白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜   作:チャリンコ2025

44 / 61


───前回までのあらすじ


不思議な空間で、所在がハッキリしなかった過去の自分は未来の自分と入れ替わっていた事を知った白銀かぐやは、入れ替わっていた四宮かぐやと話し込んでいたら眩い光に包まれて意識を手放された。


✕編集中✕

 

 

 

───朝、かぐやの寝室

 

 

 

不思議な空間で自分と時代が入れ替わった、もう一人の自分である過去の四宮かぐやと眩い光に包まれて意識を手放された白銀かぐやは、目を覚ますと早坂愛の寝顔が見れた。

かぐやの左手を握って眠ってくれた様で、愛の右手はかぐやの左手を握っていた。

 

元には戻らなかったが、他の時代に飛ばされずに済んだ事にひとまず安堵する。

昔の自分には悪いが、まだこの時代でやらないといけない事が終わってないと白銀かぐやは考える。

それに、あの頃は将来に不安があったが、それが確かな形で体験できる事は過去の自分には良い体験になる。

それだけに、今は自分の手を愛が握ってくれていた事にかぐやは涙が出る。

 

 

 

『・・・かぐや様、お目覚めですね。』

 

『・・・ありがとう、愛。

付いててくれたのね。』

 

 

泣きながら、かぐやは寝たままの姿勢で愛を抱きしめる。

起きぬけに唐突なかぐやの行動にまだ頭が働いてない愛は戸惑うが、まだショック状態からは抜け出せてない様で、今日も大変になりそうだなと手の掛かる「妹」を抱き返す。

 

 

 

『はい。

離れませんよ、かぐや様。』

 

 

暫し泣いていて居たが、起きて愛が手伝って着替えを済ませたかぐやは、姿見の鏡を見ながら戻っても肌は10代のままで居たいと切望する。

 

寝る前にスキンケアを怠ると翌朝に跳ね返ってくる年齢になってしまったので、鏡を覗き込みながら自分の10代の肌に羨望の眼差しを向ける。

側のテーブルで充電中だった自分のスマホの通知ランプに気が付き画面を点けて、固まる。

 

画面には、

 

 

「四宮、生徒会室に来なくて…」

 

 

という、白銀御行からのライン通知が表示されたからだ。

愛も着替えを済ませると、かぐやの様子に気が付いた。

スマホを握ったままで固まっているかぐやの代わりに、画面操作をしてラインのアプリを起動させる。

 

 

 

『えっ、アッ、ちょっと愛!?』

 

『期末試験が近いから、今日から生徒会は試験休みですって。』

 

 

そう言ってかぐやのスマホ画面を指差す。

 

 

 

『・・・そうなの?

(どうしよう、御行さんと話がしたいのに・・・)』

 

 

かぐやの表情から何がしたいか大体察した愛はある提案をする。

 

 

 

『お昼御飯は一緒に食べてもいいのでは?

多分、教室じゃゆっくり食べれませんよ。』

 

『・・・そうね、無理ね。』

 

 

たまたまお昼に教室でかぐや一人で食べている時に、「夫婦喧嘩中だから、そっとしておきましょう」だの、「会長を振った」だの、根も葉もない事を周りの同級生達に言いたてられた。

 

それは御行も同じで、「嫁のところに行かないのか?」とか、「とうとう愛想を尽かされたか」とか、腹の立つ事を言われる。

 

お昼は生徒会室か屋上で生徒会の面々と食べないと落ち着いて食べれなくなっていた。

しかし、昨日の今日の為に、御行と顔を会わせるのが気不味い。

 

 

 

『かぐや様、今朝はどうします?』

 

 

愛が指差す時計の針は5:00の少し手前まで進んでいた。

暗に、「今朝は休まれてはどうですか?」と聞いたつもりだったが。

 

 

『いけない、寝坊だわ!』

 

 

毎朝の日課、朝食作りは5:00には始まる為にかぐやは初めての遅刻になりそうになる。

自分から言い出して強引に調理場に入れて貰ったのに、これでは示しがつかない。

それに、考えが纒まらない時は身体を動かしている方がいい。

 

