白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜   作:チャリンコ2025

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───夜、白銀家

 

 

四宮かぐやに往復ビンタを食らい泣かれた後、白銀御行は藤原千花に妹の圭を頼むと、通学用自転車を押して三時間かけて自宅に辿り着いた。

途中、生徒会の面々や早坂愛とラインのやり取りをしながらの為に、時間が掛かってしまった。

 

藤原家にお泊まりの為に自宅には妹は帰ってなかったが、父親が一人晩酌をしていた。

 

 

 

『おかえり、遅かったな。

 

・・・御行、かぐやちゃんに振られたか?』

 

『・・・振られてねえよ。

 

なんだよ、藪から棒に。

・・・第一、付き合ってもねえよ。』

 

『なんだ、まだ告ってないのか。』

 

『俺と四宮はそんな関係じゃねぇよ。』

 

『じゃあ、なんなんだ?

 

・・・お前の頬に手形を残せるのは、かぐやちゃんぐらいだろう。』

 

『・・・。』

 

 

御行の両頬にはハッキリとかぐやの左手の跡が残っていた。

 

千花に見送られる際に両頬にかぐやの手形が残ってると哀れまれた目で告げられ、これが為に表通りを恥ずかしくて歩けず、裏道を人目を気にしながら歩いた為に帰宅に時間が掛かってしまった。

 

かぐやのビンタは、最初は大した事がなかったのだが時間が立つにつれて痛みが増してきて、ビンタからニ時間後が痛みのピークで今は落ち着いてきてる。が、その分、手形がよりハッキリしてきてる。

黙り込む御行に父親はそれ以上追求せず、話題を変える。

 

 

 

『御行、夜は食べたか?』

 

『・・・あんまり。』

 

『風呂入って着替えて来い。

なにか作っとくから。』

 

『・・・親父、・・・ありがとう。』

 

 

礼を言うと御行は自室で制服を脱ぐと、着替えと寝巻きを持って風呂場に向かう。

既にバランス釜のスイッチは入れられており、お湯と水の循環が始まっていた。

湯船の水が温まるまで体と頭を洗い、終わる頃には湯船の水も入るには問題ない程度の暖かさになっていた。

この辺は使い慣れてる分、呼吸が解る。

ぬるめだが、入ってゆっくり浸かる。

バランス釜の為に湯船が小さく箱型の為、パイプ椅子の脚の様に足を組んで入らないといけないのが難点だが、じんわりと温められる御行の身体からは、冷える中長い夜道を歩いて帰った疲れが出てきた。

 

無意識に右手はかぐやに叩かれた右頬を撫でる。

帰り着くまでは左の方が痛かったが、今は右の方が痛む。

 

自然と涙がこぼれる。

 

叩かれた直後のかぐやの目は、怒ってるのではなく、悲しみに浸かった寂しそうな瞳をしていた。

原因は解らないが、かぐやを泣かせてしまった事に罪悪感が湧き、気分は沈む。

 

 

 

『・・・俺では、・・・四宮を傷つけてしまうのか?』

 

 

バランス釜のスイッチも切ってる為に湯船の湯も冷めてきた頃合いで、御行は風呂を終える。

風呂上がりの御行を食卓で待っていたのは、ご飯とレンチンされたパックの焼肉と枝豆だった。

 

 

 

『・・・親父、何か作るんじゃなかったのか?』

 

『明日の朝の材料が無くなるからな、コンビニ行ってきた。』

 

『・・・俺の為に無駄遣いなんかすんなよ。』

 

『ビールのついでだ。

それより、冷めるから早く食べろ。

今夜は特別にこれも付けてやる。』

 

『・・・親父、俺は未成年だ。』

 

『もう味を知っていい歳だ。

・・・それに、今夜は飲またくないか?』

 

 

そういうと御行の父親は、135mlの一番小さい缶ビールの蓋を開けて御行の前に置く。

不器用な父親の気遣いに感謝しつつ規範意識の為に飲むまいと思っていたが、好奇心や何故か飲んでみたいという衝動で一口飲んでしまった。

 

二口も飲めば底が見えるほどの量だが、苦さが強く感じる味は何故か後を引く味だったが、慣れない味と喉越しに少しむせてしまう。

だが、むせる様な味と喉から食道を焼ける様なとも表現できる感覚が満たしていく事が、何故か心地よい。

 

 

 

『それが人生の味だ。

最初は苦いだけだが、その苦さが無くなると物足りなくなる。』

 

『・・・そんなもんか?』

 

『初めて飲んだ奴には、まだまだ判らんさ。』

 

 

そういうと、父親は自分の缶ビールを飲み干して空にする。

それからは親子の会話は弾まず、御行はテレビを見ながら遅い晩御飯

を済ませる。

枝豆はおかずにはならないので残し、先に茶碗類を片付ける。

 

 

 

『親父、・・・その、一緒に食べないか?』

 

『ああ。』

 

 

残った枝豆を親子で食べながら、二人でテレビを見る事になる。

暫しテレビの音しかない。

流れてる番組はお笑い番組だったが、御行は全く笑う気になれなかった。

御行の雰囲気を察してか、不意に父親が話し始める。

 

 

 

『・・・かぐやちゃんな、お前を褒めてたぞ。』

 

『えっ!?』

 

 

御行には顔を向けずテレビを見ながら父親は話し続ける。

 

 

 

