白銀かぐやはどうにかしたい 〜2周目の恋路〜   作:チャリンコ2025

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───前回までのあらすじ

カラオケの一件で喧嘩の様な状態になっていた、四宮かぐやと白銀御行はプリントマスクを切っ掛けに仲直りした。
二学期期末試験目前、いつもの様に石上優の勉強を見ようしたかぐやは、子安つばめ等に優の特訓を取られてしまい、複雑な心境になる。


✕編集中✕

 

 

 

───土曜日、午後

 

 

その日、四宮雁庵は娘の四宮かぐやと娘の近侍の早坂愛、秘書の早坂正人と運転手の五人だけで、かぐやの願いで「あるところ」に出掛けた。

 

かぐやの願いは、父と二人で亡き母である名夜竹の墓参りがしたいというものだった。

 

車は四宮家菩提寺に向かう。

住職の案内で四宮家の墓、先妻・後妻が納められてる墓に先に参った。

 

 

 

『すまんな、かぐや。』

 

『いえ、そんな。

お父様、気になさらずに。』

 

 

雁庵に付き添う形でかぐやもお参りをしたが、望んできたとはいえ胸中は穏やかではなかった。

 

 

「妾の子」「可哀想な子」

 

 

そう陰口を叩かれきた記憶がある。

かぐやは特殊な記憶力がある分、思い出せてしまう。

かぐやの心情を敏感に感じ取った愛はかぐやの手を握る。

 

突然の普段しない愛の行動に一瞬戸惑ったかぐやだが、案じてくれていると理解してかぐやも手を握り返す。

 

二人の動きを見ていた早坂正人に、雁庵が言葉をかける。

 

 

 

『早坂、済まなかった。

お前の娘がかぐやの支えになってくれている。』

 

『もったいないお言葉です。』

 

 

雁庵に恭しく頭を下げるが、それは目頭に雫が滲み出るのを隠す為。

雁庵が詫びや礼を言うなど、まず無いからだ。

 

やがて一行は、菩提寺を後にして別の寺に向かう。

 

 

 

『かぐや、実はな。

あの墓にお前の母親の名代竹は、入れてない。』

 

『えっ?』

 

『最初は入れていたが腹ただしい事が多くてな。

今は、これから向かうところに居る。

言わなくて、すまなかった。』

 

『・・・。』

 

 

かぐやには寝耳に水ではあるが親族の目を気にして七回忌以降、東京に転居した為に墓参りに来れなかったのでそれほどショックではない。

東京に移る時、名代竹の遺髪が入った位牌は一つ上の兄である四宮家三男・四宮雲鷹が本宅の仏壇から渡してくれていたので、辛い時にはかぐやはそれに手を合わせてきた。

 

もっとも、雲鷹経由でかぐやに届けさせたのは雁庵だが・・・。

 

やがて、件の寺に着く。

本家の菩提寺と比べれば小さい寺で、広くはない墓地の外周寄りの区画のありふれた大きさの墓の前に、父・雁庵自らの案内でかぐやと二人は並んで立つ。

 

四宮家の墓としては、ありふれた大きさの墓。

だが、墓碑銘は無い。

 

 

 

『・・・ここに、お母さんが。』

 

『名は入れてある。

実はな、俺が死んだらここに入る。』

 

『えっ?』

 

『菩提寺には大勢いるが、ここは名代竹だけだ。

俺はここに入りたい。

住職達には話をつけてある。』

 

 

墓石を見つめる父の目は愛おしむ目だが寂しさを漂わせていた。

小さい時は大きく感じた父親も、成長した今見ると年老いて身体が丸まり小さく感じる。

見せられた墓の大きさと今の父の姿が重なる。

 

 

 

『かぐや、この墓をお前に託したい。』

 

『!?』

 

 

今日、何度目かの驚きにかぐやは包まれる。

 

 

 

『今は調子がいいが、俺は長くはない。

疲れもしたしな。』

 

 

そう言って雁庵は両膝を地面に付け、服が汚れるのも構わず墓を拝み始める。

かぐやもそれに習って墓に参る。

 

やがて、お参りが済んだ雁庵は立ち上がりより墓に近付く様に前に進む。

慌ててかぐやが支えて一緒に進むが、不意に雁庵の手がかぐやの頭に被さる。

 

 

 

『名夜竹、来るのに時間がかかって、すまん。

かぐやは大きくなってくれた。

お前に似て可愛い賢い子に育ってくれたよ。

 

