白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜 作:チャリンコ2025
───前回までのあらすじ
早朝の生徒会室で白銀かぐやは、藤原千花から白銀御行の特訓の経緯を聞くが、そこに御行本人が現れ、着けていたプリントマスクが切っ掛けで仲直りの様な状態になる。
───午前中・ニ年B組
『途中で消えて音沙汰無しで翌日はマスク姿とは、誰と何をしてたか白状して貰おうか、白銀?』
『お前達な、交流会って合コンだったじゃないか!?』
『今の交流会はあの形式なんだよ。
「他校の生徒と交流する」という目的は一ミリも違わないだろう?』
『俺の事よりお前はどうだったんだよ?』
『俺? 俺の事は聞いてくれるなよ。
・・・世知辛い世の中を体験してきたよ。』
『・・・すまなかった。』
『そう思うなら・・・。
お前はどうだったんだ?
白状しろ!』
『結局、それかよ!』
『よくやるな、お前達。』
珍しくマスク姿の白銀御行を、授業間の休み時間に交流会に誘った友人の風祭豪が執拗に問い詰め、それを二人の友人の豊島三郎が呆れて見ている。
実際にはロマンスなど遥か彼方の出来事だった為に、御行は白状する訳にいかず誤魔化すが、豪の追及に辟易していく。
この分では昼休みも、と考え御行は憂鬱な気分になる。
───お昼
早坂愛の予想通りにしかならないと感じていた四宮かぐやは生徒会室へ避難したが、昨日の今日の為に龍珠桃と四条眞妃、それに付いてきた柏木渚も生徒会室へ来ていた。
柏木渚は最近は眞妃と別行動(田沼翼と居るから)が増えたのと、眞妃が桃と連れだって仲良く話して歩いていたのが気になり、付いてきたのだ。
教室に引き返しても周囲にあらぬ詮索をされてはたまらない。
ならば、参加した当事者達だけの方が幾分マシだと判断して、四人で昼食を取る事にした。
不参加の渚が居れば、昨日の件が話題にし難い抑止力にはなるだろうとは考える。
そこに生徒会室に弁当を持って避難してきた御行が入ってくる。
昨日の今日の為に、余計な人間がいるのではないのかと御行も予測しており、入室前から賑やかな話し声が外に漏れていて、聞き覚えのある声が混じっていた為に入るのに少し勇気が必要だった。
入室前にマスクと冷却シートを取ったのは言うまでもない。
幸い、頬の手形は消えている。
『なあ、言った通りだろう?』
入室した御行を見もせず、背を向けたままで親指で指差しながら龍珠桃がドヤ顔を決めていた。
『流石ね、付き合い長いだけあるわ。』
桃の横で四条眞妃が囃し立てる。
対面のソファに座る四宮かぐやは澄まして居るが顔が赤い。
『ちょっと、眞妃。龍珠さんも。』
珍しく眞妃の横ではなくかぐやの横に座り、困った感じで二人を諌めているが目が笑ってない感じで、今日は迫力のある柏木渚がいる。
『珍しいじゃないか、龍珠が来るなんて。』
『来ちゃ悪いのかよ?』
『いつも屋上だから一緒に食べればいいだろうと思ってたよ。
歓迎するよ、龍珠?』
意味深な御行の言い回しに顔を横に向ける桃に他の三人は首を傾げるが、一年次に生徒会役員同士だった二人には何かあるのだろうと三人は考える。
『柏木さん、ごめんなさい詰めて貰えるかしら?
さあ会長、こちらに。』
そのまま通り過ぎようとした御行をかぐやが呼び止めて、かぐやは立ち上がり渚に詰めて貰いソファの真ん中の席を御行に譲り、お茶の準備を始める。
断ろうとしたが、既に席を用意されては御行としては断りづらく渋々座る事になる。
どう考えても悪手だろうと御行は思い、目の前の桃と眞妃の目が笑ってるので先行きが思いやられる。
澄ました御行が弁当を広げて一口箸をつける間に、席を立ったかぐやが準備しておいた味噌汁とお茶を御行の席に差し入れて、自分も座る。
左右をかぐやと渚に挟まれ、前には桃と眞妃。
御行は既に臨戦態勢だ。
おそらく、かぐやは何も言わない。
桃はある程度牽制できるとして、眞妃が厄介か。
渚は不参加だったから気にしなくてもいい。
そう考えて御行の迎撃プランが組み立てられていく。
『頃合いかと思いまして。』
『いつも済まない。
しかし何だな?
