白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜   作:チャリンコ2025

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───前回までのあらすじ


二学期中間テストで白銀御行と同点数で同位一位になってしまった四宮かぐやは、下級生から「勉強を見てほしい」と頼まれ、勉強会を開いた。


004『お月見』

 

 

 

───生徒会室(お昼)

 

 

二学期に入ってから、四宮かぐやは自分でお昼の弁当を作るようになった。

 

理由は「料理の練習」。

 

という建前で、社会人になってから朝4時起きが習慣化しているので目が覚めてしまう。しかし、やる事がない。

 

朝の散策もいいかなと庭に出てみたら、ご飯の炊けるいい匂いがしてきて、つい厨房へ。

 

別邸料理長達は驚き退出願うが、かぐやは頼み込んで見学させて貰い、見学だけしてた筈が料理長が気が付いた時には、いつの間にか朝の下ごしらえを手伝っていた。

 

10年間は台所に立った経験と研究者肌の探究心で下地はできていたので、根負けした料理長がかぐやが加わる事を認め、今では朝食だけは調理に参加してる。

因みに主な担当は、味噌汁。

 

京都の本宅に行った時も、いつもの癖で厨房に早朝から顔を出し、あっという間に料理人達に混ざり手伝いをしていて、本宅料理長が気がついた時には味噌汁を作っていた。

かぐやの味噌汁はなかなか本宅料理人達にも評判が良く、時間がないので止むを得ず父親の四宮雁庵や兄の四宮黄光にも出されて、雁庵が案外気に入ってしまって、週末のかぐやの味噌汁を楽しみにする様になった。

 

尚、何故か黄光夫人が料理の勉強を再開して娘と二人で料理を作るが、愛娘の料理は黄光の口には一切入らず、当人は地味に傷付いていた。

自業自得であると使用人達には言われてるが。

 

本宅ではそんな事もあったが、泉岳寺別宅で初めて内緒で出された時は、早坂愛始め住み込みの使用人達は自分達の食べてる味噌汁がかぐや作と知った時は、目が点になった。

 

料理長達とクスクス笑うかぐやは悪戯が成功したと面白がっていた。

それであんなに一緒に朝ご飯食べようと言ってきたのかと、合点のいった愛はいつもはサンドイッチを流し込む様に食べて朝食を済ませていたので、味噌汁だけならと付き合ったが、それも計算していたのか!

 

悪戯好きな「妹」には困ったもんだと苦笑いする愛だった。

 

因みにかぐやの味噌汁の特徴は、気持ち味噌が強めで入れる野菜の種類が多く、卵が入ってる。

かき玉汁の様に卵を溶く訳ではなく、そのまま入れて形を残す様に仕上げるので、灰汁と白身が混ざりやすいが丁寧に取り除くので、結構手間がかかる味噌汁になっている。

互いに多忙だが朝食だけは出来るだけ一緒に取ろうとかぐやと御行はしたのだが、何品も作るだけの時間が取れず前日に仕込みが出来る味噌汁とご飯に卵や納豆となるので、せめて味噌汁だけはとかぐやが探求した結果の、集大成の味噌汁なのだ。

 

 

 

生徒会室の長テーブルには、先に来たかぐやが手弁当を自分の席に、料理長達のおかず盛合せのお重が準備されていた。

手弁当にした理由は、この「お重」の量もある。

食べきれないのだが、作って貰ったのだから悪いという気持ちがあり、なら、おかずだけにして生徒会メンバーで食べようと考えたのだ。

他のメンバーはまだ来ないので、お茶の準備をして待つ事、数分。

 

 

 

『すまん、遅くなった。』

 

 

白銀御行が二番目に生徒会室に入ってきた。

 

かぐやの弁当目当てに最近は昼休みの予鈴前にソワソワしだし、予鈴と共に教室を飛び出す勢いで生徒会室に向かうので、感のいい女子は白銀会長は四宮副会長に胃袋掴まれたと噂が出始めてる。

 

 

 

『今日も美味しいものが食べれる〜♪』

 

