白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜 作:チャリンコ2025
───夜、泉岳寺別邸
『お酒、飲みたい。』
普段のかぐやからは想像できない発言に愛は戸惑ってしまう。
白銀達と別れた後、四宮かぐやは早坂愛の付き添いで別邸に帰ってきたが、その頃には泣き止んではいた。
いつになく沈んだ雰囲気のかぐやの様子に、夜番の使用人達は動揺し愛に何事があったのか尋ねてくる者もいた。
8月以前なら傅くだけで、かぐやの様子を気に掛けても尋ねてくる者など居なかった。
9月以降はかぐやが愛を交えて人間関係を再構築して二ヶ月が過ぎた。
今は、かぐやの様子が使用人達は気になってしまう。
『大丈夫よ、学校でお疲れになられただけだから、問題ないわ。』
『そうですか?
帰って来られたら毎晩ご挨拶をして頂いてましたから、気になりまして。
差し出た事を申し上げました。』
『いいわよ。
かぐや様の心配をしてくれたのだから、ありがとうね。』
とは言ったものの、抜け殻と言っていいほど無気力状態で時折目元に溜まった涙を拭う今のかぐやを見て、心配しない方がおかしいかとは思う。しかし、かぐや本人が望んだとはいえ、酒を飲ませていいかは思案の為所である。
熟考の末、赤ワインをティスティングの練習と称して一本だけ貯蔵庫から持ってきて、かぐやの前にグラスに注いで差し出した。
が、あろう事か、かぐやはグラスではなくボトルを掴むとラッパ飲みを始めた。
普段のかぐやを知ってる者ほど予想の斜め上の行動に驚き、愛は驚きすぎて制止できなかった。
小さいサイズではあったが一度に全部は飲みきれず、ボトルを半分開けたが口元も服も零してしまった赤ワインで汚れてしまった。
慌ててかぐやの手元からボトルを遠ざけるが、汚れた制服のままの為に着替えさせねばならない。
内心、かぐやの行動に激しく動揺しているが、愛は努めて平静を装ってかぐやに声を掛ける。
『かぐや様、お風呂もまだですし、お召し物も替えねばなりません。
シャワーだけでも浴びませんか?』
虚脱状態ではあるが頷いて了承したので、他の者に見られぬ様に浴室にかぐやを連れて行く。
まるで人形の様に愛にされるまま服を脱がされシャワーを浴び、ナイトウェアに着替えさせて寝室に連れ戻る。
寝室のベットにかぐやを座らせたが、テーブルに置いたかぐやのスマホの通知ランプが点滅していた。
部屋を空けた間に何かの通知が来たようだ。
気になった愛は、かぐやに気を配りながら通知を確認する。
画面が点灯するとラインの着信通知だった。
白銀御行からのもので、
「四宮、生徒会室に来なくて…」
までしか表示されてなかったが「来なくて…」の部分に、愛は釘付けになる。
どう考えても「来なくていい。」しか思い付かない。
こんなものを今かぐや様に見せたらどうなるか・・・。
まだ自分は着替えてなかった愛は制服のポケットにかぐやのスマホをしまうと、かぐやに退室のお伺いを立てる。
『かぐや様。
私も着替えてまいりたいのですが、よろしいでしょうか?』
『・・・戻ってきてね。
今夜は、・・・一人は嫌なの。』
『はい。
着替えと仕事を済ませましたら直ぐに戻ります。
では、少しの間、失礼させて頂きます。』
俯いたまま答えるかぐやを残して退室した愛は、直ぐさま自分の部屋に戻り手早く着替えると、御行のスマホにショートメールを送る。
直ぐさま返信が来て数度のやり取りの後、御行のラインのアカウントと相互登録を済ませる。
ここで一度深呼吸をして、最初のラインを送る。
「かぐや様にラインで何を送ったの!?」
「その前に、君は早坂なのか?
ハーサカなのか?」
『そんな事言ってる場合じゃないのに!』
愛は地団駄を踏みたくなる。
テーブルの時計は、愛が部屋に入ってから15分経過してる事を表示してる。
これ以上時間を掛けていてはかぐや様が不安になる恐れがある。
仕方なく、愛はかぐやの部屋に戻る。
果たして、かぐやは座らせた場所からは動かず俯いたまま、愛を待っていた。
『遅くなりました、かぐや様。』
『・・・ねぇ、・・・私は、
・・・生きてる意味あるのかな・・・。』
なんと言っていいか、愛は判らなくなる。
重い! 重すぎる!!
彼氏と喧嘩したぐらいで、「生きてる意味」なんて言い出さないでと、強く言いたい気持ちをグッとこらえて、愛はかぐやの左隣に腰を下ろすとかぐやの左手を右手で握る。
かぐやの顔は、ワインの影響か赤くなっていた。
『自己嫌悪、ですか?』
『・・・言って欲しいって、
・・・見せて欲しいって、
・・・寄り添い合ましょうって、
・・・そうやってやってきたのに、
・・・でも千花さんには見せても、
私には見せてくれなかった・・・』
(いつの間にそこまで進展したの?)