俺が来るのを待っていたのか?』
外野が居るので御行は強気に出る。
『はい、お待ちしておりました。』
『えっ・・・。』
『来て頂かないと賭け事が成立しませんでしたから。』
『私達三人は来る、かぐやは来ないにお弁当のおかずを賭けてたのよ。』
『これで食べきれなくて、持ち帰らなくて済みます。
ありがとうございます、会長。
皆さん、食べちゃってください。
はい、会長も。』
『元々振る舞うつもりだったんでしょ?』
『たまには趣向変えませんと。』
『・・・。』
実のところ、かぐやは今朝はおかずの弁当をどうするか迷っていたのだが、仲直りの詫びの品にする事にして用意したのだった。
夢の中?での過去の自分との対話で、御行の存在の大きさを再認識したから、かぐやは喧嘩別れの可能性を無くしたかった。
御行の前には、別邸特製のカキフライが小皿に取り分けられて、かぐやから差し出される。
それを憮然と見つめる御行。
自分の行動をかぐやに読まれていて、かぐやがあえて御行が来ないに賭けたというのが釈然としない。
話の流れでそうなっただけで、かぐやも御行が来ると思っていたので、本心ではない。
『いらん。
揚げ物は胃にもたれる。』
『あら、そうですか? では。』
そういうと、かぐやはあっさりとカキフライをテーブルの真ん中に戻す。
名残惜しさにちょっと後悔の混ざった視線でカキフライを追いかけると、桃と眞妃の視線と交差する。
二人とも「素直じゃないんだから」と目が言っている。
だが、御行にも男の意地がある。
『ところで、かぐやは会長と何があったのよ?』
『それは私も聞きたいな。
会長、何があったんだ?』
『俺は解らん。
四宮に聞いてくれ。』
『私は答えたくないので会長に聞いてください。』
『四宮、四条は四宮に聞いてるんだぞ?』
『なら、龍珠さんは会長に聞かれてますけど。』
済まし顔で箸を進めながらかぐやは返してくる。
それが御行の癇に障る。
優しいんだが、刺々しいのか、かぐやの今の態度は不快な為、御行は反撃に転じる。
『勝手に四宮が拗ねただけだ。』
『・・・そういう事、言います?』
『俺は、「解らん」と言った筈だが?』
口に運んだ箸を降ろさずにかぐやは唖然とし御行に問うが、御行は言い返して悠然と箸を進める。
『夫婦喧嘩中って、訳だな。』
『そうみたいね。』
カキフライを摘みながら、桃と眞妃は小学生みたいな反応をする二人を追求するのが馬鹿馬鹿しくなってきた。
夫婦喧嘩と言われて、言い返したいが藪蛇になりかねないので御行とかぐやはむくれて、紛らわせる様に箸を進める。しかし、一人だけ蚊帳の外の渚は心中穏やかではない。
『ねえ、もしかして昨日は皆でカラオケに行ったの?』
『そうですよ、柏木さんは行けないと仰ったから。』
『眞妃が行くなら参加してましたよ、かぐやさん。
何で、言ってくれなかったんですか!?』
『眞妃さんは、柏木さんの後にお誘いしたからですよ。
(田沼さんがあんなにベッタリでは無理よ。)』
『酷いです。
眞妃だって、何で言ってくれなかったのよ!?』
『えっ、だって、ね?』
『そうですよ。
都合つかないのに無理強いしてもね。』
渚の反応にかぐやと眞妃は困惑する。
気不味い雰囲気になりだしたので桃が助け舟を出す。
『なら、別の機会に、柏木だっけ?