『お呼ばれに来ました。』

 

 

続けて、藤原千花と石上優も入ってくる。

 

 

 

『はい、お茶をどうぞ。』

 

 

席に着いたタイミングでお茶を差し出しお昼のささやかな宴の始まりである。

 

 

 

『いただきます。』

 

 

手を合わせてから、それぞれのお弁当プラス別邸特製弁当を広げていく。

今日の特製弁当は料理長らにリクエストして、カキフライなどフライ類中心のメニュー。

 

 

 

『この卵焼き、美味しいね。』

 

『四宮先輩の筑前煮、美味しいです。』

 

『あら、ありがとうございます。』

 

 

それぞれのお弁当のおかずの交換もしながら、千花と優はお世辞抜きでかぐやの料理を褒める。

料理人の料理に比べればそれほどでもといったところだが、家庭料理としてみれば大したものだった。

 

 

 

『この卵焼きも中々うまくいかなくて・・・。』

 

『そうか?

俺は美味いと思うぞ、四宮。

俺も料理するから解るつもりだが、ここまで作れる様になるまでかなり時間が掛かるぞ。』

 

『・・・真似する事は出来るんですけど、「自分の味」を出すのは、なかなか・・・。』

 

『普通は真似するだけでも大変なんだが・・・。』

 

『僕も会長と気持ちは同じです。

やっぱり、四宮先輩は凄いな。』

 

 

御行と優はかぐやを褒める。

 

 

 

『・・・「ある人」が言ってくれたんです。

 

味も大事だけど気持ちがもっと大事だから、気持ち込めて作ってくれてるなら嬉しいし美味しいって。

 

それから、気負いというかいい意味で力を抜ける様になって。

そうしたら、これが「私の味」なのかなって思える物が作れる様になって。』

 

 

(誰だ!? 四宮にそんな事言った奴は!!)

 

 

犯人探しを頭の中で勝手に始める御行を横目にかぐやは、

 

 

(まだ解ってないだろうけど、言ってくれたのは未来の貴方よ、御行さん。)

 

 

と、思っていた。

 

 

 

『かぐやさんがこんなに作れるなら、私も頑張っちゃおうかな?』

 

『藤原先輩のも美味しいですよ。

二人の旦那さんになる人は、羨ましいな。』

 

優は素直な感想言っただけなのだが、途端に御行・かぐや・千花が赤面して慌て出す。

 

『もう、石上君。

本当の事でも、言われと照れちゃう。』

 

(藤原先輩、キャラが合ってない。

モジモジしないでください。)

 

 

『なぁ、なに、二人の嫁入りなんぞ、大分先の話だぁ。』

 

(会長、なんで貴方が慌てるんですか?)

 

 

『石上君ったら、嬉しい事言ってくれて。』

 

(気のせいか?

四宮先輩、オバちゃんっぽい。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───食べ終えて、弁当箱を洗いに優と千花は手洗い場にいき、生徒会室の片付けはかぐやと御行がする事になった。

 

優なりに気を回したのだが・・・。

 

 

 

『ああ、そうだ。

会長、今度なんですけど、この間紹介した眞妃さんを、お昼に招待してもいいですか?』

 

『ああ、「従姉妹」と言ってた四条さんか。

構わないが、どうしたんだ?』

 

『いえ、ご飯は賑やかな方がいいですから。』

 

 

とはいうものの、かぐやの本音は柏木渚・田沼翼カップルから眞妃を遠ざけたいのだ。

 

(将来の「逆・光源氏」の様な状況を起きない様にするには、私がもっと強く眞妃さんを引き留めれたら・・・。

 

今なら間に合う!

 

眞妃さん自体にその気は無いとは思いますが、万が一、億が一!!)

 

心に固く決心するかぐやだった。

 

因みに、度々二人で喋る機会があるにも関わらず、相変わらずラインIDの交換を御行はかぐやに切り出せず、今日も撃沈である。

 

スマホを見つめながら苦悶してる息子の様を見て、白銀パパは今日もため息をつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───翌日・秀知院学園高等部の廊下

 

 

 

『おはようございます、眞妃さん。』

 

『あら、おはようございます。

「おば様」珍しいですね?