『体育祭の時に挨拶されてな、「私を庇ってくれた」とか、「物凄く大切な人」とか、凄く嬉しそうな顔して、キラキラした目で、な。

まあ、詳しい事はかぐやちゃん本人に聞いてみろ。

 

・・・久々に、嬉しくなったよ。』

 

『・・・四宮が・・・。』

 

『せいせきとか、お前が秀知院に入った事や、そういう事を褒める人ばかりだが、かぐやちゃんはお前の中身を褒めてくれた。

 

流石、副会長だな。

 

父親としては、背中がむず痒くなったよ。

 

・・・それに、お前が俺の言った事を守ってくれてるのも、な。』

 

『けど、俺は・・・。』

 

『お前とかぐやちゃんの間に何があったか知らんが、喧嘩なんかは当たり前にやっとけ。

喧嘩もできない関係は息苦しいぞ。

 

お前が何に悩んでるかは解らんが、後悔しなくていい様に、な。

 

さて、俺は寝る!』

 

 

そう告げると父親は自分の寝床に向かう。

 

 

 

『親父。

・・・その、ありがとう。』

 

 

不器用ながら父親が自分を慰めてくれてる事に御行は礼を言う。

 

 

 

『・・・お前を見てると母さんとの事を思い出すよ。

俺もよく叩かれたからな。

女心はなかなか解らん。

 

頑張れ、御行。』

 

 

振り向いた父親は御行に向けて拳を突き出す、距離がある為エアーになるが御行も照れくさそうに拳を突き出す。

 

 

 

『・・・悩んでも仕方ないか・・・。』

 

 

そういうと、御行も片付けを済ませてテレビを消して自分の部屋に戻る。

自分の机の壁の張り紙の群れを見ながら右手を握りしめて、つぶやく。

 

 

 

『いつも通り、ぶつかるだけだ。

そうだろう、四宮?

そうじゃなきゃ、お前は応えてくれないからな。』

 

 

いつも通り、御行の夜の戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

───御行が家に帰り着く一時間前

 

 

 

伊井野ミコをおぶって帰っていた石上優は、ミコの家を知らなかった為に何処に向かったらいいか解らず、かと言って冷え出したので外に居続けるのも体力の面からも厳しかったので、仕方なく自分の家にミコをおぶって帰る事にした。

背中で寝てるミコを起こすのは気が引けたのだ。

 

そこに御行からのラインでスマホが鳴った事で、ミコが目を覚まして一悶着起きていた。

 

 

 

『もう、お嫁にいけない!』

 

『おんぶしただけだろうが!』

 

『私に許可も取らずに勝手な事しないでよ!!』

 

『酒も入ってないのに酔い潰れるお前が悪いんだろうが!!』

 

 

住宅街とはいえ、通勤や通学帰りの人がいる時間帯に激しい言い合いをしてる二人を、周りは生暖かい目で見ながら過ぎ去っていく。

一通り御行にあらぬ疑いからの暴言に近い失言の嵐で責め立てた後、勝手におんぶしたとその矛先は優に向けられていた。

 

 

 

『じゃあ、あのまま置いて帰ってよかったのかよ!』

 

『起こしてくれればいいじゃない!』

 

『勝手に寝たのはそっちだろう。

・・・疲れてたみたいだったしな。』

 

『・・・だって・・・。』

 

 

タクシーでも呼んでくれてるのかと思ったら気が付いた時にはおんぶされていて、優の背中が意外に大きく感じて暖かったから安心して眠ってしまったとは、流石にミコは言えなかった。

 

 

 

『ともかく、どうする?

僕の家はもう少し行ったところになるけど。』

 

『い、行くわけないでしょ!

そ、そんな・・・、石上の家になんて・・・。』

 

 

と言いつつ、何処か期待の様な感情がある事に、ミコ自身戸惑っていた。

 

 

 

『・・・なら、一人で帰れるか?』

 

『・・・家には、誰もいないの・・・。』

 

『・・・悪かったよ。』

 

 

いつも一人だから慣れてる筈なのに、何故か今はミコは一人になりたくなかった。

二人して逡巡していると、業を煮やした優が先に動く。

スマホを取り出して誰かに連絡を取り出す。

 

暫しの間、立ち尽くすミコを尻目に誰かとやり取りをしていた優は、自分のスマホ画面をミコに向ける。

 

 

 

『ほら、藤原先輩に了解取ったから、今夜は藤原先輩の家に泊まれるぞ。』

 

『えっ! いいの?』

 

『お前を泊めてくれそうなのは藤原先輩ぐらいしかいないだろう。

他の先輩達は、連絡先知らないしな。

今、タクシー呼ぶから、藤原先輩の家までのお金あるな?』

 

『それぐらいは大丈夫。』

 

 

言葉とは裏腹に少し寂しさをミコは感じていた。

 

5分も経つと、配車アプリで優が予約したタクシーがミコを迎えに来た。

 

 

 

『あ、ありがとう・・・、石上。』

 

『何時もの事だろう、気にするな。

その、勝手におんぶしてごめん。

 

じゃあ、おやすみ。

 

すいません、行ってください!』

 

 

走り出したタクシーの後部座席から見送る優を見続けるミコ。

タクシーが角を曲がるまで見送った優は、

 

 

 

『今夜は藤原先輩のおもちゃだな、あいつ。』

 

 

そう呟くと、石上優は少し悪い笑顔で家路についた。

 

 

 

 

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