改めて皆でカラオケ行こうぜ、こいつ抜きで。』
桃は御行を指差しながら柏木達と適当な約束を交わす。
御行は露骨に不快感を顔に出して無言の抗議をするが、桃から鼻で笑われる。
『絶対ですよ、絶対誘ってくださいよ。
かぐやさん、龍珠さん。
眞妃も、お願い。』
渚の懇願にかぐやと眞妃の二人は想像する。
カラオケの個室で渚と田沼翼がイチャ付いて、それを見せ付けられる自分達を。
以前の眞妃なら影で泣きながらでも渚の頼みを断れないだろうが、親からの突然の進学話やかぐやの変化に渚以外にも目が向いてきた為、渚との関係や渚と翼の交際に免疫と距離を作る事ができる様になってきていた。
以後、渚の前でカラオケの話は禁句になる暗黙の了解ができた。
蚊帳の外の御行は、場が勝手に重くなった事に困惑する。
『そろそろ、行くわ。
食べるとどうしても眠くなるんだよな。
四宮、美味かったよ。』
『お粗末様です。』
『じゃあ、私も行くわ。
渚は?』
『うん、一緒に行く。』
『じゃあな、白銀。
しょうもない喧嘩はさっさと仲直りしとけよ。』
『余計なお世話だ。』
『おお、怖。』
笑いながら桃が席を立つと、自分の弁当箱を片付けた眞妃と渚も席を立つ。
桃は手ぶらで来ていたのだ。
『かぐや、美味しかったよ。
白銀、食べないと後悔するわよ。』
『本当に美味しいですよ、カキフライ。
それでは、失礼します。』
『じゃあね、かぐや。』
さっさと出ていく桃、手を振りながらそれに続く眞妃、最後にお辞儀をしてドアを閉める渚と続き、生徒会室には御行とかぐやの二人っきりになる。
テーブルのかぐやと御行の弁当箱は空になってるが、おかずのみの弁当箱にはカキフライが二つ残ったままだ。
このままでは食べてくれないだろうなとかぐやが箸を伸ばそうとした時、御行の箸が先にカキフライを捉えて口に運んだ。
しっかり噛んで飲み込んで、一言。
『龍珠達の言う通り、癪だが美味い。』
『・・・「癪だが」は余計です。
でも、お口に合って幸いです。』
『お前の料理が不味かった事は今までなかったぞ。
・・・その、なんだ、これは四宮が作ったんだろう?』
『・・・わ、解るんですか?』
『揚げ方というか、なんというか、いつもの四宮の家のカキフライとは違う感じがする。』
そう言うと、最後の一つも御行は食べてしまった。
藤原千花がこの場にいれば、「胃袋を掴まれた男はコレだから。」とでも言いそうな事を御行は言ってしまう。
かぐやはほんのり赤くなって何も言えなくなってしまった。
その後、会話らしい会話はないが二人で片付けを済ませると、自然と二人は謝り合っていた。
『会長、頬を見せてください。』
『大丈夫だ、四宮。
この通り、跡は無いよ。』
『ごめんなさい。
本当は、昨日の晩は後ろから驚かせて終わらせるつもりだったんです。』
『俺こそ、ごめんなさい、だ。
四宮を苦しめる事になってしまって・・・。』
『あれは・・・、びっくりしました。』
『その・・・、藤原書記を言い訳にはしたくないんだが、口パクを見破られなければ、今頃は酷い有様だったろう。
生徒会長として、そんな無様な姿は見せたくはなかった。
ソーラン節も練習してるところを藤原書記に見られなければ、特訓して貰う事もなかったろう。』
バレーボールが酷かった事がバレている事を御行は知らない。
故に、あえて触れない。
あくまで「生徒会長」を強調するあたりは可愛げないが、御行にもプライドはある。
好きな女に自分の欠点を告白するのは、勇気がいる。
しょうがない人とかぐやはため息が出そうになるが。
『・・・失望しただろう、こんな俺で。』
『・・・情けないですよ。
腹も立ちます。
今まで気が付かなかった私自身に、
私は腹ただしいです!』
『・・・そこは違うだろう?』
『いいえ、一年間も副会長として会長の側に居たのに気が付かないなんて、私は洞察力が無さ過ぎます。
私が気が付いていれば・・・。』
『・・・頑固だな。
(お前には知られたくなかったんだが・・・。)』
『・・・そう思って頂けるなら、今度からは私にも教えてください。
藤原さんだけでは負担が偏りますし、私は副会長ですから。』
『・・・筋が通ってるんだか、通ってないんだか・・・。
・・・わかった、その時は四宮にも頼むよ。
もっとも、そんな事は今後はないと思う。
安心してくれ。』
自覚のない男は困ったものである。
───放課後
生徒会会計で一年生の石上優に渡す物があって彼のクラスに向かっていたかぐやは、珍しい光景を目撃する。
三年生の子安つばめと、かぐやと同じ二年生の眞妃と桃が、何故か優と四人で連れ立って下足場方向に歩いてくるのだ。
子安つばめは優が参加した体育祭紅組の応援団の副団長、眞妃と桃は昨日のカラオケに参加していたので優と面識がある筈だが、不思議な組み合わせに感じられる。
『石上くん!』
『ああ、四宮先輩。』
『貴方に渡す物があって、今良いかしら?』
『あら〜?