ご要件は?』

 

 

朝、廊下で珍しい人物から声を掛けられて警戒態勢に入る眞妃。

 

気さくではあるが四宮の分家の一つで、家柄目当てで近づいてくる人間は後を絶たず、本家にあたる四宮家とは数十年前に人死を出す深刻な対立の結果、袂を分かった間柄。

 

かぐやとは、そういった要因や幼い時の出来事もあり、微妙な関係である。が、今のかぐやは眞妃と親交深めた間柄の「白銀かぐや」であるので、彼女が展開した心理的防壁など軽々と踏み越える。

いわゆる、世話好きな親戚のオバちゃんマインドである。

 

 

 

『おば様は止めてくださいって、眞妃「ちゃん」。』

 

『・・・、なに急に・・・。』

 

『「おば様」呼びするなら、「ちゃん」呼びするわよ。

眞妃「ちゃん」?』

 

『ふ、ふざけないでよ、なんで私が貴女に眞妃「ちゃん」って呼ばれないといけないのよ!』

 

 

だが、眞妃は少し嬉しかったりする。

 

 

 

『なら、私は「眞妃さん」。

眞妃さんは、「かぐや」で良いわよね?』

 

『っ! す、好きにすれば。』

 

『よろしくね。』

 

 

四条眞妃はしまったと気が付いたがどうにも出来ない。

こちらから「ちゃん」呼びを否定してる以上、「おば様」呼びを交換条件で封じられた。

なかなかやるわね。

 

 

 

『オホンッ!

それで、ご要件は?』

 

『いえ、今日のお昼に生徒会室で、眞妃さんと一緒にお昼を取りたくて。

ダメかしら?』

 

『・・・なに企んでるの?

それ以前に、私と貴女は。』

 

『・・・あんなのは大人の事情でしょ?

私達がそれに付き合う理由はないは。

ここは、「秀知院」なんですから。』

 

『い、いうじゃない。』

 

 

(なにっ!?

 

一瞬、悪寒が走る怖さがあったけど?

 

・・・今は合わせておいた方がいいわね。)

 

 

『じゃあ、そういう事でいいですね。

楽しみにしてますからね。』

 

 

そういうと、かぐやは自分の教室に軽やかといっていい足取りで歩いていった。

 

 

 

『・・・変な約束しちゃったな。しかし、まあいいか。

どうせ、昼休みは、ね・・・。』

 

 

渚には黙っていようと考える眞妃だった。

夏休み前からだったが、夏休み明けから本格的に翼とのイチャイチャを見せつけられ続けて眞妃はイライラしていたのだ。

この被害は、生徒会にも及んでいた。

個別に翼と渚が恋愛相談で生徒会室を訪れてるからである。

かぐやと渚は互いに相談しあってるからいいのだが、生徒会男性陣は翼に殺意めいたものを抱きつつある。

因みに、翼はクラスの男子連からハブられつつあった。

恥ずかしげもなく公然と二人でイチャ付くので、周りは辟易し始めていた。

 

無論、引き離しが目的なかぐやは渚にはお昼を誘っていない。

絶対に翼が呼ばれもしてないのにやってくるのは目に見えてるから。

念の為に前生徒会長が作った慣例を破って鍵を掛けておこうかとも考えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───昼・生徒会室

 

 

 

『初めまして、四条眞妃です。

四宮かぐやとは「従姉妹」になるわ。』

 

 

眞妃は、これまでこだわっていた「再従姉妹」を「従姉妹」に変更した。

こういうところは非常に素直である。

 

 

 

『初めまして、四条先輩。

申し遅れました、石上優と言います。』

 

『はい、皆さんお茶をどうぞ。』

 

『では、揃ったから食べるか。』

 

『『『『いただきます』』』』

 

 