 

 

『ごめんなさい、先に行くわね。』

 

『はい、今朝も楽しみにしてますから、存分に。』

 

 

そう言ってかぐやを見送った後、ため息を一つついて愛も自分の仕事を始める。

 

かぐやの味噌汁は愛も好きだが、昨日が昨日の為に引き止めたかった。

かぐや様と料理長は競りに一緒に行くぐらいだから、数分の遅刻は大目に見てくれる。

初めてどやされてところを見た時は血の気が引いたが、料理長とは自分に近いほどの信頼関係がかぐや様との間に築かれてる事は嬉しくもあった。

それに、毎朝食べてるかぐや様の味噌汁は食べだしてから身体の調子がいいのだ。

 

愛は八月以前の様に、心身共に疲れ果てても眠れない精神状態には今はならなくなっている。

九月から本来は当然なのだが、愛を始めとして別邸の労働環境はかなり改善された。

今までは仕事中の会話など仕事内容の確認や応答のみだったが、今は冗談に笑い声まで聞こえる。

週末にかぐやに同行して行く本宅も、かぐやが居ると雰囲気が柔らかくなる。

本宅の使用人や護衛達もかぐやのお土産もあってか、今ではかぐやと冗談話をするほどになっていた。

 

 

・・・妾の子と白い目を向けていた者達が・・・。

 

 

以前は近寄りたくもなかった場所が、かぐや様が居る時は不快にならない。

嫌がらせの様に組まれた本宅(四宮黄光)にとって五月蝿い重鎮方の来訪も、かぐや様が雁庵様の代わりに対応してるから本宅の使用人達に感謝されたぐらいだ。

 

寝室の片付けをしながらそこまで考えて、愛はある可能性に気が付く。

 

 

───今の状況はかぐや様に都合が良いので?

 

 

かぐやには小さいながら派閥を持ってる。

本人が作ったのではなく勝手に集まってきたのだが、かぐやへの忠誠心等ではなく他の三兄弟の派閥に入れなかったり、拒絶したが為に弾かれた者が多く、打算の結果の性質が強い集合体に過ぎない。

四宮グループ内の大物等は属してない。

 

 

───そこに、重鎮方が加わったら?

 

 

片付けをしていた愛の身体は硬直して動けなくなっていた。

 

 

───まさか、それを狙っての本宅訪問?

 

 

その発見は、愛を震えさせた。しかし、愛は直ぐにその考えを頭から追い出す。

勘違いかもしれないし、間違っていたら厄介だ。

 

 

───けれど、可能性に気が付き興奮してる自分が確かにいる。

 

 

 

『・・・もしそうなら、

 

・・・本当にお強くなりましたね、かぐや様。』

 

 

 

 

 

 

 

 

───早朝、生徒会室

 

 

調理場に危うく遅刻しかけたかぐやは気合を入れ直し、愛と登校して生徒会室に行く為に別れた。

事前に親友の藤原千花から話があると生徒会室に呼び出されていたのだ。

呼ばれなくても、会長の白銀御行に会える可能性があるので、毎朝来ているのだが。

 

果たして、生徒会室には藤原千花が一人で待っていた。

 

 

 

『おはようございます、千花さん。

昨日は迷惑を掛けて、ごめんなさい。

お話があるとの事でしたが、どうされたんですか?』

 

『かぐやさん、昨日会長を叩いたのは何故です?』

 

 

単刀直入に千花は切り込んできた。

やはりその話かとかぐやは予想していたが、さて何と返すべきか・・・。

かぐやが思案していると千花が言葉を続ける。

 

 

 

『・・・多分、かぐやさんは会長が私にだけ、秘密を打ち明けたと思ってるのでしょ?』

 

『・・・昨日の話ではそうとしか取れなかったのですけど、違うのですか?』

 

『私が会長の口パクを見破ったんです。』

 