かぐや、告白するの?
彼氏が泣くわよ。』
『なんで、そんな話になるんです?』
『四条先輩、冗談キツイですよ。』
『・・・それはそれで、どうかと思うわよ、石上君。』
『すいません、軽率でした。』
石上優の中で、かぐやへの恐怖心・警戒心自体はまだ大きいままであり、割りとビビっていたりする。
『これ、昨日届いたから渡そうと思って。
参考書と問題集よ。』
『あっ、スッ、スイマセン。』
優が引いているのは、かぐやがカバンから取り出した参考書は一cm程度だが、問題集が四cmはあろうかという厚みだったからだ。
本音は受け取りたくないが後が怖いのと、周りの女性陣の視線がある為に受け取らざるを得ない。が、優を含めて五人を見る視線は刺々しさがある。
優は中等部の頃の事件以来の環境で慣れてしまっていたが、周りの四人は不快感を露わにした視線で周囲の視線を牽制する。
特に桃は、家業の影響で腫れ物扱いされてきたので、敏感である。
つばめは、応援団時に一年生の団員から優の危険性を訴えられていたが、接した優の人柄と大友京子の言動で、不当な風評と取り合わない事にしている。
生徒会副会長にして四宮財閥の一人娘、四宮財閥に比肩する四条グループの一人娘、秀知院学院高等部難題女子(告白難易度)の二人。
顔ぶれを見れば錚々たるメンバーであり、そこに一人だけ男が居れば注目も浴びようというものではあるが。
『ところで、皆さんでどちらに?』
周りの視線が不快なので早々に校舎を後にした五人だが、かぐやは桃から意外な事を言われる。
『コイツが勉強が苦手だっていうから、これからコーチしてやるのさ。』
『・・・えっ?』
『かぐやも、来る?』
『いえ、私は・・・。』
眞妃から誘われはしたが、かぐやは付きっきりで優を見ようとも考えていたが、四人で見てはかえって萎縮させてしまいかねないので、今日は止めておこうとかぐやは考えた。
それに、優自身は他人に対して防御本能が働く様で距離を取りがちだ。
生徒会・体育祭応援団と参加して自分から周りに関わりを持つ様になってきているし、かぐやが「経験した」大友京子の出来事とは事なり、今回は和解出来ている。
しかしながら・・・、
『それでは、石上君をお借りします、副会長。』
つばめが優の背中を押しながら四人で連れ立って歩いていくのを見てると、優を取られた様な感覚に襲われる。
それに、つばめと優の関係は「今回」はどうなるのだろうか、と・・・。
『意外だな。』
『えっ!? アッ、会長!?』
いつの間にか、側に御行が立っていた。
隣には、生徒会書記の藤原千花と生徒会会計監査の伊井野ミコ、ミコの友人の風紀委員の大仏こばちがいた。
が、
かぐやには御行達四人とも不機嫌に見える。
『龍珠に声を掛けられるのは大したもんだ。
アイツは好き嫌いがハッキリしてるからな。
態度は分かりにくいが。
しかしな・・・。』
御行自身は、優に先を越されたと嫉妬と羨望の感情がある。
童貞仲間が知らぬ間に卒業している様な、そんな感覚である。
また、ミコは優のつばめ達への態度が不愉快である。
こばちは眼鏡でハッキリとは解らないが、纏ってる空気は少し重く感じる。
『まあ、良いじゃないですか。
これで石上君の成績が上がれば。』
言葉と態度が一致しない千花が吐き捨てる様に言う。
そして、周りの生徒の殺意と困惑が強く混じった視線が優達に注がれていた。