こうして四条眞妃を交えた昼食会が始まる。

因みに千花はテーブルゲーム部でお昼を取るとの事。

制作している新しいゲームの会議も兼ねてるとの事で、経験済みの「白銀かぐや」は「ハッピーライフゲーム」だなと感づいていた。

現在、千花が持ってきたらどう逃げるか思案中である。

 

席順は、かぐやと眞妃、御行と優の男女別に別れて座る事になった。

かぐやとしては御行の横が良かったのだが、眞妃に二人の仲を見せつける様になっては本末転倒なので、今回はホストとしてゲストの眞妃の横に座る。

因みに今日は各人の弁当、別邸特製弁当のお重、大きいスープジャーという初めての組み合わせである。

 

 

 

『椅子を増やすか、4人掛けのソファに変えた方がいいか?』

 

『部屋の面積や役員数で考えれば足りないですものね。

 

・・・うちから入れて貰った方が良いかしら。』

 

 

「来年」の事を考えれば、生徒会室を充実しても良いかしらとかぐやは考えている。

 

 

 

『保護者の方が来られる事もあるだろう。

これまでは極少人数の来客しか対応してこなかったからな。

人数がいれば何処かの教室を借りて対応してたからな。』

 

『直ぐにとはいきませんけど、考えておかないとですね。

さあ、御味御付をどうぞ、眞妃さん。

会長、石上君も。』

 

 

今日はかぐやが持ち込んだお椀に各人の味噌汁をよそって差し出していく。

 

 

 

『おお、今日は味噌汁付きなのか

それも具沢山だな。』

 

『へぇ~、卵入りなんて珍しいですね。

いただきます、四宮先輩。』

 

『結構入ってるわね?

見ただけで具が6種類ぐらい入ってない?』

 

『今日は卵入れて具は8種類です。

8は末広がりですから。』

 

『あ、美味しい。

具が多いから少し味噌強めなのね。

出汁もしっかり出てる〜。

これだけでお昼でも良いぐらいじゃない。

お・・・、か、・・・かぐや。』

 

『朝はしっかり食べて欲しいですし、必要栄養素のバランスを考えるとどうしても種類が増えてしまって。

少食で御味御付だけしか食べれない人もいますから。

毎朝、大変ですけど、美味しいと言ってもらうと嬉しくて。』

 

『え? 毎朝?

四宮先輩、自分で作ってるんですか?』

 

『別邸の料理長に無理を言って朝食作りに入れて貰ってるんです。

昼は学校、夜は帰る時間が日で変わりますからね。』

 

『へぇ? 朝食作りって、何作ってるのよ?』

 

『皆さんが美味しいって言って、今召し上がってる御味御付。』

 

『嘘っ!? これを?

待って! 朝食作りと言ったわね?

まさか・・・。』

 

『私や住み込みで居る人の分、作ってますよ。

大きいお鍋を使いますから20人分くらいは。』

 

『四宮、毎朝そんな量作ってるのか!?

具の種類が多いから、食材を準備するのも大変だぞ!?』

 

『はい。でも、楽しいですよ。

周りの手伝いもしてますし。』

 

『『『・・・。』』』

 

 

三人共、呆気にとられた。

食材を切るだけでも、均等な大きさに揃える・皮むき・面取り・食材に火が通り易くする為の隠し包丁など、ただ切ればいいというものではない。

 

 

 

『今度、料理長が競りに連れて行ってくれるっていうので、楽しみなんです。

夜の明ける前から開いてる市場の美味しいお店があるそうなので。』

 

『そ、そうなの。

想像できない話に頭がついていけない。』

 

『凄いですよ、四宮先輩。

もうプロですよ、それ。』

 

『この味噌汁を、四宮が自分で・・・。』

 

『もう、冷めちゃうから食べてくださいよ。』

 

 

思わぬ話で中断しかかった食事を再開したが、各人は頭とお腹が一杯で食べる事に集中し、それぞれの料理を褒めたり気になる事などを話し、昼休みは過ぎていった。

御行が余韻に浸りきったのは言うまでもなく、今日もラインIDの交換は出来なかった(頭から飛んでいた)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────夜・四条家