俺みたいなのを「お父さん」と呼んでもくれた。

 

何もしてなかった俺を、だ。

 

淋しい思いをさせて済まなかった、かぐや。』

 

 

小さい頃に一度だけ頭を撫でてくれた記憶を、ほぼ無いに等しい雁庵とかぐやの数少ない親子の記憶をかぐやは思い起こし、自然と涙が止まらなくなり、堪えきれず父に抱き着き泣き出してしまった。

 

何も言わず、雁庵はかぐやの頭を撫で続ける。

 

暫しの時が流れ、泣き止んだかぐやは目を腫らせながら父を支えて一行は墓場の通路に出る。しかし、不意に早坂親子が二人の前に立つ。

スーツ姿の男が先頭に数人がゆっくりとこちらに歩いてくるのが見えた。

 

その男の姿、顔に雁庵は見覚えがある。

そういえば、かぐやの同級生に「四条の娘」が長らく居たなと。

そう思いかぐやの顔を見ると、先ほどまでの幼さを残す顔はなく、緊張はしてるが凛々しさのある顔になっていた。

 

 

 

『失礼ですが、どちら様ですか?』

 

 

近付いてくる男に対して、娘の前に出て早坂正人は誰かは知っているが問い掛ける。

 

此処に居てはおかしい人物。

四宮グループの敵となった四条グループの代表───

 

 

 

『これはこれは、お久しぶりです。

 

と言っても、小さい時にお会いして以来ですが。

 

四宮雁庵おじさん、貴方の再従姉妹甥になります、「四条真琴」です。

以後、お見知りおきを。』

 

 

四条眞妃の父親、四条グループ代表の四条真琴であった。

真琴の後には、花束を持った真琴の娘の四条眞妃、墓の掃除道具の入ったバケツを持つ真琴の息子の帝が驚いた顔でたたずんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

両者の間に緊張が走るが、先に崩したのは四条真琴だった。

 

 

 

『いい機会なのでお話をしたいのですが、その前に祖母の墓参りをさせてください。

僕の祖母の墓は、ここなんです。

貴方は良くしてる筈だ、雁庵おじさん。』

 

『名無しにされていては判らんよ。』

 

『この寺は、そういう者達が葬られる寺でしょうに。』

 

 

そういうと息子に促して掃除道具を渡させると、空いたバケツに水を汲みに行かせて、真琴は祖母の墓掃除を始めた。

掃除といっても手入れは良くされている様で、少し埃がついてる程度の墓石の汚れを落とすと、汲んで来させた水を掛ける。

その間に線香の束に火を付けた帝が墓石の前に線香を置くと、眞妃が花束を解き墓石の左右にある花立に挿していく。

 

暫し四条親子三人で墓に手を合わせる。

 

親戚であり、真琴の祖母であれば雁庵には叔母にあたる筈だが雁庵は動かない。

それ故、かぐや達も手を合わせるべきか悩む。

 

 

 

『いかがですか?』

 

 

お参りを終えた真琴は雁庵に問掛ける。

目を瞑り立っていた雁庵は、真琴の声で目を開ける。

 

 

 

『君のお祖母さん、俺には叔母だが豪快な人で何度も拳を貰ったものだ。

投げ飛ばされた事もある。

 

戦争未亡人になったが戦死とされていた叔父さんが復員して帰ってきて、大泣きしていたよ。』

 

 

雁庵は懐かしそうに古い記憶を思い出していた。

そういうと、雁庵は合掌してかぐや達も倣う。

 

 

 

『・・・祖母は嫁いできた身ですから気苦労が絶えなかった。

僕にとっては厳しくて優しい温かい祖母でしたが、周りはそう思ってなかった。

だから、祖父母達は二人だけでここに居ます。

それが、四条と四宮の対立を止めれなかった者としての責めだと。

 

・・・少し、話せませんか?

