白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜 作:チャリンコ2025
カラオケで披露された白銀御行の歌声でダウンした四宮かぐや(白銀かぐや)は、藤原千花から御行の秘密の特訓を打ち明けられ、御行に隠され続けてた事を許せず御行を叩いてしまい、複雑な心理のまま眠りについた。
明るいがハッキリと何色かは判らない色んな色が混ざった霧の立ち込める空間に、白銀かぐやは「浮いて」いた。
「・・・ここは何処だろう?・・・」
ベットに寝ていた筈なのにとぼんやりした頭で考えて、今は夢を見てると一人納得していると、遥か先に黒い点が見える。
それは少しづつ大きくなってる様に見える。
何だろうと思っていると、それの点は握り拳ぐらいの大きさになっていた。
「・・・なに?」
その時にはサッカーボール程度に大きくなっていた黒点は、布の様な何かが付いてるように見える。
ぼんやりした頭でぶつかると思った刹那、強烈な痛みと衝撃が額に走り、かぐやの身体は後ろにのけ反る。
両手で額を庇うように覆い、声も出せないほどの痛みに悶えていると、涙で滲んだ視界に自分と同じ様に悶えてる人の足を捉えた。
視線をその足から胴、頭へと移動させる。
見覚えのある赤いリボン、
黒髪を後頭で鳥の尻尾の様に纏め上げた髪型、
秀知院高等部の黒い女子制服・・・、
あれは・・・、私だ!
『い、痛いじゃないですか!?
何が起きたんですか!!?』
『お、落ち着いて、私!
こっちよ、こっち!』
白銀かぐやは涙目になりながら、のたうち回りながら叫ぶ高校生姿の自分に呼び掛ける。
『だ、誰なんですか!?
・・・ええっ!
貴女は、・・・わたしなの!?』
『・・・多分、私よ。』
『だって、そんな格好。』
涙目で指差してくる高校生姿の四宮かぐやにそう言われて、白銀かぐやは自分の体を見てみる。
寝室のベットでナイトウェアを着ていた筈だったのに、ワイシャツにジーパン姿と仕事の時によく着ている服装になっていた。
かぐやは仕事を始めてからは普段着も動きやすさ重視で、あまりにスカートなどは履かなくなっている。
それに、その服装は白銀御行の入院してる病院に駆け付けた時の格好だった。
『なんで着ていた物が変わってるの・・・?
それに、夢なのに痛い?
ここは、現実?』
状況確認に周りを見回してみるが、もう一人の自分以外は鮮やかな色の霧に囲まれていて、前後上下左右どの方向を見ても何も解らない。
『・・・ここは、どこなんですか?・・・』
聞かれても答え様がない白銀かぐやだったが、二人が離れてるよりは近くに居た方がいいと、説明できない浮力の中を四宮かぐやに手を伸ばし引き寄せる。
『ヒャッ! な、なんです!?』
唐突なもう一人の自分の行動に普段出さない声を出して身を硬くするが、瞬時に意図を察した四宮かぐやは白銀かぐやに身を任せ右手を引っ張られて身体を引き寄せて貰う。
『ここが何なのか解らない以上、離れてない方がいいわ・・・。
あっ!!
それより、今の貴女の状況はどうなってるの?
私は現実が高二の夏休み明けに戻ってたけど、貴女の状況は?
多分だけど、今まで眠ってたんじゃないの?』
『わ、わたしは・・・、目が覚めたら病院のベットだったわ。
夏休み明けの二学期の始業式の日だった筈なのに・・・。
会長・・・、大人になった御行さんの話では、入院していた御行さんのベット横に椅子に座って眠ってたと言われたわ。
朝の検温に来た看護師さんが起こしても起きなくて、その時に椅子から床に崩れる様に倒れても意識が戻らなくて、大騒ぎになったと。
その騒ぎで御行さんは昏睡状態から目覚めたと言ってた。
目覚めた後は、四宮のお抱え医だった田沼先生の病院だったから、柏木さんとお付き合いしていた翼さんが御行さんの担当医だった縁から、わたしも担当医になってくれて。』
『・・・入れ替わりになってたのね。
それで、御行さんは意識を取り戻したのね!?