 

 

 

『姉貴、その大きいスープジャーはどうしたの?』

 

『帝、私に感謝しなさい。

良いものを頂いてきたから。

かぐや「お姉様」のお手製御味御付よ。』

 

『へぇ!? な、なんで!』

 

『それは、私が聞きたい。』

 

 

四条眞妃の双子の弟、四条帝は周囲には隠してるが四宮かぐやにゾッコンなのである。

無論、帝は味噌汁を完食した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────私がタイムスリップしてから、こちらの時間で1か月が過ぎた・・・。

 

 

今だタイムスリップのキッカケや条件も掴めないまま。

 

SF小説は読まないから愛に聞いたり、インターネット検索して調べた事や色々思いつく事をやってみたけど、変化は起きない。

何時タイムスリップが起きてもいい様に、タイムスリップの時の事と、その後のこちらの世界でやった事を思い出せる限り書いた鍵付きの日記を書き続けてる。

 

 

・・・書いてて少し恥ずかしかったけど。

 

 

鍵はペンダント代わりに首から下げてるけど、内容を「この時の私」が読んだら気絶するわね。

 

 

・・・そのまま引きこもりなっちゃったらどうしよう・・・。

 

 

愛は日記が2冊になった事に気が付いたけど、何も言わないでくれてる。

 

読まれたら説明のしようがないから妄想と言うつもりだけど、心配されてしまうわね・・・。

 

 残念な子と言われるぐらいならまだいいけれど(よくないけど!)、強制入院させられて永遠に世間から隔離されるか、最悪は・・・。

 

 愛も最近は私が接し方を変えたからか、「タメ口」を言ってくれる時が増えてきた。

 言ってから気が付いて謝ってくる時もあるから、まだまだ自然になるまで掛かるかしら。

 丁寧語や謙譲語だと愛らしくないのよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───私は「この時間」の人間じゃない───

 

 

 本来なら「高校二年生の私」が過ごす筈だった時間を奪ってる。

 あの時、愛が言ってくれた「一度だけの高二が終わる」。

 本当にその通りね。

 くだらない意地をお互い張らなければ、二年になってからあんな事やこんな事や色んな事できたのに、

 

 

 

私の、バカーーー!!!!!

 

 

・・・御行さんも、バカ・・・。

 

 

 

 

 

だから、なの、かしら・・・。

 

 

 

強引なキスをしたけど、「この時間の白銀御行」からの告白を受け止める事や彼との時間を過ごす事に罪悪感がある。

 

 「この時の私」は、まだ彼へ感情を整理して受け止めきれてはいない。

 

それなのに、「経験した」私が「初めて」をしてもいいのかしら・・・。

 

 

 

 

───もし、「その時」までに元に戻れなかったら、「わたし」が彼の気持ちを受け止めないと───

 

 

 

 

 

 

 

 

───「深いキス」なんて数られないぐらい、してるから───

 

 

 

 

 

 

──けど、

 

 

 

 

 

 

『月見するぞ! ヤッホーッ!!』

 

 

 

──今の「彼」を幼いと感じてしまうのは、仕方がない事よね?・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───放課後・生徒会室

 

 

 

生徒会任期満了まで残り僅かの日、中秋の名月を見るのに絶好のコンディションの今日、生徒会会長・白銀御行のテンションは最高潮に達していた。

 

(でも、いいか・・・。

なかなか、大人になったらこんなにハメを外せないし、私も楽しもう。

「あの時」は途中で恥ずかしくて帰ってしまったから、楽しめなかったし。)

 

 

 

『会長、どうしたんですか?』

 

『ああ、四宮。

今夜は中秋の名月で、星空指数が良かったんでな、「月見」をしようと思ってな。

屋上の使用許可は取ってるから、今夜は少し遅くなると家の方に連絡するんだ。』

 

『まあ、お月見ですか?

準備しないといけませんが、何が必要なんでしょうか?』

 

『定番はすすきとお月見団子、大人なら月見酒かな?