近くにぜんざいの美味い茶屋があります。』

 

『ああ、いいだろう。』

 

 

雁庵が同意した事で、場所は真琴の勧めた茶屋に移る。

奥の座敷席で雁庵と真琴、雁庵の秘書の正人の三人だけになり、かぐや達四人は茶屋の入口に近いテーブル席で、真琴が勧めたぜんざいを頂いていた。

 

 

 

『アンタが一緒に居るって事は、かぐやの護衛なのね。』

 

『かぐや様の近侍を務めさせて頂いてます、早坂愛と申します。

眞妃様、帝様、以後、お見知りおきを。』

 

『別に良いわよ。

かぐやの友達として接するだけだから、私相手に畏まらないで。

そういうのは肩が凝るのよ。』

 

『そういう訳にも・・・。』

 

『姉貴、難しい話は止めにしよう。

ぜんざいが冷めちゃうよ。』

 

 

硬い話になりそうな為に帝がブレーキを掛ける。

ぜんざいを食べてる方が空気が和む上に、帝にはなかなか無いかぐやと食事のチャンスは台無しにしたくなかった。

勧められただけあって、この茶屋のぜんざいは美味しかった。

 

 

 

『不躾ですが、今日はおじ様のお祖母様の命日でしたか?』

 

『ううん、違うわ。

前から遊びに行く約束をしてたけど、パパの仕事の関係で今日になってね。

しばらく来てないから、お祖母様の墓参りをしようとなったのよ。

秋のお彼岸の頃に考えていたのだけど、スケジュール的に合わなくてね。』

 

『まさか、君達と出会うとは思いもしなかったけど。』

 

『この後、かぐや達はどうする予定?』

 

『そうですね、お屋敷に戻る事になりますね。

今日はお墓参り以外は予定はありませんから。』

 

 

雁庵が高齢であるので、あまり長時間の外出は身体に障りがある為に、墓参り以外はかぐやは考えてはいなかった。

いつもなら、庭か書斎で写真を撮りながら一週間の出来事を話すぐらいで、雁庵との外出はこれが初めてになる。

 

 

 

『そっか、仕方ないわね。』

 

『眞妃さん達は何処かに行かれるですか?』

 

『大阪のUSJに行く予定よ。

パレードは夕方近くだから、その前にお参りに来たのよ。』

 

『ゆっくり楽しんできてくださいね。』

 

 

話しながら、眞妃は父親の居る奥の座敷に視線を走らせる。

 

 

 

『・・・こんな話をするべきではないのでしょうけど、離別は突然やってきますから会える間に会わないと後悔します。』

 

『『『・・・。』』』

 

『会える事、一緒に居れる事は、当たり前ではありませんから。』

 

 

かぐやの言葉は重く、他の三人の心に染み込んでいった。

その後、会話は弾まず大人達の対面も終わり、二つの家族は別れて其々の道を帰っていった。

 

 

 

 

 

 

───夜・四宮本宅の廊下

 

 

 

『四条と会ったのか?』

 

 

偶然か狙ってか、長兄・四宮黄光と廊下で遭遇したかぐやは、そう問い掛けられた。

 

 

 

『お会いしました。』

 

『出歩くな、かぐや。

親父とは、特にな。

何が起きるか解らん。』

 

『お気遣い感謝いたします。』

 

『お前の為じゃない。』

 

 

そう言うと、取り巻きを連れて立ち去る。

 

 

 

『行きましょう。』

 

 

そういうと、かぐやも愛を伴って自分の寝所に向かう。

 

 

 

『あり得るのでしょうか?

偶然を装って接触してくるなんて。』

 

 

寝間着に着替えて用意されてる布団の上に座ったかぐやに、愛が昼間の出来事の可能性を聞いてみる。

ありえなくはないだろうが、一緒に居た眞妃や帝の反応を見る限りは今回は偶然の様に愛には感じられた。

 

 

 

『過程より結果の方が問題だわ。』

 

 

おじ様がお父様と何を話したのか?

 

聞くには憚られて何を話したのか解らずじまいではあるが、険悪な空気にはならなかったので問題ないだろうとは考えてはいた。ただ、今後は解らない。

例えば、母の墓を質に取って何か要求してくる様ならば容赦はしない。

かぐやは、そう決心していた。

 

それより、確かめなければいけない事がもう一つできた。

 

 

 

『どうされました?』

 

『お父さんに眠る前の挨拶をしてきます。』

 

 

「今までそんな事しなかったのに?」と愛は疑問に思うが、かぐやが寝所から父親の元に向かうのに同道しない訳にはいかず、ついていく。

 

父親の部屋の前でかぐやが入室の許可を取り、二人で部屋に入る。

父親の部屋には愛の父親の正人と居た。

 

 

 

『どうした、かぐや。』

 

『お父さんに寝る前の挨拶をと思いまして。』

 

『そうか。』

 

 