・・・良かった、意識が戻って。
正直、だめかもと思い始めていたから・・・。
それでは、貴女は今は入院してるのね?』
『そうなるわ。
わたしは高校2年生からいきなり10年以上時間が飛んでるから、訳が解らなくて。
今は一時的な精神的強いショック状態で記憶喪失と診断されてる。
早坂・・・、愛さんがいてくれたから助かった。
10年分の大まかな出来事は教えてくれたから。』
『・・・やっぱり戸惑うわよね。
いきなり色々変わってるから。』
『・・・でも、良かったとも思えるわ。
早坂・・・、愛さんと友達になりたいと思ってたから。
・・・世界放浪と藤原さんのところに居候を繰り返してるの驚いたけど・・・。
それに、会長・・・、御行さんと結ばれて家庭が築けたなんて、本当に夢みたいだから。』
そういうと四宮かぐやは嗚咽を漏らす。
たまらず白銀かぐやは四宮かぐやを抱きしめる。
暫し、泣き止むまで強く抱き締めて落ち着くのを待つ。
白銀かぐやは、娘を産んでその娘が大きくなればこんな感じになるのかと想像し、四宮かぐやは亡き母親が生きていればこんな事が出来たんだと想像し、互いに感傷に浸る。
『・・・ねえ、目覚めた御行さんは、体に異常はなかったの?』
まだ、このままで居たい気持ちはありながら、夫の状況を知りたい白銀かぐやは入れ替わりになった四宮かぐやに問い掛ける。
『み、御行さんは・・・、この呼び方はまだ慣れなくて。
御行さん自身と石上くんの話だと、重要案件で十日間徹夜していたところに、いつものコーヒーが無くなっていたから違うコーヒーを飲んで、それで意識を失ったから病院に運ばれたそうよ。』
『カフェインレスコーヒーね。
またやったのね、あの人!
証拠にもなく何回言っても聞かないんだから!!』
『そんなによく倒れるの?』
『3日間徹夜したら目付きが殺人犯みたいな目付きに変わるから、石上くん達と協力して眠らせる様にしてるのよ。』
『御行さん、温熱シートで目元は誤魔化してたみたいよ。
一時間程度は眠ってたから徹夜じゃないとか言い張ってたけど、石上くんが呆れてた。
・・・石上くん、何であんな事になってるの?
伊井野さんは誰だか解らなかったけど、二人が結婚してる事にも驚いたし。』
『・・・あの二人が一番変わったわよ、容姿も人間関係も。
そうね、会う前の時点で入れ替わったから伊井野さんの事は解らないわよね。
・・・伊井野さんは学生時代は今の3分の1の胴回りだったの。』
『・・・愛さんに写真を見せて貰って、何も言えなくなったわ・・・。』
『石上くんが甘やかすから、元々よく食べる子だったのが制限なしになって、ああなっちゃったのよ・・・。』
『・・・明日は我が身だと心に刻むわ。』
『他に何かなかった?』
『田沼翼さん?
主治医になってくれたから、週一で診察に来てくれるのだけど、何故か奥さんになった柏木さんも一緒に来るのよね。』
『・・・。』
『わたしに触診や聴診器当てる時は柏木さんが凄く怖い顔してるし、田沼さんも怯えてる様に見えたし、何かあるの?』
『・・・いつもの事よ。』
『後、びっくりしたのが眞妃さんが私を「かぐや」と呼んでくれたのと、抱き着かれて大泣きされて。』
『それも、何時もの事だからいいわ。
眞妃さん、激情家だから。』
『それで、御行さんに土下座された。』
『・・・私が殴れなかったら、貴女が殴っといて。
いつもいつもいつも、こっちの心配ばかりして、こっちの気持ちも考えずに無茶ばっかりするんだから!』
『御行さんの妹の圭さん?が、心配かけた人数分殴ったと言ってたわ。』
『・・・多分、蹴り飛ばしてるわね圭ちゃんは。』
『・・・「ちゃん」呼びなのね。』
『「さん」か「ちゃん」にしてる。
呼び捨てで言いとも言われたけど、御行さんが「圭ちゃん」と呼んでるから、私も。』
『そっか・・・。
目覚めてから2週間ぐらいだから、解らない事だらけで。』
『2週間?