温まれる様に、お汁粉の用意はしてある。

夜はまだまだ暑いとは言っても夜風の吹く屋上は冷えるからな。』

 

『まあ、さすが会長ですね。』

 

『ハハハッ、やめいやめい。』

 

 

会長席デスクでの2人のやり取りを見て少し引いてる千花と優の二人は、ひそひそ話で今後の打ち合わせをする事にした。

 

 

(凄いテンションだね、二人とも。)

 

(まあ、もう生徒会も解散ですしね。

僕は参加しますよ。)

 

(私は、星よりお餅の方がいいんだけど。)

 

(なら、藤原先輩。

会長は、四宮先輩に任せて僕達二人でお汁粉作りますか?

ちょっと、あのテンションは苦手なんで。)

 

(良いですよ。

石上君、月明かりに照らされた私に惚れたらダメですよ。)

 

(・・・なに言ってんすか?)

 

 

段取りも決まった事で、四人は屋上に向かう。

 

 

(そういえば、石上君は隠し部屋を何時見つけたのかしら?

少し掃除しないとだけど、秘密基地みたいに改造するのもいいわよね。)

 

 

 そんな事を考えていたかぐやは、千花の声で思考の海から呼び戻される。

 

 

 

『うわあぁ、結構星が見えますね。

綺麗。』

 

『そうだな。

月が見えるのは南東から真上の方角だから、街の明かりも比較的少なくて、悪くないロケーションだ。』

 

『ですけど、風があるから少し冷えますね。

コンロの火が消えたら危ないですから、あっちでお汁粉作りますか、藤原先輩。』

 

『おけまる。』

 

 

アイコンタクトを交わし、示し合わせて風の通りにくい屋上への出入り口の陰に行く千花と優。

 

 

「ごゆっくり、四宮先輩。」

 

 

すれ違いざま、小声でかぐやに告げて少し微笑んで去っていく優を見送りながら、かぐやは思う。

 

 

(ありがとう。)

 

 

貴方はそういうところを上手く出せたら、私なんかと違って人に好かれるのに、と。

 

 

 

『さて、参りますか!』

 

 

正直、「私」には悪いけど、今しか二人のお月見はチャンスがなかったのよ!

 

来年は離れ離れな上に平日だったから会いに行けなかったし、再来年以降はお互いかどちらかに用事や仕事があって一緒に見れなくて、それが当たり前になってしまって・・・。

 

かぐやは気合を入れて、準備されたシートに胡座をかいてる御行の横にかぐやは座る。

「経験」した月見の時より、御行の近くに・・・。

 

 

 

『うん? 石上達は?』

 

『風があるからと、あっちでお汁粉作ってくれてますよ。』

 

 

かぐやの指差す方を一瞥して、御行は視線を星空に戻す。

 

(あの時、どんな順番だったかしら?)

 

記憶を思い返してると、肩に何かが触れる感触で御行の方を見る。

 

 

 

『冷えるだろう。

俺のでよかったら使ってくれ。』

 

『あぁっ、ありがとうございます。』

 

(そうそう、私が言う前に上着を掛けてくれたのよ。

それで、確か・・・。)

 

『冷えると思って温かいお茶も用意したんだ。』

 

 

そう言うと、御行は水筒からお茶をコップに注ぎ、かぐやに手渡す。

 

 

 

『い、いただきます。』

 

 

茶道の習慣から少し残して飲んで直ぐに御行にコップを返すが、あろう事か御行は返された飲みかけを捨てずにお茶を足して飲んだ。

それを気にする素振りもない。

 

(ええぇっーーー?!

 

それはしなかったでしょう!!

 

それに、また私が口つけたところで飲んでる!!

 

 

 

お、落ち着いて、私。

落ち着くのよ。

ここでつまずいたら、台無しになるから!)

 

 

 

『か、会長、秋の四辺形はどの辺にあるのですか?』

 

『なんだ、四宮は星に興味があるのか?』

 

『はい。とても。』

 

(こう言ったわよね、あの時は。

そうしたら・・・)

 

『なら、もっとこっちに来い。』

 

 

「経験」した通り、御行はかぐやの右肩を抱き、自分に引き寄せる。

 

(後にも先にもこの時だけだったのよね、強引に強く抱き寄せてくれたのは!