正座して頭を下げるかぐやに続き、愛も

下げる。が、頭を上げる前に、そのままの姿勢でかぐやが父親に問い掛ける。

 

 

 

『お父さん、間違っていたらごめんなさい。

お食事が食べれなくなってるのではありませんか?』

 

 

唐突な質問に早坂親子、特に父親の正人の方が緊張するが、聞かれた雁庵は目を細めるだけだった。

 

 

 

『理由は?』

 

『私が作ってる御味御汁、お父さんが食べ残す量が増えてます。

私のだけでなく、出される料理も量や品数が減らされ、それでも食べきれなくなってます。

お茶屋さんでも、お茶すら飲まれなかった。

それだけでなく、私が支えたお父さんの身体が長月(九月)の頃より軽く感じました。』

 

 

雁庵の側に控える正人は得心が行く。

そういう情報を得る為に調理場に入っていたのかと・・・。

雁庵の食事量など秘中の秘。

漏れれば内外に余計な動きが出る。

恐らく、調理人達も使用人達も何も言ってない筈。

だが、当のかぐやは震えていた。

自分の予想が当たってほしくない。

もし、当たっていれば離別の時が近付いている・・・。

「経験」した今年、父親は倒れていたから・・・。

 

 

 

『・・・俺に似ずに名夜竹に似てくれたか。』

 

『お父さん!』

 

 

ここでかぐやは顔を上げたが、双眸には涙を溜めていた。

 

 

 

『かぐや、お前の考えの通りだ。

田沼には長くないと言われている。

だからこそ、今日はあの寺に行った。』

 

『・・・明日の朝も、御味御汁を作ってもよろしいですか?』

 

『ああ、食べたいな。

 

・・・食材の切り方を毎回変えているだろう。

何も言わずとも察して変えてくれて、食べやすくて良い。

 

かぐや、今はお前の御味御汁が俺は楽しみだ。』

 

『わかりました。

精一杯、作らさせて頂きます。』

 

『・・・かぐや、お前は名夜竹にそっくりだな。』

 

『・・・お母さんに、ですか?』

 

『ああ、そっくりだ。

お前が来てくれる事で楽しい時間が過ごせてる、・・・ありがとう。』

 

『・・・お父さん・・・。』

 

『今日は疲れた。

休むとしよう。

お前も休みなさい。』

 

『・・・はい、そうさせて頂きます。

おやすみなさい、お父さん。』

 

 

かぐやと愛が部屋を去ってから、二人の男は無言だった。

暫しの時が流れ、雁庵が独語する。

 

 

 

『・・・俺は果報者だな。』

 

『・・・。』

 

『それで、四条の動きは?』

 

『以前ご報告しました合併や統合の話が進んでいます。

これらの中で一番大きいのは仏国の銀行との資本統合です。

年明けには発表できる段階に進んでます。』

 

『そうなると?』

 

『規模で見れば我々と見劣りしない程に。

ただ、あちらは各国に分散しておりそれぞれに対抗馬が居ますから。』

 

『一段と強固な基盤が欲しいか。』

 

『今起きてる事も、それを見越しているかと。』

 

『どちらが堪えきれるかで話が変わるか。』

 

『しかし、消耗しすぎれば分散してる分、あちらが不利かと。』

 

 

それ以上、会話は続く事はなく。

雁庵は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

───本宅・廊下

 

 

自分にあてがわれた寝所に戻る間にかぐやは考えていた。

「あの時」は涙も出ず泣きもしなかった。

ただ、寂しいのか虚しいのか分からない心に空虚なものが広がったが、今は悲しさがある。

涙が溢れてくる。

 

それだけお父さんを身近に感じれているという事は、九月以降の自分の行動は間違ってはいなかったと思いたいが、何か引っ掛かるものがある。

多分、父の死から10年近く経つ今でも自分の中の何処かに許せない気持ちがあるのだろう。

 

後ろに続く愛には、かぐやと雁庵の話に感じるものはなかった。

愛からすれば、今まで放置しておいて自分からは歩み寄らなかったのに、かぐやから強引に近付いてやっと普通に近付くという迂遠さに、怒りすらある。

ただ、愛自身も父親の正人とは仕事に邪魔されて満足に会う事も出来ない。

かぐやが動いてくれなければ、九月以降の家族の対面は叶わなかった事を考えると、掛ける言葉が見つからない。

 

 

 

 

 

 

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