愛の疑問は最もだが、かぐやの言ってる事はクリスマスの晩以降の今はまだ将来の話で、愛には解らない話でしかない。
かぐやの相手をしながら、かぐやには見えない様に左手では御行にラインを送る。
あの瞬間、かぐやが御行をぶった瞬間までに二人の間に何があったのか?
それが判らないと地雷を踏みぬく危険がある。
その愛の問に御行は、
「君はハーサカか、それとも早坂なのか?
それを先に教えてくれ。」
(そんな事は後でいいでしょ!)
御行は苦い人生経験から、解らない事はとことん追及する癖が付いていて、解らないまま進むという事が出来なくなっている。
どうしても疑問が頭から抜けなくなってしまう。
かぐやの様子を伺いながら愛は返信する。
本当なら通話にして問い質したいぐらいだが、今はできない。
「どちらも私。
ハーサカは別邸の来客用、学校での私もかぐや様の身辺警護に必要な人物像なの。
騙してて、ごめんなさい。
これは、二人だけの秘密だよ。」
あえて「二人だけの秘密」と付け加える事で秘匿性を上げる。
白銀御行の様に義理堅い男ならば他言はしにくくなる。
女の場合は、話した瞬間に話が広がるのでそもそも使えないが。
「そうなのか、早坂も色々大変なんだな。」
「それより、案内板の裏に隠れてたかぐや様になんて話しかけたの?
私達は離れてたから聞こえなかったの。」
「四宮、ごめん。
謝ってるだろう?
だったと思う。」
愛は、スマホを御行の顔に投げつけたくなる。
原因はこれか!、と。
何、その軽い謝罪は!
あれだけ怒ってたかぐや様にそんな事言ったら、キレるに決まってる!!
私でもキレる!!!
───しかし、なら、かぐや様はなんで落ち込んでるの?
───原因は違うところにある?
そう思っていたら、次のラインが来る。
「妹が拗ねると隠れる時があったから、四宮も拗ねてると思った。」
(まあ、半分拗ねてる様なものかも?)
とは思うが、御行からかぐやへの先刻のラインの内容が気になる。
「さっき、かぐや様にラインしたみたいだけど、何を送ったの?」
そこから御行の返信は途切れた。
御行も気になるが、何も言わずに座ったままのかぐやも気になる。
ゆっくりとかぐやの左手を掴んでいた愛の右手を握り合う形に変えて力を入れる。
かぐやも握り返してくれたが、愛に向けた顔は呆けた様な顔で目に力は無く涙を溜めた虚ろな瞳だった。
それだけでも、今直ぐ御行を殴りたくなる。
大事な「妹」をこんなにしてと、愛は憤る。
御行からの返信を待ってばかりもいられない!
『かぐや様、横になりましょう。
起きていても身体に良くありません。
今夜は私も一緒に居ますから。』
返事はなく俯くだけのかぐやを支えて横に体を倒させてシーツを掛ける。
『残ってる仕事を片付けてきますから、少し離れますね。
必ず戻ってきます。
今夜は一緒に寝ましょう。』
『・・・愛、ありがとう、ね。』
涙を溜めたかぐやの目は、既に眠そうな目になっている。
かぐやはあまり酒に強くなく、付き合いで飲む機会の多かった御行と違い酒に慣れてもいない。
実際は、酒に弱いかぐやが飲まされたら何をされるか解らないと、酒席に出る事を御行がガードし続け過保護にした結果なのだが、かぐやは元々から下戸寄りなのだ。
そこに、ようやく御行からのラインが届く。
『すまん、グループで生徒会の面々とやり取りをしてた。
期末試験が来週末なので、試験休みを生徒会も取ろうと考えていたんだ。』
『四宮とは、今の状態では会いにくいからな。
冷却期間を設けたいんだ。
フォローを頼む。』
『分かりました、かぐや様には伝えます。』
『すまない。』
それを最後に御行からのラインは止まった。
一方、グループで連絡を受けた石上優と藤原千花はかぐやと御行の状況を把握していたが、伊井野ミコは事態を把握していなかった為、二人が大人の階段を飛び越えたと勘違いして、軽いパニック状態になっていた。
為に、ミコからのライン攻勢を裁く事に御行は時間を取られる事になった。
さて、愛はもう一つの厄介で不快な仕事を済まさなければならない。
「今夜はかぐや様がお疲れで付き添います。
他、特段報告する事は無しです。」
そう手短に報告を上げると問い掛けては来ないので、打ち切った。
こんな事に時間を割いてるより、かぐや様に付いてないとと、愛は不安になっていた。
9月以降のかぐやの変化は、愛を始め思いのほか大きな影響を周囲に与えていた。
かぐやの寝室に戻ると、かぐやは寝息を立てていた。
寝顔だけ見てると幸せそうだけど、目頭には涙を溜めたままだった。
ティッシュを一枚取ると、そっと涙を吸わせて拭き取る。
『おやすみなさい、かぐや様。
せめて、楽しい夢を見てください。』