『・・・(それ、昨日は話されてない)。』

 

『毎週の校歌斉唱の時に、会長に違和感があったから観察したら口パクだったんです。

生徒会長が校歌を口パクでは周りへの示しがつかないと問い詰めたら、会長は小さい頃から今まで周りに「歌わないで」と言われてきたと、時には担任の先生にまで止められてきたんだそうです。』

 

『・・・(それだけ長い期間改善しないのも凄いし、その話もされてない)。』

 

『それで、歌って貰ったらナマコの内臓が唸る様な不気味で不快な歌声だったんです。』

 

『・・・それが、千花さんのスマホに録音されていたあの歌声だったのね。』

 

『だから、会長は私に白状させられたんであって、私にだけ秘密を打ち明けたんじゃないんです。』

 

『・・・どっちでも一緒です。

私には話してくれなかったんですから。』

 

『だから、それは!』

 

『いいのよ、千花さん。

滑稽じゃない、二人は、』

 

『何とでも言えばいいだろう、四宮!』

 

 

突然の第三者の声に、かぐやと千花は生徒会室の出入口に向き直る。

部屋の主である白銀御行が、そこに居た。

生徒会室に入ろうとしてドアノブに手をかけたが、中から二人の話し声が聞こえたので入るタイミングを失っていたのだ。

 

しかし、かぐやと千花は御行の姿に目を見張ると、すぐさま視線を慌てて逸した。

それが御行の癇に障る。

 

御行はかぐやを睨み付けると、大股にかぐやに近づいていく。

御行が近づいて来るのは解っていたが、二人は戸惑っている様でその場から動けない。

 

 

『四宮、そんなに俺が気に入らないならお前が生徒会を辞めてもいいんだぞ?』

 

『な、なにっ、言ってっる、んですかっ!?』

 

『藤原書記、お前は黙ってろ。

これは四宮と俺の問題だ。

前々からおかしいと思ってたんだ。

回し蹴りや、護身術の伝授と投げ飛ばしたり、昨日のビンタといい、俺が気に入らないのは解るが、暴力を振るっていいという理由にはならない。

不満があるなら口で言え!』

 

『・・・っ。』

 

 

御行は真剣だが、かぐやは目を合わせない様にして答えない。否、答えられない。

御行が珍しくマスクをしているからだ。しかし、千花もかぐやも何故か笑いを堪えてる顔をしてる。

 

御行はかぐやと正対してる為に、背中しか見えてない千花はまだ半笑いで済んでるが、真正面から見る事になったかぐやは必死に笑いを堪える。

昨日の事や今まで苦手な事(苦手で済むレベルではないが)を隠されていた事がバカバカしくなるくらい、御行のマスク姿は笑えるのだ。

 

このマスクを渡したのは御行の父親で、両頬にかぐやの手形が薄っすら残っていてマフラーとかでなんとか隠そうと四苦八苦している御行を見て、仕事先のショッピングモールで配っていたプリントマスクを渡したのだ。

マスクの柄は見てないので、御行の父親もプリントは知らなかった。

玄関で渡された事と、御行も今朝は生徒会室で書類を片付ける為に急いでいて、マスクをよくは見てなかった。

早朝の為、通学路ですれ違う人も、秀知院に来てからも人が殆どいなかったのが災いした。

 

 

 

『四宮、なんとか言えよ!』

 

 

かぐやの態度に御行はますますムキになるが、それが逆効果でかぐやはさらに追い込まれる。

業を煮やした御行がかぐやの左肩を掴んだ瞬間、かぐやの視線が御行の顔に向いてしまい、かぐやは河豚の様に頬を膨らませて堪えていたのが限界を超えて、お腹を抱えて笑い出してしまった。

つられて千花も笑い出して、御行一人が事態が飲み込めず困惑するが、窓ガラスに写った自分の姿を見た御行は、目を見開き固まる。

 

父親がくれたプリントマスクは舌を左上に出してへの字に曲げた口がプリントされていたのだ。

それが、御行の目の鋭さとアンバランスで笑える顔になっていたのだ。

 

 

 

『お、おっ、オヤジーーーーー!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うん?