でも、ちょっと「あの時」より近いんですけど!!)

 

かぐやが座った位置が御行に近い為に起きたハプニング。

御行が星の説明をしてくれてるが、半トリップ状態のかぐやの耳に入らない。

 

 

 

『わかったか、四宮?』

 

『えっ、あっ、ちょっと見分けが。』

 

 

御行の横顔ばかり見てるから、かぐやは星を見る余裕はない。

 

 

 

『ふむ。

なら、こっちはどうだ?』

 

 

そういうと、抱きしめた体勢からかぐやごと御行は後に体を倒して、仰向けになる。

二人の身長差から、かぐやのおでこの横に御行の口が来る位置関係から夏の三角形の説明が始まる。

 

(そうよ! これよ、これ!!

貴方、いつも気を掛けてくれて優しくしてくれるけど、たまには強引なのも良いのよ!!!)

 

トリップと興奮の混ざった一種危ない状態に入るかぐや。

 

 

 

『どうだ、四宮?』

 

『・・・はい、解りました。』

 

『・・・そういえば、月といえば「かぐや姫」だな?

名前も同じだから、思い入れもあるんじゃないか?』

 

『・・・そう、ですね。』

 

(ち、近い。でも、ここが肝心よ、私。

頑張って意識を保つのよ!)

 

 

目線だけ真上よりやや東に下がった所に浮かぶ月に向ける。

 

 

 

『月を見上げると、月に連れ戻された女の物語を思い出さずにはいられません。だからこそ、・・・月は嫌い。』

 

 

(さあ! 来て!! 御行さん!!!)

 

拳に力の入る、かぐや。

まるっきり気が付かない御行。

 

 

 

『・・・そうだな。

月に連れ戻される前に「かぐや姫」は、愛した男に「不死の薬」を渡して月に連れ戻される。

渡された男は、「かぐや姫」のいない世界に未練はないと「不死の薬」を燃やしてしまう。

美談めいた話で物語は閉じる。』

 

だが、

 

俺は何時も思うよ。

あれだけ他の求婚者達を拒んだ「かぐや姫」が一人だけ愛した相手に、「不死の薬」を渡した意味を。

あの薬は、「いつか私を迎えに来て」。

そういう意味だったんじゃないかと。』

 

『・・・。』

 

二人で寝転んで抱き寄せられた体勢のままで密着に近い位置関係から、かぐやの心臓が力強く脈を打ち鼓動が御行に伝わってしまう程にかぐやの体を揺らす。

御行も無意識にかぐやを抱く右腕に力が入っていた。

かぐやの視線は御行の横顔に吸い付けられて動かす事が出来ない。

鼓動が更に早くなる。

 

 

 

『・・・もし、俺だったら。

かぐやを手放しも諦めもしない。

薬も燃やさず、何十年何百年掛かってもかぐやを奪い返しに月まで行くのに、と。』

 

『・・・。』

 

『俺とかぐやの物語なら、かぐやの言葉の裏を考え抜いてあんな結末なんかには絶対にしないのに、と。』

 

(ごめんなさい、「私」。

もし、今好きと言われたら受け止めてしまうわ。)

 

涙が溢れそうになってるのを自覚したかぐやはやや俯く様に顔を傾ける。刹那、おでこに優しい感触を覚える。

 

 

 

『どうした、しっ!』

 

 

かぐやが姿勢を少し変えた事に御行も反応してかぐやの方に顔を向ける。

幸か不幸か、二人は「あの時」とは違い、密着してる上に身長差があった。

為に、かぐやのおでこに御行の唇が触れた・・・、キスした様な状態になってしまった。

両者、思考停止から身体が硬直して御行の唇がかぐやのおでこに「キス」した状態でオブジェの様に固まってしまった。

 

 

 

───一方、

 

 

 

『火が通ってなかったら不味いですから、味見しましょうよ。』

 

『ええっ?