何ヶ月とかではなくて?』
『わたしが倒れて一ヶ月ぐらいですって。』
『私は体育祭まで終わったわよ。』
『嘘っ!
折角、御行さんの格好良いところを見れると思ったのに。』
『大丈夫。
しっかり写真撮って保存してるから。
9月からの出来事を書いた日記と今までの日記と2冊あるから、9月からの日記に写真を挟んでる。
戻ったら見てみて。
日記の鍵は、ネックレスにして身に付けてるから。』
そういうと、白銀かぐやは四宮かぐやに笑い掛ける。
その白銀かぐやの言動に戸惑いを覚える四宮かぐやは、顔に出てしまった。
『意外だった?』
『・・・愛さんから教えて貰ったけど、自分がそこまで変われるか半信半疑だったから。
今起きてるこの現象だって、説明不可能ですもの。
こんな、因果律を無視したタイムスリップなんて現象、それも意識と記憶だけが入れ替わるなんて、何て言っていいのか・・・。』
『記憶を思い出せないの?』
『わたしと貴女の身体が入れ替わった時点の記憶ごと意識が入れ替わってるから、私には高校二年生の二学期からの記憶がないの。
・・・全く思い出せない訳ではないけど、わたしの記憶にしては不確かで、物凄くあやふやで曖昧でハッキリしないの。
思い出す度に変わってしまうし、それが為に一時的な記憶喪失と診断されたから。』
そういうと四宮かぐやは不安な表情になる。
前例のない初体験には当時は知識依存型であった高校二年生時点の四宮かぐやには、対処する術が思い付かなかった。
その不安を打ち消す様に白銀かぐやは強く抱き締めて、耳元で言葉を紡ぐ。
『大丈夫よ。
高校時代からの10年で色んな人と知り合って人脈は出来てるから。
私の友達や御行さんを頼ってね。
解らない事は人に頼っていいんだから。
頼る事は信頼の裏返し、頼ってばかりは話しならないけど、困った時は頼って。
あの頃みたいに、千花さんと愛しか信頼できる人が居ない訳じゃないから。
第一、貴女は「かぐや」じゃない。
将来、私みたいになる「かぐや」じゃない。
大丈夫だから、踏み出してみよう。』
『・・・うん。
ごめんなさい、弱気になって。
・・・そういえば、御行さんの、多分わたしもだけど、スタンフォード大学の同窓生が亡くなったって御行さんが酷く荒れてるの。』
『御行さんが?
亡くなったスタンフォード大学の同窓生って?』
『名前は聞ける状況じゃなかったんだけど、御行さんが毎日仕事終わりに面会に来てくれるんだけど、二日前に行けなくなったと連絡を受けて、昨日来た時に酷く落ち込んでて、「俺はアイツに何もしてやれなかった」って。』
『・・・他に何か言ってなかった?』
嫌な予感と胸騒ぎが白銀かぐやの心をざわつかせ始めていた。
外れて欲しい予感。
そう願ったが、結果は最悪の結末だった。
『5年前に亡くなってたそうよ・・・。
スタンフォード大の事務局が卒業生に講演を依頼する目的で連絡を取ったら判ったと御行さんからは。
在籍時は天才物理学者と言われた人らしいのだけど、当時の知人は御行さんぐらいだったって。』
───それなら、一人しかいない。
白銀かぐやは、陰鬱な気持ちになった。