気のせいか、御行の声が聞こえたような?』

 

 

同時刻、自宅で出勤前のコーヒーを飲んでいた御行の父親は、息子の叫びを聞いた気がした。

 

 

 

 

 

 

───10分経過

 

 

 

プリントマスクの事で千花とかぐやに盛大に笑われた白銀御行は、腐った。

好きな女に恥ずかしい姿を見せてしまった上、その姿を千花にスマホで撮られてしまい立つ瀬がない。が、理由を二人に問われて仕方なくマスクを外してからは立場が逆転、かぐやのビンタの為に御行の両頬にはかぐやの手形が薄っすらと、まだ残っていたのだ。

 

血相を変えたかぐやは御行を千花に頼んで、生徒会室を飛び出して何処かに行ってしまう。

千花と二人だけになった御行は、時間がない為に書類仕事を始める。

 

 

 

『会長、これを当ててたら少しは引きますよ。

それ、昨夜ちゃんと処置しなかったんでしょう。』

 

 

千花から濡らしたハンカチを渡され、どちらかの頬に当てる様に促される。

 

 

 

『すまん。

・・・その、怒鳴って悪かった。』

 

『いいですよ、これなら怒るのも無理ないです。

会長の特訓の事はかぐやさんには経緯は説明しておきましたから、さっきのあの様子なら大丈夫ですよ。』

 

『そうだといいんだがな・・・、俺はお前達を怒鳴る為に来たんじゃ、』

 

『お待たせしました!』

 

 

声と一緒にドアが開けられ、息を切らせてかぐやが入ってくる。

手には近くのコンビニの袋が握られていた。

 

 

 

『大きいサイズのマスクと、冷却シートです。

会長、顔をこちらに向けてください。』

 

『おっ、おう・・・。

(コンビニまでは一キロはある筈なんだが・・・。)』

 

 

かぐやにされるがまま、御行は小さく切られた冷却シートを千花のハンカチを当ててたのとは反対側の頬に貼られて、隠す様にマスクをかぐやにつけられる。

御行の入室時まで溜まっていた憤りも昂っていた気持ちも、一連の騒動で霧散してしまった。

 

 

 

『ごめんなさい、こんな事になるなんて考えなくて、私が浅はかでした。』

 

『あっ、いやっ。

・・・俺も怒鳴って悪かった。』

 

 

二人のやり取りを聞きながらコーヒーを淹れて、千花は生徒会室を静かに後にする。

今は自分に入り込む余地はないなと、置き土産を置いて。

 

 

 

『・・・ですけど、良くこんなマスクありましたね?』

 

『親父がくれたんだ。

全く何処で貰ってきたんだか・・・。

・・・四宮、藤原書記は?』

 

『えっ?

藤原さん?』

 

 

生徒会室には淹れたてのコーヒーが二つあるだけで、千花の姿はなかった。

折角付けて貰ったがこのままでは飲めないので、マスクを外しながら御行はかぐやに頼む。

 

 

 

『飲むか、四宮。

予鈴まで時間もないし、せっかく淹れてくれたんだ、飲まないと勿体無いしな。

(なかなか粋な気遣いをしてくれるな。)』

 

『解りました。

(千花さんったら・・・。)』

 

 

落ち着いてきた事で普段の余裕が出てきた御行は、片付けを済ませ千花のコーヒーを飲む為に席を立つ。

普段なら警戒心の働く二人は、この時は御行の頬に気が向いていて気が付かなかった。

電気ケトルの前に用意されていたコーヒーを御行に渡しかぐやも飲むが、二人はそこで盛大にむせる。

 

猛烈に苦く不味いコーヒーだったのだ。

 

 

 

『『ふっ、藤原「さん・書記」!』』

 

 

遠くに二人の声を聞いた千花は生徒会室の方向に満面の笑みを浮かべる。

 

 

 

『大成功〜♪』

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。