もう3回目だよ?

これだけ煮たからいいでしょう?』

 

『さっきのは、少し硬かったじゃないですか?

最初のは火が通ってなかったから、丸い形のままだったですし。』

 

石上優は藤原千花がかぐや達に気が向かない様に必死だった。

 

 

(早くしてください、もう限界ですよ、四宮先輩! 会長!!)

 

 

『あんまり煮たらお汁粉が不味くなります。

もう止めて持って行きますよ!

会長!! かぐやさん!!!

お汁粉、出来ましたよ♪』

 

 

藤原千花の声に金縛り状態が解けた二人はかぐやが御行から慌てて離れると、何も無かったかの様に振る舞う。

 

 

 

『お、おぅ。

出来たか、お汁粉?』

 

『あぁ、ああ、いい匂いですね、お汁粉美味しそぅう。』

 

 

直前の出来事で思考が纏まらない両者。

 

 

(しまった。

四宮の顔に、俺の顔をぶつけるとは。

痛くなかったかな?)

 

(み、御行さんからキスなんて!?

こ、これはどういう意味のキスなの!!?)

 

 

 

『どうしたんですか、二人とも。

かぐやさん、顔が赤いような?

大丈夫なんですか、かぐやさん?

会長、かぐやさんに変な事したんじゃないんですか?』

 

『いや、変な事なんて。

四宮が星を知りたいと言うから説明してただけだぞ。

なあ、四宮?』

 

『え、えぇえ、そうですよ。

会長から教えてもらってたんです。』

 

『ふ〜〜〜ん?

本当ですか?』

 

『まあまあ、早く食べないとせっかくのお汁粉が冷めちゃいますよ。』

 

 

見かねて優が助け舟を出す。

 

 

 

『・・・まあ、いいですけど。

それより、おだんご、おだんご♪

そ・れ・と、こんなのもありますよ♪♪』

 

 

千花が持ち出したのは、激辛煎餅と塩味の効いたしょっぱい煎餅だった。

鍋を両手で持ってたのに、何処に隠し持ってたんだ?と、三人はツッコミを入れたかった。

 

 

 

『はぁ、温まりますね。』

 

 

よそって貰ったお汁粉を一口食べて感想を言うかぐや。

海が近いせいか風が意外に吹くのだ。

お餅も一口食べると中からチョコレートの味が口いっぱいに・・・。

 

 

───えっ?

 

 

・・・チョコレート?

 

 

お餅なのに、なんで?

 

 

周りの三人を見ると、藤原さんは美味しそうに食べてるけど、御行さんと石上君は固まってる。

 

口の中を処理してから聞いてみる。

 

 

 

『藤ぃ原ぁさん、何か入れたのぅ?

お餅からチョコレートの味がするだけど・・・。』

 

『俺はイチゴ味だったぞぅ、藤原書記ぃ?』

 

『僕ぁは、ミカンです。』

 

『ああ、お餅足りなそうだったから、クリーム大福入れたんですよ。』

 

 

 

『『『えっ?』』』

 

 

 

『食べるつもりで部室に置いてたんですけど、意外と消費期限が早くて助かりました。』

 

『『『・・・フ、藤原「書記!、さん!、先輩!」』』』

 

『・・・ふぇ?』

 

 

 

 

 

意外な発見だったが、案外ずんだ餡とチョコは食べれた。

 

 

 

『これはこれで、新発見だな?』

 

『発見したくなかったですけど、ね。』

 

『何食べてもミカンが強烈に残ってて、味がミカンに邪魔されます・・・。』

 

『結構、美味しいじゃないですか!?』

 

『『『そういう問題じゃない!』』』

 

 

そう言いながら、案外楽しくて笑い合って「四人のお月見」は大事な思い出になった。

 

 

 

 

 

藤原千花の学生時代のハジケぶりを説明する際に必ず引用されるので、藤原千花には数多い黒歴史になったが。

 

 

 

 

─────つづく

 

 

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