや、缶コーヒーなんていつの間に、』
『そこの自販機。』
かぐやが指差す先の住宅の一角に自販機が設置されていた。
かぐやと眞妃には缶コーヒー、帝にはスポーツ飲料をかぐやは二人のやりとりの間に買っていたのだ。
『ありがとう、優しいね君は。』
『私は優しくなくて悪かったね。
言外に全部出てるわよ。』
『解ってるなら、こっちの苦労も理解してくれよ、姉貴。』
眞妃と帝のやりとりを苦笑しながら聞いていたかぐやだが、素早く辺りに目線を走らせる。
見分けがつく護衛は三人だけか・・・。
かぐやは飲み終えた缶コーヒーとスポーツ飲料を眞妃と帝から受け取ると、折り畳んだレジ袋を取り出し入れていく。
ついでに、適当に織り交ぜて缶コーヒー等を同じ自販機で10本を買い別のレジ袋に入れると、一番近くの護衛と見分けた出勤中を装った男性に渡す。
『お疲れ様です、皆さんで飲んでください。』
『えっ!?
あっ、あり・・・がとう。』
反応から四条側の護衛だろうと推察する。
かぐやは、侍従の早坂愛の手配した護衛なら顔や仕草や雰囲気などで見分けがつく様になっている。
見覚えのある者も居るので、見覚えがないなら四条側だろうと考えた。
一連の行動に眞妃は不思議に思うぐらいだが、「何で解ったんだ!?」と帝は唖然とし冷や汗をかく。
その護衛は、帝と面識のある護衛役だった。
再び歩き出した三人は眞妃とかぐやが並んで歩き、自転車のある帝は後を歩く。
『さっきの人は知り合い?』
『ええ、ちょっとした知り合いですよ。』
『相手は驚いていたわよ?』
『いつもは会わないルートですから。』
その後も直前の出来事や世間話など、女二人ならとめどなく会話が続く。
こういう時は男は会話に入ろうとしない方が経験上いいと、帝は話を振られない限りは喋らずにかぐやを観察している。
大きめの交差点に来た時に信号待ちで並んで、帝は二人の会話の途切れ目から会話に加わる。
『今度、そっちのサッカー部と交流試合があるから、秀知院に行くよ。
出来れば応援して欲しいんだが。』
『あら、そうなんですか?
そう言えば、サッカー場の使用の申請がありましたね。』
『あら、それならしっかりと、うちのサッカー部を応援しなきゃ。』
『姉貴ならそういうと思った。
かぐやは応援してくれないの?』
『生徒会としては公平に、』
『四条、四宮!
おはよう!!』
交差点で交通量があるとはいえ、声量のある声に三人は振り向く。
振り向いたかぐやの目元が柔らかくなるのを、帝は見逃さなかった。
声を掛けていた相手の男は秀知院の制服を着て自転車を押して、胸に資料で見た高等部生徒会長を示す飾緒を付けている。
その顔も資料で見た。
確か───、
『白銀会長、おはようございます。』
帝に対する時より一段高い声でかぐやが挨拶を返す。
心なしか、上気してる様で頬が赤みを帯びていた。
───そうだ!
「白銀御行」だ!!
秀知院高等部生徒会長───
四宮かぐやと浅からぬ関係───
全国模試の一位常連───
俺の壁で───、ライバル!!
直感的にそう四条帝は理解した。